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きゅうけいさんは何が何でも越えると決める

 ぐえーっ……ぐええ〜っ……。


 開幕一番、女子力のかけらもない挨拶でごめんなさい。

 きゅうけいさん、現在ダウン中です。


 私とルフィナさんの目の前にあるのは、まっすぐ伸びた暗い廊下。

 その向こう側に、階段があることは【レーダー】で分かっている。

 分かっているんだけど。


 この廊下を進むと、元の場所であるこの部屋に戻される。

 廊下を一歩でも踏むと、戻される。

 横の壁に触れても、戻される。

 天井に触れても、戻される。


 この部屋には隠し通路などもなくて、抜け道はこのワープ廊下だけ。


 ……。

 …………あのね?


 ————このクソゲー作ったのはどいつだあああっ!?


 いや、どう考えても無理ゲーでしょ!?

 お髭の配管工のステージメーカーでも、ここまでの意地の悪いステージを配信してるやついなかったよ!?

 動画のネタぐらいにしかならないよ!?


 なんなのだこれは! どうすればいいのだっ!?

 リズム良くやればいいのかっ!?

 あっだめだそれルフィナさんが鉄塔に刺さるやつだ。


 ぐえ〜……ふりだしにもどる。

 そんなわけで、私たちはずっとここでくたばっていた。ルフィナさんもすっかり座り込んでる。

 体力的な、というより、精神的な疲れがきているのである。


 うーん。

 ほんとシンプルかつ凶悪な無理ゲーだわ。


「きゅうけいさん、ちょっと休みましょうか」

「あっはい」


 ルフィナさんからお声がかかって、ちょっと混乱気味だった気持ちも落ち着いてお隣に座る。


 ……しっかしこれ、どうしたもんかなあ。

 ゲームでは絶対実装されない場所だと思う。このゲーム、飛行能力はもちろん壁蹴りすらないし、そんな長距離飛ぶこともできないはずだもん。


「なんだかお腹すいちゃったね」

「あ、じゃあ私が作るよ!」」

「きゅうけいさんが? って、そういえば村の食事は全部きゅうけいさんが改善したんだったね」


 ルフィナさんに頷いて、ぽぽんと調理器具を出す。

 ささっとパスタを出して、オリーブオイルを出して、空中に水を浮かせて銅鍋の中にどぼん。既に沸騰している鍋の中へとバスタがずぼぼぼぼーっと入ったら、すぐにふやけて中でいい感じに曲がる。

 私はそれを生活魔法でぐるぐる回るイメージで回すと、もう片方のフライパンの中にきのことかバターとかベーコンとかを入れて、ぐるぐる混ぜて……最後にはこれ!


「その黒いソースは?」

「んっふっふ、きゅうけいさんの故郷の味だよ!」

「きゅうけいさんの故郷!」


 そう、これは醤油。

 ヤマトアイランドでしっかり確保してきた大切なものだ。

 和風クリームソースができあがったところで、スパゲッティを鍋から取り出したと同時に水は蒸発! これも生活魔法の応用です。

 北エイメラ大陸で長い間パトリシアママと暮らして、一緒にお料理楽しんで、かなり操作はうまくなった。

 もう調理器具要らないんだけど、ぶっちゃけ新品の綺麗な銅鍋見てるだけで気分が上がるから使ってます!


「お皿に盛り付けて……完成!」

「わあ……おいしそう!」


 バター醤油のキノコクリームスパゲッティ!

 テーブルとか椅子とかもぽぽんと出して、お皿を乗せる。


「食べよ!」

「うん!」


 私自身楽しみな感じで、麺をフォークで取って食べる。

 んんーっ、これはおいしい。いけるいける。

 自己採点甘くなくても十分及第点ではないでしょうかっ。


 ……まあこういうの、バター使えばわりと何でもおいしいんだけどね。お菓子は何でも砂糖多めに使えばおいしいのと一緒。そして自分でケーキ作って砂糖とバターのえげつない使用量にひっくり返って、スイーツ食べる量が減るっていうね。女子あるある。


