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きゅうけいさんは会いに行く

「むんむんむーん」


 夕食が終わってからも、シルヴィアちゃんがうんうん唸っているので、私も腕を組んでうんうん唸る。


「大丈夫ですか? きゅうけいさん。何か考え事でも」

「シルヴィアちゃんが悩んでそうなので、私も悩んでみたよ」

「ちなみに何を考えてましたか?」

「……何も考えてませんでした」


 正直に告白すると、シルヴィアちゃんは溜息をついた。


「……まあ、頭を使う部分はあたしが頑張れば済む話、ですからね。サタンが出た際にはきゅうけいさんが必ず対処して下さい。正直古竜という身に生まれておいて、敵対する勢力への戦いを任せるしかないという状況に悔しくはありますが……でも、今はあたしが無茶をしたところできゅうけいさんを心配させるのも心苦しいですから」


 さすがシルヴィアちゃん……そこまで考えてくれていたんだ。

 確かに古竜のシルヴィアちゃんは強いし、本来人間の力の及ばないところを頑張るのが古竜の役目だ。だけど……今回ばかりはそうも言ってられない。


「まかせて! 頭を使うのは最近ダメダメだけど、体を動かすのは最近得意なので!」

「最近最近って、以前はそうじゃなかったんですか?」

「全く体を動かさずに生活していて体力もない方で、逆に頭を使う仕事は周りより優秀だったよ」


 おしごとでは時間効率の良いオフィスのレディーだったからね。


「そうなんですか、本当にベルフェゴールになる前は全然違ったんですね」

「うん」


 ……言ってしまってもいいだろうか。それともとっくに予想はできてるだろうか。大和ではずいぶん料理も披露したからね。

 言っても言わなくてもいいけど、またそのうちぐらいに考えておこうかな。


「ところで、シルヴィアちゃんは何を考えていたの?」


 まずは私のことより、そのことが気になった。シルヴィアちゃんが悩んでいるということは、何か解決の糸口になることに関して悩んでいるんじゃないかと思っていたから、


「……そう、ですね……これに関しては言いづらいのですが……」

「うんうん」

「……すみません、上手く表現できないというか……。何か、重要なことを見落としているんじゃないかとずっと思っていて……」


 重要なことを、見落としている?

 今のこの状況に関して、何かおかしいところでもあるんだろうか。


 サタンの眷属が『憤怒の吐息』なる立体複合魔方陣なる石ころを使って、この村にあれを使おうとしていたこと。ユルトの街では使われたこと。南の昔あった、えーっと南のジャーニーは滅ぼされたこと、そして西のなんとか村は滅ぼされて、村のみんなが憤怒の呪いにかかっていたこと。


「そういえば、南のネコミミ一族は全滅させられたんだね」

「あたしもそこは気になっています。いくつかこの半年弱で村の情報を聞いてはいたのですが」


 むんむんむーん……話から察するに、シルヴィアちゃんはこっちは予想できてたってところか。


「トニーと呼ばれていた、かなり強い戦士がいたそうです。呼ばれていた二つ名、そして特徴から考えると、ライオンの獣人ですね」


 ライオン獣人! 確かに猫だけど、そんなのがネコミミ一族の中にいたんだったら、そりゃー強いですよね。


「でも、負けた。リックさんとガイさんの二人で眷属の魔族は追い払えるぐらいであることを考えると、トニーさんがただの眷属に負けたとは考えづらいですね」

「そうだね……ってことは」

「その時期にサタンが来た。そしてサタンはサウス・ジャーニーを滅ぼして、ノース・ジャーニーももちろん狙っていた」


 隣の町の、名前もセットの場所だからね。

 ……ん? じゃあなんでこの村は滅んでないんだろう?


「疑問に思っている顔ですね。きゅうけいさん、そこが時系列が一致する場所です」

「時系列って、何の?」

「先代アスモデウスが殺された時期です」


 ……あっ! そうか、すっかり忘れていたけど比較的最近の出来事となるとこの時期がぴったり一致するのか!


「そう、アスモデウスとサタンの一騎打ち。そしてその結果は……あたしが予想するに、僅差だったんじゃないかと思います」

「それは、どうして?」

「サタンがフェンヴェーナ村を襲うまで、眷属に襲わせていたのは恐らく大きな怪我があったためじゃないかと思うんです。それにしても長いですけどね……よっぽどの接戦だったんでしょう」


 そう……か。アスモデウス……先代のアスモデウスさん……。


「なるほど、なあ……じゃあ西が滅ぼされたってことは」

「完全復活と見て間違いないでしょうね。レポゼータ族の人は脚力が非常に高いですし、耳の良さと警戒心の高さは半端ではない。間違いなく強いです、サタンの眷属に一族まとめて負けるとは考えにくい」


