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見習いナナシの仮面劇  作者: ころっけうどん
12/198

1-11話

ナナシが目を覚ますと真っ暗だった。


「…こら」


『…みう?』


顔の上にうつぶせに乗っかって寝ていたミウをどける。

いろんな人から甘やかされて体感的には前と比べて倍の重さになっていた。


そういえば普段ならタローかハナコにたたき起こされるのにミウに起こされるのは初めてだった。


…やけに静かだ。


ナナシがぼんやりと考えている間にミウは半分寝ぼけながらもナナシをよじ登り頭の上に乗る。


まさか寝坊したのかと少し慌てて外に飛び出すと丁度薪の割れる音がした。


空を見るといつもの太陽の位置だった。

今日はお祭りで休みであることに気付く。


再び薪の割れる音。音のした方を見ると今日はタローが薪を割っていた。


「おはよー。ナナシにいちゃんー、ミウー」


「おはようタロー。あれ?レオンは?」『みうー』


見回してみるとお手伝いする子達の中に年長組の子達がいなかった。


「にいちゃんたちは今日はお祭りのお店手伝うから早いってー」


「そうか。……手伝おうか?」


子ども達が働いているのに自分がのんびりしているのが心苦しくなってきた。


獣人であるタローはチビたちの中でも力が強いのだが大きな斧を持っている姿は傍から見て危なっかしい。


「だいじょうぶだよー。ナナシにいちゃんはまだ寝ててー」


「おっと!おいおい…」


ナナシは背中を押され教会へと戻された。

菜園をみると草取りも水やりももう終わる。洗濯物も干し始めている。


どれもナナシが手伝おうとすると断られてしまった。


みんないつも通りのはずなのにどことなくそわそわしている気がする。

いつもなら一人くらいサボっているのがいるはずなのに見かけない。


見回しているとやけに子ども達と目が合う。

あいさつをすると返してくれるのだがすぐに逸らして自分の仕事へ戻っていく。


何かおかしい。


「どう思うミウ?」


ナナシは上を向いて尋ねた。


『…みうー?』


いつもなら追い掛け回されたりお手入れされているはずのミウも何か違うと首を傾げるのであった。


「あーい!ごはんだよー!」


しばらくしておばちゃんがお玉と鍋で朝食を知らせる。

子ども達はちゃんと汚れをはたいて手を洗って席についた。

お祈りもしっかりとこなす。

今日はやけにいい子だ。スープを啜りながらそんなことを考えていた。


「ナナシ君?今日のお祭りは何か予定はあるかい?」


さっとみんなの視線が自分に集まるのを感じた。


「いえ…?これといった予定はないですけど…」


「なら…ちょっとお願いがあるんだけど」


「なんですか?」


「チビ達連れてお祭りまわってやってくんない?」


ようやく腑に落ちたナナシだった。


…正直めんどくさい。表情を読み取られたかどうかわからないが、おばちゃんは少し困った笑みを崩さなかった。子ども達を見るとじっと目で訴えている。…ミウはマネしなくていいの。


今はおとなしいがちび達が言うことを聞かなくなるのは賭けてもいい。ただお世話になっているのだ。年長の子達が働いているのを考えるとナナシに断る選択肢はなかった。


「…いいですよ」


ため息をつくのを我慢してナナシは答えた。


「「「やったー!」」」「「「わーい!」」」


「助かるわ。年長の子達は午前中は仕事だし私も今日は一日教会の仕事で手が離せなくてね…。ほら!あんたたちナナシお兄ちゃんが連れてってくれるからいい子にしてるんだよ!言うこと聞かないのは今日のごちそうは抜きにしてやるからね!」


「「「うわーい!」」」


元気のあるおざなりな返事にいつもの孤児院に戻ったと感じる。

そして孤児院の子達が可愛いと思うのと信用するのとはまた別なのだ。


「じゃあナナシ君午前中だけでいいから頼むよ。チビ達が行きたいようなお店は南の通りの方にあるから。路地の方にはできるだけ入らない様にしてね」


「はーい」


「「「ナナシにいちゃんはやく~」」」


子ども達に急かされながら身支度を整える。一張羅の皮の鎧を着る。ブーツを履くのに屈むとその隙にまたミウが頭によじ登る。ここが僕の定位置とばかりに耳を覆う様に抱き着きあごを頭に乗せる。


