きゅうけいさんはピンチに再び現れる
……ん……?
あ、そうだった……思いっきりぐっすりねてた……。
睡眠不足は……解消されました! たっぷり寝た! そして時間は……おひる! これは間違いなく食っちゃ寝生活! 人類の最も正しい生活スタイルです!
え、違う? おかしいな……。まあよくよく考えてみると、今この場に人類一人もいないからね!
「んん〜っ……!」
目を閉じて気持ち良く伸びをする。おひさまのところにでてぽかぽかニヨニヨ。ぼ〜〜〜っ……うへへ、日光きもちいいですなー……。
「……!」
「あっ!」
目を開けたらびっくりした……こ、このマイペースな寝起き姿、思いっきり見られた。すぐ横に獣人少年がいた。獣人獣人いってるけどケモミミ少年という分類である。
微妙な差だって? 庵奈に言わせれば、そこは一番重要らしい。
まあそんなわけで、なんだっけ、ベータ……忘れた! 犬耳少年と今目が合ってお互い凍り付いています。
「……え、えっと、どーもどーも、きゅうけいさんです……」
「……はあ……どうも……」
あっ、お返事かえしてくれた! この子は良い子です決定!!
「んと、何か用かな?」
「ううん……特に用というわけではないんだけど」
私をずっと見てたってことなのかな?
そして……寝る前に聞いていたこの子のことを思い出す。そうだ、この子は魔族に両親を殺された子。決して軽い気持ちで私を見ていたわけじゃないんじゃないだろうか。
「い……一応、人間の味方とか、してたり、します」
「あの、聞きました」
……ん?
「聞いたって?」
「あの、その……エッダ、さん、に」
……! エッダちゃんと既に会話していたんだ! ってことは、私についてはエッダちゃんがいろいろ言っていたということになる。
……だ……大丈夫かな? 自分で言うのもなんだけど、エッダちゃんの私への、その……信頼度というか、信仰度というか。PIEとかステータスがあったら悪魔崇拝でマイナスに振り切れてるんじゃないかと心配になるぐらい、エッダちゃんは私のことを信頼してくれている。
「ど……どんな説明をされたか、聞かせてもらってもいいでしょーか……」
「い、いいよ。でも長くなるよ」
な、長くなりますか……!
そして、私は彼……マイケル君の説明を聞いて卒倒しそうになった。いや、卒倒した。最後の方は気がついたらロッキングチェアに座って虚空を見ていた。
エッダちゃんはダークエルフの集落を世界で唯一救える存在で、実際に聖女様が何人居ても魔力切れを起こして到底不可能なレベルの魔力を融通して救ってくれたとか、集落が魔物に襲われてピンチになった際には圧倒的な力で救ってくれたとか、それはもう沢山、熱意バリバリに話されたらしい。
「……なんか、エッダさん、すげーなって……」
マイケルくん、遠い目をしている。ああっ、これは年若い少年が、見た目気に入った初恋の子に話しかけてみたら、濃いキャラにドン引きしちゃったパターン。
エッダちゃん、君はいろいろと罪作りだね! その原因の私にはとても言えないけどっ!
…………。
……それにして、そのエッダちゃんの話で、マイケル君は私を受け入れてくれたんだろうか。
「えっと、じゃあその、私のことは怖がらない?」
「エッダさんが『魔族狩り』だって話は聞いたよ。でもきゅうけいさんだけは全然違うって言ってたし、確かに他の魔族と同じに見えなかったし……だから俺も、えっと、きゅうけいさん? のことはエッダさんを信じて、信じることにするよ」
……そう、なんだ。ちょっと申し訳ない気持ちすら溢れてくるぐらい嬉しいね。
長い時間が経てば記憶も風化するとはいえ、魔族への忌避感というのは絶対になくなってないはずだ。それでも……私を信じてくれた。
「えっへへへ……ありがとね! 私は敵の大将の魔王より強いから、君のこともみんなのことも守るよ! これはエッダちゃんに誓って、ね」
「エッダさんに誓って、ですか。……ふふ、わかりました。魔族は怖いけど、きゅうけいさんは怖くないです」
ありがとう、マイケル君。
君の信頼に応えられるよう、行動で示してみせるよ。
そして……サタン。あなたはやっぱり敵なんだね。
こんな少年の両親を自分の部下に奪わせて、昨日もキャシーさんを殺すつもりで動いていた。……やり込んだDLCのように、RTAで完封してやるぞ。
「そういえば、他のみんなは?」
「みんなもう出ちゃいましたよ」
……………………。
……え?
