きゅうけいさんはギルドの頂点を知る
いつまでも、ぐすぐす泣いていられない。
いやほんとマジで、あまりにも感情が揺さぶられすぎてしがみついちゃったけど、私魔王なのにただの受付嬢に泣きつくってちょっと冷静になるとかっこ悪すぎないですかね……?
ってわけでけっこー泣いちゃってもう涙も出ないし、横隔膜は静かに落ち着いたというところで、ゆっくりと立ち上がる。
目の前にいるのは、ちょっと困った顔をした角の生えた美女。
私はその姿をよく見る。
ルフィナさん。背丈はシルヴィアちゃんぐらいで、私からちょっと小さいぐらい。
髪の毛はさらさらのまっしろロング、少し編み込んでるようなおしゃれな髪。
大きな目は透き通るような青で、肌も髪同様ほとんど白い。角も白い。
ていうか見れば見るほど清廉な美女度がすごい。
じっと足先まで見ていると、長い髪の毛先がさらっと揺れた。
首を傾げたのだとすぐに分かって、私はルフィナさんの顔を見てぺこぺこ頭を下げる。
「えっと、その、ご迷惑をおかけしました……」
「そんなに固くならなくていいですよ。私にとってはお客様みたいなものですから」
「そ、そーでしたね、あはは……えっと、じゃあルフィナさんも私のこと、友達として気楽に呼んでくれると嬉しいなーって」
「ほんと? ほんとに友達なりたいの?」
「もちろん!」
「やった! それじゃお言葉に甘えて……よろしくっ、きゅうけいさん!」
ふわりと浮いた明かりの下で、にっこり笑うルフィナさん。
やった。こんな時だけど、友達宣言を受け入れてもらえて嬉しくなる。
「それにしても、よくすぐに飛びつくなんて対応できたね」
「【ワープ】の動きは知っていたので、対処できたの」
「知ってたんだ?」
「本当はビーチェさんの時にも止めに入りたかったのよ。だけど、今回のは【スペルブレイク】が効かないタイプのワープとは思わなくて……本当はきゅうけいさんが飛ばされる直前にやったつもりだったんだけどね」
ってことは、以前に同じようなことをやったかやられたかで対処したことがあるってことだ。
すごい。
思えば……あの『竜族の村』で冒険者ギルドの受付やってるってすごいなーって思う。
ていうかスタッフがルフィナさんしかいなかった気がするし、どーなってんでしょ。
「そういえばルフィナさん、他にギルドの職員いないの? いつも一人でやりとりしてるから」
「あら、あそこは私一人よー?」
「……え?」
……待って?
あの竜族の村で、スタッフ一人?
ルフィナさん一人だけ?
それって、まるで……。
「そっか、あんまり自己紹介とかしたことなかったよね。それじゃやっぱり、まずはこれだ。【ステータス】」
そして、目の前に出るパネル。
暗い場所でも光るステータスパネルは、ダンジョン内でもはっきりと、その能力を私に示してくれた。
そして、彼女が何者か、ようやく私は理解したのだ。
もしかしたら、受付嬢の中で、この人だけわざわざ名前を覚えていたことにも理由があったのかな、と思いながら。
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RUFINA
Holy Dragon / Grand Guild Master
LV:2500
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私は、頭が真っ白になりながらも、そのとんでもない中身を頭の中で理解しようとしていた。
何か言おうとして、言葉にならなくておくちぱくぱく。
そんな私を見て、笑いながらルフィナさんは続けて自己紹介をした。
「『竜族の村』改め『人類』の『グランドギルドマスター』のルフィナです。ギルドマスターの全てを束ねる役をしてるの、よろしくね」
まだお口ぱくぱく。
ルフィナさんが可愛い顔で「驚きすぎだよぉ〜」って笑ってるけど、いやほんとこれは驚くしかない。
この可愛い清楚系美少女、エリートとかそんなレベルじゃないぐらいチョー偉い人だった。ギルドマスター全員のトップって。『人類』とかいう主語がでかすぎる単位での、冒険者ギルドの一番上って。
ワープされた瞬間の、反応の良さも納得だわ。
古竜で背の高い、あのアウグストさんより強いよこの人。
ていうかホーリードラゴンって聞いたことないよ。
「め、目上の方でいらしたのですね……」
「けーごきんしーっ。あんまり丁寧に喋られるの好きじゃないし、正直きゅうけいさんの種族とレベルで言われても嫌味にしかならないと思うんですけどぉー?」
「あっ、えっと、ご、ごめんなさい! 嫌味のつもりじゃないの、本当に、その、凄いと思って、嫌いにならないで……」
「へ? そ、そんな顔しないでって、気にしてないから!」
ルフィナさんが気にしないと言ってくれて心底安心した。むしろ、ちょっとおろおろしていたぐらい。
気にしている様子はない……安心だ。
嫌味は駄目だ。
私の中で、この姿に転生した場合の一番やっちゃいけないことが、過度なる謙遜だ。
以前考えて以来、そこはちゃんと気をつけようと思っていた。
相手に嫌な感情を持たれないようにするというのは、最優先事項なのだ。
「う、うん……! わかった! それじゃ改めて、よろしくルフィナさん!」
「おっけ、よろしくね!」
右手を差し出して、ルフィナさんからしっかり力強く握手される。
————ああ、こんなトラブル時だけど。
それすらも、この出会いにつながってると思うと、ほんと出会い運最高だなあ。
握手を解いたルフィナさんが、唐突に「【ワールドポジション】」という言葉を呟いた。
ワールドポジション? 知らない魔法だよ。
……やばい真面目にマニュアル見ないと。なんか細かいこと多くてマニュアルしっかり読み込んでないんだよね……。
「なるほど、ここは『置き去りのダンジョン』なんだ。厄介とも有利ともいえる洞窟に飛ばしてくれたわね……」
「ここがどこか分かるの?」
「もちろんよ。世界中のダンジョンはもちろん国や都市も把握してるわよ」
さすが、グランドギルドマスターさん。
肩書きだけじゃなく、ヤバいぐらい優秀だこの人。
ルフィナさんは、この洞窟のことを説明してくれた。
半島の中でも離島にある『置き去りのダンジョン』。
この洞窟は、周りの世界より時間の進みが早くなってしまうらしい。
つまり、あれだ。修行パートによく出てきた、精神となんちゃらの部屋ですね!
