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中途半端なところで終わってしまい申し訳ありません。

明日には続きを投稿します。

 最初に聞こえたのは咆哮であった。巨大な化物であることを思い起こさせるような大音声の叫び声は空気を振動させ、せまい洞窟内で反響した振動はピリピリとした痛みを感じさせてくれる。


 「元気がある魔物だぜ」


 嬉しそうにスピカが言った。先ほどの魔物たちでは役不足であったため、ようやく満足に体を動かすことのできる相手が出てきてくれたことに対する感情のようだ。


 喜ぶスピカとは正反対に俺は渋い表情を作って天井を見上げる。それから自分の体についた砂埃を手で払った。


 「威嚇のつもりなんだろうけど、やめてほしいなぁ」


 迷宮内は何処の階層でも基本的には砂埃まみれだ。不用意に壁や天井を触ったり、揺らしたりするとべったりと汚れが体に張り付いてしまう。探索や戦闘に支障があるわけでは無いのだが、それでも薄汚れるというのは気分的には許容し難い。


 咆哮が鳴り止み、目に付いた埃を落としたところでようやく声の主は通路の奥深くから姿を現した。


 咆哮に見合った巨体をした魔物であった。全身が茶色の鱗に覆われ、手足には異様に長く鋭い爪がある。顔面は丸く肉厚で、感覚器官である触手がうねうねとにうごめいている。


 この魔物この触角を使用して周囲の状況や獲物の動きなどを感知するため、人間でいうところの眼に該当する期間が無い。一応、眼球のようなものは存在するらしいのが、顔の肉に埋もれているため、見ることはまずできないだろう。眼球の水晶体は魔力伝導率が高いため、カーバンクルの瞳のように高値で取引されると聞いたことがあることを思い出す。余裕があったら取り出してみようかな。


 そんなことを考えていると、隣にいるスピカがが掛りした口調で呟いた。


 「モグラかぁ」


 「ああ、モグラだな。……不満か?」


 「不満は無いけどさ。でもドラゴンって聞いたから、もう少し、獣っぽくないやつというか……、ちゃんと知能のあって、駆け引きが出来るような奴がいいというか……」


 「我慢しろよ。贅沢をいうな」


 後ろでへたり込んでいる冒険者たちをちらりと見る。この魔物に殺されたのかと聞こうとしたのだが、聞く必要は全くと言っていいほどなかった。


 土で薄汚れた顔面はひきつり、顔は青白く幽鬼のように変容している。両目はうつろで恐怖の感情がありありと見て取れた。


 「そうか」


 それだけを短く呟く。この階層で暴れまわっている魔物はコイツで確定だな。


 改めて魔物に向き直る。俺とスピカはモグラと呼んだがそれは俗称で、正式にはアースドラゴンと呼ばれている魔物である。ちゃんとした竜の仲間ではあるが亜竜と呼ばれる種族に属しており、竜族が持つ高度な知識と魔力を持っていない。そのため竜種の中では下位の存在であった。


 しかし竜種は竜種である。その実力は並みの冒険者が何人集まっても歯が立たず、地上に出現すれば、一個大隊規模の軍隊を持って対処しなければならない存在である。

 「まぁ、いいか。こんな見た目でもドラゴンはドラゴン!」


 剣を構えながらスピカが言った。


 「チハヤ、援護は要らないからな! あたし一人でやる!」


 「うーん」


 スピカの提案に少しだけ悩む。スピカの実力なら余裕で撃破はできるだろう。しかし、数か月ぶりの実戦であることを考えれば万が一の出来事が起こってもおかしなことではない。商店街の仲間で友人の愛娘を危険にさらすのはなるべく避けるべきなのだが。


 「駄目だって言っても聞かないだろうし……。わかった。頑張ってくれ」


 危なくなったら援護すればいい。それに先ほどの行使した魔法の所為で、俺の魔力量にも少しばかり不安があった。


 「小規模な因果律変更なんて昔はいくらでもできたのになぁ……。はぁ、やっぱり劣化しるなぁ」


 衰えを実感し、そのことを嘆く。この力の大半は英雄として在るように作られたものだ。今の俺はわずかに残った力があるだけである。


 そう思いながら心の中で苦笑した。残滓のようなものでもあるだけましだと考えなければ。俺以外の英雄たちは、その残滓ですらほとんどないのだから。聖女なんかは苦労しているに違いない。


 「……クソ」


 小さく呟く。忘れよう、俺には関係ない事だ。


 スピカが一人で竜種に向かって進んだ。先に攻撃を仕掛けるつもりらしいが、モグラとスピカには大きな体格差がある。魔物がスピカの間合い入るよりも先に、魔物の間合いにスピカが入る。魔物から見れば不用意に飛び込んできた人間に見えたのだろう、魔物はその巨体からは想像できないほどの鋭く速い一撃をスピカに与える。


 俺の後ろで女の冒険者が悲鳴を上げた。おそらく女の方は爪による攻撃でやられたのだろう。自分がされたことを思い出して悲鳴を上げずにはいられなかったのだ。


 「遅いぜ!!」


 悲鳴を無視するように、余裕の笑みを浮かべながらスピカが言った。流麗な動きで斬撃を回避する。そしてむなしく空を切った魔物の腕が対して逆に攻撃を加えようと大剣を叩きつけた。


 甲高い金属音が迷宮内に響いた。すべての竜種に共通する特徴として金属の何倍も硬い鱗と強靭な筋肉というものがある。この装甲があるため、並の攻撃では傷一つつけることすら至難となっている


 「チッ! 流石に硬い!」


 「まぁ、ドラゴンだからな。どうする? 魔法で援護しとくか?」


 「へっ! 冗談は寝言だけにしろよ! そんなもんいらねぇ!」


 「わかった。応援だけにしておく」


 魔法で防御を下げるか、武器の強化でもするべきかと思ったが、スピカに一括されたため、大人しく待つことにする。下手に手を出して後々の恨みを買いたくはない。


 じっとスピカの戦いぶりを見る。次々と降り注ぐ爪による攻撃をギリギリのところで避け続ける。大剣で受け止めることもできるのだろうが、上手く受け流せば致命傷にはならないが、失敗すれば力任せに壁へと吹き飛ばされることが分かっているため、回避しかできない。


 今の状況は極めて不利である。しかし、スピカの顔には絶望の感情は無い。口元をゆがめた。この状況を楽しんでいるかのように。


 「意外と歯ごたえのある奴でよかった。心置きなく新技を試せるぜ!」

あと2編で3話が終了とする予定です。


4話を執筆する前に2.5話のように短い番外編をいくつか入れたいなぁ、と思います。


先に本編を進めてほしいと要望があれば、そちらを進めますので、感想欄に要望をお願いします。



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