「「「ナナシにいちゃん行こうぜー!」」」


ミウが飛び乗ったところで準備完了と判断したちび達が服の袖や手を異なる方向へ引っ張り出す。タローとハナコはもうすでに少し離れたところで手を振っている。

ナナシは案の定と溜息を吐いた。


『みうみう』


「なんだい?ミウ?」


ミウがあれあれと指す方を見るとロープが落ちている。


ひらめいた。


「集~合~!」


指笛をふくとナナシはロープの両端を持って輪を作った。


「どうしたの?」


「お祭りに行きたい子は輪の中に入って~!」


なんだろうと興味を見ったちび達がぞろぞろと輪の中に入る。


「よーし!まもなく出発いたしまーす!勝手に紐の外に出たらおばちゃんに言いつけるのでご了承くださーい」


「「「おー!」」」


「みんなおこづかい持ったかー?」


「「「もったー!」」」


「トイレ行ったかー?」


「「「いったー!」」」


「じゃあ!しゅっぱーつ!」

『みうー!』


車掌兼ぼうしのミウの合図におばちゃんに見送られてナナシたちは出発した。


「おっ!ウサネコのにいちゃんなにやってるんだ?おれもいれてー」


「わーい!いれてー!」


「あら孤児院の…これからお祭りですか?すいませんうちの子も…」


お祭りへ行こうとする途中、そんなこんなで他の子ども達が輪の中に入り列は長くなっていく。


畑道を抜けるとちらほら露店が出始めていた。


「お!ナナシにいちゃん!」


しばらく進むと串焼きの店番をしてるレオンがいた。


「やあレオン。調子はどうだい?」


「まぁまぁかな…。ナナシにいちゃんも買っていって!」


『みうみう!みう!』


帽子が肉球でぺちぺち顔を叩くので一番安いのを子ども達の分も買った。


肉体労働で稼いで使う間も無かったのでこれくらいは何とかなった。


『みう~!』「「「「おーいーしー!!」」」」「「ありがとー!」」


幸せそうな声が周りに響き渡る。すると人の目が集まった。そしてそのうちの何人かがお買い上げ。それが呼び水になって人が徐々に集まりだして行くのだった。

道すがらに他の年長組の子達もいた。レオンのところだけというのも不公平なので寄っていった。


ミウが食べて一声鳴くとお客さんが集まって好評だった。


レオンの話では南の地区のどこかの浮島の一つが子供たち向けのお店が集まっているらしい。兵士さんに場所を聞いてその小島に到着した。そこにはおもちゃの露店が並んでいた。


木の実を撃つパチンコ。買った子には的あてゲームに挑戦。全弾命中させればもう一つプレゼント。


小さな木剣と盾のセット。もちろん硬い。狭いところや人がいるところでは振り回してはいけません。


魔物をデフォルメしたお面。人気の順位は1位がドラゴン。2位はガイコツ。3位がウサネコ。


チビ達が小遣いを使い果たすまで付き合って午前中は過ぎて行った。


ナナシ達が戻ると年長組の子達が戻ってきていた。なんでもミウのおかげで売れたので早く帰れたらしい。


昼飯を食べ終え一息ついていると年長組の皆がそろって来た。


「なあなあナナシにいちゃん」「ナナシおにいちゃん?」「ナナシさん?」


なんだろう?


