きゅうけいさんは怒られる
「いってらっしゃいませ!」
「いってきまっす!」
私はダブルサムズアップをキメて、寧々ちゃんに見送られる。
ここ最近の日課だ。
「うへへ〜……」
「……きゅうけいさん、他人に見せられない顔になっていますよ」
「んふ、そうでしょうか、そうでしょうか……そうでしょうなぁ〜」
「もう……」
シルヴィアちゃんもそのことを突っ込みつつも、顔は仕方ないといった様子で笑っていた。
だってお見送りなのだ。それも毎日毎日、本物のお姫様とメイドさんからのお見送りなのだ。働く独身にとって、これが口元緩まずにいられるだろうか!
いいや、無理だね! 反語ッ!
「でも本当に、最近の寧々ちゃんは明るくて、人形みたいな見た目なのにお茶目で、可愛らしいですよね。あたしも微笑ましく感じます」
「私も寧々ちゃんとってもかわいいと思いますですぅ!」
うんうん、みんな納得の感想だ。
「……我は、間違っていたのかもしれんな……」
と、みんなが明るい雰囲気になっている中で突然ダウナーオーラを溢れ出させる弥々華さん。そしてそんな弥々華さんに文句を言うのは、もちろん……弥々華さん大好きな私!
「絶対違うって先に言い切るけど、理由を聞いても?」
「……きゅうけい殿、怒っているのか……?」
「怒るよ。私が大好きな弥々華さんのことをそんなふうに言われたら、そりゃ怒るよ」
「自分で言ってもか?」
「怒るよ」
即答だ。弥々華さんは、頭を掻きながら「そりゃすまん」と呟いた。謝ったので許します。
「……早い段階で、襲われていることは分かっていた。今はきゅうけい殿の薬のおかげでなんとかなっているが……。……そうだな、お主らに聞きたいが」
弥々華さんが、少し先を歩いてこちらを振り返る。朝日に対して逆光で、表情が少し見えづらい。
「寧々の父親は義髙だ。では……寧々の母親は誰かわかるか」
「えっ……」
「お妙だ。最上タエ。優しい女で、教養を持って嫁いできた町でも評判の美女で……」
弥々華さんが、顔を俯ける。
「……八年前、生命力吸収で死んだ」
「えっ……!」
「そうだ。寧々を抱きしめて、心配をかけまいと大丈夫と言いながら死んでいったのだ……」
そんな……巨人のやつ、まさか寧々ちゃんのお母様を既に殺していたなんて! ……そういえば、ずっと見たことがなかった。それでも、寧々ちゃんは気丈にも弱音を吐くことがなかった。そぶりすら、見せなかった。
……私は、元々許すつもりはなかったけど、ますます巨人のことを許せなくなった。
「それから我は寧々を地下に押し込めた。札だらけの地下。それからというもの、あの子は……寧々は……!」
弥々華さんは……堰を切ったように話し始めた。
「塞ぎ込んだが、すぐに治ったのだ。『母親呪い』などと詰られようとも、それでもすぐに元気を取り戻す」
母親呪い。母親が死んだ直後の園児か小学生に対して、なんて仕打ち……。
「ずっと元気だった……あの年齢で……そうだ、あの年齢でずっと我ら城の大人達を気遣っておったッ……!」
それは、ずっと弥々華さんが溜め込んでいたことであり、私達の知らない話だった。
知らなかった。初対面で全く辛そうな顔をしなかった寧々ちゃんが、それほどの凄惨な過去を背負っていたなんて。
いや、知らなかったのは当然だのだろう。あの子が知られないようにしていたから。それほどまでに、大人に気を遣っていた。
「でも、三人が来てくれて、寧々は変わった」
寧々ちゃんは、初めて会ったときから明るかった。
初めて会ったときから、ちょっぴりお茶目だった。
……それはどうやら、私達が来てからみたいだった。
「弥々華さん」
「ん?」
「でも、弥々華さんが不用意に城内で自由に遊ばせていると、もっと早い段階で寧々ちゃんがやられていた可能性もあるはずだよね」
「それは……そうだが……」
「勝手なこと想像で言っちゃうけど、弥々華さんは、それをやって自分が恨まれるのを一番いやがる人だと思う。だけど、それも含めて寧々ちゃんを幽閉した。……きっと私だったら、できないよ」
それは、本当に選択をする上で大切なことだ。
