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迷宮商店街 ~最強だけど風変わりな住民たちが暮らす街~  作者: コンガラ
第3.5話 地下室と掃除と魔術書と
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 掃除を行う前に二つほどやらねばならないことがあった。一つは床や机の上に乱雑に置かれた実験用の器具や材料を片付けなければならないということ。もう一つは棚に無理やりねじ込まれた蔵書の類をきちんと整理しなければならないということだ。


 実験道具についてはそれほど危険なものがあるわけでは無い。シアンとカリンに店の外にある流し場まで運んでくれとお願いをする。


 「ご主人様は?」


 「お前たちが運んでいる間に俺は書棚の整理をするさ。せっかく掃除をするのだから不要になった本をいくらか処分して書棚の整理をしたい。」


 「わかりました」


 シアンが頷く。声が少しばかり高揚しているような気がした。俺が真面目に掃除をする気になったことが嬉しいらしい。


 掃除を開始する。シアンとカリンが二人で仲良く荷物を運び出している姿を横目に見ながら自分の作業に取り掛かる。


 手始めに一冊の本を掴んで適当に開く。ほとんどの本には背表紙が無いため、いちいち開いて内容を確かめる必要がある。一度読んだものしかこの棚の周りには置いていないため、すべて処分しても問題はないのだが、稀少な魔道書の類もこの中に放り込んでいる可能性があるため確認しなければならない。


 しかし、しばらく見ない間にどんな本を収納していたかということはすっかり忘れているな。我ながら幅広くいろいろなジャンルの本を集めたものだと感心する。


 魔道書や学術書はいいとして、料理本や医学書といった研究に関係のないものから叙事詩や娯楽小説といった暇つぶし用に集めたと思われるものまで、無造作に存在していた。


 なんでこんなものを集めたのかなと思いつつ、忘れているということは不要なものだろうと判断して処分用の箱の中に放り込んでいく。


 いくつかの本を片付けた隅にある本に触れたところで、こりゃいけないかな、と思った。湿気と埃で本がへたっており、カビや虫食いが発生しかけているらしい。


 「まいったなぁ」

 

 ため息とともに弱音を吐いた。よりによって書棚の奥にしまい込んでいた高価なものばかりが被害を受けてしまっている。


 「どうかしましたか?」


 背後からシアンが聞こえた。実験器具の片付けが終わったようだった。


 「たいしたことじゃない。……本をいくつか外に持っていく必要が発生しただけだ」


 そう言いながら一冊の本をシアンに手渡した。それだけでシアンは何をするか理解してくれたようで、承知いたしましたと頷いてくれた。


 本の数はそれなりにある。実験器具と違いそれなりに重量があるため、手分けして運ぶ必要があるだろう。上階のいたカリンを呼び手伝ってくれとお願いをする。


 「運ぶのはいいけど、何のために本を上に持っていくの?」


 カリンが不思議そうな表情を浮かべて言った。


 「本を虫干しするためだけど」


 「虫干し?」


 「本が湿気で駄目になりかけているから、外で日陰干しをして湿気を飛ばさないといけない。これをやらないと劣化して読めなくなる。せっかく数百アウルの大金をはたいて買った魔術書がカビなんかにやられると泣きたくなる」


 「へぇ、本ってそんなことしないいけないんだ」


 「家でやってなかったのか?」


 「うん、やったことない。わたし貧乏孤児院出身だから、本なんて高級なもの置いてなかったし」


 そう言いながらシアンが残した本を持ち上げる。孤児院出身というは話は以前にさらりと聞いていたが、そんなに困窮していた生活を送っていたのか。


 何か言うべきかと少し悩んだが、カリンは出自のことについて特に気にしてないらしく、まとめた本を持ち上げて部屋を出て行ってしまった。


 気にしてないのであればいいかと思う。それと同時にそんな出自なら学はあるのだろうかという疑問が頭の中に浮かぶ。読み書きが出来ることは確認済みだが計算はできるのだろうか。経理を任せるつもりはないが、店で働く以上は帳簿を読むことが出来るぐらいにはなってほしい。



 シアンと一緒に勉強を見てやったほうがいいかもしれない。掃除が終わった後にでも聞いてみよう。


 ごちゃごちゃした部屋だがそれほど大きくもない、三人ならすぐに片付くだろう。

明日にも続きを投稿します。


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