「どうしたの?」


やんちゃにまじめにひかえめと性格の違うみんなが一様に同じような表情だった。


「露店一緒に回ってくれない?その…西の職人街の方なんだけど…」


レオンが代表して言った。


「おばちゃんがナナシにいちゃんとなら良いよって…」


年長組の子達もおばちゃんに止められてるのか。

年長の子どもたちが行ってはいけない場所はどんなところだろうか。

少し疲れてはいたがナナシも興味がわいた。


「いいよ皆で行こうか。ミウも行く?」


祭壇の上に仰向けに寝そべっているミウからものぐさな尻尾の返事が返ってきた。

満腹で動きたくないらしい。


「じゃあ行ってくるね」


再び革の鎧を着て準備をしておばちゃんとミウに一言言っておく。


『みうみう~』


おみやげ買って来てねと聞こえた。



パトリアの西は職人街である。

今日は祭りということもあって露店が立ち並ぶ。

露店の内容は武器防具や職人用の工具といった大人向けのものである。

ナナシ達の年代の子が歩いてるのは少ない。


おばちゃんが行ってはいけないといった理由が分かった。

武器を持った人達が多くいる。大半がガラのあまりよろしくない人たちだ。


今度はロープは使わず子供たちとのんびり歩く。

みんなの目的は剣に本に髪飾りとちょっと背伸びした物だ。

先立つものに釣り合うものがなかなか見つからない。


「ねぇ…ナナシにいちゃんこっち平気なの?」


人混みを避け歩いていると路地に出てしまっていた。

薄暗くあまり雰囲気が良くない。


表通りには屋台といったそれなりに整った露店に対し路地には茣蓙に商品を並べただけといった簡素な店が並んでいる。


盗品も取り扱っていると言われれば納得しそうな雰囲気だった。すれ違う人もあまり柄がいいとは言えない。向こうもこちらが場違いだという視線を向けてくる。


人が屈んで商品を手に取っているあの中にはきっと掘り出し物もあるのだろう。


”鑑定”のスキルもなく目利きに自信はないが、こういった場で少しくらい騙されてみるのも一興かもしれない。お金に余裕があればの話だが。


「と思うけど…」


年長組の子達は不安なのかナナシに触れるようにはぐれない様についてきていた。ナナシも少し不安になり始めた時だった。


「あれ?…やっぱり!こんにちわっす、ナナシさん」


「こんにちはナグリさん」


クレハさんが下宿している店のお弟子さんだ。

ようやく顔見知りの人を見つけて子ども達に気づかれないようにほっと息を吐いた。


「「「「こんにちはー」」」」


子ども達は小さな声であいさつした。


「ミウちゃんも連れずにどうしたっすか?こんなところで?」


「この子達の買いたいものを探してたらここにきちゃって…」


「あ~ここらへんはまぁ…通が来るところっすよ。何をお探しで?」


探し物をナグリさんに伝えた。


「ならあっちで俺みたいな弟子連中で集まってやってるんで良ければ覗きに来ないっすか?」


「行く!」子ども達からの返事。


ナナシも含めここはまだちょっと早かったようだ。


ナグリさんに案内され別の路地へと入る。行き止まりだが広場になっているところにでた。店の形態は先ほどと同じく茣蓙に置かれているだけだ。だがここは武器や装飾品やらが並べられ先程の路地の品物よりは分かりやすい。

表の通りとも引けを取らない賑わいを見せていた。


ナグリさんたちの店に案内してもらった。


レオンは武器の模造品を手に取って考え、ジルは髪飾りやブラシについてお姉さんに頑張って尋ねていた。クレアとクリスは服を見てバリーは生産職用の道具を見ている。


ナナシも何かないか探してみたが特に気を引くものはなかった。


「ナナシさんも何かいかがっすか?」


「ん…すみませんが特にこれと言って…」


「なら折角なんでぐるーっと見てきたらどうっす?あの子達なら見ててあげるっすよ」


「いいんですか?」


子ども達にここにいるように伝え、ナナシはそれに甘えることにした。


一人っきりでの散歩は初めてだった。

ここの所いつも誰かがいてくれたのだ。

一人っきりの散歩が微妙に気晴らしにならなかった。

露店を見て物珍しいなと思うのだがどうにも落ち着かない。


戻ろうかなと思った時だった。


「あれ?」


ナナシは建築の際偶然できたであろう隙間に目が行った。

人が手を広げれられるかどうかの狭さだ。


その奥だ。そんな隙間に店があったのだ。店と言っても周りと同じように茣蓙の上に品物が並べられているだけの簡素なもの。店主は枯草色のぼろをまとっていて顔が見えない。舟をこいでいるところ眠っているのか。小柄で男性か女性か老人か子どもかも分からなかった。


