きゅうけいさんは振り返る
ふー、寝た寝た。
具体的には三時間ぐらい。
睡魔とエッダちゃんのしめつける攻撃による攻防は実に4時間に渡った。そして夢を見ないほうのレムだかノンレムだか忘れた方に入ったのか動かなくなると、ようやく私のドキドキも収まってきたというわけだ。
……暫くね、今までのことを考えてたよ。
ちょっと女の子好きとかそういうのじゃなくて、すっかりこの二人とも長いなーって思ってしまって。
それぞれ世界に見聞を広めるために旅をしているとはいえ、特に私が振り回しているようなものだ。
どちらも、それぞれが種族の中で非常に大きな立ち位置の、優れた存在。そんな二人がずっと私の隣でいてくれている。
シルヴィア・ドラゴネッティは、古竜だ。レベルは6176。
でもシルヴィアちゃんは、そんな種族やレベル以上に、いつも私を乗せて飛んでくれる優しさ、今みたいな状況の時には進んでパーティの交渉から考察、解説などを全て担当してくれる頭の良さとリーダーシップが最大の魅力だ。シルヴィアちゃんのおかげでこのパーティが成り立っていると言っても過言ではない。
姉のトゥーリアさんを含めて、この世界で生きる上での必要なものを全て持っているんじゃないかと思うほどシルヴィアちゃんは完璧だし、私はシルヴィアちゃんがなければ今も山の中で寝ているだけだっただろう。
正直……依存してると思う。
最初は一人だった。今は、シルヴィアちゃんのいない生活なんて考えられない。
エッダ・モンティは、ダークエルフ。レベルは……180って言ってたね。いつの間にかすっごく上がってた。
そんなエッダちゃんは、私の癒し枠。でも……それだけじゃ収まらない。エッダちゃんの魅力はその知識や知恵、教養を超越したところにある『直感力』というか、『運命力』みたいなレベルのものだ。
真っ先に私の置いたエリクサーを村のために持って帰り、真っ先にビーチェさんの異常を病気だと言い当てて、真っ先に鳩巨人が鳩を操って山に集めているのに誰に言われるでもなく気付いた。
エッダちゃんがいない旅の結果がどれほど悲惨な結果になるか、想像するだけで恐ろしいほど。それぐらいエッダちゃんは活躍しているし、恐らくシルヴィアちゃんもそのことをちゃんと意識している。
でも……本当にエッダちゃんが魅力的なのは、その性格。『魔族狩り』でありながらも薬を作った私を信頼してくれたこと。そして、同じ集落の仲間のためならどこまでも無理をして気丈に頑張り、誰かが死ぬだけで後を追いかねないほど仲間への愛に溢れていること。
愛嬌を振りまいて優しくされるだけじゃない、自らが身も心も強く、本当に優しさに溢れた子。
この大陸でのトラブルが終われば、恐らくイタリア付近の方へ戻る。生前でもやらなかったような世界一周旅行の完遂だ。
それまで……私も二人に負けないよう頑張らなくちゃね。
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そんなことを真面目に考えていても、寝不足は解消されないわけで。
「ふあぁ〜〜っ……」
「あはは、きゅうけいさんが今日はとってもベルフェゴールっぽいですぅ」
むぅ、不眠の原因であるエッダちゃんにいじられるのは、ちょっと不満ですっ。あの布団に入って一時間〜二時間半付近でやってたコブラツイストはほんとやばかったよ! 私以外とは絶対眠らせるわけにはいかないね!
「その……もしかして、あたしも結構粗相をしちゃったでしょうか……」
「シルヴィアちゃんも影響あったけど、エッダちゃんが夢の中で馬にでも跨がってたのか私にすごいことしてたのに比べると、心臓爆発するぐらい寝顔が天使だっただけで何も問題ないよ」
「も、もうっ……相も変わらずいけない人ですね……!」
シルヴィアちゃんの照れ顔いただきました! 朝から元気を補充だっ!
「やっぱりレ……」
「ノーマルです」
「……両……」
「……。……多分、ノーマルです……」
既に起きていたイデアさんに突っ込まれて、だんだん自信がなくなってくる。そもそもそこまで男性に興味が持てないというのも原因の一つではあるのだけれど。
私の中で素敵な男性というものの判断基準は、紳士であり真摯であることなのだ。イケメンでもグイグイ来るのはお断り……といううちに、いつの間にかあまり意識しなくなってしまった。
それに、思い出したくない話もあるからね。
そんなツッコミを入れたイデアさんは立ち上がっていたけど、なんとミミちゃんが体にわしっとしがみついていた。なにあの面白コルセットほしい。でも掴まれているイデアさんはちょっとつらそうだ。
「ミミ、ちょっと重いよ」
「んゅ〜……」
「ほら、パオラの方に行って」
イデアさん、体に貼り付いていたミミちゃんをぺいっと引きはがすと、パオラさんにくっつけた。そのままひっつき虫と化したミミちゃんがパオラさんにわしっとしがみつくと、当のパオラさんは「え? え?」と本気で困惑している様子でとってもかわいい。ミミちゃんに絡まれるパオラさん、なんだかほんとかわいい。
「それじゃ、朝食に行きましょうか」
「はい〜」
「ええ、そうね」
「———はい!? え、あの、ミミちゃんこれ私、え? え、あの……あれ? ……ええ〜……?」
ほんとにミミちゃん装備したパオラさんかわいい。今度から積極的にけしかけようそうしよう。
朝食はパトリシアさんにお出しいただいた。なんだかパンっぽい白いのの中にレタス、その中に味の付いたお肉がくっついていてとってもおいしそう!