………………じわっ……。
「……? きゅうけいさんってうわっ、え、ちょっときゅうけいさんマジ泣きっすか!? あ、ああえっと、どうしよ、どうしよ」
「ん、どうしたの……ってきゅうけいさん!? こらっマイケル、あなた何かひどいこと言ったんじゃ」
「こ、これは違うんだっておばさん」
「おばさん!? パトリシアさんか、お姉さん、でしょっ!?」
パトリシアさんの地雷を知らずの内に把握できるやり取りの声を聞いた後、顔をほんわかしたもので包まれる。……こ、これは……!
間違いない! パトリシアさんの包容力だっ……! DかEぐらいありますよね奥様!
私はもう即泣き止んでいたけど、おかまいなしに腰に手を回してしがみついた。役得。
「ああもう、よしよし……どうしたんですか?」
「えと、シルヴィアさんとか、もう出て行ったって言ったら急に泣いちゃって」
「あー……。あのね、きゅうけいさん。ユルトの街へ旦那とシルヴィアさんとエッダちゃんが行ったのは、あなたじゃ入っていけないだろうからと、無駄に負担させないように気を遣って行っただけなんだからね。晩には戻ってくるわ」
そ、そーだったんですか……。すっかりいつも一緒の団体行動のハブにされちゃったかと思ってた。確かにユルトの街に働きかけるのに、私が混ざってちゃ話にならないはずだ。
さすがに一人で暴走して泣いたのが恥ずかしくなって、ちょっと惜しみつつふかふかから顔を離して頭を掻いた。てれてれ。パトリシアさんのママパワー、最高でした。
「……ってことは、中にはまだ」
「ええ、パオラさんとイデアさんに、ミミちゃんがいますよ」
よ、よかった。
「ところで……」
「はい?」
「昼食だけど、食べますよね? マイケルも食べる?」
「わーったべますっ!」
食っちゃ寝生活を続行します! マイケル君も食べるみたいだ。パトリシアさんの昼食はどんなのかなーたのしみだなー!
-
「あら、我らがベルフェゴール様が起きたわね」
入って早々イデアさんがお出迎え。あっ、今日は服を着てらっしゃる。ゆったりめなシャツっぽいやつ。なんだかこれはこれで色っぽいというか……。そしてミミちゃんはイデアさんのお膝の上に乗って、ぼーっとしていた……と思ったら、私を見つけて手を振ってきた! きゃわわわ! 私もニコニコ顔で手を振り返す。
机の上には既に料理が出ていた。でっかいフライパンの上に、肉と野菜がのっかってる、青椒肉絲的なものみたい。トングでわっしわっしみんなに取り分けていく。
すでにパオラさんは席についていた。
「それじゃ、いただきます」
「わーおいしそう! いただきますっ!」
まずは一口! これは……これは! ケチャップマスタードソースッ! チャイニーズかと思ったらすっごくアメリカン!
こういうのもありかあ! これはびっくりだ!
「おいしいっ! トマトとマスタードのソース、おいしいです!」
「よかった、お昼のものも口に合ったようでよかったです」
私は昼食を満足顔で完食した。これも材料とか、詳しく聞かないとね!
「そういえばパオラさんは行かなかったの?」
「……はぁ、誰のせいだと……」
……え?
ぱ、パオラさんがなんだか私を責めるような目で見ている。あれ、私なにかやらかした……?
「私が行ったらイデアとミミちゃんを誰が守るのよ。きゅうけいさんが朝っぱらからいつ起きるとも分からない睡眠に入ったから残ったのよ」
おアアッ! そ、その通りすぎる! この環境で強い魔族が襲ってきたとして、イデアさんとミミちゃんの二人だけでいさせることはできない!