甘い顔をして、自由にさせて喜ばれるのは誰だって嬉しい。それで褒められたり、感謝されたりするのは誰だって嬉しい。
……たとえ結果が伴わなかったとしても、だ。
私は……私は、自分のレベル数十程度の陰陽師だったとして。
果たして寧々ちゃんを、札まみれの地下に押し込めるだけの決断ができただろうか。……反語だ、言うまでもない。
「私はやっぱり、弥々華さんってすごい人だと思う。それだけのこと、やってくれたんだから。だって……」
私は、弥々華さんの両肩を持つ。うつむいた顔の表情は、まだ読めないけど。
「まだ、寧々ちゃんは生きている。生きていたら、いくらでも取り返せる。いつでも、取り返せるんです」
「……きゅうけい殿……お主、は……」
「生きてさえいれば……生きてさえ、いれば……」
そうだ。
死んでしまったら、もうどうしようもないのだ。
定年を過ぎた年齢から、国民的漫画家になった人がいる。
作曲家から、定年を過ぎて歌手になった人の話も聞いた。
生きてさえいれば、その先はあるんだ。
私は……もうない。
だから、この世界でできることは、何だってやりたい。
自分の力で生かせるのならば、何としてでも生かしたい。
あんなにおばあちゃんが死んで泣いたのに。
お父さんとお母さんにとっての私は。
年下の娘だった私はその比じゃなかったはずなのに。
終わる瞬間まで、気づけなかった。
命を救うという対象を、自分に向けられなかった。
最後まで、分かってなかった。
……私は、一度、失敗したのだ。
「私にとって、その選択が出来た弥々華さんは、やっぱり一番尊敬できる人なんです。だから、自分の選択に胸を張ってください、ね?」
「……。分かった」
弥々華さんが、離れる。
その顔は自信に満ちた、私の好きな顔だ。
「寧々は生きている。今までのことはその一点だけを考える。これからのことは……これから頑張るしかない。そうだな?」
「うん!」
「よし。では本日も向かおう。難敵への挑戦だ」
弥々華さんが胸を張って、ギルドへ歩き出した。
私は、シルヴィアちゃんとエッダちゃんとも頷き合って、弥々華さんの後を追った。
……まだまだ、これからだ!
-
ギルドに入ると、すっかりみんな見知った顔。サムライジョブな冒険者のみなさんとも顔なじみになって気楽に挨拶出来るようになった。
あっちの法術お姉さんも、なかなかの美人さん。
私は入ってすぐに、定位置となった座敷に歩いて行く。
「ん?」
その途中で、久々にその顔に出会った。
「鈴さん!」
「……魔族。今日も弥々華と一緒に?」
「はいっ!」
「……そう」
鈴さんは興味なさそうに小さく返事をして、そのまま出て行こうとしたところを弥々華さんに引き留められた。
「鈴殿」
「何かしら、弥々華」
「お主、鳥の巨人、天狗の巨人の話など知らんだろうか?」
「……以前から話題になってるやつね」
鈴さんは、少し面倒そうな顔をしながらも話に応えてくれた。
「で、そいつに何か用なの」
「我々は、どうにもそいつに城内のものがやられていると見ていてな。できれば鳥人間の妖怪か魔物は、討伐しようと思っている。何か情報はないか?」
弥々華さんが鈴さんにその目的を伝えた。何としてでもその情報が欲しいというのと、相手の情報があれば共有したいということ。
すると鈴さんが、見たこともないほど恐ろしい顔になった。
……でもそれは、一瞬だった。
「う……鈴殿……?」
「……いや、何でもないよ。私もその巨人のやつ、許せないなって思っただけ。……本当に、それだけだから」
「ならば、討伐に協力してくれないか?」
「……。倒すのなら私一人で倒すわ」
まさかの共同討伐拒否。
簡潔にそれだけ言うと、鈴さんはすぐに出て行ってしまった。
「……鈴さん……」
「きゅうけい殿はどう思う?」
その姿を目で追いかける。
「やっぱり鈴さんには申し訳ないけど、怪しいと思う……。まさか鈴さんが、なんて思いたくないけれど」
「鈴殿がこちらに来たのも、数十年前だが……恐らく鈴殿は違うと思う」
「友達のよしみってんじゃなくて?」
「……そう、だな……」
弥々華さんも、何か言いづらそうだ。
……この二人の関係になにかあるんだろうか。それとももっと別の……?