 といっても、途中に入れたタマネギとにんにくと、そしてベーコンから味もしっかり出てる。もちろんメインとなるキノコもね。

 そして和食はなんでも醤油入れたら和風の味になってちょーおいしい。やっぱり私、魔王になっても日本人だわ。

 不思議なのが、この和洋折衷の究極。バターと醤油ってなんでこんなに相性いいんでしょ。バターを使った数々の料理や、醤油を使った数々の料理より、このバター醤油の味がとにかく好き。

 バター醤油を最初に考案した人偉い。


「うっま……なにこれうっま……。村の食堂のレベル馬鹿高くなったと思ってたんだけど、いやホントきゅうけいさんの料理の方が遙かにおいしいわ、完全に凌駕してるわ……。……これで怠惰の魔王とか、この世界間違ってない?」

「私がベルフェゴールなのは、ホントに間違ってると思うよ」

「それ自分で言っちゃうんだ!?」


 ルフィナさんが驚きつつも肩をふるわせて笑う。

 いやーほんと、私そんな怠惰じゃないよ。頑張るときは頑張るよ。

 人よりちょーっと、どこ行っても休憩場所とか睡眠場所とかチェックしたり、子供の頃からそのままその場で寝ちゃったり、魔王になっても昼間っから再々寝ちゃったり、最終的にどこ行っても休みたくなったりするだけで……。

 ……いややっぱ私がベルフェゴールになるの宿命だわ……。




 食べ終わったところで、ルフィナさんの食器を回収してさくっと魔法で洗ってアイテムに収納。

 洗い終わったものは……まあそのへんのすみっこでちょっと蒸発させて燃やしとこう。


「ふーっ、おいしかったわ! きゅうけいさんがやってきてから、トゥーリア様がずっと家でごはん食べてたの分かるわ、あの改善してない状態から毎日このパスタなら外出ないって!」

「えっへっへ、褒めても何も出ないぞよ〜?」

「きゅうけいさんのおいしいごはんがまた出るわ!」

「んふふ、ばれちゃいますか〜」


 こんな状況でも、満腹になるとすっかり気持ちが和らぐ。いやーおいしいごはんはつよい。最強。人はおいしいものを食べるために生きるのだ、そしてグースカ寝るために生きるのだ。


「……本当に、おいしいパスタだった」

「ルフィナさん?」

「あと、私は何回食べられるのかな」


 ルフィナさんが困ったように笑った後、少し悲しそうな顔をして目を伏せた。

 ……どうして、そんな表情を?


 そこまで考えて、ようやく思い当たった。

 このダンジョンのことを、ルフィナさんは何と言った?


 『置き去りのダンジョン』だ。


 その最大の利点は、時間が止まること。

 そして最大の欠点も、時間が止まること。

 ダンジョンの外からの救援は、絶対に来ないものと断定した方がいい。

 その上でこのダンジョンが恐ろしいのが、『餓死』である。


 ……私は、別にいいんだ。恐らく簡単には死なない。

 でも、ルフィナさんは違う。

 ルフィナさんは、私みたいに何も食べずに寿命もなく生きながらえられる種族ではないはず。


 もしもそうなったら。

 そうなったら、私は、ルフィナさんの最期を看取ることになる?

 そのままルフィナさんの、聖女同然の綺麗な顔がこの部屋で腐るのを見る? それとも私自らの手で骨の姿に火葬する?

 ……どっちも、嫌だ。想像するだけで泣きそうになる。


 消えかかっていた闘志が燃えてくる。

 この程度の道が……この程度の試練が超えられなくて、何が魔王か。何がレベル九京か。


 私は、絶対にルフィナさんと一緒に、ここから出る!

 何が何でも出てやる!

 そうじゃないと絶対泣いちゃう! もうびーびー泣いちゃう!


