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きゅうけいさんは踏破を目指す

 私の発言内容に、ルフィナさんはすんなり頷いて両手の親指をフランクに立てた。


「おっけー」

「……えっ? いいの?」

「いいよ?」


 ルフィナさん、苦笑しながら「自分で言ったんじゃん」と笑っていたけど、いやいやお待ちくださいルフィナさん。


「もう一度聞くけど、ほんとにいいの?」

「いいよいいよ。きゅうけいさんのおかげで、越えられるってことが分かったんだし」


 少し影を落とした表情をしたルフィナさんは、さっき跳んだ廊下を見返す。


「……本当に、さっきの瞬間は、自分の終わりを意識したんだよ。このダンジョンは、後から強い敵が出てきたりして、それで帰れなくなるってことも多いんだ。それでも私は、ほとんどの場所をクリアした」

「昔、入ったの?」

「もちろん。冒険盛りだったからね。昔は冒険王ならぬ冒険女王って呼ばれてていい気になって、それで好奇心の赴くまま、どんな困難にも首を突っ込んだ。だけどね」


 ルフィナさんは廊下の方へ飛び上がり、着地した瞬間に私の隣に戻る。

 自分の手を、ぐっぱーぐっぱーしながら見る。


「こんな仕組み、見たことないし越え方なんて分からない。……以前も、このダンジョンだけは、最下層まで潜れなかった。勝てなかったんだ、私はこのダンジョンの仕組みに。……帰るのも大変で……あの頃の私は、自分を過信していた。私は、それ以来慎重になったの」


 昔を懐かしむように、天井を見上げてため息をつく。

 そして私の方を振り向きながら、再びふっと笑う。


「でも、私が挑戦を諦めた階層より遙かに難度の高い階層をクリアできたきゅうけいさんなら、もしかしたら昔できなかった、最難関ダンジョン『置き去り』の踏破が出来るんじゃないかなって、ちょっと昔の気持ちを思い出しちゃったところ!」

「そうだったんだ。ってことは、たまたま私が転移させられたところにルフィナさんが一緒にいるのも」

「そうそう、これも何かの運命なのかもね!」


 ルフィナさんがからっと笑って、その姿は清楚な見た目ながら、おてんばな女の子って感じでとっても魅力的で。


「見た目ほどおとなしい女の子じゃないの。だから、きゅうけいさんがあっちに行きたいって言ってくれて、ちょっと嬉しいのよ」

「そうなの?」

「行きたいなって思ってたから。言い出してくれて助かった!」


 なんとルフィナさん、めちゃめちゃ冒険心あふれる竜族さんだった。

 人は見た目によらないっていうけど、ほんと全く見た目によらないですね。この教会で聖女様として崇められてそうな見た目のルフィナさん、能力だけじゃなく性格も芯から『冒険女王』って感じの人だ。

 そんなルフィナさん、もちろんとーっても魅力的。


「よーっし! やるきでてきたーっ! 私も最下層目指してがんばるぞーっ!」

「ふふっ! 私も頑張るわ!」


 私は背中を向けて、手を後ろにしながらしゃがみ込む。

 ルフィナさんの身体の感触を感じて、しっかり膝裏を持って。


「いくぞーっ!」

「お願いね!」


 私は勢いよく、ジャンプ!

 今度は、届かなかった! 一緒にワープで部屋まで戻ってしまった。触れ合っていると、同時に移動するんだね。……もういちどっ!


 今度のジャンプは……届いた! 向こう側の部屋について、私はその部屋の奥にある部分を見る。

 ルフィナさんが強めの【ライト】をその穴の中に入れると、階段の天井……下り階段が見える。


「やっぱりここより下があるんだ」

「うん。行ってみよう! まずは私が先行するから、ルフィナさんは後ろからついてきてね」


 私は、この置き去りのダンジョンの下の階を、進んでいく。

 次に一体どんなものがあるのかと、期待十割を抱きながら。


 ……不安? そんなの、ルフィナさんと一緒にいるんだから全くありませんとも。

 本当に、二人って心強い。一人だとこのダンジョンの時間停止の仕組みも知らなかったし、何よりとてもじゃないけど、脱出まで頑張る気にならなかっただろう。




 下の階は、もうなんていうかどうしようもないぐらい広い空間だった。

 さっきまで階段降りてましたよね? なんか天井高くないですか?


「……以前シルヴィアちゃんとエッダちゃんにも話したんだけど、【レーダー】ってどんなに広範囲が見られても、ダンジョンは上の階と下の階は見られないんだよね。場所移動というものが、異空間につながってるみたいで」

「なるほど……ちょっと魔力が高い程度では、『階段に魔法を阻害する壁がある』程度の印象にしか感じられないし、実際に冒険者ギルドってそういう認識だけど、きゅうけいさんのレベルでも見られないのなら『異空間』という仮説は信憑性を帯びるわね。後でマスター達に共有しなくちゃ」


 なんと、私のレーダーに関する話、冒険者ギルドの新常識になるらしい。

 ちょっと自慢げ。


「……それにしても……」


 この空間、広すぎる。

 なんていうか、ここはどうすればいいんだろう。


「【レーダー】」


 っ……! な、なんだこれ!


「ルフィナさん!」

「どうしたの!?」

「少しそこでじっとしていてください! 片付けてきます!」

「え?」


 私は気合いを入れると、レーダーで見つけた薄暗いドームを走る。

 その中心には……魔物! 広いドームの奥側には魔物がたくさんいる!


「見たことない魔物だけど、ゆっくり観察もしてられないかな!」


 私はその、不定型な影みたいな魔物をガンガン切っていく!

 熊みたいな魔物のスケルトン、巨人……角魔人みたいな魔物のスケルトン、全てよくわかんない相手を切っていく、切っていく、切っていく!


