きゅうけいさんは事情を聞く
衝撃の新事実、サキュバスの仲間のみなさま、まさかの獣人達の捕虜。
この話に真っ先に反応したのは、やはりパオラさんだった。
「えええ!? サキュバスの捕虜って、いやイデア、あんたがいながらどうしてそんなことになってるのよ!?」
その疑問はごもっともだ。何といってもイデアさんは、パオラさんと同格。その強さは間違いなく折り紙付きだ。
すなわち筆頭眷属で、レベル数千クラス。トゥーリアさんとかビーチェさんの世界の存在だ。当然、ただの獣人にやられるなんてことはありえないはず。
「イデアが本気を出せば、獣人連中なんてちぎっては投げちぎっては投げなんて余裕でしょ?」
「……そう、思うわよね……」
イデアさんが唐突に暗い顔をする。なんでだろう。
こういう顔をするってことは、イデアさんでは問題を解決できないってことなんだろう。でも、イデアさんで解決できないほどの獣人の戦略ってなんだろう。
だってイデアさんのレベルは、恐らく9000ぐらいのはずだ。だって全ての筆頭眷属は、大罪の魔王のレベルから1000ほど引いた程度のレベルであって……。
「……あ、私分かったかも……」
「きゅうけいさん? きゅうけいさんは何か知っているの?」
「知っているというか、予想というか……」
私は、イデアさんにやや確信を持って聞く。
「イデアさん、もしかして……レベル1じゃないんですか?」
その発言にパオラさんを初めとしてシルヴィアちゃんもエッダちゃんも目を見開き、そしてイデアさんは……寂しそうに笑った。
「さすがよ、魔王様。私は筆頭眷属……魔王様の筆頭眷属だから、魔王様を守れるほど強くなければいけないし、魔王様より上になるわけにはいかない。だから……【ステータス】」
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IDEA
Queen Succubus
LV:1
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やはり、イデアさんのレベルはミミちゃんに合わせて低下していたんだ。
「あの、イデアさん……もしよろしければ、その辺の事情とか、教えてくれないかなーって。私、イデアさんの助けになれたら嬉しいな」
「ベルフェゴール様……いえ、きゅうけいさん。ありがとうございます。あなたが味方だというのなら、私も心強い」
イデアさんは覚悟を決めて座り直すと、改めてパオラさんを見た。
「それでは話すわ、これまで何があったか———」
———話は先代ベルフェゴールの頃にまで遡る。
イデアさんは、当時のアスモデウス様とともに、人間の討伐に向かっていた。向かっていたといっても皆消極的で、男は眠らせてお楽しみ、女は手足を縛っては謝るぐらいで誰も手に掛けなかったらしい。
その間もパオラさんがどういうことになっているのか知ってはいたけど、声をかけることもできずに友人の暴走を見て見ぬ振りし続けたイデアさんは、心の中で謝りつつ王国の西側の戦士達を全て無力化させていった。
やがて先代ベルフェゴールが倒されたという話を聞いたイデアさんは、隷属魔法が解けたであろうパオラさんを、真っ先に探しに行った。
しかしそこには、もはやパオラさんどころか、ベルフェゴールの眷属のレッサーデーモンもどこにも痕跡がなかった。
そして先代ベルフェゴールに対して、先代アスモデウスは『謀殺されちゃったりしてないかしら?』と、当時から疑問に思っていたらしい。それもそのはず、先代ベルフェゴールは人間ではとても太刀打ちできないほどに強かった。
ただ先代ベルフェゴールは、このままいけば本当に人類を滅ぼして、動物も魔物も魔族も魔王も全部滅ぼして、最後に自分の筆頭眷属も殺して何もない地上で眠り続けるような生活を選びかねない、そんな気迫だったらしい。
「話聞けば聞くほど無茶苦茶なヤツだね……」
「やけくそみたいな話だけど……鏖殺女帝は強すぎたの。荒唐無稽な今の話を実現できるだけの、レベルと能力があったのよ。だから警戒されたのよね……」
そして他の魔王は、この人魔戦争の際に人間を全く殺していない、まるで人間側の存在としか思えない立ち振る舞いの色欲の一族に対して疑問に思った。
先代アスモデウスは、同胞殺しを行った他の魔王に警戒して、そして自分たちがどう思われているかを正確に把握してイデアさん達を連れて逃げた。昔憧れた西の果てまで逃げに逃げた。その果てにたどり着いたのが……ポルトガル付近からアメリカ大陸まで一気に飛んだってことらしい。
「じゃあ先代のアスモデウス様は、ここで……?」
「そうよ。ここで恐らく…………っ。……死んだわ」
……ん?
