きゅうけいさんは詳細を知る
シルヴィアちゃんが獣人のところへ行くのを見送って、私はこそこそ隠れます。
さて、ここで私の能力が久々に活躍します!
それは! 超人気ダーク系ローファンタジーアニメ、デーモンマンの歌詞で子供の頃から心の中でツッコミを入れてたスキル、デーモンイヤーは地獄耳!
そう! 魔族ことデーモン族の私の耳には、シルヴィアちゃんと獣人さんの声が聞こえるのだ!
「【ステータス】! あたしは古竜のシルヴィアよ。ちょっとあなたに話を聞きたいのだけれどいいかしら」
「こ、古竜様!? わ、私に何か用でしょうか」
これは、キリっとシルヴィアちゃんだ! エッダちゃんに最初に出会ったときにやってた、威圧感たっぷりのカリスマ古竜系美少女、シルヴィアちゃん!
そして相手は、今度は獣人の女の人ですね! ぺたんとした耳がかわいい! お近づきになりたい! ……んだけど、私の魔族スタイル丸出しの容姿で近づける可能性は低い。
シルヴィアちゃんの会話を慎重に聞こう。
「あなたたち、最近魔族に出会った?」
「……魔族、ですか。……そうですね……会いました」
「どういう種族か教えてもらっても?」
「見た目は全身が赤くて、目玉が黒くて不気味な男の魔族でした」
……あれ?
「そいつはどうしたの?」
「急に襲われて被害もあったのですが、村の男達が協力して追い払ってくれて。事なきを得ましたが、逃げられてしまいました……」
なんと、魔族も魔族、悪逆非道のデーモンだ。エッダちゃんを殺そうとしたヤツらと同じタイプの魔族だ。
話を聞く限り、間違いなく敵対種族だよね。……ああーっもーっ! 余計に私出て行きづらくなったじゃないのーっ!
「……なるほど、ね。もし見つけたら、あたしも対処してあげるわ」
「ほ、本当ですか! ありがとうございます!」
「その代わりなんだけど、サキュバスを見つけたら知らせてほしいのよ」
「分かりました。私はノース・ジャーニーのキャシーです」
キャシーさん! かわいい犬耳美少女のキャシーさん覚えましたっ!
「分かったわ。もちろん魔族が襲ってきた場合も連絡をちょうだいね」
「はい! 村にもシルヴィア様がいらっしゃったことを伝えてきます!」
シルヴィアちゃんが連絡の交換を終えると、そこから「是非村に」「急いでるの」と断りの返事をして、キャシーさんと反対方向に歩く。そして森の奥から、シルヴィアちゃんが出てきた。
「待たせたわね、さっきの話だけど」
「キャシーさんかわいい!」
「……聞こえていたの? 特殊スキルか魔法か……といっても他の人は聞こえていなかっただろうし、改めて説明するわね」
そしてさっきの話をみんなで共有。同時にイデアさんからも少し話を聞く。
獣人の種族、シルヴィアちゃんと話していたのがノースジャーニー村の一族。みんな犬耳ぺたんな種族らしい。
他にも何人か探りを入れているも、
「そういえば……イデアさんはぴーんと立った狼の耳の種族は知らないかしら? あたしが気付いた限りでは、西の方のそっちの人達は知っていたようなのよ」
「……フェンヴェーナの村か、ユルトの街ね」
おっ、結構詳しい。
「イデアさん、もしかしてその村のこと、知っているんじゃないの? 自分から名乗ったりしてたり……」
「……」
「……ねえ、あたしたちは本気で協力するつもりなの。だから聞ける話はすべて聞きたいわ。イデアさん……サキュバスが捕まった経緯、詳しく話してくれない?」
シルヴィアちゃんが、真剣な顔でイデアさんを見る。
「……そうね、秘密にしたところで仕方ないし、あまりにみっともないから少し恥ずかしいけど……今までの流れを話すわ」
お願いが通じて、イデアさんが事情を話してくれた。
最初、先代アスモデウス様とこの地に辿り着いたとき、イデアさんと部下のサキュバスチームは欧州での時と同じように、ちょっぴり男にちょっかいかける感じの生活をしていたらしい。
獣人の男は体力があって、そりゃもう好みだったとか。詳しくは聞けないけどね!
