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見習いナナシの仮面劇  作者: ころっけうどん
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7-1話

今宵は満月の晩である。

ウサネコ、ウサネコ、なに見てはねる。

お月さま見て…ではなくお団子を見てピョンとはねる。


「みんな受け取った?」

『『『『『みー♪』』』』』


今日のウサネコ達の晩ごはんはちょっとテストも兼ねている。

魔物をおびき寄せるときに使う寄せ餌のお団子である。

本来であればそこにしびれ薬等を仕込む。今回は美味しいお団子だ。

まぁ別に寄せ餌の素材の無いお団子でもウサネコ達は寄ってくるだろうけど。


『きー♪』

「ん?」


聞きなれない鳴き声に上を見る。

コウモリが旋回していた。


寄せ団子におびき寄せられた害獣…というわけではなさそうだ。

ウサネコ達も敵意を持っていない。お団子に夢中で気にしてないだけなのかもしれないけど。


…?


コウモリの足になにかある。

コウモリはそれをナナシの足元に落とした。

丸められた布だ。シクステンと書かれて…良く見ると違った、縫われていた。


宛先の人以外が受け取れないよう仕掛けがあるかもしれない。

とりあえず呼びに行った方がよいだろう。


コウモリからお手紙ですとナナシが呼びに行く。

シクステンは医務室で書き物をしていた。


「ん…伝書コウモリか」


あのコウモリはその名の通り手紙を運ぶコウモリのようだ。

やれやれとめんどくさそうにシクステンは立ち上がった。


表に出るとコウモリはシクステンに向かって飛んできた。

シクステンが人差し指を曲げて手をかざすととまって小さく鳴いた。


「ナナシ君、団子まだあるかい?コイツに1個やってくれ」


ナナシは予備の1個をシクステンへと渡す。

コウモリはシクステンから団子を受け取ると一気に食べた。


『きー♪』


バタバタと少し重くなったのかふらつきながらナナシの周りを飛んだ。


「ばあちゃんのとこからだ。トータスから装備ができたとよ」


シクステンは布を広げてみせた。

布に刺繍で文章が書かれていた。達筆で書いてあると言えば良いのか、これ?

