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きゅうけいさんは襲われる

 結局甘味処を出たところで子供達に捕まってしまい、腹ごなしにと遊んでいるうちにすっかり晩になってしまった。

 子供は元気がいいもので、こんなに寒い場所でも薄着でスタミナの続く限り遊び回っている。私も昔はもっと元気で……と思ったけど私は子供の頃からほとんど外では遊んだことないんだった。

 子供達と別れて随分と傾いた夕日を見ながら帰路につく。


 ふと、鳩が一羽道の真ん中にいた。


「……これ、お前。こんな道中にいると危ないぞ」


 弥々華さんがその灰色の鳩を捕まえて、屋根の方へと飛ばす。今の、鳩が人間に踏まれたり蹴られたりしないように配慮してなのかな?


「弥々華さん、優しい」

「なに、別にそういうわけではないさ」

「そういう返し方できるところも優しいですよ」


 私の言葉を受けて弥々華さんは「そんなつもりはないんだけどな……」と呟いていたけど、ああいうさりげない気遣いが出来るあたりが本当にすてきだと思うよ。

 きりっとした喋りをしているけど、本当に心優しい人なんだろうなー。


「……なんだ、お主ら! 全く……早く帰るぞ!」


 気がつくとシルヴィアちゃんもエッダちゃんも微笑ましそうに見ていた。そりゃそうだよねー。

 私達はそんな素敵な弥々華さんの後を追って帰路についた。




 晩ご飯は本日も牛肉、いいとおもいます。味付けも良い感じで食べやすい。今日もシルヴィアちゃんとエッダちゃんはおいしそうに食べていた。

 大体好みを覚えたようで、もう苦手な物は出してくる様子がなかった。


 晩ご飯を終えて、本日も就寝に向かう。ちなみに初日以降、弥々華さんはずっと別で寝ていた。一緒に寝たいと言ったけど断られてしまった……。しゅん。

 部屋に戻ると、寧々ちゃんがすぐにやってきた。


「きゅうけいさん! ……ああっ、シルヴィアさんとエッダちゃん綺麗〜!」


 二人の服装、今日ほんと綺麗だよね。満面の笑顔でとてとてと小走りにやってきてくれる寧々ちゃん。かわいい。とってもかわいい。

 エッダちゃんも走っていって寧々ちゃんを抱き留めて、二人できゃいきゃい盛り上がっている。かわいい。やばいぐらいかわいい。

 シルヴィアちゃんは……ちょっぴりお姉さん側のスマイルといった感じで二人のことを穏やかに見つめていた。


 私は寧々ちゃんと一緒にやってきたお手伝いさんのところへ行く。


「どうでした?」

「はい。きゅうけい様の指示通り、はいぽーしょん、を飲ませました。本日三本飲みましたが、現在特に体調に異常は見られません」

「そ、よかったですです」


 今日は元気な寧々ちゃんのまんまみたいだ。やっぱりポーション、恒常的に持たせる方向でいって良かった。

 それにしてもきゅうけい様だって。敬称が変わる度にちょっと面白いんだけど。


「あの……」

「ん? なにかな、疑問があると何でも聞いていいよ」

「このお薬、もちろん印も書かれていますし売却などしていないのですが、どうしてこういったものを下さるのか教えていただいても……」

「友達だから!」

「友達……ですか」


 そう、友達だ。

 私は未だにずっとレジーナさんの言ってくれたことを頭の中で考えていた。

 それはもはや私にとってライフワークみたいなもので、友達を増やすことは私の中で現在最大の目的になっていた。


「寧々ちゃんのお手伝いさんのあなたも、友達になりたいです!」

「え、ええっ!? わ、私のようなものが、弥々華様と気兼ねなくお話しなさっている方とご友人にさせていただくなど……」

「……やっぱり、私じゃ嫌、かなあ……もちろん無理にとは言わないよ……」

「あっ、いえっ! 嫌なことは全くありません……! ……わ、わかりました、この私、ただの手伝いの千世でございますが、あなたの友人の末席に加えさせていただければと思います……!」

「千世ちゃん……! ありがとう! 嬉しいよぉ〜っ!」


 私は改めて、そのお手伝いさんを見た。

 とてもかわいらしいショートの黒髪、瞳も、黒。顔立ちは優しそうで、服は手伝いさんといった感じのエプロンのような服装だ。

 にじみ出る母性オーラ。


「よ、よろしくね! えへへ……」

「あーっ、きゅうけいさんと千世が仲良くしてる! ずるい、私もっ!」

「あ、えっと寧々様、これはその」


 寧々ちゃんが、今度は私の方にやってきたっ!寧々ちゃんはサラサラストレートヘアを滑らかに動かしながら、私に抱きついてきてくれた。

 かわいい……。


「えへへ、私もきゅうけいさんと友達になりたいです!」


 ……! む、向こうから!