「恐らくって、どういうことなの?」
「先代アスモデウス様は、サタン様から私を逃すために身代わりとなったのよ」
イデアさんの発言に私が驚く前に、パオラさんが立ち上がった。
「サタン様がアスモデウス様を!?」
「……そうよ。そして……あれ以来見ていない。そして突然……私のレベルが一気に落ちて、気がついたらミミ……アスモデウスのマリーアがいたのよ。私は、アスモデウス様が負けてしまったことを察したわ」
それは……あまりに絶望的だ……。
「サタンは?」
「ええ、結局サタン様もあれ以来見てなくて……だから、あくまでアスモデウス様だけを目的に動いていたのね。……でも、お陰様で戦力は激減よ」
淫魔。そもそもサキュバスというのは男を色香で惑わせたり夢の中に入ったりする種族だ。その能力の示すとおり、男性特効であり、基本的に拳や魔法でガチンコするような魔族じゃない。
だから、筆頭眷属のイデアさんがレベル1になってしまったことで、色欲の一族は完全に主力を失ってしまった。
「だから、隷属させていた魔物ぐらいしか頼れるものがなくて。グランドイビルスコーピオンをミミの周りに配置して、当面の守りとしていたの。
……ぐらんど、いびる、すこーぴおん?
私はシルヴィアちゃんを見た。シルヴィアちゃん、ギギギと私の方を見て固まっている。視界の端でパオラさんが頭を抱えているのが見えた。
「……どうしたの?」
「ごめん、イデア。その蠍だけど多分討伐しちゃってるわ」
「えっ」
ごめんなさい、知らなかったんです。変わった魔物だなとは思っていたけど、まさかミミちゃんの守護神ポジションだったなんて……!
「ということは……」
「ええ、今ミミちゃんを守るものはなにもないわ。……仕方ない。こうなったら、意地でも一緒に行動しましょう。私自身もイデアに何かあったら後悔してもし足りないもの」
うん、そうだよね。
こうなったからには、意地でも協力したい。みんなで頷き合う。
「改めて、協力させてもらうわね、イデアさん。ところで本題の『獣人と敵対していて、捕虜になっている』という件なのだけれど、やはりそのレベルが影響して捕まってしまったという感じなのよね?」
「ええ……お陰様で、もう残っているのがレベル1の二人だけ。なんとかレベルを上げようとしてもこの辺りに弱い魔物もいないし……だからミミのメロメロチャームがどこまで通じるかわからないけど、練習だけはしておこうと思って」
なるほど、それで今の状況になってたわけか。
確かに、戦えないレベル1の二人で獣人に挑むのは無謀すぎる。無謀っていうか、当たり前なんだけどサキュバスって女が相手になるとぶっちゃけただの人間ってぐらいの能力だからね。チャームだけじゃ実質攻略不可能。
ゲーム中? ゲーム中では出てきたことないです。でもこんなセクシーなお姉さん実装したらちょっと攻撃ためらっちゃうね。DLC買っても、多分わたしのぼうけんはここでおわってしまったモード突入だ。
「わかりました、それでは今後は二人とも、あたしたちの『異種族友の会』の臨時パーティメンバーということでいいかしら」
「嬉しいわ、よろしくお願いします」
「っと、忘れてたわ。後でギルドに登録してもらうけど、パオラは正式にメンバーになったのでいいわよね?」
「もちろん。よろしくお願いするわね」
やったね! これでメンバーは六人! 大所帯……ってほどでもないけど、増えたね!
私たちは話も決まったということで、みんなで
あ、ごはんはイデアさんにも食べてもらいました。喜んでくれて私のテンションも最高潮。今なら何でもできるよ!
何でもは無理かもしれないけど!
それにしても……サタンか。
サタンは、DLCパッケージの裏ボスの一人で、最初に出会うことになる大罪の魔王だ。そいつと同じなのなら対処ができるはず。
なんといっても強かったからね、DLC。難易度の高いゲームの裏ボスの更に先のボス。制作者の「勝たせてやらねえ」っていう怨嗟の声が聞こえてきそうだったよ。
まあもちろんNPCじゃないだろうし、AI通りに動いてくれるとは限らないけどね。
私は……ふと、何か違和感を覚えた。
なんだろう、何か、重要なことを見落としているような……。
でもその違和感の正体は、分からずじまいだった。
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外に出た。からっと晴れた青空! 目の前に広がる白い砂浜!
「ん〜〜〜っ! さわやかっ!」
今日は休憩にしたい! こんなにいい天気なら、ぐーたらひなたぼっこをして寝たい! ビーチで優雅に! パラソルとサングラスと、ビーチチェアで寝たい!