出来上がったので取りに来て欲しいと記してあった。



翌朝、少しゆっくりと朝食を取ってから町へと出かけた。

伝書コウモリはシクステンの持つかごの中で、逆さまで眠っていた。


今日はトータスが店番をしていた。


「あっ、みなさんおはようございます」


元気そうだが目の下には疲れの跡がまだ残っていた。


「おう、おはよう」「「「「おはようございます」」」」

『みうー♪…みうみう?』

「ミウの鎧ができたんだって」

『…みう?』

「ミウで僕の鎧を作ってくれたんだよ」

『みうー♪みう?みうみう?』

おいこらちゃんとできたんだろうな?とミウはトータスに肉球を押し付ける。

「こら!ミウ!」

「まあまあナナシさん…とりあえず会心の出来っすよ」


トータスはミウの肉球を指でなでながら言った。

案内されて店の中へと入る。ミウは入れないので店の前で待たせておく。

布のかけられた台座が4つある。


「まずこれはナナシさんのッス」


布を外して現れたのは服と鎧の中間のような装備だった。

”ミウの軽鎧”と呼んでいいだろう。


触れてみると手触りは無論ミウそのものだ。

内側をのぞいてみるとポケットがいくつかついている。


早速着てみる。


鎧を着ているという重々しい感じがしない。

”銀狼の鎧”と比べると包まれているような感じ。

いつも寝ているベットの感触である。


「見た目はちょっと華奢かもしれませんが元はミウさんの毛皮。物理的な防御は折り紙付きでさぁ。下手な矢や刃なんか通りません。中に空気が入るんで衝撃にも強いっす」


「…加工に苦労したんじゃないのか」


シクステンが少々厳しい顔をして言った。


「ハサミを5,6本ダメにしてまさぁ」


『みうみう』


外で待っているミウから不機嫌そうな鳴き声が聞こえてくる。


「似合ってるかい?」『みう?』


表に出てミウの前でポーズ。

ミウはまず鼻で確かめてきた。ゆっくりとナナシを中心に一回りしながら目を凝らす。

そしてしばらく考えたあとトータスの頭にポンと手を置いた。


『みう』


大儀であったようだ。


「わたしのは?」


少し膨れた顔でベファナがトータスの袖を引っ張った。


「はいはい、お嬢ちゃんのはこちらでさぁ」


「おおー!」「っ!待ちなさいベファナ!!」


外で脱ごうとしたベファナをアリスが取り押さえた。

何とか宥めながら店の中に連れていき、アリスが手伝い着替えさせた。


「にあうー?」


現れたベファナは黒のフリルのついたワンピースローブ。”野生のウサネコの服”だ。

幼さと大人っぽさとどことなくミステリアスな雰囲気が混じっていた。


「うん。似合うよ」


お世辞なしの心からの感想だった。


ベファナは片足でつま先立ちして一回転して見せた。


「あ」「おっと」


転倒しそうなのを慌てて助けに入る。肌触りも文句なしだった。

ナナシの二歩後ろでミウはうむうむと満足そうに頷いていた。


「むふー」


ナナシに抱きかかえられてベファナ。


「…」

「お嬢さんのも用意してございますよ」

「ええ…では見せてもらおうかしら」


わざとらしく揉み手をしてトータスはアリスを案内した。


2分ほどで着替えて出てきた。”野生のウサネコの軽鎧”だ。

アリスの鎧は茶色の鎧だった。艶消しが施され、単色迷彩となっている。

線は細めに作られている。動きやすさに重点の置かれたものだった。

素材の違いもあれどナナシの鎧と比べても軽い。


「軽いわね」


その場でホップステップジャンプ。最後のジャンプで宙返りを演じてみせた。

着地の時にも鎧は一切音を立てなかった。

アリスは満足そうに微笑んだ。ミウも満足そうに鳴き声をあげた。

ふと何かに気付いたのかアリスは一瞬残念そうな顔をした。


「最後にあねさんの鎧になります」


表に台座をトータスが運んできた。布が灰色の金属の鎧が現れた。


「”野生のウサネコの重鎧”を用意させていただきやした。重戦士のようでしたので中にウサネコ達の毛皮を使うことで重さと快適さを両立させてありやす。紋はいかがいたしやしょう?シクステンさんの家紋で?」


「いや彼女は私と主従と言うわけではないから…彼に聞いてくれ」


とりあえず入れないことになった。


「色は何にしましやしょう」


おすすめは黒のようだ。黒く塗るのはさび止めをかねているそうだ。


「ではあねさん。着てみてくだせぇ」

「…私が?」

「そりゃあねさんの装備ですから…」


クレハはナナシの方を見る。ナナシは頷き返した。

クレハは慎重に傷つけないように装備し始める。少し手が震えていた。


「どうだろうか…ナナシ殿?」


装備を終えたクレハがナナシに尋ねた。

重装備な鎧なのだが所々丸いというのだろうか。柔らかい感じがする。


「なぁトータス…お前この金属の部分どこで調達した?」


トータスは苦笑いのまま頬をかいていた。


「あのジジ…じいさんの作か。…にしては質がどうもと思ったが」

「寝てる隙見計らって作らせてみたッス」

「じいさんも歳だな。まぁ寝ながらならこんなもんか」

「寝ながら作るなんてできるんですか?」

「制作なんか下手すれば一昼夜ぶっ続けなんてザラだよ。意識飛ばしながら集中だけ維持して無

意識のうちに作り上げるなんてのも珍しくない。簡単な物なら寝ながら作る」


「あの…これを受け取るわけには…」


クレハは慎重に鎧を脱ぎ始めていた。


「あれあねさん?お気に召さなかったですかい?」

「とんでもない!恥ずかしながら…対価を支払うことができぬがゆえ…」


クレハは青い顔をしていた。


「お代は師匠よりこの人が払うと…」


ナナシは財布を取り出そうとした。それをシクステンが制する。


「いくら?」

「はい、こちらでさぁ」


ナナシが請求書を受け取ろうとするとシクステンがそれをひったくった。


「どれ………お前私にフッかけるなんて随分偉くなったなぁ」


請求書を握りしめてトータスの肩を持つ。


「ちょっと話し合おう」

「ええ?ああ!ちょっと!」


トータスが連れていかれてしまった。


さっきからミウが満足そうに頷いている。


「どうしたの?」


”ミウの軽鎧”と”ウサネコのお面”の組み合わせは、なんかいつもよりしっくりくる。


『うんうん、みんながウサネコになる日が来たんだね』

『ウサネコはぼくが先輩だからね。僕がえらいんだからね。だからご主人僕におやつなんだよ』

「はいはい、おやつは後でね」

『むー』


ミウが肉球をこちらに向けて何か念を送ってくる…。


『ご主人におひげが生えますように…』

「やめれ」


一応ネコ科の血は混じっているからそのうち本当に生えるかもしれないけどさ。

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