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きゅうけいさんはおみやげを渡す

「どーもどーも」


 私はそれからも、いろんな人と握手したよ。

 なんといっても今まで避けられていた分、どんなに握手してもつらくない。面倒じゃない。

 選挙候補者気分! もしくはアイドル気分かな!


 でもね、でもね、仕方ないの。

 だってこんなに握手できるとは思わなかったから。

 ここに集まっている人は、全ての人間さんに比べたら本当に一部。

 一部だけど、それでもとってもたくさんって感じるぐらい、いろんな人がいらっしゃる。


 男性、女性、剣士、魔術師、親子連れ、お年寄り。

 いろんな人が、ここ竜族の村にやってきて、そして私と握手してくれる。

 あとこのタイミングで竜族の村の人ともなんとなく握手してる。

 それは、この姿になった私にとって、本当に幸せな時間だった。


 きゅうけいさんの握手会練り歩きは、最終的に食堂の方に到着することで一旦おひらきとなった。おなかすいたからね。

 竜族の村の食堂は、かつて私が料理を教えたことがあったのだ。いやまーほんと私が教える立場とか偉そうなことは言えないわけですが、それでも皆さん基本的な部分ができてなかった。


 大さじ小さじ使ってなかったのだ。

 なんてことはない、『うまい人に習えばうまくなる』という考えのもと、めっちゃ料理のうまい……つまり『山勘で塩を振るタイプのイタリアンシェフ』の調理方法を見ていたらしい。

 そりゃ無理だわ、あの人たちの指の計量はんぱないから。


 そんなわけで基本的な料理の仕方を教えた食堂の竜族さん、私を見るなり歓迎してくれた。


「きゅうけいさん! 帰ってきてたんですね!」

「うん! 食べに来たよ! パスタの、カルボナーラいいかな?」

「はい、どうぞ!」


 私はマモンさん以下みなさんと一緒に大所帯で食堂に座った。

 マモンさんは私に最上弥々華さんを紹介してくれた人なので頭があがりません。

 ホントに素敵な出会いだった。

 ……そしてもちろん、強欲というより『すーぱーびじねすまん!』であるマモンさんは、弥々華さんの紹介料として対価を要求する。


「ところできゅうけいさんは、ワタクシのお眼鏡にかなうもの、持ってきてくれましたかネ?」

「マモンさんがどんぐらい持ってるかわかんないから、とりあえずいくつか見繕ってきましたよー。まずはこちら」


 私は、柔らかいタイプの、表面が綺麗な紋様をした枕を取り出す。


「これは……!」

「頭の下に敷いて寝るやつです! 超高級寝具で、ここでは出せないですけど上にかける毛布にもこんなかんじのもふもふした大きいやつがあります!」

「素晴らしい!」


 何を取り出したかって、普通の羽毛布団です。

 でも、こういうファンタジー世界観なところで、ああいう羽毛布団が普通に売ってあるとは思わなかったのだ。こっちだと基本薄めの毛布だからね。

 あと布団カバーがめっちゃごつい織物って感じで、ひたすらに綺麗だった。着物の生地乗せてる感じ。これ二十一世紀の日本に持って帰れないかな。

 女の子ですもの、美しい生地とか花柄とかアクセとか、基本的に大好き。あれならちょっと重くても幸せ。

 冬の布団に変えた日、その布団の重さに不思議と幸せな気持ちになったりしない? 私はする派。

 もちろん春に重い布団から軽い毛布に変えて快適になる瞬間も幸せな気持ちになる派。

 全ての変化は幸せへの道なのだ。特に休憩に関わることはね!


「あと、畳は持ってます?」

「いえ、そういえば買いませんでしたね」

「敷く方のベッド、敷布団とセットで使えるように畳も買い込みました。ってわけで、それがマモンさんへのおみやげです。寝るときの虫除けとかは買ってないですけど、後はなんだったかな……そうだ、おしゃれな香り付きランプですね。落ち着いた香りで眠れます!」

「そのあたりはチェックしておりませんでした。さすがヤマトアイランド出身ベルフェゴール、徹底して寝具ですネ……!」


 マモンさんの嬉しそうな顔を見て、わたくしもおみやげプレゼンが成功した手応えを感じた。やったね!

 あとは日本かぶれになってほしいなーと思って、徹底していいのを選んできました。もはや日本人じゃないし、日本出身であってヤマトアイランド出身ではないけど、やっぱり帰属意識はあります。和物ほめてほめてー。


「さて、それが私からのマモンさんへのおみやげで、あとはシルヴィアちゃんもだね」

「ええ」


 シルヴィアちゃんが見るのは、もちろんお姉さん!


