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「どうも。いらっしゃいませ。どうかしましたか?」
店に繋がる階段を上り、扉を開けながら店内にいた4人組に向かって質問した。店内にいた全員の視線が俺に向かって集まる。突然現れた俺に対して驚いたのか、全員がしゃべることを止めたせい店内は静けさを取り戻す。これがずっと続けばいいのにと思ったが、それは一瞬だけであった。
「あ、ご主人様。たっ、助けてください」
半泣きの表情を浮かた少女が、来客の怒声の隙を利用して助けを求めた。
彼女はこの店で働く優位いつの店員であり、同じ家に住む同居人である。
作業着として与えた白黒のメイド服に身を包み、やや緑みのある明るい青色をした髪の毛を後ろでひと房に編み込んで垂らしている。その姿を見ればこの雑貨屋で働くただの従業員といえるのだが、首に着けてある首輪がそうではないことを示している。
彼女は所謂、奴隷と呼称される身分の存在である。奴隷といっても国家がそういう身分であると定めているだけの話であり、人間としての名誉、権利・自由を認ず、家畜のように働かせたり、道具のように扱ったりすることはせず一人の人間として接している。
シアンは俺の方に振り返ると、不安と恐怖の入り混じった視線を向けた。どうやらずっとお客さんから怒られ続けていたらしい。
「シアン、どうかしたのか?」
今度は客である四人組にではなく、店員であるシアンに向かって訊ねた。
「商品の値段について、お客様から質問がありまして、ご主人様。ええと、価格の設定が高すぎると言われています。一応、ご主人様が決めていた交渉価格の最低値までは提示したのですが……」
「ああ、なるほどね」
シアンの言葉でおおよその状況は理解できた。カウンターに置かれている回復用の水薬が4本、そしてお客さんである4人の冒険者と交互に見る。4人の冒険者は全員が女性で10代後半ぐらいの若い女性であった。おそらく、一攫千金を夢見た駆け出しの冒険者だろう。
この店に置いてある商品は、回復用の水薬だとか、松明等の使い捨ての消耗品、携帯食料等の雑貨しか取り扱っていない。手慣れた冒険者であれば、事前に町で準備を済ませておけば、こんな場所で調達しようとは絶対に思わないものものばかりである。
市井で売られているものよりも、せめて質が良いとか価格が安いといった、そんな付加価値でもあれば売れもするだろうが、残念なことに店頭に置かれている商品はどこにでもあるような平凡な品質しか有していない。
ほかにも理由はあるかもしれないが、おそらく彼女達の身なりからして怒っている理由はひとつだけだろう。
冒険者のリーダーだと思われる女性が口を開いた。
「アンタは?」
「私はこの店の責任者です。何かお困りですか?」
「ただの回復の水薬が、銀貨3枚はおかしいでしょ!?確かにこの街の物価はほかの都市に比べて異様に高いけど、この店の価格は異様よ。異様!いくら調達が難しいからって、こんなぼったくり価格で商売していいと思っているのかしら!」
「気持ちはわかります。そうですね。正直なところ、自分もまったく同感です」
「だったら――」
「申し訳ありませんが」
リーダーの言葉を遮って言う。彼女の不満は予想したとおりであった。誰が見てもこの店の価格設定はおかしいのである。なにせ通常の市場価格と比べて数倍以上の開きがある。彼女達の怒りは十分に理解できるものではある、しかし、だからといってこちらとしては素直に折れるわけにはいかない。
「しかし、ここは普通の市場とは違う。なにせこの商店は、この商店街は迷宮の中にあるのですから」