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見習いナナシの仮面劇  作者: ころっけうどん
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1-9話

ギルドの中庭からさらに奥へ進むと橋が掛けられ離れ小島へと繋がっている。

離れ小島は丸々一つが訓練場となっていた。


”戦士”や”狩人”達の為に、丸太が積まれロープが張られ巻藁が並ぶ。


見習いの職人達の訓練場としても機能していて、彼らが作った武器や防具がタダで借りることができる。


今離れ小島では軍隊と思わしき揃いの鎧を着た集団がいた。

上官の女性と思われる口汚い罵声が仰向けに転がるナナシの耳にも届いていた。


「どうした!早く立つんだ!」


その罵声を打ち消すように飛んできたのはクレハさんからの怒号だった。


(向こうの…軍隊の訓練と…どっちがいいかな…?)


そう思いながら訓練用の木刀を杖に何とか立ち上がった。

膝が振るえていたがなんとか先ほど教わったばかりの基本の構えを取った。


「いくぞ!」


滑るような足取り。気が付けばクレハさんが目の前にいた。一瞬の溜め。溜めは受けやすい様にわざとであったがナナシは気づけずにいた。後振り下ろされた木刀を盾で受け止める。盾を持つ手が痺れナナシの顔がゆがむ。


「目を閉じるな!」


鳩尾を峰で打たれた。防具で緩和されているはずなのに痛みと衝撃に朝食が戻りかけた。それを押し戻して何とか倒れないよう踏みとどまった。


クレハさんが数歩下がって距離を取った。


「よし…今度は打ってこい!」


立つのもやっと。木刀を握るのもやっと。ただやらないとより酷い目にあうだろうと確信していたので力を振り絞って斬りかかった。肩口を目標に力いっぱいの縦切り。胴を目掛けての横切り。鳩尾の狙っての突き。そのどれもが受けられることもなく空を切った。無駄な動きがさらに体力を消耗させる。息が切れたナナシは動きを止めてしまった。


「止まるな!実戦ならとうに死んでるぞ!」


柄頭でこめかみを兜の上から撃ち抜かれる。頭が兜の中で揺さぶられナナシは地面を転がった。クレハは木刀を構え一歩一歩近づいていた。立ち上がろうとするが緩慢な動作でどうにか四つん這いになるのが限界だった。クレハが足を止めた。


『みうー!みうー!』


ミウが立ちはだかった。尻尾を立て精一杯毛を震わせ威嚇するミウ。


「…休憩にしようか」


頬が地面に付いていたナナシにその言葉は届いていなかった。



昨日のことである。


クレハさんに案内してもらい、クレハさんが下宿している裏通りにある武器防具屋へと来ていた。

お店はドワーフのおじさんとおばさんが経営していてお弟子さんが一人。


武器は訓練場で借りることができるもので十分だそうだ。

だが防具は体に慣らしておいた方がいいとのことで自前のを用意することにした。


相談したところお弟子さんに依頼するなら安く仕立ててくれるとのことで革の鎧と兜と小手をお願いすることになった。


「剣は持っているのかな?」


「一応」


袋から取り出してクレハさんに見せてみた。

クレハさんは受け取ると不思議そうな顔をした。


「おじさ~ん!ちょっとこれ…見てもらえる?」


「ん~?」


おじさんが片手で作業を続けながらもう片方の手で剣を受け取った。


「…なんじゃあこりゃ?」


完全に作業を止め、剣を完全に鞘から抜いてまじまじと調べ始めた。


「高いものなのですか?」ナナシが言った。


「…分らんのか?おい!ナグリ!お前の打ち損ね持ってこい!」


「へーい!」


お弟子さんが抜身のままの剣を持ってきた。

持ってきた剣は打ち損ねらしいがナナシにはどこが悪いのかわからなかった。


「…見とれ」


お弟子さんの剣を台において金づちを振り下ろす。パキンと折れてしまった。まぁ想像通りだ。

次に僕の剣が台に置かれる。


「えっ!?ちょっと!」流石に借り物の剣だ。


「心配するな。万が一があればうちで一番高いやつをくれてやる」


槌をさっきよりも大きく振りかぶった。

少し溜めの間の後に固い音が周りに響いた。


…剣に蜘蛛の巣が入ってしまった。


「えっ?」


ナナシは剣に顔を近づけていた。蜘蛛の巣が段々とふさがっていくのだ。しばらくすると完全に消えた。指でなぞってみてもどこに跡があったか分からない。


「おじさんやっぱりこれ…」


「うむ…魔剣じゃ。お前さんこんなものどこで手に入れた?」


「魔剣?」


ナナシの疑問にお弟子さんが答えた。


「魔剣に魔槍。頭に魔の付く武器や鎧は火を噴いたり冷気を纏ったりする不思議なもののことを言うんすよ。そいつを作るのが我々武器職人の一つの目標っす。…でも師匠?これ見たところ俺が打った剣と大して変わらないんじゃ?」