口に入れると……こう、リッチでお洒落なファストフードって感じ! 空港とかにあるやつ! 食べやすくて、おいしくて、それに栄養価も彩りも素敵な感じ。なんだパトリシアさん、料理めちゃ上手いじゃないですか〜っ!
「お母さん、今日気合入ってるね」
「あっ、こら! もう、言わないでよぉ〜」
……へ? も、もしかしてこれ、うぬぼれじゃなければ、私が昨日料理を作ったから対抗して気合いを入れたのを悟られたくない系でしょうか!
じゃあやっぱりいつもより豪勢なんだ! ああもう嬉しいどうしよう。
「これ、おいしいです! パトリシアさんの料理、私も作らなさそうなものがあって素敵! 是非ともこっちも教えてください!」
「それは是非とも! レシピ交換しましょう!」
やったね! パトリシアさんとの会話もとっても弾みそう!
「すっかり仲良くなって良かったですね、きゅうけいさん」
「うん! シルヴィアちゃんもありがとうね」
「お礼を言われるほどのことでもないですよ」
いえ、魔族を話に絡ませる交渉するリーダーは誰でもできるものじゃないと思います。逆の立場ならほんとめんどくさがってたと思うもん。
「それに、リックさんもありがとうございます。わざわざ昨日、街の人にきゅうけいさんを馴染ませていただくために村の中でも主要な方を呼びましたよね?」
「……昨日のあれで、わかりますか」
「皆、ある程度雰囲気が手練れという感じがしましたので。一人若い少年がいたのは気になりましたが」
若い少年。それは間違いなく、エッダちゃんを見ちゃったり、お食事中にイデアさんの魅力にやられちゃってた少年だろう。
「彼は、かなり以前の話なのですが、魔族に両親をやられてしまいまして」
「えっ……」
ど、どうしよう。思った以上に重い話だった。
それで昨日、目が合った瞬間に震えてたのか。むしろ、よくあそこまで受け入れてくれたなって思うぐらいのものだったと思う。魔族との確執、やはり多いみたいだ。
それに……どうしても気になっていることがある。
それはもちろん、あの魔物の蠅のこと。この付近にまで、ベルゼブブの手が伸びている。眷属にはあったけど本人には会えていない。
どういうヤツなのか分からないけど、間違いなく私の嫌いなタイプだということはわかる。だって同じ大罪の魔王だったマモンさんですら操っていたし、ビーチェさんだって間違いなく便利な道具ぐらいにしか思ってなかったはずだ。
「それは……踏み込んだ話をしてしまい申し訳ありません。差し支えなければあたしたちも来るときに魔族を倒しましたが、その時の魔族の色などがわかりますか?」
「ええ。そちらのきゅうけいさんとは違って、肌は赤一色です」
「間違いないですね、あたしたちが遭遇したやつと一緒です」
シルヴィアちゃん、そのことを確認すると今度はバトンをイデアさんに渡した。
「イデアさんはどうですか、恐らくその見た目は……」
「……間違いない、サタン様と同じ色だわ」
やはり、この辺りで暴れているのはサタンらしい。獣人を襲っているというのはわからないけど、恐らく人間を襲うのと同じで、魔王が人類を滅ぼすというものの一環として片手間に獣人も滅ぼしに来ているんだろう。
……先代アスモデウスだけでなく、こんな穏やかな村にまで……。
改めて思うけど、敵対している方の魔族って、容赦なく人類の敵なんだ。私も覚悟して戦わないとね。
「以前来た時は?」
「昨日も入ってきていたのですが、俺とボビーが相手をしてなんとか倒すことが出来ました。もう少し早ければ間に合ったのですが……だからボビーは、マイケルの親代わりをしています」
そうか、だから昨日は同じ村の入り口の付近にいたんだ。
「サタン……いずれ相手をしなくちゃいけないだろうね」
「きゅうけいさん……そうですね、あたしも頑張りたいところですがやはり大罪の魔王までは届かない。いざとなった時はきゅうけいさんの力が頼りになると思います。パオラは……」
「……私も、負けるつもりはないけど……相手は魔王だからね、レベル以上の大きな壁があるのよ。それに……かっこ悪いけど、どうしても……怖い、わね。自分の主人を殺せるほどの存在が攻撃してくるとなると、気持ちが負けてしまう」
そっか、パオラさんでもそうなんだ。やっぱりこの大罪の魔王っていう立場、かなり特別なんだなって思う。
シルヴィアちゃんやみんなのことを頼りにしていて、依存していると夜は思ったけど……せめて戦いだけは、せっかく偶然か必然か手に入ったチートレベルで、みんなのために活躍したい!