それがダンジョンの謎の仕組みとのことで、一度入ったら出てくるまで完全に周りの時間は止まっているということらしいのだ。
すごい。イラストコンテストの締め切り一日前に入りたい。
じゃなかった。
説明を受けて、さっきのルフィナさんの感想を理解した。
「つまり、出られなかったらシルヴィアちゃん達は助けに来られない。入ろうとした時点で相手が出てこなかったら、相手はもう老衰とか餓死をしていると考えるのが普通」
「そういうこと。その代わり、自力で出られたら、私たちは竜族の村からワープさせられた直後に、このダンジョンから出ることができる。どんなに脱出に時間がかかっても、ね」
なるほど……全ては我々次第なのだ。
これは頑張らなければならないね。
「さて」
私は後ろを見る。
この部屋は、八畳ぐらいのごつごつした空間が広がっていて、その壁の一つがまっすぐ廊下のように伸びている場所がある。
「さっきレーダーを使ったんだけど、どうやらこの洞窟のここの階層、こんな感じの広間、廊下、ここと似た広間、その向こうに廊下、そしてまたここと似た広間だね」
すっごく単純な構造。
まっすぐ伸びていて、真ん中の部屋に階段がある。向こう側にも階段がある。
そんだけ。
「レーダーって、そんなに分かるの?」
「私のレーダー、半島ぐらいは海から海まで横断できるから」
「……きゅうけいさんって、レベル9999じゃないよね?」
あっ。
そっか、グランドギルドマスターさんならそれぐらい一瞬で分かりますよね。
「ばれちゃったかー……。レベルはすっごく高いよ。でもシルヴィアちゃんにも『90Quad』としか言ってないから、探らないでもらえると助かるよ」
「きゅうじゅうくあっど、ね。分かったわ、ギルド員の能力把握は義務だけど、秘密を過度に知るのは御法度。とりあえず強いってことで覚えておくわ」
ほんと助かります。
ルフィナさん、間違いなくチョー出来る人間だなあ。
「それじゃ、私が先に行くよ」
「おっけー」
この人、たぶん元冒険者だろなー。会話していてそんな感じがする。
きっと見た目以上に大先輩だ。
私はそんなことを思いながら、廊下に足を踏み出して――――
――――ルフィナさんの背中が目の前にあった。
「…………」
なんだ、今の。
背中にぞわりとしたものが這い回る。
なんで、私は、ルフィナさんの背中を見ている?
「きゅうけいさん!?」
「あっはい」
「へっ!?」
ルフィナさんの悲鳴にも似た声に返事をすると、変な声とともにルフィナさんがこちらを振り向き、胸を押さえてへたり込んだ。
「ど、どうしたの?」
「どうしたもこうしたもないわよーっ!」
なんでもルフィナさんが言うには、私が目の前の細い廊下に足を踏み入れた瞬間に、一瞬で消えたというのだ。
目の前で消えた瞬間、完全にどこかに飛ばされて、せっかくついてきたのに一人になったのではないかと一気に緊張が走ったと。
そして叫んでみれば、別々にされてなくて安心して腰が抜けたと。
その反応、かわいいです。
やっぱり一人だと心細いのはルフィナさんも一緒なんだね。
「それじゃー安心したところで、なんとかして前に進もっか」
「ええ」
今度は一緒に、廊下をジャンプしてみたり。
手をつないで歩いてみたり。
「もしかしてこれなら……!」
と思って、『いいアイデアがある』とばかりに壁伝いに忍者のように飛んでいこうとしたら、壁に触れた瞬間私は地面に不格好にへばりついていた。
私が消えた瞬間にルフィナさんが振り向いて、私の寝っ転がり三角飛びニンジャポーズというすっごくダサい格好で倒れているのを見て、なんとも残念そうな顔をしていた。
そんなかわいそうな子を見るような目で見ないで! でもその気持ちはよーくわかる!
何度か挑戦し。
勢いよく飛んでみたり。
天井に触れてみたり。
その度に、元いた八畳空間へ、一瞬で移動していた。
「ルフィナさん……」
「きゅうけいさん……」
私たちは、同時に叫んだ。
「「どうやって出るのおおおおお!?」」