 向こうから言ってもらえたの、今……!


「あ、あう、えっと、うん、もちろん、だよ……!」


 あっやばい……やばいやばい! 今のは不意打ちだった!

 急にじわっと来て、涙が出てくる。


「……え!? どうしたのきゅうけいさん、あの、私……」

「違う、違うの!」


 思わず大きな声が出てしまって、みんなの視線が集まる。

 い、いけない、声を出さなくちゃ……!


「あ、の……私、友達になりたいって、相手から言ってもらったのは初めてだったから……ずっと初対面は避けられるような姿しているから……先日の温泉でも、友達になりたいって思った人に避けられたばかりだから……だから……だから嬉しく、て……」


 友達になってほしいという話は、占い師のレジーナさんの時にも言ってもらえた。でもあれは、やっぱり友達を増やすという占いの結果の流れの一つとしてだったと思う。

 こんな、小さくて無垢な女の子が、そんな事情も知らずにこんな見た目の私に言ってくれたことに、心がきゅーっとなって、じわっときて……。


「きゅうけいさん……」

「ほんとなの……ほんとなの信じて……」


 なんとも情けない、弱々しい主張だった。

 そんな私の身体を、抱きしめてくれる細い腕。


「もちろんですよ……きゅうけいさんは、知れば必ずみんな好きになっちゃいます。今回私がたまたまだっただけで、誰でもきゅうけいさんに最初に声をかけるようになると思いますよ」

「そう……かな……」

「っ、はい……! その温泉で会った人も、必ず友達になれます! 誰もそのことを信じなくても、私だけは最後にきゅうけいさんの友達になると断言しますっ!」


 ……ああ、そこまで言って貰えるなんて……。

 お姫様の、お墨付きだ。心強いなあ……。


 ……鈴さん。

 強い人。カッコイイ人。

 ミステリアスな人。

 そして……魔族の私を見て警戒した人。


 ……友達になれる、と、いいな……。


 私は寧々ちゃんを優しく抱きしめた。それこそ身体全体を覆うように、ぎゅーっと抱きしめた。

 そして寧々ちゃんを包み込んで———




 ———体力を吸収(サクション)される感覚に襲われた。




「ッ! 【レーダー】!」


 私が急に雰囲気を変えて叫んで、シルヴィアちゃんは一瞬驚いたけど、窓の近くに走って外を見る。……さすが判断が速い!


 ……しかし反応が速いのは相手もだった。

 私がレーダーを開いて探知し、シルヴィアちゃんからの確認の言葉をもらう前に、感覚は消滅した。


「……今、確かに……確かに体力吸収された」

「え……! きゅうけいさん、大丈夫だったんですかぁ!?」

「それ自体は問題ないよ、ただ……気分は悪いね」


 まさかあのタイミングを狙って襲ってくるとは思わなかった。


「完全に寧々ちゃんが狙われているね。しかもこいつ……すぐに消えやがった。どこいったんだ」

「消えた……ですか?」

「うん。レーダーからすぐに、まるで討伐し終えたように消えた。だけどこれは……これはありえない。あんな体力吸収しておいて、すぐに消滅するなんてことはないと思う。多分……見られて意図的に消えた」


 私はさっきの不気味なレーダーの探知、そしてその瞬間消滅の不気味さを感じていた。

 不気味だ……不気味だけど、それ以上に寧々ちゃんを狙ったということに怒りが湧いてきて、私はなんとしてもこいつを討伐したいと思った。


 ……そういえば、さっきからシルヴィアちゃんは外を見たまんまになっている。どうしたんだろう、何か見えるんだろうか。


「巨人が……いた」


 ……巨人……!