 やはり、サタンを相手にするということになると見て間違いない。


「ねえ、サタンってこの村に来ると思う?」

「今はちょうどレポゼータ族の人を『泳がせている』状態なので、まだ来ないと思います。念のためにイデアさんとミミちゃんを外に出してはいませんが……割れるのは時間の問題かなと」


 そうか。じゃあ決戦の日は近いね。

 大丈夫、私がやられることはない。みんなを守れさえすれば、きっと大丈夫。


 -


 それからしばらくは、シルヴィアちゃんの言ったとおり何も問題がない感じだった。まだこちらの様子見というところなんだろう。

 私は毎日レーダーを張って警戒しつつも、村での生活を続けていた。


「きゅうけいさん、ベルゼブブの蠅はいましたか?」

「……今日はいなかったね」

「そう、ですか」


 こうやってベルゼブブの集音ドローンのことを何度か喋っている。不思議なことにベルゼブブは何度蠅を落とされても、次々寄越してくる。何が不思議かって、あれ以来ベルゼブブの眷属の、魔族のほうは来ないことだ。


「とっくにこちらの位置は割れてそうなんですが、わからないものですね」

「うーん……何を待っているのかわからないなあ」

「いっそのこと、このまま一斉にユルトの街に出向くというのもありかもしれません」


 ……ええっ!? それはありなのかな!? 結構大胆な行動だと思うんですけどっ!


「冗談ですよ。それで相手にサタンが現れて人質を取られたら難しいですからね。第一出てこない可能性だってあるんです」

「そ、そうだよねそうだよね」


 シルヴィアちゃんの提案に内心安心していた。だってだって……獣人の女性達がみんなあのペトラさんみたいなブチギレ顔で襲ってくるとかトラウマなっちゃう!

 むりむり! 泣いちゃう!


「事情を知るほどになんとも難しい限りですが……きゅうけいさん的にはどうでしょうか」

「何も起こらないのなら、もうちょっと待ってみてもいいけど……サキュバスさん達が心配になってくる頃合いかなあ」

「そうですね、精神的に摩耗していないといいんですけど」


 サキュバスさん達は、イデアさんの心配をよそにさっさと出て行っちゃったちょっと自業自得な部分もあるんだけど、さすがにそれで半年待ちはかわいそうだと思っちゃう。だって絶対美女だし。間違いなくセクシー美女だし。


「きゅうけいさん、変なこと考えてないでしょうね」

「な、ないない! ほんとだよ!」

「……。ふと思ったんですが、きゅうけいさんって全力を出したら誰の目にも見えないぐらいの速度で動けますよね」

「そだね」


 兆スピードと名付けている、恐らく私のAgility(素早さ)670兆とかいうギャグみたいなスピードだ。多分光の百万倍とか、それぐらい速い。

 相対性理論なことは……頭が痛くなるので考えない方向にします。


「見てきますか? ユルトの街の一番奥にある無骨な建物です。檻はあるけど扉はないという状況なので、きゅうけいさんなら見つからずに潜入して一目見て戻って来られます」


 ……! その手があったか!


「いってくるーっ!」

「ただし救出は厳禁ですよ! ユルトの街の女性全員がこちらに襲ってくる可能性があります!」


 ううっ、確かにそうだ。クリアエリクサーで治ると分かっている以上、襲ってきたからって倒しちゃうわけにはいかない。


「わかった、必ずそれは守るよ! サキュバスさん達も大切だけど、ユルトの街の獣人さん達も大切だからね!」

「ええ、それではお気をつけて!」


 私はシルヴィアちゃんから許可をもらうと、早速意識を集中させてユルトの街まで走った。




「……本当に、いつ見ても一瞬で煙のように消えてしまうんだから、きゅうけいさんのレベルってどれぐらいなんだろ……」


 -


 私はユルトの街にやってきました! 街は……ひっろい! 遠目に見たときもすごいなと思っていたけど、実際に見てみるとほんとやばいっすねこの街! ただのコンクリがないだけの大都市ですよほんと!

 木造といってももはや丸太ログハウスじゃなくて普通にきっちり整形した木材で組んであるし、レンガの建物もあるし、いやあれコンクリでは? えっ鉄筋コンクリート!? うっそ前言撤回これ普通に現代日本の建造物とかと同じレベルかもしれない!

 マジかー、そういえばコンクリってコロッセオだっけ? なんか昔っからあるっちゃあるんだよね。ここでそれ作れるのか。鍛造とかあるんだから鉄とかもできますよね。うーんナメてたわ。こりゃ大和とユルト、そのうち江戸とニューヨークぐらいの差になりそう。でも大和はあの日本的な町並みでありながら和洋折衷してる感じが好きなので是非維持してほしい。


 っとそうだ、まずはサキュバスさん達を探しにいかないとね。

 時間停止した人たちの中を、止まらないように駆け抜けていく。今の私は光を置き去りにしたきゅうけいさん! ……そういえば私は普通に視界見えてるけどなんででしょうか。あ、ゲームの世界だからステータス的に相対的に周りが下がってる的なアレ?