「この砂浜でぐっすり寝たら、確かに気持ちよさそうですねぇ」
「あっ声に出てた?」
「えへへ、顔に出てました! きゅうけいさんのことなら分かりますよぉ」
え、エッダちゃんってば……! どうしてこう、私のツボを突いてくるかな! ミミちゃんとイデアさんという二大チャーム魔族が現れてなお、エッダちゃんの魅力は天井知らずだよ!
「……ね、ね! この一連の事件が終わったら、今度は私とエッダちゃんでぐっすり寝ない?」
「え、ふええっ!? あ、あの、私でよろしければ……!」
———よしッ! 気合十分!
これでもう、私は休憩のために修羅の如く働くきゅうけいさんです。エッダちゃんのとろけるチョコレートででろでろに溶ける日を夢見てがんばりますっ!
「あたし思うんですけど、きゅうけいさんって、わりとベルフェゴールというよりアスモデウスですよね」
「……ええっ!? そうかな!?」
自覚はな……いこともないけど!
「きゅうけいさん、面白いわね」
「でしょ? 私も友人になったのは最近なんだけど、見ていて飽きないわよ?」
あ、あっちは大人のレディーオーラむんむんのイデアさんパオラさんペア! どっちも背が高くてちょーかっこいい!
「えへへ、どうもきゅうけいさんです。あ、そういえば二人には私のことあんまり喋ってなかったよね」
「何か面白い話でもしてくれるの?」
「はいっ! えーと、私はですね、ある日突然ぐーたらしていたらベルフェゴールって種族になっちゃったんです!」
せっかくなので、私の成り立ちのことをお喋りした。もちろん転生に関しては伏せて。
イデアさん、落ち着いた美女って感じだったけれど、喋ると驚いたり笑ったり表情豊か。そしてその表情の全てが、コレ一つで絵画になりますよねっていうか、砂浜を歩くメートル越えおっぱいの長身水着美女の究極系みたいな人だからすごい。もう適当にカメラ連写しているだけで写真集バカ売れ間違いなし。
全てのグラビアアイドルを過去にする。というかイデアさんが本気を出したら全てのアダルトビデオも過去にしそうで恐ろしい。
まー少なくとも、それぐらいは余裕でやってしまえるのがイデアさんのルックスだった。もちろん目の前にいる私は……メロメロです!
あとミミちゃんの距離も縮まった。思えばこの中では白目部分が真っ黒というすげえ怖い見た目のはずなんだけど、その部分が自分と同じ見た目のミミちゃんにとっては、むしろ私が一番仲間意識というか、そういうのが強いのかもしれない。
ってわけでですね……ミミちゃんがすっごく懐いてくれました! ああああもおおおかわいいのおおおっ!
私はミミちゃんを抱っこしたり、おんぶしたり、肩車したりした。肌と肌が触れているだけでしあわせ! なんだか頭の上で「わーっ!」とかはしゃいじゃってて、もーほんと天使ちゃん! 魔王だけどね! このセルフツッコミそろそろしつこいかな!
「……きゅうけいさん、角をあんなに乱雑に握られて手綱みたいにさせられて、すっごく嬉しそうね……ほんとびっくり魔王様だわ……」
「ね、きゅうけいさんってきゅうけいさんでしょ?」
「さっきまでは意味不明な説明って蹴ってたところだけど……いややっぱりあれが休憩って感じには見えないわ、でも別人どころか印象としては逆ね。……ちょっとパオラが羨ましいかな」
「ん?」
「だって、レベルは据え置きで、あんなに魅力的になってるのよ。料理とか出されるとか思わなかったからびっくりしたわ」
「ヤマトアイランドでは現地のもっと複雑でエスニックというかオリエンタルな独特の料理も作ったわ。でもおいしいのよね。本当に、ベルフェゴールという括りにはできないってぐらい、きゅうけいさんはよくできた魔族よ」
「ほんと、うらやましい。……ん、そろそろかしら」
イデアさんが、シルヴィアちゃんのところまで走ってくる。
「そろそろ獣人の地帯に入るわ。だからできれば、シルヴィアかエッダが入ってほしいのだけれど」
「そうね。守りはきゅうけいさんとパオラの二人で十分だろうし。……きゅうけいさん、レーダーお願いできますか?」
「わかりましたっ! 【レーダー】!」
私が魔法を使うと、相手の位置が情報として流れ込んできて大体の様子を把握できる。
そして反応は……いた。表示が独特の人間。だけどさっき見た。あれが獣人だ。
「シルヴィアちゃん、11時方面に恐らく先ほどと似ているから、お願い!」
「了解!」
そして私たちは、シルヴィアちゃんが単独で動くのを見送った。