「とりあえず、あたしたちもあたしたちで任務を受けましょう」
「……そう、そうだな。ああそうだシルヴィア殿。我らに出来ることをやろう」
確かに、その通りだね。
しばらく巨人の影は見なかったけど、それでもいなくなったとはとても思えない。私達は私達のできることをしよう。
今日の任務も、東の山だった。
薄暗い森の中は静寂ではあるのだけれど、それは静かで気持ちいいとはとても言えないほど、不気味な霧に包まれている。
霧に包まれている程度で不気味ということは普通はない。だけど私達は、連日の任務でこの霧から妖怪が現れることを知っていた。
「遠見の任務に就く者からは、今日の相手はどうにも鬼っぽいヤツだと言われていてな……」
「鬼、ですか?」
「いいや、我が見たからに鬼は今そこまで積極的に人間を襲うことはない。忍術だけでなく西洋の魔術を町の者が使うようになって長い、それらの人間は強いからな……鬼も頭が悪くない故、そうそう手を出してこないのだ」
そ、そうか。魔術法術も和洋折衷しちゃってたんだ。
だって鈴さんだって明らかに西洋魔法ばかり連発してめちゃくちゃ強かったもんね。確かにあんなのを魔法自体知らなかった鬼が対策を持ってるとは思えない。
「つまり……?」
「ああ。次の相手はどういう相手なのか全く分からないのだ」
私は、まずは次の相手を探すために【レーダー】を使った。
そしてレーダーに現れるは、遠くに一体だった。
……ん? 一体ほど飛んでいる魔物がいる。今度の敵は空からの援護とかも考えるヤツかな? 鴉巨人なら飛んでたらすぐに分かるだろうけど、ワイバーンとかが出てきたとしてもすぐに分かるはず。
私は上空を見ていたけど、何も見られない。
……おかしいな? と思って付近を探ると———
———蠅が、いた。
「【ロックスピア】!」
私は間髪入れずに、高速の魔法を打ち出して上空の蠅を潰した。目立ったかもしれないというかぶっちゃけ完全なる過剰威力だったけど、頭に血が上ってとても我慢できるものではなかった。
ヤツが……こんなところまで監視の手を広げていたなんて……!
