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別視点:シルヴィア2

 きゅうけいさんが消えた。


 その事実を理解して、あたしは頭が真っ白になった。


 きゅうけいさんが、あの見た目はどんなに怖くても、緩くて、可愛くて、それなのに最強で。

 最近はずっと毎日そばにいてくれたきゅうけいさんが、私の目の前から光って消えた。


「……ワープエンチャントの、時間差発動」


 あたしははっとして、声のした方を向いた。

 そこにいるのは、ビーチェさん。


 その顔を見て、ここに集まっている人たちのうち、パオラさんと北エイメラ大陸での6名以外は、全てを察した。


「あれ、前にビーチェがされていたやつか!」

「間違いないわ」

「クソッ、やられた!」


 お姉様が拳を打ち合わせて悔しがる。

 あれは、魔王マモン襲来の時。ゴブリンキングの隣に、ビーチェさんが瞬間移動させられた時だ。

 マーメイドのビーチェさんは、何者かによって呪いを受けて、すぐ近くにある魔力が湧き出る湖のところで放置されていた。

 きゅうけいさんのおかげでなんとかこうやって会話できるようになっているけど、私は先ほど、レベル9801のパオラさんを腕力だけで殺したマーメイドのビーチェさんの強さを見ている。

 その上で、一瞬で生き返ったフェニックスのパオラさんの強さも見ている。


 どちらも、きゅうけいさんなしでは味方になっていない存在。

 魔王の筆頭眷属であり、最強の魔物。

 もしも、ビーチェさんが敵対していたら、あたしやお姉様は勝てていただろうか。

 ……いや、そもそも全員がかりで筆頭眷属を倒しても、魔王マモンに勝てるはずがない。


 そんな存在をみんな味方にしてくれた、最強のきゅうけいさんさんがいない。

 あたしは、きゅうけいさんがいなくなって、急に不安になってきた。


 以前は、ずっと一人だったのに。

 今よりレベルが低くて、仲間もいなくて、それでも平気だったのに。

 きゅうけいさんが隣にいないのが、怖い……!


「……シルヴィアさん」


 ——ッ!

 あたしの腕をつかみ、声をかける子……!


「エッダ……!」


 いつもは人一倍怖がりで、いつでもびくびくしていた子が。

 レベル数十倍のあたしの腕をつかんで、あたしを正面からしっかりと見ている。


「きゅうけいさんが、負けるはずがありません」


 なん、て……強い、目……。

 エッダは、きゅうけいさんのことを信じている。

 絶対にこんなところでやられるはずがないと信じているのだ。


「そう……そう、よね! そう! きゅうけいさんだもの! あの人は強いし、それに頭もいい。本来ならレベル1でも勝てないぐらい、とってもできる人なの」


 そう、きゅうけいさんは実際のところ、滅茶苦茶頭がいい。

 本人はとぼけているフリしているけど、実際に解決しているのは、実力はもちろんのこと、頭脳面でもきゅうけいさん頼りなのだ。


 ケルベロスが出現する前に、相手の魔族からダークエルフの集落が襲われている情報を知って救ったのも。

 ビーチェさんに、エッダのヒントから正解を導き出してクリアエリクサーを渡したのも。

 ヤマトアイランドで、鳩の巨人の分身体をパオラさんより先に見つけていたのも。

 サタンの居場所だって、エッダのヒントを元に、きゅうけいさんが見つけた。そもそも『シャドウエイプ』という敵の名前の知識が予めあったのだ。


 そんなきゅうけいさんが、馬鹿なはずがない。

 ……改めて思うけど、ほんと理性的で働き者で、とんでもない知識の図書館であり切れ者。


「きゅうけいさん、あなたは本当に、凄い人ですよ……」

「ですですぅ!」


 エッダがあたしの目の前で笑顔になり、あたしもようやく口元を緩めて頷き返す。


「——あれ?」


 そこでふと、ここで会話に参加しなかったリリアーナさんから声が漏れた。


「ねえ、そういえば……そこにいた受付嬢の可愛らしい子、どこに行ったのかしら?」


 その指摘に、真っ先に反応したのがお姉様だった。


「ルフィナ! そうか、『冒険女王』がきゅうけいさんのサポートに行ったのか!」


 お姉様の言葉に、皆からの注目が集まる。


 ————冒険女王。


 それは、ルフィナが若い頃に世界中を回って、その大多数をとんでもない記憶力とともに知識として全部収納した、あの人についた二つ名だった。

 あの人と、きゅうけいさんが一緒なら、一気に生存確率は上がるはず!