イデアさんはもちろんこのスーパー美女スタイルでありながらめっちゃ能力高いので、獣人の女の人からは目の仇にされて最大警戒相手として見られていたらしい。らしいというか予想できる。女として勝てる要素ゼロなのに戦闘能力最強クラスとかやばい。しかも他の男を何もしなくても釘付けにしちゃう。
警戒されつつも、イデアさんは割と自由気ままというか、そこそこいい男見繕っちゃうレディとして振る舞っていた。
「アスモデウス様の後はね……男を狩るのがとっても簡単なのよ」
「……ゴクリ……なんででしょう……」
「だって、あれだけの色香を持った魔王に抱きしめられて、結局お預け喰らった状態で解放されるのよ? そんな生殺しのまま『惜しい』という感情が男の頭の中に吹き荒れている中に、サキュバスの集団がやってくるわけ。それはもう吹けば飛ぶってぐらい男の理性は弱ってるのよ」
……ひ、ひええ……そりゃあそうですよね……!
魔王様の色香に包まれて『姦淫』しちゃいたい気持ちを抑えて、我慢しても得られるモノは何もナシ。ってところにやってくるイデアさんのレベル9000の魔力で繰り出される【魅了】の魔法による理性の壁への暴風。
いやー無理だね。ウスバカゲロウが竜巻の中で足踏ん張るぐらい無駄。
……しかしそんな生活も、長くは続かなかった。
話に出てきた、サタンの襲来だ。
「アスモデウス様は、私にサキュバスを全て連れて逃げるように言ったわ。私も戦いたかったけど、下級サキュバスは精々人間のAランク冒険者程度の能力。私が責任を持って守らなければ、それはアスモデウス様の筆頭眷属という立場への裏切りになってしまう」
そこで、イデアさんは断腸の思いで先代アスモデウス様にサタンの相手を任せて、みんなで逃げてきたらしい。
しかし悲劇はここで終わらなかった。
「帰って来ないアスモデウス様。それでも自由気ままな色欲にまみれた魔族がサキュバスなの。ある日、警戒の緩んだサキュバス達が獣人の村へ出向いたのよ。でも……」
イデアさん、一旦言葉を句切り、下を向く。
「……私は、誰にも言い出せなかった。ある日突然、レベルが1になっていたこと。だから私は……助けに入らなかった。入れなかった」
仲間から頼りにされ続けていた、筆頭眷属としてのプライドのある自分。だけど助けに入ることが出来ない。
それは……大きな葛藤だっただろう……。
「……捕まった仲間から、『どうして』って目で見られたわ……当然よね、今まで助けてきていたのに、急に逃げ出したんだもの。……毎日後悔の連続だった。何もかも忘れて、逃げ出したかった」
でも、逃げ出すことはできなかった。
「ミミに、出会ってしまったから」
その子が色欲の魔族であることはすぐに分かった。そして、恐らく先代アスモデウス様の忘れ形見なのか、全く別の個体なのかわからないけど……イデアさんが守らなければならない存在だということも。
同時に、今のミミちゃんを……二代目アスモデウスを見て、やはり筆頭眷属の自分がサキュバスの仲間たちを見捨てるわけにはいかないと思い直した。
だから、イデアさんは今も、この地でミミちゃんの能力を開花させようとしながら、同時に仲間を助けようとしている。
「だから、私はここを離れるわけにはいかない」
両方達成して、仲間にレベルのことを打ち明けて、ミミちゃんと一緒にみんなで過ごすことを目標にしている。
……色っぽい感じの人だけど、芯は本当にかっこいい人だ。
さすがパオラさんの友人。私は見た目が美人なだけで気に入っちゃってたけど、とんでもない。中身は見た目以上に魅力的な人だ。
私はイデアさんに惚れ直したよ。
「イデアさん……私、頑張って協力しますっ! 何ができるかわかんないですけど、出来ることは何でもしたいです!」
「ありがとう、きゅうけいさん。今でもベルフェゴール様に手伝わせるとかいいのかなって思っちゃってるけど、本当に心強いわ、頼りにしてます。特にミミの守りはいくらいても足りないですから」
「まーかせて! イデアさんもミミちゃんも私が責任を持ってお守りしますっ!」
私はミミちゃんをぎゅっと抱き上げる。んんんちっちゃい! かるい! そして……!
