5-20話
作戦は単純だった。
寝静まった後、ナナシとアリスが荷馬車の中に入り込む。
盗まれていた道具はショワンの中に放り込んだ。
安全を確認したところで燃料を用いてベファナが火矢を撃ち込む。
あとはひたすら大声を上げて威嚇。
手にかけてしまった方が後腐れがなかったのかもしれない。
ナナシにそれは出来なかった。
馬は馬車につながれていなかったから逃げ出せるだろう。
荷物がダメになったと分かれば逃げ出してくれると思った。
男たちの逃げた先を見ると小さく出口の白い点がぼんやりと浮かんでいた。
あの先はヴェルメリオなんだろう。光の先を見てミウがちょっと唸っている。
光はだんだんと小さくなって消えた。
「…!!」
何もない空間。闇の固まってできた壁をナナシは叩いた。
音も響かずただ触れているという感覚だけが手に残った。
『みうみう!』
ナナシの真似してミウも叩く。
試しに蹴ってみても何も変わらなかった。
「無駄ね。このダンジョンは時間で元の世界とつながるみたいね」
この扉は毎日空くのかそれとも一週間か一月か。
一年ということは無くても何時になるかは分からない。
『みうみう~』
ミウがすり寄ってきた。
腹の虫の音がした。
…自分の。
ここでじっと突っ立っていてもしょうがない。何か食べよう。
幸い食料には困らない。荷馬車にもそれなりに食料が積んであった。
いつ開くか分からない。燃料を節約するのに燃えている馬車の木片を持ってきた。
温かくも寒くもない気温なのに周囲の闇が冷たさを感じさせる。
パチパチとはじける音。焚火にあたっているとホッとする。
フライパンを取り出して火にかけた。
温まるまで火の粉が生まれては消えていくのを見ながらぼんやりと何を作ろうか考えていた。
「ショワン君荷物を出してくれる?」
『きゅー』
ショワンは甲羅から自分の見た目の数倍の質量の荷物を取り出していく。
アリスさんが中を検め始めていた。
微かだが鼻歌が聞こえる。
(アリスさんの機嫌がいい?)
ほんのわずかな挙動だがナナシはそう感じた。
「あった、これがカラドリウスね」
貴重品の保存用の箱に詰められているようだ。
「やったー」『みうー』
ミウとベファナがハイタッチ。
ヤキトリはこっそり火をついばむのに大忙し。
「はいショワン君、預かっていてね」『きゅー』
荷物を取り返した。
でも正義だのなんだのではなく私利私欲の為の襲撃だった。
相手がだれであれやったことは強盗。
強盗というのだろうか?
やったことに後悔は無い。
ただもっと何か良い方法があったのではと思ってしまう。
『みうみう?』『きゅー?』
フライパンを火にかけたままぼうっとしていた。
咄嗟に目についた豆をチリチリと熱しすぎたフライパンに乗せるとじゅうっと音がした。
その音を聞いて後ろで魔物たちは踊る。
「…これでよかったのかな」
ナナシは誰にも聞こえないように呟いた。
魔物たちの”応援”は耳に届いていなかった。
ピーン。
スキルを手に入れた時の感覚だ。
今度はなんのスキルを手に入れたのだろうか?
ガシャン。
「どうしたのナナシ君!?」「どしたー?」『みうー?』『きゅ?』『ぴよ?』
手からフライパンがすっぽ抜けていた。
「なんでも…ないです。なんか緊張が解けちゃったみたいで…」
仕方がなかったじゃないか。
”盗む”
世界から泥棒の烙印を押されてしまった。