6-14話
”鍛冶師”が何人いるのか正確には誰も知らない。
”戦士”も”狩人”も”魔法使い”も”聖職者”も”裁縫師”も”錬金術師”も”採取師”も”魔物使い”も同じだ。
この世界ではLvが高いということは権力を持っているということに等しい。
職業のLvが高い人材は国力に直結する。大国と呼ばれるには職業のLvが最高の人材が必須だ。
”職業”とLvの概念が存在する為、大抵の国にはそれによる何かしらの身分階層が存在する。
階層の一番下がその分野の見習いと呼ばれる者たちとする。次は駆け出しと言ったところだろうか。
だんだんと上がって達人と呼ばれるようになる。そこでようやくピラミッドの真ん中くらいの位置とされる。
何人いてもピラミッドにはどこか頂点があるはずだ。
その頂点はどこで区切るか何で区切るかで変わってくるだろう。”国”と”職業”という単位で区切ったときの頂点は明らかになっている。国は各職業ごとで最も優れていると評価された者に称号を与えているからだ。
職業を極めた者。人間国宝。神の化身。達人と呼ばれる者たちのなれの果て。
公的の頂点とされるその称号の名こそが”バーテクス”なのである。
◆
「ナナシ殿がハウゼル氏の弟子だったとは…」
にわかには信じられないというやつだろう。
僕自身は…信じていなかった。
師匠が元国一番の”鍛冶師”というのは…信じてもいい。
腕のいい職人が人嫌いだというイメージも合ったし、ショワンの鉱石を採取した腕は見事という他ない。
でも僕がその弟子だというのは信じられなかった。
一番の理由は手だ。
たった2週間の修行で自分の手にはマメやタコができて火傷もできた。
剣を教わったときにもマメができたがその時とは痛くなる位置が違う。
”鍛冶師”は”鍛冶師”なりのマメができるのだ。
この家で初めて目覚めたとき、自分の手は綺麗な手だった。
働いていたならこのままではいられまい。
もし急にきれいになった理由があるとすれば…シクステンさんであればきれいに治すことができるだろう。
シクステンさんが何故治したのか理由はわからないけど。
…師匠は何で僕を弟子だと言ったのだろうか?
元国一番の鍛冶師ともなれば弟子になりたがる人も多いだろう。
見ず知らずの僕を急に弟子に取ることもあるまい。
「何もされていないのね」
「ええ…ずっと鍛冶を教わっていただけで…あっ」
”ウサネコのお面”を師匠の持ったままだ。
「大変!すぐ取りに行かないと!」『みう~!』
「ごーはーんー」
「そのご老人がハウゼル氏なのか分からないがもう一度話を聞きに行ったらどうだろうか?…今度は我々も同行する。ナナシ殿?案内していただけないだろうか」
「ええ…ええ?」
「どうしたのだ?」
額に手を当てた後に力を抜いて手を下に落とした。
あの…工房の場所が思い出せない。
「町中のダンジョンか…さすがに厄介なところに住まわれている」
「ミウちゃんはどうやって行ったの?」
『みう?』
「僕がいなくなってどうやって探した?」
ミウはちょっと考えて鳴らない首輪の鈴を揺らして見せた。
『みうみう?』
ポンポンと僕を叩く。なんだろうか?
「なあに?朝ごはんはさっき食べたでしょ?」
『みうみうー』ちょっとムッとして首を横に振った。
『きゅー』ヤキトリが羽を広げて差し出すようにした。
「なあに?だっこ?」
とりあえず抱きあげて頭を撫でてやると満足そうに頷いた。
のそのそショワンが背中に登ってきてミウは不満そうにみうみう鳴く。
ベファナもご飯ご飯と泣くので僕は今日2度目の朝食の支度にとりかかった。
◆
とりあえずは人探し。
有名な人なのだ。ギルドでなら情報が手に入るだろう。
「あらナナシ君。こないだは急にいなくなってどうしたの?」
いつもの受付のお姉さん。
そういえばこの間聞いた時のことを忘れていた。
「すいませんちょっと…」
「こないだの話だけどナナシ君の言った行方不明のトータスさんはいないわね」
「そうですか…あの”鍛冶師”のハウゼルさんってご存知です?」
「”鍛冶師”のハウゼルさんもたくさんいるわよ?先々代の”バーテクス”にあやかって名づけられた方がいるわ」
「その”バーテクス”のハウゼルさんの居場所ってわかりますか?」
「ギルド長ならわかるかもしれないけど…どうして?」
僕の師匠かもしれないんです。
お姉さんとはそれなりに付き合いがあるけど信じてもらえるだろうか。
「武器作ってとかのお願いじゃちょっと難しいんじゃないかなぁ。今お願いするならいくらするんだろう?」
「いくらしますかねぇ」
「…私のお給料じゃとてもとても届かないわねぇ」
ため息をつかれてしまった。なんだかとても申し訳ない気持ちになった。
「あっ!忘れてた!ナナシ君ごめん!手空いてる!?実は急ぎの配達があって…」
「大丈夫ですよ」
「ごめんなさい忙しい時に…倉庫に来てくれる?」
とりあえずみんなが待っているところへ戻った。
「どうであった?」
「配達をお願いされました………。ギルド長なら知っているかもですが今いないみたいです」
「そうか」
「配達しながら聞き込みをしますか」
「いや、それは控えた方が良いかもしれない」
「何故です?」
「バーテクスには良くも悪くも人が集まる。姿を隠されているのであれば何か理由があるのだろう。ハウゼル氏はナナシ殿にベファナ殿に顔を見せるよう言っていたのだろう?弟子を辞めさせられたわけではないのだ。であればハウゼル氏の方からそのうち会いにやってくるのではないだろうか?」
3人を呼んでミウとショワンに荷物を詰め込む。
ヤキトリはお手伝いのような邪魔のようなとりあえず癒しである。
配達をしながら町を回る。
最後の方に回ったのはここらへんじゃなかっただろうかというあたりだ。
何となくここまではという場所はあった。
人に聞こうにもなんて聞けばいいのかが分からない。
ミウの鼻でも分からないようだった。
『みうみう~』
また会えるだろうか?
いや会わなきゃならない。あのお面だけは取り返さないといけない。
ただしばらくは”ウサネコのお面”なしで過ごすことになりそうだ。
『みうう…』
「そんなに悲しい顔しなくても…お面は必ず返してもらうから」
ぐるるる…
ミウの腹の虫である。
そういえば今日はおやつをあげていない。
とりあえずにぼしを一掴みほど口に入れてあげた。
ミウは満足そうに頷いてナナシの頭に肉球を乗せるのだった。