師匠のおじさんが答える。


「剣自体はお前が作ったものと変わらん加護も無いなまくらじゃ。じゃがこの剣には”浄化”と”再生”が仕込まれて空気中のマナを吸って自動でそれが発動するように仕掛けが付与されておる。鞘にもマナを集める仕掛けがされておるな。恐らくじゃが…作ったときからじゃなく”聖職者”か”錬金術師”が無理矢理に後から追加したんじゃろう」


”浄化”は対象の汚れを落とす魔法で”再生”はその名のごとく壊れた時に直る能力だそうだ。さらに空気中のマナを吸って自動で発動するよう細工がしてある。つまりこの剣は刃こぼれが直り血糊なんかの汚れが自動で落ちる手入れ要らずの剣。

ただ付与された能力が強すぎて、この剣は打ち直すことも研ぎ直すことも出来ないなまくらのままだそうだ。


剣を僕に返したおじさんは納得が行かないようで唸り声を上げた。


「どうかしたんですか?」


「誰だか知らんが”聖職者”にしろ”錬金術師”にしろそうとう腕のあるやつじゃぜ。じゃが何でこんな剣にわざわざ細工をしたのだかわからん。やるんならもっと良い物にやればいいものを」


ブツブツ言いながらおじさんは作業に戻っていった。


採寸をしたところ作り置きのものが合いそうだった。

防具に微調整を加えてくれるそうなのでしばらく待つことになった。


「ナナシ殿、明日の修行だが…その…契約してしまった後で申し訳ない。一つ確認させていただきたいことがある」


「はい?」


「ナナシ殿は何故剣を学びたいのだ?…申し訳ない。もっと早く言うべきだったのだが…私は教える方法を自分が師匠に叩きこまれたやり方しか分からないのだ。教え方は…その実践的な何というか…ともかく体に教え込む。その…ナナシ殿、もし軽い気持ちで学びたいと思っているのであれば…」


槌の音が大きく響いている。


「剣を学びたい理由ですか…?」


クレハさんはじっと僕の目を見ている。

正直に答えたほうがいいだろう。


「自分が何か…思い出すまで…死なないように剣を学ぼうかと思っています」


「何だって?」


想定外の答えだったようだ。

おじさんもおばさんもお弟子さんも意識が作業をしながらも僕の方を向いているのを感じる。


「えっと…僕…おとといから前の事を何も覚えていないんです。一昨日、目を覚ましたら錬金術師の方の屋敷にいて…。昨日街へと連れてきてもらって、でも結局ギルドでも身寄りが分からなくて…。錬金術師の方がクランに入れてくださって今日から治療費をがんばって稼ごうと思って…。ここへ来る間も餓鬼に襲われたりしたので…それで…」


「すまないもう十分だ。そう軽い気持ちでないのなら大丈夫だと思う。少しでも…その…力になれるよう努力させていただこう」


クレハの差し出す手をナナシは握った。


「ところでナナシ殿は何というクランに入ったのだ?」


「”賢者のフラスコ”です」


「懐かしい名じゃな」そうおじさんが呟いた。


「おじさん知っているのですか?」


「もう…十年以上も前の話じゃがこの国で最高ランクだったクランじゃよ。2代前の”錬金術師”のギルドマスターが率いてたはずじゃ。そやつが亡くなった後、継ぐやつがいないと聞いたが…誰が継いだんじゃぜ?」


「孫のシクステンさんって方ですけど…」


「ふぬ?シクステン…シクステン…はて?どこかで聞いた名じゃな」


結局おじさんは思い出せなかった。



「大丈夫ですか?」


どうやら意識が飛んでいたらしい。気付いたら女性を象った仮面をつけた方が僕に手をかざしていた。声は男性だった。仮面はたぶん孤児院にあった女神像とモデルは同じだろう。かざす手が淡く光っている。お日様の様に温かい。これが回復魔法か。ぼんやりとそう思った。


