きゅうけいさんは北エイメラでの全てを知る
「せつめいをよーきゅーします!」
「同じく説明を要求するわ」
シルヴィアちゃん先導によるスピード展開のついていけなさに私が意見を言うと、パオラさんが同意してくれた!
さすがパオラさん、私の必要なときに役に立ってくれるっ!
「そうですね、確かに急でした」
よかった。シルヴィアちゃん、今までの経緯を説明してくれるようだ。
「まずは、イデアさんのレベルについて。これはきゅうけいさんも気付いたわよね」
「そうだね。……って、あっそうか、私のレベルを見せないとこれに関してはパオラさんがわからないんだった」
私のレベルの話。サタンを倒した以上みんな興味津々のようで、パオラさん以外からも視線が集まる。まずは聞いてきたのはパオラさん。
「きゅうけいさん、ええっと……レベル? レベルは9999なのよね?」
「えっと、ね……えーっと……自分のレベル、はっきり表示させる方法がわかんなくて……」
「……どういう意味なの? とりあえず見せてもらっていい?」
「う、うん。【レベルリリース】……【ステータス】」
私は、久々に単位quadrillionこと、90Quadを見せる。
「……なに、これ……」
という顔をしているのは、パオラさんだけではない。イデアさんも、ミミちゃんも、向こうのスーパーセクシーヒューマンこと人間アスモデウス様もみてらっしゃる。
「詳しくは言えないんだけど、とにかくとてつもなくおっきい数字とだけ思ってもらえると……普段は9999なんです」
「……。……そう、私の炎を至近距離で浴びた上で、完全なる無傷だったのでどういう能力なのか気になったけれど、単純に高かったのね」
「うん、私そのものがうまく説明できないレベルなんだ。でも、これだけ強くてもみんなの味方だからそれだけは信じてほしいよ」
ちょっと怖々、みんなの顔を上目遣いに見ると……パオラさんが真っ先に口を開いた。
「それは今更よね? あなたが敵じゃないことぐらい、やらかしちゃって何一つ罰を受けていないこの私が誰よりもわかっていますから。今のベルフェゴール様がこの場の誰の敵でもないことは、このフェニックスのパオラが保証します」
ううっ、パオラさん本当に助かります。助かりまくりです。ほんとここ最近のパオラさん、私の足りない隙間を埋める感じで頼りになる。
見てるか先代、これがパオラさんだよ。あなたが大事にしなかったパオラさんは、こんなに主人のために尽くしてくれる、最高の筆頭眷属なんだよ。
「でも、様はなしね」
「ふふっ、わかってるって」
私が頬をつつくと、お返しに頭をくしゃくしゃしてくる。この距離感を分かってくれるところも、やっぱり私、パオラさん大好き。
「……ところで、このレベルがどういうことなの?」
パオラさんの疑問の続きに、シルヴィアちゃんが応える。
「単純な話ですよ、二代目アスモデウスが誕生してイデアさんがレベル1なのに、どうして二代目ベルフェゴールが誕生してパオラさんのレベルが80Quadじゃないのかなって思って」
「……あ、それはそうね……」
そうなのだ。筆頭眷属が主人のレベルの追従するようにできているというのなら、パオラさんのレベルが上がっていないのはおかしい。
「仮説は二つ。パオラさんと初代ベルフェゴールの関係がおかしいか、イデアさんと二代目アスモデウスの関係がおかしいか」
「そしてシルヴィアちゃんは」
「ええ。あたしはアスモデウスが倒されたことが確定されていない以上、イデアさんとミミちゃんの関係の方がおかしいと思った。……アスモデウスさん、ですね。あなたは恐らく死んで生まれ変わったのではないし、ミミちゃんが二代目になったのでもない。……ミミちゃんは、初代の体のまま『分離』したんですよね」
アスモデウスさんは、シルヴィアちゃんの話を聞くと目を見開いて驚いた。
「……先に、シルヴィアさん、というのよね。あなたのことを聞いても?」
「そうね。あたしの名前はシルヴィア・ドラゴネッティ。竜族の村の長が末娘、レベル6176の古竜です」
「……話には、聞いていたけど……この子が……」
シルヴィアちゃんは、さっきの反応にも得心といった様子だ。
「やはり、村で一番門の近くに住んでいた、門番代わりのアレックスさんに報告を受けていたのですね」
「ええ、仰るとおりよ」
シルヴィアちゃんがどんどん話を進めていくけど、いやいや待ってどういうことなの?