「ちょ、ちょっときゅうけいさん!? 急にそんな目立つ魔法を撃って大丈夫なんですか!?」
「ごめんリーダー、大丈夫じゃない。でも我慢できなかった……蠅だったからね」
蠅だったから。その一言で、シルヴィアちゃんとエッダちゃんの表情が変わった。ルマーニャの町を襲った魔物の群れとケルベロス。ダークエルフの集落を全滅寸前まで追い込んだ暴食の呪い。その攻撃はまだ記憶に新しい。
「恐らく……」
「まだ関係あるかどうかわかりませんが、とにかく何か目的があって来たんでしょう。きゅうけいさんを追ってきたり、とか……」
「まさかこの距離を……と思ったけど、もうこっちに住んで長いからね、来てる可能性もあるか」
「こっちを目的に来たにしてはあまりに早いですが……いえ、今は考えるのはやめましょう。……きゅうけいさん、覚悟はいいですか?」
覚悟。それはもちろん、相手魔族という意味だろう。
会話の出来る同種族。そいつを、私は……もちろん……。
「……もちろんヤツの眷属なら迷わず討伐する。エッダちゃんの手前で手を抜くなんてことやったら、落胆されちゃうからね」
私は完全武装で、ショートソードも持ち出した。そんな完全警戒態勢の私達に、当然のことながら声がかかる。
「ま、待て待て待て! どうも我だけ置いてけぼりを食らっているようだぞ、ちゃんと説明してからにしろ!」
「ああっごめんなさい弥々華さん! ええっとですね、あいつらは私の地元でやらかした魔王の部下で……あっそうだ、レーダーに反応しない、黒い魔物が現れる可能性もありますので注意してください」
「分かった。強そうなヤツは任せても?」
「もちろんです!」
といっても、前回のレベルのとおりならエッダちゃんより強いヤツではないはずだ。ただ今回の相手は目的がよくわからない。
そうこう考えていると……目の前に現れたのはシャドウオーク。
「きゅうけいさん! やっぱりこれは……!」
「そうだねエッダちゃん。ダークエルフの森に現れたやつと同じ敵だと見て間違いなさそう」
「リーダー! 弓で先行します!」
「分かった。全員討伐に、あときゅうけいさんは討伐よりレーダーに集中してください。打ち漏らしがないように」
「まかせてちょーだい!」
そして私達の討伐任務が始まった。
まずエッダちゃんが弓で視界に入ったシャドウオークをどんどん射貫いていく。それはもうエッダちゃんの強さは半端なものではない、もしかしたらレベルが上がっているかもしれない。
目の前に現れた敵、全部が吹き飛んでいく。今回は相手の動きが素早いわけじゃないから、接近する前に全て倒されてしまっている感じだ。
……でも、そうは簡単にさせてもらえないよね。レーダーに集中すると、見えづらいけど……明らかに素早い個体が左右から囲むように展開している。
「シルヴィアちゃん、弥々華さん。左右から来ます。狼系ですかね? ああ、シャドウブレードタイガーなら虎か。二人なら大丈夫なはず」
「了解。私は左へ」
「では我は右へ行こう」
そうして二人は、現れたシャドウブレードタイガーを迎撃しに向かった。すぐに魔物を圧倒する音が聞こえてきて、レーダーからは大幅に数が減っていった。
……私は、ある程度敵が少なくなったのを確認すると、覚悟を決めて一番奥の相手まで歩いていく。後ろからエッダちゃん、その後ろに弥々華さん、シルヴィアちゃんがついてくるのが確認できた。相手魔族は逃げないようだ。
そして……対峙する。
予想通り、白い髪に赤茶色、体型は肥満って感じのやつだった。身の丈2mぐらいあるかな? 以前のやつより強そうだ。
ま、誤差だけど。
「……な、何者だ……! お前、お前は魔族……魔族だよな……」
「その質問は肯定だよ。人間の味方のほうの魔族だけどね」
私は……まず問答無用で集中して時間の感覚を高速にする。相手の開いた口に向かって……クリアエリクサーを流し込む!