「す、すみません……」
「謝るよりお礼を言って欲しいわね」
「ああありがとうございますっ! パオラさん頼りになるっ! 最高! いよっ、男前!」
「最後のは余計ですっ!」
私とパオラさんのやりとりに、ミミちゃんがけらけら笑う。ミミちゃんが笑うとパオラさんもなんとも怒るに怒れないというか、ちょっと困った様子で頭を掻いてる。
やっぱりパオラさんとミミちゃんの組み合わせ、見てると楽しい。すき。
「……」
そしてマイケル君はミミちゃん…………が枕にしているそれをちらっちら見てらっしゃいますね。いけませんよ、確かに君の年齢であれは致死量の猛毒クラスだと思うよ。でもミミちゃん見てる振りみたいな態度はいただけませんね。
というわけで。
「あれ? どーしたの、きゅうけいさん? ———わっ!?」
「なんでもないよー。ほんとほんとー」
私はミミちゃんをわしっと持ち上げて、目を白黒させているイデアさんを横目にパオラさんの所まで行き、ひょいっと乗せる。
「え? あの、きゅうけいさん?」
キリッとかっこいい系だったのが、ミミちゃんがふとももに乗った瞬間におろおろし出す。かわいい系パオラさんにクラスチェンジだ。
「わあーパオラおねえちゃんだー」
「えっ……あ、えと……うん、パオラおねえちゃん、だよー……」
手のひらを前に上にぱたぱたさせてるミミちゃんの手を、パオラさんが拙い返事ながら後ろからきゅっと握る。はいもう癒し空間。イデアさんもくすくす上品かつセクシーに笑っている。……すげー、あのサイズだと笑うだけで揺れるんだ。
そしてマイケル君がやっぱりミミちゃんの方をみつつもチラチラとイデアさんの方を見ていることを確認。うんうん、仕方ないよね。
でも……ミミちゃんのことは魔族の見た目だけど受け入れているんだ。
マイケル君、ちゃんと相手の種族じゃなくて内面を見て……本当にとっても心の広い、いい子なんだろうな。
「ふふふ、なんだか賑やかな食卓ね!」
「そーですね! ……そういえば、キャシーさんは?」
「先に食べてて、軽く野生の魔物を狩りに行ってますよ。昨日の今日で不安ではあるんですけど、件の魔族を倒したと聞いたので、暫くは大丈夫かなと思います」
そうかあ、でもちょっと不安だな。
「待ってください」
と、ここで発言したのはイデアさんだ。
「きゅうけいさん、あの時シルヴィアさんがいなかったから気付いてなかったわ。昨日……ユルトの街へシルヴィアさんが行っていたとき、私が大量の魔物に襲われた話、した……?」
「————ああああアアアッ!!?」
私はそれに気付いて絶叫した。昨日のあれは、確かに急に襲ってきたし、異常な量だった。今から思えば、ユルトの街か、イデアさんを狙ったかわからないけど、何か目的があって出た量だろう。それをけしかけたのが、昨日倒した魔族と同じ個体である可能性は低い。初対面みたいな反応だったし、距離もあったからだ。
「【レーダー】!」
発動した魔法には、この付近の森が一斉にレーダーに映し出される。野生動物、そして魔物が別々に。そして村の外にいる獣人が何人かいるのと……!
「もう魔物が集まってきている! やっぱり攻めてきてるヤツ、昨日の一人じゃない!」
「えっ、きゅうけいさん!?」
「パトリシアさん、私、キャシーさんのところに行ってきます! パオラさんはここお願い! ……久々の兆スピード発動ッ!」
返事を聞く前に、私は意識を集中させる。時間停止した空間を、風の発動を抑えながらも走り抜ける。
丸太でできた村の高い柵を跳び越え、森の中に入る。木の間を走り抜けていくと、弓矢を構えて村の方へ走ろうとしているキャシーさんの姿が目に入る。まだ距離はあるけど、その弓矢が狙っている方には……狼の大群!