「あたし達のことを報告していたの。だから村に入ってきた人を全員チェックできるアレックスさんが適任だったのかなって思ったわけ」
「い、いつから気付いてたの」
「春から夏にかけてかしら、夜にきゅうけいさんが家の中に入って食べているタイミングで、アレックスさんは再々外に出ているなって思ったんですよ。レーダーの性能はそこそこだけど、目は良い方なので」
……そ、そんなタイミングで……気付かないわけだ……。
だっておいしいごはん中は、がんばらないんだもん! パトリシアさんのおいしいごはんに全力集中して食べる大切なお仕事をしてるんだもん! ……いや、完全に油断ですね……まさかシルヴィアちゃんが、知らない間に私の穴をしっかり塞いでくれていたなんて。
「アレックスさん自体には、変なことはしてないでしょうね?」
「魅了を使ってはいるけど、生活に支障が出ないように細心の注意を払ったわ」
「イデアさんに誓えますか?」
「イデアに、ね。もちろん誓います」
「信じましょう」
よかった、悪い影響は残らないようだ。
「……それにしても」
と、ここでアスモデウスさんが私の方を向く。
「あなたが、二代目ベルフェゴールなのよね」
「は、はいっ! きゅうけいさんと呼んでいただけると!」
「タマエさんではないの?」
ひゃあっ!? お名前をよんでいただけましたっ!
「え、えへへ……ほんとはそっちが名前です……」
「……どうしたの? その反応」
「えっと、これはその、名前を呼んでいただけることが嬉しいものでして……」
私が照れていると、アスモデウスさんは私に近づいて……その長身で抱きしめてきた!
「ふわあ!? あ、え? あの……」
「……いい抱き心地ね……」
す……すごい……ぎゅって持ち上げられてる……めっちゃきもちいい……顔とか完全に埋まってる……あ、これ勝てないわ……。
「……両刀?」
「の、のーまるです」
「ふふ、そーなんだ? ちなみに私は両刀よ」
人間アスモデウスさんは、私の答えにもいたずらっぽく笑って、顔を寄せて畳みかけてきた。
ふえぇ……やっぱりこの人、あのイデアさんの主人だよ……完全にこちらの弄び方を初対面で熟知しちゃってるよぉ……。
「ま、遊ぶのはこのへんにしておきましょう」
アスモデウスさんに解放されて、その場でふらふらしながら尻餅をつく。……なるほど、これは男達誰も勝てないわけだ。全身から「幸せ」が注射器で無理矢理入ってくる感じ。レベルきゅうけいさんでも勝てる気がしません。
「イデア、皆も生きているのね」
「そのはずです」
「それじゃあ……」
人間アスモデウスさんは、二代目アスモデウスちゃんを……ひょいっと肩車した!
「行きますかね」
「わああっ!? わ……わあ! たかいたかーい!」
その身長190cm肩車でミミちゃんがきゃいきゃいはしゃぎながら、みんなでユルトの街に行くことになった。
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「その節は、大変申し訳ありませんでした」
服を着込んだイデアさんは、ユルトの街の女性達に頭を下げた。
それまで自分たちが、あのサタンみたいな魔王三人がかりで殺されそうになったので逃げてきたこと、この地まで追いかけてきたこと、そしてサキュバスの三人は自分の管理不足により出て行ったこと。
「勝手にやった出来の悪い部下ですが、それでも私にとっては大切な仲間なのです」
必死の訴えに対して、ユルトの街の町長である女性の反応は薄かった。
「つまり、魔族の問題をこちらに持ってきたと」
「……」
「それでユルトの街の者が操られていたのですね。……はぁ、なんと面倒ごとを持ってきてくれたものです」
「……そう、ですね……」
イデアさんの消沈した様子に対して、反論したのは……なんと、マイケル君だった。
「違うでしょ」
「え?」
「僕はさ、両親いないんだ。魔族に殺されたんだよ、あまりその時のこと覚えてないんだけどね」
ま、マイケル君、ここでその話を……!?