「それではお姉様……と、レジーナも。あたしが買ってきたのはこれよ」

「おおっ!」

「まあ……!」


 シルヴィアちゃんが取り出したのは、酒、酒、酒。

 呑兵衛の、すごいでかいコンビの目が光る。


 シルヴィアちゃんは弥々華さんからのおすすめのお酒を大人買いしたのだ。

 それも全て一升瓶。特に大和酒……多分あれ日本酒だね。その純米大吟醸の種類が豊富。


「これ、ひょっとしてきゅうけいさんが言ってたやつか!」

「そうだよ!」


 大浴場テルマエで白ワインを飲む、と言ったけど、本来はやっぱり日本酒を浮かべて露天風呂!

 その日本酒が目の前にあるとあって、お二人目を輝かせている。


「なるほど、こりゃ上品な甘さがあって、酒精も思ったより強い。白ワインよりゆったり味わいながら飲みたいな」

「そうだねー、がぶがぶいくより、ちょっとずつ味わいたいねー」


 ってもう開けてるー!?

 さすがだよ、お二方。なんかもう呑兵衛の貫禄ありすぎだよ。

 真っ昼間から涼しい顔で飲み出して、アル中じゃないか心配だよ。これで意外と酔うからねトゥーリアさん! そこもかわいいけどっ!


「ああ、マジですげえうめえわ……ありがとなー、シルヴィア! できる妹を持ってねーちゃん幸せもんだぜ!」

「ふふっ、喜んでくれて嬉しいわ」


 姉妹愛っ! 尊い……。

 っと、いろいろおしゃべりしてるとちょうど料理がやってきた。


 私が一口、料理を食べて、その味の変化にもすぐに気づいた。


「おいしい……! っていうかめちゃおいしい!」

「おなじ意味ですよ、きゅうけいさん。でもほんとにおいしいですね」


 ちょっと呆れ気味にシルヴィアちゃんがこちらを見て笑う。

 それにしても、ここまでおいしくなるなんて。


「人間と交流が多くなったから、いい食材にも詳しくなって味のレベルが上がったんです。だから食材の差ですね」


 調理担当さんが教えてくれた。

 そっか、料理は一に食材二に食材、三四がなくて、五に食材でしたね! あれ、ちょっと違ったっけ?

 まあそんなわけで、食材が一番影響力大きいのだっ!


 人間がたくさん来ているから、そのへんいいもの使うようになったんだね。

 いやー、これは住んで天国になりましたなー。


 初めて竜族の村に来たみんなも、大満足であった。

 やったね!


-


 次に、冒険者ギルドへと寄った。


「お久しぶりです、きゅうけいさん!」


 以前もお世話になった、ギルドの受付さんが出迎えてくれた。この人も素敵なんだよなー。

 受付までやってきたシルヴィアちゃんが、後ろを振り向く。


「ね。パオラさん達も、私やきゅうけいさんと同じパーティに入らない?」

「あっ、いいね!」

「ですです! 一緒のパーティメンバーになりましょうよぉ!」


 エッダちゃんも重ねて誘ってきて、皆が顔を見合わせる。

 パオラさんは真っ先に前に出てきて、ニッと格好良く口角を上げる。


「よし、それじゃ私はなるわ。【ステータス】!」


 パオラさんのステータス、すんごい高レベルのフェニックスが現れてびっくりする一同。

 強いよね! パオラさんはマジでちょーすごい!

 私の筆頭眷属じゃないけど、自慢の友達です!


「私は……さすがにやめておくわ。また鍛え直してからね」


 反対にイデアさんは、さすがに遠慮した。

 どうしてもまだ戦うレベルではないし、絶対ミミちゃんを前線に出すわけにはいかない。

 私もあまり前線に出てきてほしくはないと思ってる。サキュバスはフェニックスみたいに不死じゃないだろうし、何よりイデアさんやミミちゃんにはちょっとだけでも怪我させたくないし。

 それでもシルヴィアちゃんは、少し残念そうな顔をした。


「そう、ですか……。そうですね。ええ、でもいずれ、参加してくださいね」

「もちろん、そのときは」


 二人がいずれ組む約束をして、私も安心————




 ————と思った瞬間、私の身体から光が出た。




「……きゅうけいさん? え!? 何ですかそれ!?」


 光ってるのは、他の皆にも見えるらしい。しかしさすがに唐突すぎて、みんな唖然としていて動けない。

 その中で、目の前で一番身を乗り出してきた受付さんの顔を、私は何か、どこか他人事のように思いながら見ながら思い出した。

 そういえば、この光って以前……そうだ、ビーチェさんが……


 ……私の意識は、そこで途絶えた。

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