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きゅうけいさんは人捜しする

 アメリカ大陸北半球はわりと荒野で砂漠の大地……なんてことはなく、結構森とかしっかりしている場所だった。昔っからこんな感じだったのかな。詳しくないのでわからない。

 といっても完全異世界だから全然違う場所でもおかしくないか。なかなか大自然は迫力あって、森の中を歩くだけで気持ちがよかったりする。想像してたよりも涼しくて、木洩れ日が周りのみんなに当たって髪の毛を照らして綺麗だ。


 さて、例えばこういう新しい場所に来た時、誰かに会話をするにしてもどうやったら関わり合いを持てるようになるだろう。


「これから誰か探して情報を集めようと思います。どうでしょうか」

「定番としては、口下手でも最強のパワーを持ってさえいれば、ピンチの時を狙って待ってから人助けをして、恩着せて会話の糸口とか掴むって方法があるよね。方法って呼んじゃっていいのかちょっと悩むところだけど」

「きゅうけいさん結構えぐい言い方しますね……」


 最初に考えたの私じゃないよ! でも全手段を含めて恩を売る以外の会話の糸口の方が少ないんじゃないかってぐらいの定番手段だ。

 だって……まあ、自分さえ強ければ圧倒的に楽だよね。


「それはもちろん有効な方法だし角が立たないとは思うけど……でも、誰かの危機を望むって時点でちょっと自分でやっててなんだかなあって思っちゃうし、あくまで偶然そういう状況になった場合以外ではやりたくないよね」

「そりゃあそうですね……」


 うん、やっぱり私はそういうシチュエーションを自ら望むっていうのは避けたいなって思う。ミーナちゃんのときはそういう状況だったけど、ああいうのって助けられた側以上に、助ける側が救われてるよなあって思っちゃう。


「考えてもそういう状況は来ないでしょうし、行動を始めないと何も始まりません。まずはあたしが聞いてきてみます」

「ううっ、ごめんねシルヴィアちゃん、頼りっきりで」

「いえ」


 先を歩いていたシルヴィアちゃんが、くるりと振り返った。


「あたしの友達が、他人がピンチになるまで待って恩を売るようなヤツじゃないって分かっただけでも嬉しいですよ」


 そう優しく微笑んで、再び前を進み出した。

 ……いや、ほんとそんな当たり前のことで良い人として扱ってくれるだけでシルヴィアちゃんも相当なお人の吉田さんだと思うよ。


 腕にエッダちゃんが捕まってくる。右腕がたいへん幸せになったところで、私を覗き込んでいる目と目が合った。


「え、エッダちゃん?」

「私は、思ってないですから」

「へ?」

「きゅうけいさんのお薬を勝手に使ったのは私です。本当に、お母さんは症状が重くて、もう喋ることもままならないほどに死ぬ寸前でしたから……」


 あの肉食系お母様、すっかり元気いっぱいなイメージしかなかったけど、そんなに酷い状態だったんだ……。


「私はきゅうけいさんが、ピンチになるまで待っただなんて思ってないですから」

「ああっ、それはもちろんそうだよ! でもやっぱり、そういう縁だったとしても私にとってエッダちゃんは本当に一番の特別だよ!」

「一番? 一番特別ですか?」


 そう、エッダちゃんは一番の特別なんだ。


「私はね、最初ミーナちゃん……っていう人間の女の子を自分から助けたとき、その挙げ句に最初は怖がられたんだ」

「……」

「シルヴィアちゃんはね、なんていったらいいかな……そう、シルヴィアちゃんが私の家や家具を壊したので、私が怒ったことから関係が始まったからちょっと特殊なの」


 思えばシルヴィアちゃんも、結構無理矢理な関係の作り方だったなあなんて今更ながらに思っちゃう。


「弥々華さんも、やっぱり会話の糸口はピンチを助けたところから。でも……エッダちゃんは違う。エッダちゃんは……私のこんな見た目に対して、()()()()警戒心もなく近づいてきてくれた」

「あっ……そう、ですね。怖い人にはとても見えませんでしたから」

「それだよ。その私の種族や容姿じゃなくて中身を想像して優しくしてくれるってところが、エッダちゃんのすごいところ」

「そうなんですか?」

「多分エッダちゃん以外じゃ絶対にできないことだよ。パオラさんぐらいの反応が普通なの」


 受け入れる、というのは言葉にすると簡単そうだけど、決して簡単なことではない。

 ただでさえダークエルフの集落を襲ったのが魔族なのだ、私が魔族ってだけで話も聞かずに敵対したとしてもおかしくはない。

 それなのに、無防備に寝ていた私に襲いかかるでもなく、そんな私の隣で無防備にも寝ていたのだ。


 それを意識した時、どれだけ私が嬉しかったか。


「エッダちゃんはね、私の中で絶対の存在なの。だからエッダちゃんのためだったら、なんでもできちゃうよ」

「きゅうけいさん……私も! 私もきゅうけいさんのためなら、なんでもできちゃいます! 私だって、私だってきゅうけいさんのこと……だ、大好き、ですからっ!」


 ———今、一瞬意識が飛びかけた。

 ああ、もう……! なんでこの子はこんなに可愛いのっ!