「わぁ〜っ! えへへ、たかいのすき!」
きゃわいいっ! もうね、こんなかわいい子のお守りを出来るのなんて報酬みたいなもんですよ報酬! ああんしゃーわせ〜っ!
「ふふっ、こっちは問題なさそうね。そして肝心のサキュバスについてなのだけれど」
「ええ、先ほど自分の中でも話していて整理がついたわ。恐らく……ユルトの方に捕まっていると思うわ」
ユルト。それはこの大陸の中でも大きな街で、獣人達の間では都市として使われている場所らしい。
「石で出来た家とか、木で綺麗に作られた家とかあって、失礼ながら私が最初に獣人を見て想像していたものよりかなり文明レベルが高いのよ。獣人は器用だし、街は綺麗なのよ、意外とね」
それは……興味ある!
「事情は分かったわ。それじゃあ今度はユルトの付近で話を聞きに行くのでいいかしら」
「ええ、お願いするわね」
そしてシルヴィアちゃんを先頭に、私は【レーダー】を使って周りの獣人の情報を見つつ、西に移動した。
到着したのは……大陸に来て最初に降り立ったところだ。
「第一村人アゲイン! 向こう1キロぐらい先に集団でいらっしゃいます!」
「わかりました、私はここにいますので後ろにいてください」
「りょーかいですっ!」
私はシルヴィアちゃんを見送って待機!
……と同時に、後ろから魔物が来ているのも気付いた。
「エッダちゃん、パオラさん、二人についててくれる?」
「ふえ? わ、わかりましたぁ!」
「了解よ。何かいるのね?」
「そうです! でもご安心を、なんといっても私は強いですから!」
そして私は四人の様子を把握して、後ろからちょうどやってきた魔物を狙い撃つ!
「【ロックスピア】!」
固い槍が後ろにいた魔物を打ち抜く! トレントっぽいのは一撃で吹き飛ぶ! でも今回は一体じゃない、結構な数が集まってきている。
私は右手に剣を出すと、レベルを戻す。これで私はレベル九京さん。ミミちゃんとイデアさんのためならちょっと派手な行動もしちゃう最強魔王様だっ!
「てりゃっ!」
レーダーに映る狼タイプの、魔物であろう紫色のそいつを剣で斬る! すぱんすぱん切っていき、空いた左手で再びロックスピア連射!
結構多かった動物の魔物はイデアさんに襲いかかりそうだったので、がしっと左手で牙を受けて、右手でびゅんっと斬り飛ばす!
「私にはいくら攻撃してくれても結構結構っ! だけど、綺麗なイデアさんの顔には傷一つ付けさせないんだから!」
終わりのないような敵の猛攻にも、終わりはやってきた。最後の一体を斬ると、ようやく侵攻が止まったのか魔物がいなくなる。レーダーを見ても、もう何もいない。
よーし、これにてオッケー!
「よゆーの勝利っ! ベルフェゴールに勝ちたければ、あとレベル百倍は持ってこないとね! まあ千倍あっても余裕だけどね!」
吹き飛ばしたトレントの残骸を見ながら勝利のポーズ!
「……あ、ありがとう」
「イデアさん、どうしたしましてっ。怪我とかなかったです?」
「え、ええ……ミミも全く魔物に触れてないから大丈夫よ」
「よかったー」
イデアさんもミミちゃんも無事だった! この美貌を守り切れたのは素直に嬉しい。すばらしいよきゅうけいさん、今日一番働いてる。
と自画自賛に浸っていると、イデアさんが急に私の手を握ってきた! ふえっ、これご褒美タイムですかね!?