品物を見てみるとガラクタ…というか用途の分からない物ばかりだ。どれもきちんと綺麗に磨かれてはいる。


すり減ってどうにか祈っている人が描かれていると分かるコイン、端っこの欠けた十字架、黒いリング、etc。


「何かお探しで?」


戻ろうとした時、眠っていたと思っていた店主が声をかけてきた。

声からするとたぶんおじいさんのようだ。


「すみませんちょっと見ていただけで…」


「そうかいそうかい」


ゆっくりとおじいさんは頷いた。

客の来訪を喜んでいるわけでも冷やかしを鬱陶しがっているわけでもなさそうだ。

ボロに隠れて見えないがじっと見定められているのかような視線を感じる。


「ここは…何を売ってるんですか?」


「欲しいものを売っておるよ」


「…欲しいもの?」


「そうさ。おにいちゃんの欲しいものを売っておるよ」


並べられている中に特にこれと言って欲しいものは無い…と思う。

だって何だか分からないから。


「特に…欲しいものはないとでも言いたそうな顔じゃな。よいよい。ここに来る者はみんなそんな顔をする。どれ?当ててみようか?顔を良く見せてごらん…ふむふむ…ほう…珍しいものを欲しがっておるのお…」


おじいさんの纏っているぼろがもぞもぞと動いた。


「これなどは…どうじゃ?」


取り出したのはナナシにとって馴染みのあるものだった。

いつも頭に乗せている相棒。ウサネコを象ったお面だった。


おじいさんが差し出すとお面の白く長い耳がふわふわと揺れた。


ナナシは両手で受け取った。

肌触りに思わず鳥肌が立った。本物の皮でできているようだ。

お面と向き合うと鳴き声が聞こえてきた気がした。

午前中に露店で見たものや子供たちが被っているのとはちょっと違う。顔が完全に隠れ耳を完全に覆う形で引っかけて被る。

…隅々まで調べてみたが特に仕掛けはなさそうだ。


「おっと、かぶるなら買ってもらうよ?」


「…おいくらですか?」


午前中にチビ達も買っていたからそう高いものではないだろうと踏んでいた。


「ふむ…そうじゃのう…大負けに負けて100000エンじゃの」


「えっ?」


見透かされたかのように手持ちのほとんどの金額だった。


「…まかりません?」


気付かないうちに買う気で話を進めていた。


「ダメじゃな」


即答。


「そのお面はおにいちゃんに買われたがっておるのお…」


コックリコックリと頷きながらおじいさんは言った。


しばらくお面と見つめ合う。子ども達がかぶっていた物とはちょっと違うとはいえ特に変わりのないお面だ。冷静に考えれば高すぎる。


おじいさんに返そう。


(買って…)


あれ?ミウの声?聞こえた気がした。


…。 

……。

………。


「にいちゃん?にいちゃん?」「ナナシにいさん?」


気がつくと通りに立っていた。

レオンとバリーが不安そうな顔で袖を引いていた。


「あ?あれ?あれ?」


「…どうしたの?こんなところで?ボケっとしてるとスリに取られちゃうよ?」


「お…うん?」


ナナシは自分のほほを二度叩いた。


「…なんか買ったかい?」


「うん!みてくれよ」


レオンが見せたのは鉄の剣…の模造品だそうだ。僕の持っている剣よりも立派そうに見える。精巧に作られているので少ないながらも加護を受けられる代物らしい。説明している間ずっと上機嫌だった。バリーも多機能ナイフを買ったようだ。


「にいちゃんは何か買ったの?」


手にお面を持っていたのに気がついた。

財布は殆ど空になっているので確かに買い物はしたようだ。


買った時のやり取りも店主のぼろきれを着たおじいさんの声も覚えている。


ただ買って店を離れる記憶が一切無かった。


「ん…ああ…これ買ったよ」


「これウサネコのお面じゃん。チビたちへのお土産?」


「いや…ほら似合うかい?」


おどけるように笑ってお面をかぶって見せた。


「うん似合ってるけど………さっきからどうしたのにいちゃん?」


「あ…どうも疲れちゃったみたいだ。もうそろそろ帰ろうか?」


「うん!今日はありがとうなナナシにいちゃん!」


「うん…」


(…夢でも見ていたの?)


お礼に返事をしながらナナシはぼんやりと孤児院へ戻っていった。

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