「……っ!? んぶっ、グッ……」
相手が飲んだのを確認して離れる。
「ゲホ、ゲホッ……お前、今何を……」
「ただの状態異常回復薬だよ。毒じゃないから体調は大丈夫でしょ」
「……確かに……しかし何故だ……」
「質問。私人間の味方だけどあなたも人間の味方にならない?」
「なるわけねーだろ、何なんだお前、本当に魔族か?」
……即答だった。
「でもあんたも、ベルゼブブの命令を聞いて大変だね」
「なっ、お前! ベルゼブブ様のことを呼び捨てにするなど命知らずもいいところだ! どこで聞かれているかわからんのだぞ!」
このやり取り、全員にやる羽目になりそう。
「空中に浮かんでる蠅を潰したんだけど、そいつが監視を行ってるんだよ」
「……は?」
「だから、そいつがベルゼブブの目であり耳なの。あんたら眷属、誰一人信用されてないんだよ」
「……そ、んな……ばかな……」
やっぱり知らないようだった。こりゃ間違いなく部下には誰一人知らせてないね、ベルゼブブ。
「ね、私と協力関係にならない?」
「人間の仲間になるつもりはない。元々人間の味方をするつもりだった眷属を呪い殺すか操るかするためにやってきたにすぎないからな。しかしお前は危険だ、ここで……」
そう言った瞬間、相手が懐に手を入れて、赤黒い石を取り出す。複雑な模様が描かれているけれど、妙におどろおどろしい色とオーラを放っている。
「ここで確実に仕留めれば、俺様もベルゼブブ様に……」
……あの禍々しい魔石は———
「———【フレアソード】ォ!」
ぼんやり相手の魔族を見ていると、そいつが一瞬で死体も残らない勢いで、手元の魔石ごと燃やし尽くされた。
……この魔法は……!
「鈴さん!?」
そこには、魔族を魔法で一刀両断した鈴さんがいた。
「あなた、危機感がなさ過ぎるわ」
「あ、あの、すみません……ありがとうございました」
「やっぱり魔族なんだ、あいつらの仲間なのね」
「え……!? 違うッ!」
私は、あまりにもあんまりな評価に自分でも思った以上に大きな声が出た。だけど鈴さんは、そんな私の声量を歯牙にもかけてない様子で畳みかけてきた。
「どう違うの、あんたがどんな暢気な魔族か知らないけど、あれを使われたらどうするつもりなの」
「使われる、って」
「多分ね、あの魔石に組み込まれた術式と魔力は『大罪の吐息』を発動させるための立体複合陣よ。使い捨てとはいえ、あんなの手に持ってるやつ真っ先に殺さなければ駄目。使われたらおしまいよ」
あれが……あの異様な石が、暴食の吐息……!
「治します! 暴食の呪いは私は治せるから!」
「町中で使われたら? あいつが逃げて、ここ山縣ではなく、西の丘豊や北の廣崎で使われたら? あなたは察知して飛んでいくの?」
「……! それ、は……」
「話にならないわね」
……確かに、その通りだ。
察知できなかったら、エッダちゃんの集落のように、町のみんながやられてしまう。
「私はね、魔族も嫌いだし、あなたみたいなだらけたヤツは特に嫌いなの。なんでこんなのがいるのかしら」
「っ! 鈴、さん……」
「ちょっとあんたね」
「———今すぐ謝れェ鈴ッ!!!」
その声に反応したのは、シルヴィアちゃん……だったんだけど、その声に被せるように弥々華さんが怒鳴った。
今までで一番の怒り方だったので、これには一同、さすがに鈴さんも含めて驚いていた。
「え……おいおい弥々華……」
「お前さんがどれだけ働き者か、そんなの誰よりも親友の我が知っておる。だがな、だがな? 寧々は……寧々はお前の知らん所で既に三度は死んでいる!」
「な……!?」
「その間きゅうけい殿は、自分の魔力を使って大量の薬を作ってくれていた。それなのに……能力のあるお前は一体何をやっていた!? どこにも登録しないで、誰にも素性を明かさずに一人でほっつき歩いて……」
怒りに叫んだ弥々華さんが、徐々にトーンダウンしていく。
「……寧々はな、久々に心から楽しんでいるのだよ。最近来た明るい魔族に自分から友達になりたいと言ってな。我では……我ではだめだったのだ。ずっと閉じ込めていた我では、ただの現状維持しかできない我ではだめだったのだ……!」
「……弥々華、お前……」
