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きゅうけいさんは脱出する

 さて、このダンジョンでの用事は済んだ。


「そろそろ、戻っていこうか」

「そだね」


 私とルフィナさんの会話に、ベルフェゴールが首を傾げる。


「戻る……って、ここまで来たということは、二人ともここから出られるんだよね」

「うん。ベルフェゴールも来てもらうつもりだよ」

「もちろん、ついていくよ」


 そしてベルフェゴールは、私に手を差し出した。


「よろしくね、タマエちゃん」

「——ッ、うん、よろしく」


 やっぱり、おばあちゃんと同じ呼び方してくるのって、ちょっとドキっとしちゃうなー。

 タマエちゃんと呼ばれるの、あまりに懐かしすぎてするっとスルーするの、慣れないと難しいかも。

 でも……呼ばれるの、嫌じゃない。むしろ好き。


「それじゃ行こうか」


 そして私たちは、このダンジョンを脱出していくことにした。




 一階上のエリアは、ルフィナさんの背中に乗った。ベルフェゴールと二人で乗っても余裕のようで、すんなりL字カーブへと到達する。


「ここを越えたのは初めてだよ」


 ベルフェゴールを閉じ込めていた、魔のL字ワープ廊下を越えた。っていうか、私一人でも超えられないだろうし、ほんとここ凶悪すぎる。

 ルフィナさんがついてきてくれてよかった。私一人だけだったら、脱出しておしまい、だったね。


 そして階段を上ると、そこはドーム空間。

 魔物は再登場リポップしてこなかった。


「ここには、スケルトン系? の魔物がいたんだよね。みんな倒したけど」


 私が骨を指さしながら説明すると……ベルフェゴールがふらふらとそちらに近づいて、骨を一つ手に取った。

 ……どうしたんだろう。


「これ……全部、最初から骨だった……?」

「うん。動物っぽいのとか、いろいろいたけど」


 ベルフェゴールは、顔を伏せながらこちらに向くと、骨を握りしめながら静かにため息をついた。


「レヴィアちゃんほどじゃないけど、喪失感が重いなあ……」

「……え?」

「ここにいるのは————ぜんぶ私の眷属だよ」


 ッ!? ど、どういうこと!?

