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きゅうけいさんは自分を重ねる

 気絶したベルフェゴールを抱えて……小さいからお姫様抱っこもできるね。私のレベル九京にかかれば、魔王だろうと眠ったちっちゃい女子、軽い軽い。


「……きゅうけいさん、終わったの?」


 あっ、そういえばそうでした。

 ルフィナさんにずっと下がってもらってましたね。


「ごめんごめん、なんだか急に……」

「……ううん、分かるよ。見てたもの。確かに私は今、この場所で起こったことを見ていた。……空間そのものを溶解させかねないほどの『怒り』の奔流……恐ろしいね。きゅうけいさんの言いつけを守らなかったら、到底無事では済まなかったと思うよ」


 ルフィナさんが、暗くなった洞窟内に「あっつ」と言いながら足を踏み入れる。

 視線を向けるは、私の腕の中で眠る魔王。

 服装は、ぼろぼろの毛皮の服。ずっと変えられなかったんだろう。


 一体どれほどの時間、この狭い空間にいたのだろうか。

 間違いなく一人では、ここから出られるはずがない。

 同じ種族でレベルが上の、私が一人で渡れなかったのだから。


 ルフィナさんが、恐る恐るベルフェゴールの髪を撫でる。


「……こうやって見ると、ふわふわした髪の毛で、私と同じぐらいで。一見無害そうだけど……魔王、なんだね」

「うん。私の先代魔王、ベルフェゴール。そして間違いなく、さっきまでの状態はマモンさんと同じ」

「マモンさん、ね」


 ルフィナさんも、魔王マモンの襲撃の時にちょうど村のギルド登録者へと指示を出していた。

 その怒り任せに怒鳴りつける魔王と、私がクリアエリクサーを飲ませた直後に気絶したところを見ている。

 恐らく、このベルフェゴールも……。


「そろそろ起きてもらおうかな」


 私は少し緊張しつつも、腕の中の魔王を揺すってみる。

 小さく「ん……」と声を出して、少しずつその私と同じ赤と黒の目が開いて、視線が合う。


「……あ、れ……? 私……」

「おはよう」

「……どうして……私はあなたに……」


 少し身を動かしたので、彼女を地面に立たせる。

 その間もずっと、こちらを……あっ、ルフィナさんの方を見た。初めてこの魔王ベルフェゴールと目を合わせたルフィナさんが息を呑む。

 私も警戒して、すぐ動けるように構える。ベルフェゴールは次に、私と目を合わせた。


「……恐らくその人、ホーリードラゴンなのかな……? この人を警戒していないということは、知り合いなの?」

「そうだよ、ルフィナさんは友達だよ」

「そう……それじゃあ、大丈夫かな」


 ベルフェゴールは、それ以降興味がなくなったように、ルフィナさんから視線を外した。


 えっ、それだけ?


「……どうしたの?」

「いや、竜族って人間側の存在じゃない。魔王だから襲うとか、しないの?」

「しないよそんなこと……。倒すのも面倒だし、それであなたが怒っても面倒だし、何よりわざわざする必要ないことはしないよ……」


 なんだろう……この、気が抜けた感じ。


 ああ、でもこの魔王、すごく、私より、怠惰の大罪(ベルフェゴール)だ。

 完全に怠惰というものを分かっているような性格。単に寝るのが好きってだけの私より、怠惰な感じする。

 そんなベルフェゴールは、小さく「なんでここ、あついの……?」と言って毛皮の服を簡素な服へと切り換える。

 ……今のつぶやき、やっぱり……。


「ところで、さっきまでのこと、覚えてる?」

「……さっきまでの、こと……?」


 ぼんやりと虚空を見ながら、首を傾げる。


「さっきは、そうだね。何か質問を受けていたよ。それで……眷属……」

「……っ」


 来た、問題の話題だ。


「……その質問をされて、ショックで気を失った……の?」

「!」


 この、認識……! 間違いない、意識が完全に入れ替わっている!

 そうか、主観的には性格が変わる瞬間は、気絶したように感じるんだ……!

 すぐそこにいるルフィナさんと、驚いた顔のまま目を合わせる。


「なんだか情けないところ見せちゃったね、ショックで気絶して介抱されるなんて……先代なのに、かっこわるいなあ……」

「違うよ」

「……え?」


 ――私は、ベルフェゴールに全てを教えた。


 さっきまで、自分が暴走していたこと。だから部屋が暑くなっていること。

 叫んで、ぶつぶつと呟いて、部屋の壁を真っ赤にしたこと。

 人間の虐殺を命令し出したこと。


 それだけじゃない。

 魔王ベルフェゴールが『鏖殺女帝』と呼ばれていたこと。

 アスモデウスに、人間の男の虐殺を命令したこと。

 ビーチェさんに嫌われていること。


 そして……パオラさんに、信徒の虐殺を命令したこと。

 すべてを話した。


「……うそ……私、そんなに……」

「嘘じゃないよ。あなたは……ベルフェゴールのあなたは、それだけのことをやった。皆その認識でいる」

「……謝らないと……仲直りも、しないと……」

「無理だよ」

「え?」


 残酷な事実だけど、告げなければならない。


「レヴィアタンは、もう死んだから」

「……え……レヴィアちゃんが、そんな……」

「これも嘘じゃないよ。かつて竜族の村に訪れた人間の勇者が、レヴィアタンに勝ったと言ってたし、ビーチェさんも眷属表記はなかった。きっと……自ら抵抗せずに殺されたんだろうと思う」


 ベルフェゴールは話を聞くと、ぺたんと座り込んで……。


 ……大声で、泣き出した。


「うっ……ううっ……なんで、なんでぇ……どうして、私、そんなぁ……わあ、わああああん! わあああああん! やあだあああああぁああ!」


 大粒の涙を流しながら号泣する。

 それはまるで、子供のようで。


 ――――どこか……おばあちゃんを亡くしたときの、私のようで……。


 あまりにも悲痛な叫び声に、自分のことじゃないのに、もらい泣きしてしまいそうになる。あとルフィナさんはもらい泣きしてた、やっぱりルフィナさん超いい人。

 そして同時に……自分がこのベルフェゴールのようになっていても、おかしくなかったということを意識する。


 私が、人間の街の近くで、ミーナちゃんに受け入れられて、シルヴィアちゃんとエッダちゃんに出会えたのは……本当に、奇跡みたいな偶然。

 あなたみたいに、サタンやベルゼブブの隣に生まれる可能性だってあった。

 レベル9000で転生して、転生直後に大罪魔法(シン・マジック)を使われて、逆らえなくさせられる可能性だってあった。

 自分の意志とは関係なく、パオラさんに非道を強いるような命令を出してしまう可能性だってあった。

 人間を滅ぼそうとするように、自分を書き換えられて……それを誰にも解決してもらえないまま、気絶したように意識を奪われ続ける可能性だってあった。

 あったのだ。


 ……もう、こんな悲劇を起こさせるわけにはいかない。

 私が、終わらせなければいけない。


 もうひとりの、私。

 ずっと独りの、ベルフェゴール。


 こんなの、間違っている。


 だから私は思ったんだ。

 きっと私は、この負の連鎖を終わらせるために、この世界にこのレベルで転生したんじゃないかって、そんな気がするんだ。

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