『みうみう!』


上半身を起こすとミウが飛びついてきた。


顔に飛びついて舐めるのを引きはがして頭を撫でてやった。


「もう大丈夫そうですね。では神のご加護があらんことを…」


お礼を言ったつもりだったが聞こえただろうか。

お面の男性は振り向かずに向こうで訓練中の次の犠牲者のもとへ向かって行った。


「大丈夫か?」


「ええ、何とか…」


差し出された手を補助に立ち上がる。

空いているベンチに座り、朝ベニちゃんから買ったポーションを飲んだ。


クレハさんもスキットルで何かを飲む。


『みうー!みうー!』


ミウは泣きながらクレハさんのブーツを肉球で叩いていた。


「こら、ミウやめなさい」


好きに打たせているクレハさんは困ったように微笑んでいた。


「そうだ」


鎧の隙間に手を入れて袋を取り出すとそこから魚を取り出した。


『みうみう♪』


それを受け取ったミウは頭からかぶりつく。


「…こら」


『みう?』


「まあまあナナシ殿。ミウ殿もご主人が危ないと思って必死だったのだ」


そう言われては仕方がないのでデコピンで許してやった。


「ナナシ殿?もしかするとだが…記憶を失われる前は貴族だったのではないか?」


「…どうなんでしょうね?」


要は体を動かしてこなかったってことだろう。世間知らずもあるかもしれないと思うとナナシの表情が陰る。


「あ…いや、どうにも立ち振る舞いがどこかできちんと教育を受けた者のそれと思ったのだが…」


何かを察したであろうクレハさんのフォローが痛かった。


『みうみう?』


「おかわりはまた今度」


『みう~』


「そういえばミウ?お前ベニちゃんはどうしたんだ?」


「あっ!ミウちゃんこんなところにいたですか!?ダメじゃないですか!?」


『みうっ!?』


スラちゃんをおともにベニちゃん登場。


『みうっ!みう~』


いやいやと僕の陰に隠れるミウ。


「ちゃんとお仕事しないとおやつ抜きですよ!」


『みうっ!』


すぐさまベニちゃんの足元まで行って僕に向かってバイバイ。


「クレハおねえちゃん、ナナシおにいちゃん。剣の修行頑張ってくださいね。ほらミウちゃんあっちでとっくんの続きです!」


『み~う~!』


ベニちゃんに抱っこされたミウは心配そうな顔で手を振っている。

ケガしないようにねとそう言っているように聞こえた。


「さぁ続きだ。今度はもう少し加減をするから…せめて気を失わないように」


振り下ろした木刀が風を切った音を聞いてナナシは身を震わせた。


結局は午前中の訓練が終わるまでにクレハは3本の木刀をへし折り、ナナシは3度気を失い、木刀を2本折られ、盾を1つ割られたのであった。


訓練が終わったあと装備もボコボコになっていた。

早速修理してもらうことになった。


お弟子さんは苦笑い。おじさんはクレハさんをやり過ぎだと叱りつけていた。


夜のうちに直しておいてくれるそうなので明日の朝早く取りに行くことになった。


帰り道ナナシはうつむき気味で歩いていた。


気が重い。曖昧な気持ちで始めた後悔もあったが意地の方が勝っていた。見栄と言ったほうが正しいかもしれない。クレハさんの評価は訓練を一日やっての結論は武術の為の体ができていないだった。


なので明日からは仕事をしながら体を鍛えることになった。仕事はギルドの仕事の掲示板の中からクレハさんに見繕ってもらう。


『みゅ~ん?』


「いてて…こら傷を舐めるな」


ざらざらな舌と唾液が頬の治りかけの擦り傷にしみた。


ベニちゃんに分けてもらった回復薬と修行中の”聖職者”の回復魔法のおかげで何とか動けるようになった。口の中にまだ味が残っている。やっぱりあの苦味が少し癖になっているようだ。


早く帰って休もう…。


『みうっ!』


突然吠えたので顔を上げた。


「…!」


おじさんが驚いていた。おじさんと目が合ったナナシの冷や汗があごを伝って地面へと落ちていった。


「っごめんなさい!」


おじさんの反応を見る前にナナシは逃げ出した。


路地に逃げこんで壁に寄りかかった。


「こら!」


ミウを頭から降ろしてほほをもむ程度につねる。


『みうみうみう~』


ミウは違う違うという風に首を横に振った。


「…どうしたの?」


何を訴えているのだろう?


「じっとしてなきゃだめだよ、ミウ」


ミウの頭をやさしくポンと叩いた。


『みーう…』


謝っているようだが恨めしそうな目でじっとナナシを見ている。

何となくわかるときもあるけど今のは分からなった。


”魔物使い”の”職業”があればちゃんと話ができるとそう聞いた。


”戦士”よりは”魔物使い”が先だな。ナナシはそう決めた。


まずは仲直りが最優先だろう。


「串焼き食べる?」


『みう~♪』


二人の仲直りは至極簡単なのであった。

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