改めて、集まっている全員を見渡しながら、両手に力を入れて叫ぶ。
「任せて! 相手がサタンだろうがなんだろうが、私は絶対負けないから! みんなのことは、何があっても私が守るよ!」
そう気合一発叫ぶと、ぺたんと椅子に座り込んだ人がいた。
今のは……イデアさん?
「……正直言うと、ずっと怖かったわ。いつ先代アスモデウス様を滅ぼしたサタン様が私の目の前に来るのかって。私はサキュバスクイーンとしてみんなを守っているつもりでいたけど、私が自信満々でいられたのは、アスモデウス様がいたからって、それだけだったのよ。……空っぽだったの、私は」
「そんなことありません」
「え? ……きゅうけいさん?」
私はその言葉を即座に否定した。
「上司がよく出来てても、上に立つってだけで、責任とか取りたくなくて嫌がったりするんですよ。だってきっと、イデアさん以外は上に立ちたがらなかったんじゃないですか?」
「そ……それは、そのとおりだけど……」
「だったら逃げずに女王やったイデアさんは偉いですよ」
私、転生前はそれなりに自分が作業時間の割に仕事の内容をこなせていることに気付いた。最後の方はフルタイムで働いていて、当然仕事は他の人よりかなり処理できていたと思う。だから上司は、そんな私を上の立場にさせようと働きかけたことがある。チームの責任を自分が負うという立場。
私は……逃げた。
結果的にその話はお流れになったけど、その時に私の代わりに別チームの上司になった人は、頼るべき時に頼れず誰にも助けを求めないまま、結果失敗してしまったことがある。
上の立場というのは、本当に難しい。
「仲間が捕まった際も、それで責任感じた正義感で一緒に捕まっても意味はないんです。イデアさんは、ずっと待っててくれて、それで唯一サタンに対抗できる私が来ました。頼れる人に助けを求めるのは、間違いなくみんなをまとめる立場の人の役目なんです。……って、なんだか偉そうですね、すみません、へへ……」
ちょ、ちょっと前世を思い出して自分語りしちゃったよ恥ずかしいなオイ! 若干イキってたんじゃないでしょうかキャラじゃないっすよもうやめやめ!
イデアさんは……なんだか恥ずかしそうにぽりぽり頬を掻いていた。
「……そんなふうに考えたことなかったわ。気が楽になりました、ありがとうございます」
「敬語ナシだからね!」
「自分も大幅に丁寧語だったのに? あと偉そうにすみませんなんて言ってたけど、あなた魔族の中じゃ一番偉いんだからね?」
えっ? ……あっ、そ、そうでした。魔王様でしたね私。未だに実感わかないけど……。
「とにかく、戦いの場では私きゅうけいさんを頼りにしてくださいませ! ってことでひとつ!」
「ふふ……ええ、わかったわ。頼りにしてますね、私たちの魔王さま」
うん、強引に話をまとめたぞっ。
「それでは当面は……この村を守りつつ、ユルトの街へ探りを入れて働きかける方向でいきましょう」
「はーい了解ですリーダー!」
みんなが同意したところで、ふらりと睡魔が来た。
「……大丈夫ですか?」
「ね、ねぶそくなのです……きゅうけいをきぼうします……」
「あらら……わかりました。えっと、じゃあベッドを」
「———ねえ、庭のロッキングチェアなんてどうかしら」
えっ!
今提案してくれたのは……パトリシアさんっ!
「ほら、最初に家に来たとき興味深そうに見ていた……というか、とっても楽しそうに見ていたから、昨日のお礼にどうかなって」
「わあ! うれしいですあそこでねたいですっ!」
「ふふふ、あれ私のお気に入りなのよ。是非きゅうけいさんも使ってみてね」
な、なんとあの素敵なお庭の椅子を使ってもいいのですかっ! パトリシアさん大好き!
話を聞くや否や、私は即行飛んでいった。
そして今に至る。
「……だいしぜん……おひるね……」
後ろはログハウス、周りは森の中の別荘集合地帯みたいなすごい場所。
快晴の森の中ベランダの陰で寝るの、すっごくきもちいい……この環境、本当に芸能人の別荘にお邪魔した気分……もちろんそんな環境行ったことないけど、間違いなくここはそのレベル……。
「……あー……この椅子、すっごくいい……さいこー……」
用意されていたロッキングチェア、パトリシアさんのお気に入りだけあってとても気持ちいい。
「……えへへ……おひるねしまーす……」
……大きな睡魔が順調にやってきた……。
「……きゅうけい、はいりまーす……」
………………。