 うーん、科学とプログラムの相関図のことを考えても、この世界を分析するには私一人じゃどうしようもない。


 そんなことより、サキュバスさん達だ。

 シルヴィアちゃんが言っていた場所はすぐに分かった。確かに無骨な建物があって、扉が雑につけられてある。開きっぱなしだけど、誰も気にしている様子がない。大変都合が良いので、私はスススと扉に触れないように入っていく。

 受付の所にはこれまた色の違うウサミミ獣人さんの女性がいらっしゃるけど、もちろんこちらは見えていないだろう。私はそのまま、建物奥の地下への階段を下りていく。


 ……地下牢の中は、天井に取り付けられてある小さな鉄柵の窓以外は蛍光魔石すらない、非常に薄暗い場所だった。

 見張りさえいらっしゃらない。


(念のため……【レーダー】)


 索敵魔法を発動させる。うん、さっきの受付さん以外いらっしゃらない。

 目の前にいる、サキュバスの三人だけだ。

 一目見て憔悴してるとわ……からないなあ。見た感じ、健康体だと思う。何って、三人とも、その、色気がすごいのだ。布地の少ない水着姿、二人は胸は大きいし、そのうち一人はお尻も太股もぷりんぷりんしてらっしゃる。最後の一人も十二分にグラビア体型。分かってはいたけど……お色気路線具合、突き抜けてる! やっぱりサキュバスだわ、半年間放置されていてこの健康体っぷりは半端ない。


 私は自分の内側に意識を再び集中させ、止まった世界を解除させた。

 そして、暗がりに身を隠しながら鉄柵を軽くノックさせる。


「……ん? 今、何か……?」

「しーっ。こっそり潜入したから静かにしてね」

「! ……わかったわ」


 三人が顔を見合わせていて、やがて一人、胸が大きめ腰は引き締まった銀髪のお姉様がやってきた。


「あなたは……?」

「イデアさんに助けを請われて、今協力している者だよ」

「……! い、イデア様が……!」


 三人とも驚いていた。


「勝手に出て行ったから、見捨てられたと……」

「ううん、助けられなかったことを後悔していた。そっか、三人ともイデアさんのこと、助けなかったって落胆していないんだね」

「当然です。だって、私達は危険だという言いつけを守らずに捕まったに過ぎないんですから。……今でもあの時衝動に任せなければと……三人で話していて気が大きくなっていたのでしょう」

「よかった、それを聞けただけで安心したよ。えーっと今の状況を言うとだけどね」


 私はそこで、このユルトの街の女性が、サキュバスという単語を出すだけで暴れ回るようにサタンの持つ憤怒の呪いにかかっていることを告げた。

 助けたら、今イデアさんが世話になっているミアキスベータ族にも迷惑がかかると。


「……そう、ですか。ありがとうございます。状況が分かっただけでも大幅に気が楽になります。その……何も分からないままというのは、やはり不安でしたから」

「うんうん、来てよかったよー」

「ね、ね」


 後ろから、スレンダーといいつつCカップぐらいありそうな綺麗な赤髪ツインテで背が低めの小悪魔サキュバスさんがやってくる。


「んー、あなたはどうやって来られたの? 隠密系の眷属さん? 顔が見えないから、見たいナー、なんて」


 小悪魔ちゃんかわいい。いたずらっぽい笑みで、こちらを覗き込んでくる。


「分かったよ。だけど驚かないでね」

「うん、約束するよっ」


 小悪魔ちゃんは小さな声で元気よく返事すると、後ろに下がって口を自分の手で押さえた。うーん、あざとい! 好き!

 最後の全身ムチムチボディの金髪ロングさんも両手を口に当てる。


 私は……鉄柵で日光が当たったあたりまで自分の体を前に出してくる。


「……ッ!」


 息を呑む雰囲気が感じ取れる。まあそりゃあ私おもいっきり魔族だし、あと青いし、びっくりだろう。


「私は、二代目ベルフェゴール。中身は先代とは、みんなからは全然違うって言われてるけど……いろいろ事情があってね。能力には自信があるよ、サタンにだって絶対負けない。きっと、ルシファーや、ベルゼブブにも。私は、今イデアさんに協力している。他にもたくさん仲間がいるんだよ」


 もうちょっと話そうと思っていたけど、なにやら一階側に動きがある。見回りなのかもしれない。


「絶対助けるから、待っててね」

「ベルフェゴール様……」

「あ、名前はきゅうけいさんって呼んでね」

「……へ?」


 時間切れ! 階段の所で出くわす前に、スピードアップ!


「またね」


 最後の言葉は聞き取れなかっただろう。私は三人の止まった姿を名残惜しくも視界から外し、階段を駆け抜けた。

 ウサミミ獣人さん、二人目がいらっしゃった。やはりかなり危ないところだったらしい。


 サキュバスさん……次はお日様の下でおしゃべりしたいな!

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