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きゅうけいさんは握手する

 見つめ合う、赤い髪の美女と金髪の美女。

 人ではないその種族は、火の鳥と人魚。

 レベルは9801と9000という、とんでもない二人だ。


「パオラ!」

「うん、久しぶ……グエッ!?」


 感動の再会! って思ったんだけど!

 すごくいいシーンだとおもうんだけど、だけどっ!


 なんかパオラさん鯖折りされてるーーーっ!?


「ビーチェさん、折れてる、折れてる!」

「あら、きゅうけいさん。これはわざとよ」


 えっ。


 いや、割と冗談にならないレベルで、パオラさんが上向いて痙攣……って思ったら、なんとパオラさんが光って、その光もすぐにおさまった。

 な、なんだなんだー?


「い、一回死んだじゃない!? 手加減してよ!」


 不死鳥伝説! パオラさん、今の一瞬で一回死んで即復活したそうです! 復活はっや!?

 この世界に転生している今の段階だと考える必要ないけど、これゲームで実装されたら倒せるんですかね!?


「こンの怪力バハムートめ……」

「私だって、心配したのよ!? これは、その分っ!」

「わ、分かった、分かったよ……ごめん、イデアにも謝ったけど、私はもう逃げないわ。きゅうけいさんとともにいるって決めたから。友達になった分、先代の分まで交流を深めるつもりよ」

「ん……そこまで言うのなら」


 ビーチェさん、その返答を聞いて納得したのかパオラさんを解放。パオラさんは安心したように息を吐いた。

 ……お、おおう……パオラさんでさえ、ビーチェさんの怪力には敵いませんか。っていうか、マッチョ人魚ってあだ名と大差ないですね怪力バハムート。


 バハムートってベヒーモスと同一みたいな話があったり、バハムートって実は魚って話もあったりするよ。超絶巨大魚。

 魚系だったら、まあビーチェさんにぴったりだね……。


「そうだ、イデアは筆頭眷属問題でレベルがミミちゃんに引っ張られて今レベルが……1から上がって、いくつだっけ?」

「……7よ」

「だ、そうなので、あんまり無茶させないようにね」

「そんなに下がったんだ……大変だったのね、イデア」


 イデアさんを感情のこもった目で見た後に、ビーチェさんはもちろんミミちゃんを見る。

 ミミちゃんも、ビーチェさんに興味津々。


「……この子が、アスモデウス様、なのよね……」

「様付けもしづらいぐらい、普通の子供よ」

「そうなの。ミミちゃん、私はビーチェ。イデアの友達よ」

「……」


 ミミちゃんは……不思議なことに、返事をしない。

 エイメラ大陸では明るく可愛い女の子だったので、この姿は珍しい。

 ……な、なんだろう。ビーチェさん好みじゃない?


 ミミちゃんが、とてとてとパオラさんの前に割り込んで、ビーチェさんを見上げる。

 子供に相手するときの定番、しゃがみ込んでミミちゃんと目線を合わせるビーチェさん。


「ビーチェさんは、パオラさんとも、ともだち?」

「へ? えっと、そうよ?」


 突然の質問に驚きつつも返事をしたビーチェさんに、ミミちゃんは口をへの字にして、びしっと指さした。

 至近距離なので、眉間をつっつくような形になっている。


 ……な、なんだなんだ?


「ビーチェさん!」

「え、ええ……」

「あのね!」


「ともだちには、どんなときでも、やさしくしなくちゃだめなんだよ!」


 ————。

 なん、と。

 なんと、ミミちゃん、さっきビーチェさんがパオラさんに鯖折りしたの、めちゃ怒ってた。

 これには一同びっくり。


 でも、純粋な子供としての、ものすごくストレートな言葉だったと思う。

 そうだ、友達同士の軽いやりとりだったとしても、ちょっと思うことがあったとしても、基本的にはやっぱり優しくなくちゃ。

 ミミちゃんは、そんな『親しき仲にも礼儀あり』をビーチェさんに説いているのだ。


 その想いがピュアだっただけに、ビーチェさんの心も打たれたのだろう。


「……二代目アスモデウスも、二代目ベルフェゴールぐらい素敵ね」

「……」

「はい、アスモデウス様の仰ったとおりです。反省しますわ」

「それ言うの、わたしじゃなくて、パオラさんにね!」


 ビーチェさんは立ち上がって、パオラさんを見ながら頭を掻く。


「パオラ、ごめん、痛かったわよね」

「そりゃ痛いわよ。でもま、お互い様ってことで……っていうか、なんかいざ謝られると恥ずかしいなあ。……そうだ」


 パオラさんは、ミミちゃんと目を合わせると……あっ、脇に手を入れて持ち上げた。


「ミミ、ビーチェも大きいわよ〜?」

「ん!」


 そして……ひっついたーっ!

 ミミちゃん、ビーチェさんのからだに、わしっとしがみついて、大変包容力のある部分へとずぶずぶ埋まるっ!