「間に合った! ここからは私の出番ッ!」
右手にいつものショートソードを出して、空中で静止した弓矢を通り抜けて魔物を斬る。キャシーさんの方を見ると、絶望した表情で視点は上を見ている。レーダーにも反応していたけど、空に浮かんでいるのは……ワイバーンだ。恐らくキャシーさんの手に余るだろう。
「首を落とさせてもらうよ!【ウィンドカッター】!」
手を上に上げて、相手の首を狙って魔法を発動する。ゲームでは触媒がないと魔法を発動できなかったけど、今の私には余裕だ。ただし右スティック押し込みによるロックオンはしっかり狙い通り飛ぶのをイメージしなくちゃいけない。
といっても、そのイメージというのはゲームの映像を想像すれば余裕なのだ。私は狙い通りにワイバーンの首に風の刃が通り抜けて、少し血が溢れたのを確認した。
そして意識して時間感覚を戻す。狼と翼竜が自分がやられた事にも気付かないまま、頭と胴体を切り離されて慣性のままに前方に転がる。
「ひいぃッ! …………え……あ……?」
そしてキャシーさんが、逃げながらも翼竜が急に落下したのを見て、足を止める。
「何が、起こって……あっ! きゅうけいさんですか!?」
「間一髪! 大丈夫だった?」
「ええ、大丈夫でしたが……あの、えっと……今、どうやって……」
「全部すごくはやいスピードで動いて斬って、ワイバーンはウィンドカッターで首を切り落としたよ」
解説すると、目と口を開けたままぽかんとしていて、すぐにはっとして魔物の方へ走って行った。
おっかけてみると、キャシーさんはワイバーンの体を急いで逆さにして血を抜いていた。その体をぺたぺたと触っていく。
「すごい……心臓部などを初めとして一切の外傷がないワイバーン! 首も殴打がほぼない状態……これ、すごい!」
お、おおっ? テンションアップしてらっしゃる。
「あっ、きゅうけいさん、これらの魔物はきゅうけいさんのものですよね、すみません」
「あげるよ」
「……え?」
「使い方わかんないもん。他、えーっと狼が十匹いたのかな? あれもあげるよ」
「い、言いましたね! 撤回はナシですからね! やったー!」
わわっ!? な、なんとキャシーさんが……ハグしてくれたっ! わーっわーっ! もふもふ! 犬耳ぺたんしてるのがちょっと首の辺りでぱたぱたしているっ! あああ〜もう報酬このハグでオッケーです! お釣りがきます! お釣りでエリクサーぐらい出しちゃいますっ!
そしてキャシーさんは、ハグをほどくとすぐに他の狼たちの血を抜きにいった。まだちょっとドキドキいってる。
魔物のランクとしてはやっぱり高い方だということは分かっていたけど、こんなに喜んでもらえるとは思わなかった。
「すっごい大量ですねこれ、困りました」
「困っちゃった?」
「アイテムボックスには、この量を持って帰ることできないなあって」
む、そういうことなら。
と私はひょひょいっとワイバーンをアイテムボックスの中に仕舞い込んだ。
「え? 今……」
「アイテムボックスの中に入ったよ。後でおうちかギルド付近で出そう」
「……どれぐらい容量あるんですか、それ」
「調べたことないけど、多分村全部ぐらいなら大丈夫」
キャシーさん、どんな反応になるかと思ったら、「あは、あはははは……」と笑い出した。……えーっと、えーっと……たのしいのは、いいことだね!
「じゃ、かえろっか!」
「はい。あの、言い忘れてしまいましたが助けてくれてありがとうございました」
「いーよいーよ、お礼はさっきのハグ一つでじゅーぶんだから! あっ……でも、もしよかったら……と、とととと友達になりませんかっ!」
ああっ、自然な感じでいけてたのに、最後の最後で緊張して丁寧語に戻っちゃった!
と、キャシーさんはきょとんと首を傾げた。あ、ぴょこんと耳が横に動いてかわいい。
「いいですよ?」
すっごくあっさりOKでました。
「ほ、ほんとに!?」
「きゅうけいさんが寝た直後にエッダさんと意気投合して友達になって、その時にきゅうけいさんがどれほど凄いかとか優しいかとか、そういう話をたくさん聞きましたので」
え、エッダちゃーん! グッジョブだよ! ほんとに気付かない所で頼りになりまくりだよエッダちゃん!
グッジョブだけどどこまで私が勝手に神格化されているのかちょっと怖いよ!
内心焦りつつも、私はキャシーさんと一緒に村まで帰った。
……しかし、昨日の今日でこうなるなんて、やっぱりちょっと警戒強化しないとだめだなあ。もっとしっかり意識しよう。
イデアさんには感謝しないとね。
-
村に帰ると、シルヴィアちゃんとエッダちゃんがいた。二人ともちょっと浮かない顔だ。
「あ、起きましたね。ただいま戻りました。って」
「おかえり、シルヴィアちゃん! どうだった?」
「とりつく島もなかったです……また考え直しますね」
むう、やはり今回の問題、どうにもストレートに解決しなさそう。
ちょーっと長期滞在になっちゃいそうかな? でも後ろ向きに考えずに、じっくりいられるならせっかくなので、この大陸も堪能して帰る方向にしよう。
うん、前向き前向きにね!