 スケルトンが眷属なんて、ことは……。


「フィレントキングベア、シャドウミノタウロス、フォルヴォマジシャン……後は、適当に混ぜられてキメラにされている……」

「え……!?」


 私はあまりの事実に絶句した。

 すっかり、ここのダンジョンの難関の一つとして、強いスケルトンがダンジョンに配置されていただけなのかと思っていた。


 違う。

 ここにいたのは、ベルフェゴールの眷属……仲間なんだ。

 恐らくサタンか、ベルゼブブか、ルシファーによって殺されて、アンデッドとして利用されていた。

 主人を助けに来る人を追い払う存在として、利用されていたのだ……。


「ひどい……」


 その、あまりにも残酷な眷属の利用方法に、ルフィナさんも絶句していた。こんなの、あんまりだ。


 ベルフェゴールは……なんと私に頭を下げた。


「ありがとう。この子たちも、あなたに倒されることによってようやく、苦しみから解放されたと思う」

「ベルフェゴール……」

「……気にしないで、タマエちゃん。サタンちゃんをたおしてくれたタマエちゃんに……私の二代目に葬られたのなら、この子たちも本望だっただろうから……」


 そうは言いつつも、つらそうな顔をするベルフェゴール。

 そのまま無言で上り階段の方へと向かったので、私たちも無言でついていくことにした。


 ……他者は所詮、利用するだけ。やはりベルフェゴールの言ったとおりサタンの仕業だろうか。

 本当に、良心の呵責なんてカケラもないってぐらいの悪党で、むしろ滅ぼした後はその性格の悪さに感謝するぐらいのクソ野郎だったね……。


 こんな残酷な奴と協力関係だった魔王が、あと二体いるのか……。

 やっぱ、許せないわ。

 きゅうけいさん、気持ちを新たにしっかり気合い入れますかね。




 その上の階こそが、最初のワープ場所であり、シンプルかつ凶悪な階層。

 しかし今は、まだ少しルフィナさんの明かりも残っていて明るい。


「それじゃ、まずはルフィナさんから」

「うん」


 私はルフィナさんを背負うと、思い切り跳んだ。

 跳躍は三度目の正直……というのとはまたちょっと違うけど、背負っての跳躍成功だって三度もやるとそれなりに慣れる。

 私は今回は危なげなく、余裕で飛び越えることができた。


 そしてルフィナさんを下ろして、ベルフェゴールのもとへと戻る。


「背中に乗って」

「うん」


 ベルフェゴールを背中に乗せて、再び跳躍。

 ……あっ、油断大敵。天井にかすった。


「うわ、戻ってきた。ここはこんな場所なんだね」

「そうだよ。向こうの部屋に押し込められて、壁も床もワープだからどうやって移動するのか悩んだよ……」

「一体どこの悪神が作り出したステージなんだろうね、ここ……」


 ……ドーモ、転生前のメーカー側の人です。

 でもほんとこのゲーム難易度高かったよ。こんな凶悪なステージだって、あの制作者なら作りかねない。

 いやー、ほんと私レベル九京でよかったなあ……DLCフルコンプみたいなこの世界、マジで容赦ないわ。


「それじゃ……もう一度!」


 さすがに二度目は成功して、着地することができた。

 ルフィナさんはぶつからないように避けていてくれていた。興味でこっちに顔を覗かせたりしてなくて、絶対大丈夫という私への信頼を感じてとてもうれしいですうへへ。


「それじゃ、次は私たちも初めての上側だね! 大丈夫大丈夫、難易度下がっていくだろうから余裕!」

「おっけ! 一緒に帰ろうね!」

「え?」


 私たちの言葉に、声を重ねるベルフェゴール。


「なんで? 上から来たんじゃないの?」

「あ、そっか」


 私はベルフェゴールに、これまであったことを話した。

 急に竜族の村からワープしてしまったこと。

 それが以前ビーチェさんがやられたワープ付与に似ていたこと。

 ルフィナさんが抱きついて魔法解除を試したけど、大罪の魔法なのか解除できずに私と一緒に飛ばされたことなど。


「……ということは、竜族の村には今ルシちゃんが……?」

「えっ、ルシ……ってことは、ルシファーなの!?」

「ワープ付与なら、そう。ルシファーちゃん。特殊魔法だから制限はあったはずだけど、確かにあの子のはずだよ。というか、ブブちゃんは自分から動こうとするのを見たことがない子だから、絶対違うと思うな……」


 ……すごい情報を聞いた。ルフィナさんもびっくりしている。

 そうか、ルシファーか。これで次は絶対に、やられたりしないぞ。


 そしてブブ……ベルゼブブだね。私と一番敵対している認識がある、そこら中に眷属の魔族が現れて、そして本当にそこら中に、カメラとマイクであろうベルゼブブの蝿が現れる。

 暴食の吐息をエッダちゃんの村に使って、更に北エイメラ大陸でもキャシーちゃんの村に使おうとしておいて、本人は一切出てきていないときた。

 それだけコキ使わせておいて、自分はずっと監視しているだけ。


 私、やっぱりベルゼブブ嫌いだわ。




 上の階は、再び細い廊下だった。

 真ん中の方に、石像……ガーゴイルが、十ほど鎮座している。

 私の【レーダー】では魔物表記だからね、見間違えようがないよ。


「【ロックスピア】」


 そいつらの背中に向かって、私は魔法を連打していく。

 ゲーム中でもお気に入り魔法、威力と速度のバランスがいいロックスピア。すっかり私のこの身体でも、いつもの定番魔法になりつつある。

 たまには別のも使ってみてもいいかな? と思いつつ、火とか氷とかは魔力によっては一緒にいるパーティメンバーまで悪影響を与えてしまうと思って控えていた。

 そのうち練習しよう。


「……すごい、あれだけの量を……」

「見たところすぐに復活するようだから、この隙に向こう側に行こう」


 私たちは頷き合うと、この階層も走り抜けた。

 ……それにしてもゲーム中でも身の丈2メートルの巨大ボスであるガーゴイルの十体同時って!ほんと、このダンジョン作ったやつ、クリアさせる気ないよね!?




 それから。

 魔物の大群、巨大な魔物の複数体、ワープ床、移動床、迷路。

 様々な階層が私たちを待ち受けていた。


 しかし魔物の大群は私はもちろん、ルフィナさんでも対処できるレベルのものだった。これぐらいは全く問題ない。

 巨大で強そうな魔物は、私が……と思っていたら、なんと先にベルフェゴールが【フレアソード】を使って一撃で真っ二つにした。


「さすがに強いね」

「普通の魔物には、絶対負けないよ」


 そりゃそうですね、魔王ですし。

 お隣にいるふわふわっとした子、レベル9999の仲間なんでした。


 しかしそうか……パオラさんと同じ魔法か。

 筆頭眷属の種族と、得意な能力が近い感じなのかな?

 互いに影響し合って……とかだったら、いいな。


 ワープ床はもう下の階層ほど意地悪なものはさすがになく、移動床も楽勝。というか落下した先を先に更地にしました。

 ていうか天井が高いところはルフィナさんに全部乗せてもらいました。高低差を利用した移動床のある難関ダンジョン、高低差があるが故に簡単になっててルフィナさん最高。


 あと、迷路の階層は私のレーダーがあれば簡単です。最初からゴール地点が全部見えてますので!




 そんな調子で、ある程度上った直後に、その階層を見てルフィナさんが声を上げた。


「あっ、ここって……!」

「えっ!?」

「私、来たことある! ってことは、あと二十階ぐらいだよ!」


 そうか、ルフィナさんは前に来たことがあるって言ってた! そのルフィナさんが来たことある場所までやって来られた!

 ということは!


 それから私たちは、三人だと楽勝な階層をちょうど二十三階上って……目の前の光に目を見開いた。

 私は真っ先に、その光を見て叫ぶ。


「久々の、外だーっ!」

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