「だから……お主にも、この甘っちょろい魔族のことを認めてやってほしいのだ……。もう、我にとってこの魔族がいなかった場合のことなど怖くて想像もできないほどだ」
弥々華さんが搾り出すように声を出して俯く。
……弥々華さん、そんなに私のことを評価してくれていたなんて……。最初に攻撃された頃からすると、とてもではないけど信じられない。……だけど……嬉しい……。こんなに、私のために……。
「……まあ、弥々華がそう言うなら、そうなんだろうね。……ごめんなさい、魔族の人。あなたが悪いことしているわけじゃないのに、あなたに当たるような真似をして」
「あっ、いえ……」
「……後ろの二人からも睨まれてるし、嫌われたわね。……まあ、いいわ。元々友人を作りに来たワケじゃないから」
「私は嫌いません!」
この人の当たりがキツイのは分かる。
だけど、同時にとても納得がいく。
それに……やっぱりこの人にもこの人の信念があるんだ。だからこれだけ怒ったりする。
同時に……ここまで村の人たちを大切に思って相手に辛辣に当たるような人、どうして敵だと思えるだろう。
こんな素敵な人、私が嫌いになるはずがない。
「私は……あなたを嫌うことは、絶対に、ありませんから……あなたとも、その、友人になりたい……友達と呼べる関係に……その、なりたい……なりたいんです……」
……伝えた。
鈴さんは、どうだろうか。
「……確かに、これは変わり者ね……」
鈴さんは目を逸らして、向こうに歩きながら、
「……なってもいいけど、今は保留するわ」
最後にそう言って去っていった。
……保留、保留かあ。……はっきり断られた前よりは進展したよね? なってもいいって言ったもんね?
あのかっこよくて超つよい美女が私の友達候補になりました。これは期待しちゃうね……!
それもこそれも……弥々華さんの、あの迫真の説得のおかげだ。
「……あの、弥々華さん。ありがとうございました」
「言いたいことを言ったまで。礼を言われるようなものではない。第一朝はお主が散々言ってくれたではないか」
弥々華さんが朗らかに笑って、確かに朝は随分私が言っちゃったなーって思い出して思わずこっちも笑ってしまった。
「帰りますかー」
「ああ、そうだな」
すっかり毒気も抜けて、私と弥々華さんはシルヴィアちゃんに乗って町まで戻ることにした。
……ちなみにエッダちゃんは、まだぷりぷり怒っていた。
「もーっ! きゅうけいさんをあんなふうに言うなんてぇ! 絶対ゆるさないんだからぁ!」
「エッダちゃんが怒ってくれるだけで私はもう幸せ絶頂だよぉ〜」
「なんできゅうけいさんは怒ってないんですかぁ!」
エッダちゃんの、私が怒ってないこと自体に納得していないという怒り方が、それだけ私のことを自分のこと以上に大切に思ってくれていると分かって、そりゃもう幸せですよ!
「……んー、鈴さんの事情がまだ見えてこないからかな? だけど町の人の命すっごく大切にしてるってわかったから、恨むに恨めない感じ」
「ううー……もぉ〜……そんなこと言ったら私が怒るに怒れないじゃないですかぁ〜……」
ちょっとふてくされながらも、私に抱きついてそれ以上は言わないでいてくれるエッダちゃん。というか、抱きついてくれている時点でアレがアレになって幸せすぎて怒りゲージなんて一ミリも溜まらない!
こんな幸せを味わっているのに、無意味に怒ってるよーな時間的余裕はないのです! デレデレに全神経を注ぎます!
「私はどんな時でも、エッダちゃんが私と触れ合ってくれるだけで幸せだからね。あーもー好き好き大好きー」
「はうぅっ……! そ、それずるいですよぉ……」
こっちからぎゅーってして髪の毛に顔を埋める。エッダちゃん照れてるよね。照れてる顔を想像してもうこっちも照れちゃう。
そんな幸せオーラ絶頂の中で、小さなつぶやきが聞こえてくる。
「この空気で一人でいるのはつらい……シルヴィア殿は会話相手になってくれないか?」
『……グルル』
「そうであったな、その姿では言葉を出せるはずがないな……」
そんな会話(会話?)を聞いて心の中で弥々華さんに謝りながら、私達は町へと戻っていった。






