表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
見習いナナシの仮面劇  作者: ころっけうどん
145/198

7-3話

えいし、えいし


ミウさんの今日のお仕事は中庭で穴掘りです。

土にまみれて額に汗して美味しいごはんの為に今日も頑張るのです。


今日は雲一つない良い天気だ。畑仕事をするのに良い天気だ。

昨日撒いた薬のおかげで土は柔らかくなっていた。


ミウ一人で事足りるのだが遊び半分でウサネコ達も掘り始めていた。


「あんまりどろだらけになるなよー」


とりあえず言っておくがすでに遅い。

ウサネコ達に”浄化”をかけるのはマナの消費が激しい。

かけないならお風呂で洗ってやる必要がある。

…どっちにしても重労働だった。


ウサネコ達が少し掘り返し過ぎてしまった。整えて種を蒔いていく。

とりあえず広過ぎず狭すぎず均等にスペースを開ける。

そこまで神経質でなくてもいいだろう。


「こんなものかな?」


ナナシは最後に蒔き終えた個所を軽く叩いて整えた。


「もう畑掘っちゃダメだよ」

『『『『『はーい』』』』』


自分についた土や泥をはたいて落とす。


『ねえねえご主人?お野菜はいつできるの?あした?あさって?こんや?』


「んー?そんな早くできないよ。まだまだ先だね」


『『『『『えー』』』』』


実際はどのくらいだろう?半年くらいだろうか。

ベファナの”採取師”の教科書になら書いてありそうな気がする。

ちょうど向こうからベファナがやってきた。


「ベファナ、教科書借りるよ」

「うんー」


すれ違ってベファナは表に出ていった。


クレハさんの所にでも行くのかな。


離れへ行き、棚から教科書を出して床に腰かける。


『みうみう?』

「んー?教科書だよー」

『みうみう?』

「ミウにはちょっと難しいかなー」

『みうー』


ミウはナナシをお腹の上に移動させた。

ナナシの髪の毛をかきわけ、ノミがいないか念入りにチェックする。


じろじろ見られて息を引きかけられて落ち着かない。


『『『みー?』』』


いつの間にか足にまとわりついてくるウサネコ達。


「ほらお外で遊んでおいで」


ナナシは一旦教科書を閉じてウサネコ達を表に出していく。

ミウの尻尾がスルッとナナシに巻き付いた。


『みうみう』

「これだけ読んだらすぐ行くから待っててね」

『みうー』『『『みー』』』


再び床に腰かける。

教科書によると植えた野菜たちが育つのには3か月くらいかかる。

早く育てる魔法や道具もあるようだがそのどれも手元にはない。

シクステンさんに頼めば活力剤とか作ってもらえるだろうけど…無農薬の方が良いのだろうか。


何となく関係ないところまでつい読んでしまった。


外からはワイワイ声が聞こえる。


ミウたちは畑にいた。ベファナもいる。クレハさんもいる。

みんな畑の周りで踊っていた。

行ってみるか。


「…なにやってんの?」

「ほら!ナナシもおどるんだよ?」

「なに?」

「ほら!はやく芽がでるように!」


グイグイ手を引っ張り始める。


「わかったわかった…」

「ナナシお面は?」

「お面?何のお面?」

「ほら!あれあれ!」

「あれ?」

「ガッシャンの!」

「ガッシャン………?ああ…あれかちょっと待ってね」


思い出すのに少し時間がかかった。

ナナシは部屋に戻ってお面を取ってきた。


「これ?」「そう!」


”晴雨のお面”


シクステンがそう呼んでナナシもそう呼ぶことにしている。

滅んだ街に伝わっている雨乞いの際に使用されていたお面。

お面の表情は青く泣いているような表情と赤く怒っているような2つの表情が半々。

お面の表情には晴れも描かれているから晴れ乞いでも使われているのかもしれない。


最近かぶっていない。


ナナシの魔法の修行は孤児院で回復魔法を使うのが多かった。

記憶を失ってここで目を覚ましたときには魔力欠乏症という病を患っていた。

そのせいでまだまだ体に溜めておけるマナの容量が少ない。


少ないマナで修行に充てるのなら回復魔法の方が優先度が高い。


”晴雨のお面”で今何がどのくらいできるかと言えば水が出せる。

頑張れば水筒をいっぱいにできるくらい。

くらいと言いつつ重要度は高い。緊急時に飲み水が用意できるのだ。

それだけできるなら今のナナシ達には十分だった。


剣に槍に弓に料理に鍛冶。

色々できるがゆえにそのどれもが中途半端。


しかし今のままでも普通に暮らしていく分には十分だ。

アリスもクレハもベファナも喜んで主夫のナナシを養うだろう。


「ほら、はやくおどって?」


落ちてた木の枝を渡され急かされる。


踊れと言われてもどうすればよいのか。

そういえば…初めてかぶったときには体が勝手に動いた。


かぶれば何か思い出せるだろうか。


一瞬お面と向かい合ってからゆっくり顔につける。


「…?」


なんか思い浮かぶけどこれで良いのだろうか?


中腰になって顔の前で輪を作りそれを左右に揺らす。

しゃがんで卵のように丸まりはじける様に両手両足を広げる。


『みーうみーう』『ぴーよぴーよ』『きゅーきゅー』


どどん!どどん!どどん!


ウサネコ達が一斉に跳ねてストンプのように地面を鳴らす。


クレハはどうしたものかとその光景を眺めていた。


急にがくっと力が抜けた。

ほらおねえちゃんも!とお叱りが飛んでクレハが加わろうとした矢先だった。

クレハが倒れたナナシを支えた。


「どうしたのだ?」

「いや急にクラっと…」


ステータスを見ると体のほとんどのマナを使い果たしていた。

立ち眩みの原因は急激な消費によるものだった。


「あら?どうしたの!」


空の洗濯物を入れるかごを投げ捨てアリスがやってきた。


『『『みゅーみゅー』』』


「ん~クレハ、何かあったの?」

「じつは…」


クレハは起きたことを説明した。


「アリス殿はどうしたのだ?」

「気圧が下がったから雨が降るかなと思って」


しばらく空を見ていると雲が増え始める。

アリスはベファナに何故私に聞かなかったのかについてを責められ続けていた。


シクステンが様子を見に出てきた。


「あれ?珍しいなこの時期に雨か…なんかあったの?」


ナナシの様子を見てシクステンは近寄る。


「ベファナが説明する!」


先程の話をクレハの3割増しぐらいの時間をかけてシクステンは聞く。

周囲の断片的な情報から察したようだが、話は最後まで聞いていた。


そうしている間にぽつぽつ雨が降り始めた。

ウサネコ達は工房と離れ、他のみんなは食堂へと避難した。

お茶を沸かしながらシクステンが言った。


「雨乞いの才能があるのかもねぇ」


雨乞いとは魔法によって雨を降らす行為。

熟練の魔法使いでないと出来ないことらしい。


「ただ本職とは違って効果が出るまでの時間もかかるし持続時間も短い。家の中でやんないでくれよ?うちの中で雨降らされたんじゃかなわん」


「建物の中でもできるんですか?」


「見たことある。そのお面なら晴乞いもできそうだな」


「はれごい?」


「その名の通り晴れを呼ぶんだ。この雨乞いの規模で考えるなら…洗濯物が早く乾くんじゃないかな」


とりあえずしばらく雨が降ることは無いらしいから出番はなさそうだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