「エッダちゃんかわいすぎるでしょ……」

「え……ふえぇっ!?」


 私は、エッダちゃんのさらさらな頭を撫でた。腕に捕まりながら目を閉じて、「あっ……えへへ……」なんて言ってるものだから本当に破壊力がやばい。

 やばい。エッダちゃんがやばすぎて私の語彙力がやばい。


 パオラさんが、そんな私の表情を覗き込んで苦笑する。


「きゅうけいさん、だらしない顔してるわねー」

「うへへー」

「……もう慌ても否定もしないわね、全く……どうやったら先代の後にこんな極端なベルフェゴールが来るのかしら」


 それは先代が極端なだけです、私はとっても普通です!

 ……普通だよね?


 -


 森の中を散策していると、シルヴィアちゃんが第一村人発見!


「あれ魔物ですね」


 残念!

 シルヴィアちゃんは、その手前にいたウッドゴーレムともトレントともつかないよくわかんない魔物をさくっと一蹴する。

 キック一発で折れる木の幹、まさに一蹴であった。


「こういう魔物がそんなに多くいるわけではないとなると、この辺りで狩りをしている連中がいたりするはずですからね。きゅうけいさん、レーダーをお願いできますか?」

「あっ、そうだね! 【レーダー】!」


 私のレーダーは、索敵魔法……なんだけど、ちょっと性能がずば抜けている。普通はゲームのミニマップで、自分の付近の敵がどこから来てるか見える程度のものらしい。


「んんー……魔物、そこそこいるね。あっ! 左側! えーっと私から見て……って私が向き変えればいいんだった。そう、こっち方面!」


 レーダーを使ったまま、体の向きを九時方向に変更して、向こうを指差す。感じられるのは人間とも竜族とも違う、だけど魔物でも動物でもない反応。


「あっちに人っぽい反応ある!」

「わかりました、先行しますのできゅうけいさんは後ろをついてきてください」

「うん! 大分先だよ!」


 私は第一住人との出会いに期待を寄せつつ、シルヴィアちゃんの後を追った。

 魔物もたくさんいたし襲ってきたけど、前方のシルヴィアちゃんと後方のパオラさんがあまりにも強くて、私の出番はなかった。なかったっていうかずっとエッダちゃんに恋人繋ぎで腕に抱きつかれたままだった。

 いやー、こんな幸せな遠征でいいんですかねーうへへ。


 しばらく歩いていると、レーダーの反応がすぐ近くになった。


「そろそろだよ」

「分かりました。ちょっと先行しますので、その後についてきてください」


 うん、と返事する前に———


「———【ドラゴンフォーム】!」


 なんとシルヴィアちゃん、竜の姿になって飛んでいってしまった!


「なるほど、ね」

「パオラさん?」

「シルヴィアは、最初に古竜の自分の姿を見せて、上位種であり敵対種ではない竜がこの付近にやってきたことをアピールしているのよ」

「ああっ、なるほど……!」


 確かに理屈で言われるより、わざわざステータスを出すより、一番手っ取り早い方法だ。

 シルヴィアちゃんの竜がある程度ぐるっと空を飛ぶと、再びこちらの近くに戻ってきて人型の姿になった。


 シルヴィアちゃんの降り立った付近に行くと、ちょうど会話をしているところだった。相手は……男の人かな? 縦長の耳もあって結構おっきい。

 私はこっそり遠くから様子を窺った。


「……の場所には、人探しのためにやってきたのよ。ええ、見ての通りの竜族のものよ。何か情報をくれると助かるけれど」

「そういうことでしたら」

「探しているのは、イデアという人なのだけれど」


 イデアさんの名前を聞いて、男の人が腕を組んだ。


「イデア……いえ、知りませんね」

「そう、ありがとう」

「あの……イデアと……いえ、イデアという人とはどういう関係なのですか」

「……私は会ったこともないのだけれど、私の友人の友人、といったところかしらね。暫く姿が見えていないから心配していたそうなの」

「友人、というのは?」

「……パオラという人よ」

「そうですか……」


 狼耳の男は、一礼して去っていった。

 私はシルヴィアちゃんの近くにやってくる。

 シルヴィアちゃんは何やら考え込んでいるようだった。


「まずいですね」

「……どうしたの、シルヴィアちゃん」

「あれ、知っている反応だと思います。恐らくさっきの男は、イデアさんを知っている。知っている上で私に教えたくないと思っているはずです」

「え?」


 ど、どうしてそう思ったんだろう。

 確かに知らないって反応したけれど。


「表情が、少し変わったし……第一パオラのことを聞く必要はなかったはず。何より……」


 シルヴィアちゃんが、私の目を見る。


「『イデアとは』を『イデアという人とは』とわざわざ知らないように言い直したし、質問がおかしいです」

「え?」

「イデアのことを知りたいのなら、イデアの容姿や種族を聞くはず。あたしとの関係性を聞く必要はない。殺人があったと聞いて、人物名や時刻や場所を聞かずに言ってきた人の当時の位置を先に聞くぐらい不自然な質問だと思いますね」

