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見習いナナシの仮面劇  作者: ころっけうどん
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7-11話

明日バニラさんはこの屋敷を出ていくことになった。

昨日それを聞いて荷物をまとめる準備。

バニラさんの荷物は最低限の衣類と編み物の道具だけだった。

シクステンさんの準備していたギルドへ出すためのカルテやらなんやらの書類の方が多いんじゃないだろうかというくらいだった。


今朝も今朝とで訓練である。

ベファナとアリスはカカシ相手に連携の訓練。

ミウ含めウサネコ達は隅の方で集まっていた。…寒いなら部屋の中にいればいいのに。

ヤキトリはウサネコ達と一緒。ショワンはお父さんとお母さんと一緒。

クレハとナナシは木刀で打ち合っていた。


「よそ見をするな!」

「いでっ!?」


ナナシの頭が鈍く鳴った。

頭の中でツノウサギをローストしていたせいだった。


「まったく…気を抜いてどうした?」

「あの…」

「なんだ?」

「夕飯何がいいです?」

「…まだ朝ごはんも食べてないだろう」


今日は送別会。この後は買い出しに行ってご馳走を作るのだ。腕が鳴る。

昨晩から仕込みをしたかったけど致し方ない。

今朝の朝食はバニラさんが作っていた。

昨日から仕込みをして最後に料理をふるまいたいと張り切っていたのだ。


「ほら…続きをやるぞ」

「はい」

「…肉を焼いてもらえないか」

「えっ?」

「なんでもない」


木刀の打ち合う音やベファナの魔法の小さな爆発音がまた響き始める。

クレハの鎧が鳴った。


「…!?どうしたんですか?」


当てるつもりもない牽制の一振りが当たって、ナナシの方が驚いていた。

突然クレハの動きが鈍ったのだ。

ベファナもアリスもカカシも手を止めてクレハの方を見ていた。


「いや…なんでもない、大丈夫だ」

「そうですか…?」


ナナシの心配そうな視線にバツが悪いのかクレハは話を続けた。


「この言い方は好みではないのだが…妙な気配がした」


「妙な気配?」


「ああ、気のせいだと思うのだが」


クレハそう言って身を震わせた。

気配…?何かいるのだろうか?


「ミウあたりに誰か…いる?」


『みう?』


寝ぼけまなこで首を左右に耳をピコピコ。


『みうみう』


特に誰もいないらしい。


「疲れてるんじゃないです?ちゃんとあったかくして寝ないからですよ」

「…むう」


ナナシは冗談半分だったが心当たりがあるのかクレハは小さく唸った。

ウサネコ達にはクレハさんの上で寝るように言っておこう。


ぎこちなくなってしまった訓練をダラダラ続け、朝食の時間ギリギリになってしまった。

みんなに”浄化”をかけて、装備のまま食堂へ向かった。


何となくナナシが先陣を切っていた。


ナナシが食堂の扉に触れた。


「…!?」


ナナシは慌てて手を離した。そして自分の手を見つめた。


「どうしたの?」


ナナシは自分の手のひらにはあと息をかけ、ズボンで擦った。


「扉が…冷たくて」


自分でも良く分からない。ただ感じたままのことを言った。

あの扉の向こうでは温かい朝食が待っているはずだ。


「ほんとだーつめたいー」


ベファナがドアノブを突いて言った。


「バニラ殿?」


クレハが呼びかけるが扉の向こうから返事はない。


「シクステンさんは?」

「ちょっと待って」


アリスは二階へと駆けていった。

医務室の扉をノックして開ける。


…誰もいない。


「部屋にはいないみたい」


…となれば?


ナナシとクレハとアリスが顔を見合わせ頷いた。

マネしてワンテンポ遅れてミウとヤキトリとショワンとベファナが頷いた。


「下がっていてくれ」


クレハが前に出る。扉に触れてゆっくり押した。

開かない。

少しばかり力を込めた。それでも開く様子はない。


「…どうする?ナナシ殿?」


クレハが手の甲を扉に当てて言った。


「開けましょう。…扉が壊れたら弁償します」

「承知」


クレハは構える。走り出した。

頭と肩と腕を同時にぶつけるように扉に体当たりをした。


扉は開いた。


クレハが扉が当たる寸前に。

クレハが押そうとした逆方向に。


「ぐ…うわぁあ!」


クレハが押し返された。


扉の向こうからいつも迎えてくれる温かい蒸気の対極の吹雪がナナシ達を襲った。

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