6-23話
翌日。
シクステンは祖母の店を訪れていた。
「まぁよ!これをどこで?」「こんな…」
野生のウサネコの毛皮を机の上にドンと積んだ。
「ウサネコ達の住む森を見つけたんだよ。見つけたのはナナシ君たちだがな」
「へぇ…あの子たちがねぇ。大したもんだよ」
秘密にしておいてくれとお願いを付け加えた。
「これであいつらの防具を作ってくれ。これがあいつらの要望を書いたメモだ」
ベファナ…ドレス。クレハ…重めの鎧。アリス…お任せ致します。
「じゃあトータスにやらせてみるよ。できるかい?トータス」
「はい師匠。お代はちゃんと頂きますよ?」
「もちろん。多少多めに請求してくれ。あとばあちゃん、あの森でウサネコ飼ってもいいかい?」
「あんたまさか野生のウサネコ拾ってきたのかい?」
「まぁそんなところだよ。まぁこれも拾ってきたのはナナシ君たちだよ」
「シクステンさん!?家行っていいっすか?」
「いつかきっとそのうちな」
「好きにしなさいよ。あの森も屋敷もあんたにやったんだ。…あんたウサネコ達をいじめるんじゃないよ?バチが当たるよ?」
「わかってるよ」
「そういえばあの子達は?」
「家でウサネコ共の世話してるよ」
「シクステンさん?余った毛皮はどうされるので?」
「いくつか欲しけりゃ持っていっていいよ」
「…全部はダメなんで?」
「ちょっと持っていくところがある」
◆
「これはこれは…シクステン様ようこそおいで下さいました」
「すまないな、遅れたがもってきた」
ドレービン商会にシクステンは訪れていた。
先日ナナシ達に依頼したものがずっと保留になっていた。
「これはこれは…申し訳ございません。検めますのでお待ちいただけますかな?」
揉み手のまま席に着き、会長のドレービン自らがお茶を注ぐ。
ドレービンの椅子はリュックを背負ったまま座れるよう背もたれの無い椅子だ。
シクステンはソファに深く腰掛ける。
シクステンは軽く香りを味わってから口を付けた。シクステンの好きな葉だった。
ドレービンは受けとった箱の中を検め始める。
「はい、けっこうでございます。ご足労いただきありがとうございました」
「ああそうだ、ここでは買取もやってくれるのかな?」
「はい、やらせていただいておりますが何か?」
「ちょっと訳ありのものなんだが」
「シクステン様?危ないものはちょっと…」
「法には触れない。ただ出処聞いたら帰らせてもらう」
「…?では拝見させていただきます」
ドレービンは会釈をした。
シクステンは野生のウサネコの毛皮を3枚出した。
「…シクステン様?これをどこで?」
「ごちそうさま」シクステンはお茶は飲みかけのまま立ち上がった。
机に出した毛皮は手をかざすとサッと消えた。
「シ、シクステン様お待ちを!少々お待ちを!」
ドレービンも慌てて立ち上がる。しかしリュックが椅子に引っかかったのか尻もちをついた。
「ああそうだ、お茶のお代は…」
「けっこうでございます」
「そうか、ではまた来るよ」
「シクステン様?お待ちを?先日の情報はお役に立ったでしょう?」
シクステンは足を止めた。
「シャイロック商会にお探しの…」
そこまで言いかけたところで続きを話されては敵わんとシクステンは振り返り席へと戻る。
シクステンは大きく舌打ちをした。
「ホホホ…」ドレービンは汗をぬぐい小さく笑った。
シクステンも口元をゆがめて笑い返した。
話を人に聞かれることは互いにリスクがあった。そんなヘマをやらかすような男ではない。
シクステンの方もある程度予測はしていたのだろう。その仕草にはどこかわざとらしさが感じられた。
シクステンは再び机の上に野生のウサネコ毛皮を置く。
「私が売ったというのは秘密にしておいてくれるな」
「はい…それはもう必ず。シクステン様まさかと思いますがお持ちなのはこれだけではないですな?」
「次もし手に入れば売りに来させてもらおう…かな?」
買取の値段交渉は2分とかからなかった。
「今後ともごひいきに」
「また来るよ」
そして店を出て互いの顔が見えなくなった瞬間、2人はにやりと笑った。
◆
シクステンが出かけている間、ナナシはウサネコへしつけをしていた。
新しいものに興味津々で遊びに行きたがるウサネコ達。それを煮干しで釣って一か所に集めた。
母屋には絶対に入ってはいけない。
シクステンからの厳命だ。
工房は危ないから入ってはいけない。
クレハは寂しそうにしていたが仕方がないだろう。
とりあえず離れにも上がってはいけない。
危ないから屋敷へから遠くには行かない。迷ったら出てこれなくなる危険があるからと強く言い聞かせた。
庭の畑にウサネコの餌に何か植える許可はもらった。
とりあえずデクの木を3本。野生に生えているものを引っこ抜いて来た。
ウサネコ達の為とクレハが張り切った。
ジョージとハリエットとはまだちょっと距離がある。
おまけ。カカシにちょっかいを出さない。
その夜。
「ああああついいいいい!!」
ナナシははね起きた。
いつの間にかミウのベッドではなく下の藁の上でウサネコ達に囲まれていた。
腕やわきの所にもいるし何の物好きかわざわざ枕にまでなっていた。
昨日はお風呂の後はずっと外にいた。
どうせ言うことは聞かないだろうと思っていたが…母屋に上がったらエサ抜きにでもしないとシクステンさん怒るだろうなぁ。
「うるさいよ~ナナシ~」『『みー』』
ベファナに合わせてそうだそうだとウサネコ達も鳴く。
何匹かベファナの所にも潜り込んでいるようだ。
干してあるお面をかぶった。
暑いので空気を入れ替えようと窓を開けてる。
ついでに外に出そうとするとしがみついて抵抗した。
「家には上がらないって約束したでしょ」
『『『『風邪ひいたらどうするんだよ』』』』
「今まで野生だったでしょ!?」
『すみません…』
暖炉の近くで旦那さん一緒に寝ていた身重のウサネコさんである。
身重のウサネコさんが丁重に頭を下げ、とぼとぼ歩きだした。
『あんちゃん!カミさんだけは…』
旦那さんがナナシの足へとすがってきた。
ナナシは慌てて扉を閉じた。
『あの…すいません外へ行きますので…』
ナナシは両手を振った。
「すいません。起きないでください。寝ててください」
シクステンに診察してもらった結果予定日は近いそうだ。
『…いいんですか?』
「どうぞどうぞ」
『『『ぼくたちはー?』』』
「…こっちで寝なさい」
とりあえず明日は起きたら掃除かぁとため息をつく。
そして寝ているショワンを起こしてから藁を取り出して床に敷いてあげた。