「あっ……!」


 そりゃそうだ、どう考えてもイデアさんのことを教えたいと思うのなら容姿のことを聞くはずだ。関係性を探る必要性はない。


「竜であるあたしのことを警戒したり敬遠してはいないけれど、もしかしたら思った以上に難航するかもしれないですね……」

「ううっ、そうかあ……」

「……イデア、あんた何やらかしたのよ……」


 パオラさんの無力感の漂う声が後ろから聞こえてくる。確かにそうだ、パオラさんにとっては見知った友人。そのパオラさんから見て人間との友好関係でも大丈夫そうだからこちらに来ていると予測してやってきたのだろう。


「それに」

「ん?」

「イデアがこの様子だと、アスモデウス様は大丈夫なのかしら……」


 ……ああ、そっか。筆頭眷属のイデアさんの上に立つアスモデウスさんがいるんだった。一体どういう状況なんだろう。


「兎にも角にも、早く見つけたいわ」

「そうだね、もしかしたら状況はあまり余裕のあるものじゃないのかもしれない」

「うん」


 私は再びレーダーを展開し、別の集落と、イデアさん本人を探すことにした。




「この大陸、ひろいなあ……」


 分かってはいたけど、イタリアっぽい場所の海から海を探すのと、多少小さいとはいえアメリカ大陸の森林を探すのでは規模が違った。

 シルヴィアちゃんに乗って次の集落を探して、聞いてははぐらかされる、次の集落のものに聞いても知らないと言われる。次の集落では……これは素で知らない反応だったらしい。


「じゃあ反対側に戻ってみましょう」

「戻るの?」

「ええ、知っている集落の中心地にいるかなと思いましたし。ちょうど東ですよね、もしかしたら海からさほど離れていないのかもしれません」

「なるほど! 確かにそうかも!」


 そんなわけでずーっと索敵魔法張りっぱなしで探していたんだけど、未だに情報はゼロだった。

 捜査は難航というか、座礁していた。


「大丈夫ですか?」

「魔法自体は負担ないんだけれど、全くわからないね。それに……」

「……やっぱり、あれですか?」


 あれ。というのは、やはりあれのことだろう。


「魔物の蠅……」


 そう、魔物の蠅だ。

 海の近くには、ベルゼブブの眷属である蠅がそこそこいた。


「しかし、一つ分かったことがあります」

「何が分かったの?」

「イデアさんは、間違いなくここにいます。多分アスモデウスも」


 シルヴィアちゃんは、確証を持っているようだった。


「どうして?」

「ヤマトアイランドに比べて、蠅が多いんですよ。それはつまり、この付近で何かを探しているか、もしくは探し終えて監視しているか」

「……あっ、なるほど! そりゃあそうだ、何もないと思っているんだったら、こんなにたくさん探す必要ないからね」

「そういうことです」


 シルヴィアちゃんの話を聞いて、ふとエッダちゃんがパオラさんに聞いた。


「パオラさん。イデアさんって寒がりとか暑がりとかあったりしますか?」

「どっちかなー、あまりそういうのはなかったと思うけれど」

「そうですか……じゃあ、食べ物は何が好きとかはあったりします?」

「それも……いや、結構魚は食べてたと思うわ。山羊肉とかあの辺そんなに好きじゃなかったと思う。なるほど、海岸付近にいるかもしれない」


 エッダちゃん、ナイス判断! イデアさんの好きなものから逆算していって予測を立てていた。その位置は、今から探す場所とも一致する。


「それじゃ、海岸付近をレーダーに収めつつ、北に歩いていこう!」

「はいっ!」


 そしてみんなで、海岸付近の森の近くを歩いていく。ある程度歩くと獣人の集落があったのでシルヴィアちゃんが出向いたけど、イデアという名前を全く知らないと言っていたので引き返して南下することとなった。


 南側には集落らしい集落はこの付近にはなかった。サソリの強力な魔物がうろついてたからね、といってもシルヴィアちゃんとパオラさんの前ではザコ同然である。

 私? 今エッダちゃんと恋人繋ぎをするという重要な任務に忙殺されており手が回りませんっ!


 そんな海岸をいくらか歩いていると、レーダーに引っかかるものがあった。


「いた。意外と南の方だった。そっか、獣人ってあれだけ体に毛が生えてると、暑い場所は苦手だよね」

「ああ……確かに毛が濃い動物は寒い地方のためのものですからね。この付近にはいないはずです」

「うん。……それにしても、この反応は……まいったなあ……」

「……どうしたんですか?」

「間違いじゃなければなんだけど———


 ———最初から大本命、魔族の反応だよ」


 私の言葉に、一同緊張する。

 魔族ということは……もちろん相手は、アスモデウスしかありえない。


 そして歩いた先で私たちの正面に現れたのは……!




「……えっ!? こ、この近くにはだれもこないはずじゃ……! だ、だれなの……!?」


 なんか……すっごくちっちゃいピンクの魔族がいた。

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