「……あの、えっと……え?」

「いい反応じゃない」


 パオラさん、ビーチェさんの反応を見てニヤリ。

 ビーチェさん、胸の間で顔を覗かせるミミちゃんの方をちらりと見る。

 ミミちゃんの方は、ビーチェさんを、じーーーーっと見ている。


「……なんだか、その、は、恥ずかしいわね……」

「私もきゅうけいさんにやられてどうしようか困ったもの。ビーチェもしばらくそのままね」

「ちょっとぉ、きゅうけいさーん?」


 あっ、ここで振られた!


「困惑するパオラさんはかわいかったからね!」

「うっ!」

「そうなの!? 後で私も見てみたいわ!」


 即トス! ビーチェさんの興味はパオラさんの困り顔へ移った!

 よし、勝ったッ!(何に?)


「ってわけで、トゥーリアさん。久々に村を紹介してもらってもいいです?」

「え、ああ、もちろん。本当に人が増えたんだ、見ていってくれよな」


 急に話を振られて驚きつつも、トゥーリアさんは村の代表として皆を案内してくれるらしい。

 お父様さんとお母様さんは、再び外に出ているみたい。長夫婦、大変だなー。


 私は竜族の村を、パオラさん達を引き連れて歩く。


「あの、えっときゅうけいさん? これ……あの? えっ、これこのままの流れ? ほんとに? マジで?」


 そしてビーチェさんの困惑した声は、なかなか緩い感じで大変かわいかったです。


-


 村は、本当に発展していた。

 建物が明らかに増えているし、人間の姿も多い。

 角がないから、すぐに分かるのだ。


 人間の人たちは丁寧に会釈をし、竜族の人が明るく手を振る。

 上下関係ははっきりしているけど、それは嫌なものではなく、自然とそうなっている形だ。

 共通の敵を持つ者として、協力関係にある。


 しかしやはり、私の姿を見た瞬間に、どんな人間も身体が強ばっている。

 ヤマトアイランドのように、人間と友好関係だから仲良し、というわけにはいかなさそうだ。

 それでも悲鳴を上げられたり、逃げられたりするよりはマシ、と思いたい……。


 そんなことを思っていると、マモンさんが隣に来た。


「ヤヤカとは会えたようですネ、無事そうで安心しました」

「はい、ありがとうございました。弥々華さん素敵な人で、とってもお世話になりましたから!」


 マモンさんが話しかけてくれて、少し気持ちが和らぐ。

 当然おもいっきり魔王のマモンさんも苦労して————


「……あの、もしかしてそちらの魔族は、マモン様のお知り合い?」


 ————え?


「そうですよ、皆さんも仲良くしてくださいネ」


 マモンさんが笑顔で私を紹介すると、おずおずと少女が手を出す。

 ……え? え? えっ?


 ……えっ!?


「あ、えっと、どうも……きゅうけいさんです」

「きゅうけいさん?」

「そう、です、はい」


 私は自分の本名を伝えることも忘れて、その現象に目を白黒させながらも握手をしていく。

 どーして? なして? マモンさんの紹介だと避けないの?


「——って顔してますね?」

「そんなにわかりやすいです?」

「わかりやすいですヨ」


 そっかー。そんなに私、わかりやすいかー。

 まあそういう腹芸とか全くできない自信ありまっす。


「単純な話です。族長エドモンドよりワタクシを紹介いただいて、ワタクシは未来の先行投資のために、いくつか融通したのです」

「融通って……」

「人間相手には、やはり武具ですかネ。ワタクシからしてみれば能力不足の弱い大量生産武器ですが、人間には価値のあるもののようですから。あるだけ溜め込んできた甲斐があるってものです。代わりに現代の人間の作りしものを、たくさんいただけましたよ。全く等価交換ではない、よい取引でしたネ」


 ……わーお。マモンさん、めっちゃやり手マン。

 リスクなしで信頼とニューアイテムの数々を得ていた。

 私はその様子を見て、この世界で自分の姿を見て真っ先に思ったことを思い出した。


 もしかしたら。

 私も、将来的には、この辺りの人間の街を歩けるようになるだろうか。


「んー、それは無理ですネ」

「え?」

「魔族がいる、というだけで竜族の村行きを断念した人は半数以上。いえ、ほとんどですネ。この大陸の人は我々の見た目に根源的な恐怖を感じるようです」


 ……そう、か。

 やっぱりこの姿によるデメリットが解消するということはなさそうだ。

 人間との溝、めっちゃ深い。

 そりゃまあ、ずっと殺してきたんだもんね。


 でも、ここに来てくれるような人も、わずかながらに、いる。

 今は、こうやって私に親身になってくれる人間の皆に、できる限りの笑顔で答えよう。


「どーもどーも! ありがとね! 私とも仲良くしてくれるといいな!」

「は、はい!」


 めっちゃいい子。

 人間の子複数人とこうやって挨拶できるなんて、夢のようだなー。


 それから私は、小柄な成人女性、大柄な男性剣士。可愛らしい男の子、鉄仮面で顔が見えない女騎士さん、目深なローブ姿の魔法使いさん。いろんな人と握手した。


 これなら、いずれは……。

 いずれ、ミーナちゃんとも、大手をふって握手できるかもしれない……。


 私はその子の姿を思い出しながら、この国での人間との握手の感触をかみしめていた。

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