「ルフィナさん!」

「えっ!? な、なになに?」

「さっきのライトって、どれぐらい出せます?」

「あれなら、限界数はないし、もっと広範囲を明るくすることもできるわよ。明るくすればいいのね?」


 私はルフィナさんに頷くと、「【ライト】!」ともう一度ルフィナさんは同じ魔法を使う。

 しかし今度は、どこか違う。うっすらとした明かりがルフィナさんの手から放たれると、それが部屋の奥まで広がっていく。

 少しずつ、少しずつ……。


「こっちの部屋が明るくなってる、魔法ですらこの部屋に戻ってきてるのね……」


 真剣な表情で、奥の方まで照らしていく。

 私はその廊下の向こうを睨み付けながら、先の部屋を視認するまでルフィナさんを待つ。

 

 待つ、待つ…………見えたッ!


「ありがとう、ルフィナさん。ちょっと廊下から離れて……壁の方にいて」

「わかった。一体何を――」

「兆スピードッ!」


 気合いを入れるつもりで、魔法じゃない魔法を使うように叫ぶ。

 そしてルフィナさんの声をかけている途中の表情が止まっているのを確認すると、私は奥の部屋まで……ジャンプする!


 走って……ジャンプ! 届かなかった、戻る!

 走って……ジャンプ! 天井に当たった! 戻る!


 もういちど走って……ジャンプ! 今度は……! 届いたッ!

 向こう側の部屋に来て、すぐに戻る! 走ってジャンプ!

 ……あ、届かなかった。

 私は……ルフィナさんとは違う部屋に戻された。つまり階段の部屋だ。


「これ、『特定の場所に戻す』じゃなくて『元の位置に戻す』なわけだね」


 仕組みは分かった。それじゃ向こうの部屋まで……一気にジャンプ!

 勢い余って、私はルフィナさんがいる部屋の奥の壁までぶつかるように跳び、ぶつかる寸前で身体をひねって壁に脚から着地する。


「――するの? って、あれ?」


 ルフィナさんが、声をかけた途中から私の位置を見て首を傾げる。

 恐らくルフィナさんにとっては、私と会話していたと思ったら私が叫んだ瞬間に、壁に立っていた、ぐらいの感覚だと思う。


「なにしてんの? きゅうけいさん」

「ルフィナさん。抱いても、じゃなくて抱きついても、でもなくって! えっと、背中に乗ってもらってもいい!?」

「い、いいけど……」


 危ない危ない、抱きつくとかでは跳んで持ち運びにくいし、何よりルフィナさんに抱きつくって! ドキドキしちゃう! 最初に抱くって言いかけた!

 それはなんというか意味が違うし、ルフィナさんを抱くとかまってくださいリリアーナさん私は本当にノーマルなはずなんです!

 何もかも、私の周りの人が美しすぎるのが悪い! 特にルフィナさんのルックスレベルは清楚パラメーターにガン振りした美貌でやばい!


 私の内心を余所に、ルフィナさんが背中にしがみつく。

 シルヴィアちゃんよりは……あるね!

 言ったらシルヴィアちゃん絶対ぽかぽか殴りそう。


「これでいいのよね?」

「はい!」


 おんぶでもドキドキするのを忘れていた!

 ああでも、ここからは真剣にいかないと……!


「ぶつかっても大丈夫なようにしないと。【プロテクション】」


 私はそのままルフィナさんを背負って……走ってジャンプ!

 ルフィナさんの抱きつきが強くなる、ぶつからないように頭を下げてくれているんだ。

 そして私は、走り幅跳びのように脚を伸ばして、伸ばして――――!




「……うっそ、本当に届いた……!」


 私の足は、廊下の一歩先に着地した。

 ルフィナさんが背中からすとんと降りる。


 私とルフィナさんは、少しずつ解決した喜びがあふれてきてお互いを抱きしめ合うと、この部屋の階段を見る。

 上に、向かっている。


 ……ふと、私はどうしても、気になることがあった。


「ルフィナさん」

「なに? きゅうけいさん」

「ここが越えられることは分かった。時間は無限にある。だから」


 私は、もう片方の廊下を見た。

 どうしても気になる、もう一つの部屋。

 この場所がどういう場所か分からないけど、私以外に入った人は、それこそルシファーかベルゼブブぐらいしかいないはず。

 そんな場所なのに、何故か私は、()()()()()()()()()にワープさせられている。


 その理由が、あの部屋にある気がするのだ。


「私、向こう側の部屋にも行きたい」

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