「でもね、それは十年前。明らかにこの人達が来る前だった」
「……! そう、ね」
「だから、みんなが来てくれなかったら、どっちみちあいつらにやられていたよ。だって誰も勝てないぐらい強かったんだから。……だけどね、ここにいるきゅうけいさんは、とっても強かった。僕の両親を殺した魔族の親玉のサタンってやつ、圧倒的な強さで完封しちゃったんだ」
「……」
「だから、親玉のいなくなった以上、ここにはもう魔族が出ないんだ」
マイケル君、そこまで考えてくれて、そして私達のことをそこまで評価してくれていたなんて……。もう、誇り高いなんてそんなレベルを超越している。私達は、マイケル君に感謝してもし足りないよ。
「みんなが来てくれたからだよ。イデアさんたちがこの地に来てくれたから。パオラさんと友達だったから、そのおかげ。だから———」
「———もう、僕みたいな孤児は、出てこなくなったんだ」
……今の一言は、ユルトの街の人たちの心を打った。
町長さんは顔を伏せると、一人で収容所まで行き、暫くするとサキュバスの三人と一緒にやってきた。
「……やはり私は、あなたたちを許すことはできないと思う。だけど……そうね、その子みたいな子がこの街で生まれる可能性のことを考えたら、きっとこれは必要なことだったんでしょう」
「……ありがとうございます」
「お礼はいいわ、三人を連れて遠くへ行ってちょうだい」
ユルトの街の町長と女性達は、そのままこの場を無言で離れていった。
「それじゃ、帰りましょうか」
重くなりかけていた空気を、シルヴィアちゃんが手を叩いて促す。そこでようやく余裕も出てきて、イデアさんは落ち込んだ顔に少し微笑みを浮かべた。
ノース・ジャーニーに戻ったサキュバス四人は、再会を喜び合った。人間アスモデウスさんが、イデアさんの頭を撫でて、私はこの日、大人びたイデアさんが初めて大泣きする姿を見た。
-
「もう行っちゃうの?」
「もう、といわれても、今までの旅で一番の長居だったよ」
キャシーちゃんには、本当にお世話になった。この子にシルヴィアちゃんが出会えなかったらと思うと、本当に最高の出会い第一号だよ。
「きゅうけいちゃん!」
「パトリシアさんっ!」
私はすっかり馴染んだその呼び方をしてくれる、かわいいかわいいパトリシアさんに駆け寄って、ぎゅってハグする。
「パトリシアさんに教えてもらった料理のレシピ、大切にするからね! 竜族のみんなにも振る舞って、みんなにパトリシアさんのことを教えるんだ!」
「私もきゅうけいちゃんの料理、今度は他の村のみんなにも教えるわ! バジルも今ではたくさん育ったし、きっとこの村は、きゅうけいちゃんのおかげでもっと豊かになる」
ノース・ジャーニーは、すっかり大きくなった。今は『ニュー・ジャーニー』という新しい村として出発しているところ。
「あの魔石の大きいヤツも、レッサーガルムの首の剥製も毛皮も、とにかく売れに売れた。何もかもきゅうけいさんのおかげだよ、村長として俺は鼻が高い。ありがとう!」
「リックさんも、とっても素敵な村長さんだったよ!」
これからがきっと大変だろう。だけど、この人達ならきっとどんな困難でも乗り越えていける。
すっかり仲良くなったボビーさんとペトラさんが、マイケル君を連れて私の所へやってくる。
「自分の人生は、皆さんが来てくれたから変わりました。何も起こらない独り身として過ごしているのも悪くないとは思っていましたが、今はこの暮らしのない人生など考えられません」
「わたくしもですわ。悪いことばかりじゃないって、むしろいいことだったって言えるぐらい、今は幸せですもの」
「えっへへへ! どういたしまして!」
んん〜っ! ラブラブ! 見てて熱くなっちゃうね!
「きゅうけいさん!」
「マイケル君!」
「きゅうけいさん、ほんとちょーかっこよかったよ! 見てて最高だった! あれ見られたの村で僕だけだし、すげー得した気分だよ!」
「へへへ、私のかっこよさを見せることができて私も嬉しいよ!」
そういえばあの姿を見たのはマイケル君だけだった。まあキャシーちゃんやパトリシアさんには、のんびり魔族で覚えてもらいたかったからね!
みんなとの話も終わり、シルヴィアちゃんが少し寂しそうな顔をしつつも、はっきりと告げる。
「それじゃ、行きましょうか」
「うん!」
私も、名残惜しくも出発を決意する。
大所帯となったメンバーも、もちろん古竜のシルヴィアちゃんのおっきい背中なら余裕です!
……もう、この地に来ることはないかもしれない。
だけど、この村での生活は、私の人生の中でもあまりにも理想的で、あまりにも幸せな時間だった。
リックさん。パトリシアさん、キャシーちゃん。
ボビーさん、ペトラさん、マイケル君。
ガイさん、アレックスさん、そして、他にも沢山喋った村のみんな。
ありがとう、みんなのこと忘れないよ……!
そして次の目的地は、竜族の村。
長い長い、私の故郷への旅行と、寄り道も終わり。
振り返ってみれば、それは素敵な出会いの連続だった。
どんな素敵な時間も、いずれ終わりが来る……。
……そして次には、また新しい時間が始まるのだ!
さあ、帰ろう! 私達を待ってくれているみんなのいる場所へ!
これにて4章終了です!