「ふむ」


 次に声を発したのは、パオラさん。


「分かった、信用できる人なら、きゅうけいさんはルフィナさんに任せるとしよう。トゥーリアさん、私は外を警戒します」


 パオラさんが外に向かって歩き出す。

 あたしが慌ててついていくと、パオラさんはこちらを見て微笑んだ。


「私は、ベルフェゴール様であるきゅうけいさんの役に立ちたい。あの人なら、何よりもこの村の襲撃を心配するだろうから。同時にあなたがリーダーなんだから、今あなたの役に立つように動くわ」

「あ……」

「私が最大戦力だし、いくら捨て駒に使ってくれてもいい存在だから。他の者にも指示を急いで。……【フェニックスフォーム】!」


 パオラさんが叫ぶと、一瞬肌を焼くような熱を感じたと思ったら、竜族の村の中央上空に、第二の太陽が現れる。

 ヤマトアイランドでも見た、圧倒的な強さを誇る、パオラさん本来の姿。


「あれが、フェニックスか……!」

「やっぱいつ見てもかっこいいわよねーアレ」


 あまりの存在感に感嘆するお姉様と、見慣れた様子でうらやましがるビーチェさん。

 その姿を見ていると、フェニックスの口から白い球体が山の方へと飛んでいき、着弾と同時に空まで届きそうな火柱が上がる。

 ってことは、既にパオラさんは敵の襲撃を見つけている!


 あたしも、ぼーっとしていられないわね!


「お姉様! 援護を!」

「任せなッ! 【ドラゴンフォーム】!」


 お姉様が古竜本来の姿になり、パオラさんの隣へと行く。

 口からのブレスは溜めが短く、少威力で広範囲、何より高速に撃ち出せる。パオラさんが攻撃していた山のあたりを広範囲で削っていっている。

 さすがあたしのお姉様、かっこいい。頼りになるわ。


「……あれは!」


 ここで、なんとエッダが街の中心から山へと矢を放った。

 エッダの魔力で力を付与された弓矢はとんでもないスピードを持ち、山肌へと一瞬で着弾する。

 いや……山肌じゃない!


「キマイラ!?」


 そこには、全身真っ黒のキマイラがいた。

 エッダの矢で上空へと弾き飛ばされて、錐揉み回転しているところを、パオラさんが再び口から火を放って消し飛ばす。


「エッダ、あれがよく分かったわね!?」

「暗いところに隠れたところで、私からは丸見えですからねぇ!」


 そうだ、この子はエリートのダークエルフ。

 戦闘専門のモンティ家に生まれた、暗い森での戦闘に長けた『魔族狩り』エッダ・モンティ。

 レベルは低くても、その個性を持った能力は唯一無二の存在だ。


「まだ晩がきてなかったから、わかりやすいですっ!」


 エッダはそれから次々に矢を撃って、全ての森に隠れたキマイラを弾き出していた。

 こちらに近づいてくるものもいたが、その前に全て倒されている。


 それにしても、こいつら【レーダー】の魔法に映らない! きゅうけいさんとの会話から察するに、あれはつまり『シャドウキマイラ』ってところなのかしらね。

 間違いなく、相当にレベルが高い。迂闊に村の者には相手をさせられない。


 それにしても、キマイラとは厄介な相手を寄越してくるものだ。

 大型の合成獣で、ライオンを基本とした存在。

 こいつらは……ライオン、フクロウ、コウモリね。


 あたしもそろそろ、出向いて戦いを、と思ったところで、自分の首筋のところで火花が大きく散る。


 ——キィン! と音が鳴った直後、あたしは遅いと思いつつも一歩下がった。

 そして、視線の先にいる存在に、目を見開く。


 そこにいるのは、白い肌と白い髪に、赤い目をした魔族。

 白目の部分は真っ黒で、きゅうけいさんと同じタイプの魔族だとすぐに分かった。


 そう、きゅうけいさんと同じタイプだ。

 同時にあたしは、きゅうけいさんからベルゼブブの眷属という黄色くて太った存在を知っている。


 可能性としては、考えていた。

 考えないようにしていた。

 だけど……間違いない。


  目の前の存在は————魔王ルシファーだ。


 きゅうけいさんのいないタイミングで狙ってきた!

 そしてあたしは同時に、空に向かって魔法を放つ。

 ベルゼブブの蝿! きゅうけいさんが言うには、ベルゼブブの目であり耳!

 ルシファーが相手でも、監視しないと気が済まないようね……!


 あたしが冷や汗を流してルシファーを見ていると……先ほどルシファーのあたしを狙った剣を受けた人が、目の前に出てあたしを庇う。


「俺の剣を受けたな。……何故、貴様がこんなカスどもの味方をしている……?」


 その声に、笑いながら応える頼もしい背中。

 きゅうけいさんの友人となり、この村を守ると誓った人。

 きゅうけいさん以外、味方にするという発想すら考えられなかった存在。


「ハハハ……それはもちろん、こちらの方がワタクシにとって沢山いいものを頂けることが確定したからですネ」


 LV9999の味方。

 魔王マモンさんだ。

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