「手の怪我はない?」
「あはは、あの程度の魔物なんて噛まれたところで無傷ですよっ。でも、心配してくれてありがとね! イデアさんへの攻撃を肩代わりして攻撃を受けることが出来て嬉しいよ」
かるーく返したら、イデアさんにまじまじと見られる。……あ、あの、背の高い美人から穴が開くほど至近距離で見られるの、やっぱり恥ずかしいんですけどー!
と緊張のあまり赤面してると(青面かな?)、すっと離れてパオラさんのところに行って私の緊張開放されてちょっと安心。そして美人が離れてちょっとテンションダウン。
「……きゅうけいさん……二代目とはいえ、まさか鏖殺女帝に攻撃を代わりに受けてもらうなんて。パオラ、あのね、きゅうけいさん良すぎ。わりと本気で羨ましいんだけど」
「ふふっ、あげないわよ? まあきゅうけいさんはみんなのきゅうけいさんというか、ある意味きゅうけいさんにみんなが集まってきて、今のパーティになってるようなものなのよね」
そ、そうかな? そうかも……! でもシルヴィアちゃんもエッダちゃんも最初は向こうからやってきたんだよね。
最初はちょっとトラブル続きだったけど、今となってはみんな仲良しだ。
……それにしても今の魔物多かったなー。もうちょっとレーダー警戒しておこう。あとシルヴィアちゃんの方は大丈夫かな?
現状心苦しいけど、もはやこういった事態を収めるにはシルヴィアちゃんの種族と頭脳に頼りっきりになるしかない。ううっがんばれ……!
「帰りました」
と思ったら無事帰ってきた! よかったぁ〜……。
「どうだった? 何か情報は得られた?」
「そうですね。情報量は最高で、内容は最悪です」
シルヴィアちゃんによると、どうやらユルトの街の奥に、厳重な警備でサキュバスが捕まっているらしい。そのまま処刑されたのかと思ったけど、まだ捕虜の状態だとか。
捕虜になったサキュバスが殺されてない理由は一つ。
「……私への復讐、ってところね……」
イデアさんを捕まえて、今までやられていた部分をやり返すというものだった。イデアさんの名前を出したときの女獣人達は、それはもう体から黒いオーラが出てると錯覚するほど恐ろしかったらしい。
「正直、調子に乗りすぎたわね。黙ってやられるつもりはないけれど、今までやらかしたことは素直に反省するわ……」
「あたしも話を聞く限り、イデアさんの自業自得だと……っちょっと待って!」
急にシルヴィアちゃんの様子が変わる。
「メッセージが来た。魔族が出たって! 戻るわ、【ドラゴンフォーム】!」
大きな古竜の姿になったシルヴィアちゃんと、今言われたことを頭の中で反芻して、みんなで頷き合って背中に乗る。
あ、ミミちゃんは私が抱っこして乗せました。高所恐怖症じゃなくてきゃいきゃい楽しんでくれた。かわいい! 天使!
-
さっきのところまで戻ってくると、すぐに異変が見えた。
魔族が暴れている場所は、大きな爆発があるのですぐ分かった。私の耳にはここからでも獣人達の悲鳴が聞こえてきていた。
「大変です……! 私、ここから狙い撃」
「加勢するッ!」
「へ!? きゅうけいさん!?」
『グルゥ!?』
エッダちゃんとシルヴィアちゃんの声が聞こえてきたけど、目の前でやられそうになっている姿を見て黙ってなんて見ていられない!
逃げ遅れた獣人の子と、悠々と歩く魔族の間を狙って……シルヴィアちゃんの背中から飛び降りる!
一気に近くなる地面に、両足でしっかり着地をする。正面にはいかにも生意気そうな赤いデーモン。後ろには獣人。
「おい魔族! お前の相手は私だっ!」
そう叫んで、ロングソードを出現させる! 鎧も装備だ!
緊張が走る————なんてことはなかった。
「魔族?」「魔族?」
正面と背中から、同じ台詞が聞こえてきた。
目の前でピンチそうな姿が見えたから何も考えずに勢いで来ちゃったけど、そういえば私が魔族でしたね……。