 よし、全ての魔物を倒した。

 ここにいるのは全部、骨ばかりだった。

 ……余裕を持って見てみると、それこそほんとにブラッディベアやミノタウロスとか、そういうやつのスケルトン形態そのものだった。

 ここの魔物の傾向が見えてくるけど、強さは見えてこない。

 ゲームでのスケルトンは、人間のスケルトンとしてでしか魔物として登場しないのだ。他の生物のスケルトンってのは、全くいない。

 もしかしたら、そういう魔法を使われてスケルトンにされているのかもしれないと思いながら。


 途中、角の生えた人型のスケルトンもいた。

 私ももしかしたら、骨はあんな感じなのかな、ってぐらいそっくりの感じ。角がにょきっと骨から上に生えてるの。


 とりあえず、ルフィナさんのところに戻ろう。


「片付けてきたよ」

「あ、ありがとう。疑っていたわけではないけど、まさかこんな一瞬で敵対反応が消えるなんて……本当に強いのね、きゅうけいさん」

「もちろん! って、ルフィナさんも相手が見えていたの?」

「うっすら肉眼と、私もレーダーを使えるからというのと、後は……殺気、かしらね」


 殺気ときましたか。ルフィナさんほどの冒険女王なら、そういう格闘の達人みたいなことできても不思議じゃないですね!


 このドームは、ここでおしまい。円形ドーム中心線の向こう側に、階段がある。

 私たちは、そこを降りた。




 次の空間も、広い場所だったけど……。


「……ワープだね」

「うん」


 次は、壁も天井も広い、ワープ廊下。

 違う点は一つ。


「……ここ、向こうでL字型に折れ曲がってるんですけど……」


 そう、壁なのだ。

 壁もワープである以上、壁蹴りをして移動することはできない。


 ……。

 ……………………………………。


「————このクソゲーを作ったヤツは誰だあああああっ!?」

「きゃっ!? く、くそげい? 大便ジャグリング?」


 私は思わず叫んだ。我慢できなかった。

 しかしルフィナさん、あなたみたいな清楚美女が大便とか言っちゃ駄目です!

 主に私のせいですね本当に申し訳ない! あと真顔で『糞芸=大便ジャグリング』は面白すぎると思います!


「……ごめんごめん、気にしないで。しかし……どうしよ。これはもう駄目かなあ……」


 まさかこんなにどうしようもないぐらい、シンプルにクリア不可能なマップが出てくるなんて。

 意地が悪いとかそんなレベルじゃないよ、なんて適当なマップなんだ、制作者出てこい。

 さっきまで乗っていた気分、早くも諦めムードだ。


 私が頭を悩ませていると……ルフィナさんは、なんとも不思議そうに首を傾げて、あっさり言ってのけた。


「ん? ここは普通に行けるわよね」

「へ!? ど、どうやって!? ていうかどうしてそんなこと分かるの!?」

「あっ、そっか。シルヴィアさんとはやっていても、私は見たことないから思いつかないか」


 何で、そこでシルヴィアちゃんが出てくるんだろう。

 そう思っていると……次の瞬間、私の疑問はすぐに解消された。


「【ドラゴンフォーム】!」


 眩い光が、洞窟の暗い空間を照らす!

 そうか、竜族のルフィナさんも、当然竜になれるんだ! そのことをようやく理解した。

 そして光が収まった後に現れたのは……青白く光り輝く、とてつもなく神々しい鱗のない竜。


 こ、これが……!


「る、ルフィナさんの、ドラゴン形態……!」


 種族名通りなら……ホーリードラゴン!

 すごい。私は今もう猛烈に感動しています。

 美しすぎる、神の遣いと言われても信じますってぐらい、ルフィナさんの本来の姿、素敵すぎる。


 白い竜が青い目でこちらを見て、頷くように首を小さく下げる。

 そして、その首をくいっと背中側に動かして後ろを見る。

 ……そうか!


 私はその『顎で指す』動作に従い、白い竜の背中に乗る。

 ワイバーンサイズの3メートルほどのルフィナさん、シルヴィアちゃんより大幅に小さいけど、ダンジョンに対しては大きい。

 同時に……最初の階層ではあの廊下を飛ぶには狭かったけど、この広い空間では、全く問題ない!


 ルフィナさんが羽ばたくと、そのままダンジョンの広い廊下を突き進む。

 魔物のいない空間のワープ壁を難なく羽ばたき、L字も器用に曲がる。


 そしてその先の場所へと降り立ったところで、ルフィナさんの身体から降りると再び竜が光り、そこには息一つ乱さないルフィナさんの綺麗な横顔があった。

 あまりにも優雅な、最難関の攻略。


「す、すごいすごーいっ! この階層、あっさりクリアしちゃった! 私じゃ絶対に駄目だった、ルフィナさんのおかげだよ!」

「きゅうけいさんでもできなかったことが出来たって、嬉しいわね!」


 私たちは再び喜び抱きしめあった。このハグちょーしあわせです。

 本当に、私一人がワープさせられたんじゃ、ここの階層はクリアできなかった。

 空を飛ぶ魔法はないのだ、完全にお手上げ状態だった。


 私たちは浮き立った心のまま、次は何が待ち受けるのかと階段を降りた。




 階段の下は、今までと違う小さな空間。

 その中心だけ、うっすらと明るくなっている。


 そこには何者かが眠っていた。


 ……その雰囲気、存在感。

 そして何より……私の本能が反応している。


 ルフィナさんがいなければ出会えなかったこの相手も、私のLUK()に依存したものだというのだろうか。

 だとしたら、この出会いも良い出会い、だというのだろうか。

 わからない、わからないけど。


 間違いない、この魔族は——。

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