「本当なの、それは」

「はい、きゅうけいさん。巨人は間違いなくいました。大きな人型の影だったと思いますが……もしかしたらハーピィなどの類なのかもしれません」

「ああ、天狗もそういう種族だよ」

「でしたら、間違いないですね。頭が丸く、人間の腕が見られる種族でした」


 巨大天狗……? よくわからないけど、そいつが寧々ちゃんを襲っているヤツのようだ。ついに尻尾を捕まえたぞ……!

 ……気がつくと、腕の中で寧々ちゃんが震えていた。


 こんな、いたいけな罪のない子を……!


「きゅうけいさん……?」

「寧々ちゃん。私はね、友達は絶対に助ける主義なんだ。私とっても強いし、いろんなことができるから、だから……必ず助けてあげるから安心してね……!」

「っ……! はい! ありがとうございます……!」


 寧々ちゃん、私に捕まってようやく震えが収まった。そして緊張が解けて身体の疲れを思い出したのか、そのまま気絶するように眠った。

 千世ちゃんに寧々ちゃんを渡して、部屋まで運んでもらう。千世ちゃんからしても寧々ちゃんは運ぶのに苦労しないぐらい軽い子だった。


「……きゅうけいさん。私も……」

「シルヴィアちゃん」

「私ももちろんです」

「エッダちゃんも、だね」


 私達三人は、もうお互い、今回のことを中途半端に済ませる気はなかった。

 一度関わりを持ってしまったのだ、放っておくことなんてできない。


 それに……あんな小さな子のあんな顔を見て、何もしないままなんて、とてもじゃないけどいられない!


「パーティ『異種族友の会』リーダー命令。私達は、あの怪人の討伐を中途半端な気持ちではなく、確実に行うわ」

「了解」

「了解です」


 リーダー命令。

『異種友』は、本格的に巨人の討伐を第一目標とした。




 翌日朝、再び最上さんが起こしにやってきたとき、私達三人はすでに部屋に起きていた。


「おお、今日は皆早起きだな、偉い偉い」

「ありがとう、弥々華さん」


 私がはっきりと応える。

 雰囲気が違うのを、弥々華さんも察したようだ。


「……何があった?」

「寧々ちゃんが襲われた瞬間に立ち会いました」

「なッ!? ほ、本当か! 寧々は、寧々は大丈夫なのか!」


 取り乱す弥々華さん。やはり弥々華さんにとって寧々ちゃんはかなり特別な存在らしい。その慌て方は普通ではなかった。


「大丈夫です。私がちょうど寧々ちゃんを抱きしめていて……それで体力が吸われる瞬間に、代わりに吸われたから」

「そうか、きゅうけい殿が代わりに……なんとお礼をいっていいやら」

「お礼はいいです。そんなことより知りたいのは相手の情報です。私は……私達はもう、寧々ちゃんを襲った相手のことを許すつもりは全くありません」


 はっきり言い切り、シルヴィアちゃんとエッダちゃんも普段の明るい顔を潜めて、真剣に……少しにらみつけるように弥々華さんに対して頷いた。

 迫力と本気度に飲まれたのか、弥々華さんが生唾を飲んで……そしてその覚悟を知ると、私達に頷き返した。


「確かに、ここまできたら無関係ではいられまい。……問題はない、もうここ数日でそなたたちがどれほど信頼に足る人物であるか、我自身の目で確かめたつもりだ。……ついて来い」


 弥々華さんは立ち上がり……奥の扉を開いた。私達は顔を見合わせて頷き合うと。弥々華さんの後を追った。


 ……果たしてお姫様の部屋は、不思議な場所にあった。

 地下だ。すっかり上の方にいるかと思っていた。しかし相手から隠すという意味ではこれほど安全な場所もないのかもしれない。

 しかし相手が本当にあの巨人なら、高いところで一人だけいるというのは確かに明らかに無防備だ。


 地下は……恐ろしかった。

 札だらけなのだ。

 地下の階段を下りた先の扉、そこにまず大きな札が貼ってある。

 中に入ると……扉や壁はもちろん、天井にも札が貼ってある。

 とてもではないけど、まともな場所ではない。ちょっとやそっとじゃこの防御にすり抜けられる場所があるとは思えない。


「この封印……この部屋自体が檻でありシェルターというわけね……」

「そうだ、シルヴィア殿。城自体がこういった札で覆われてはいるが、この場所は特別だ。ここに入っている以上は狙われない。しかし……外に出るのはとてもではないが出せない。……ふふ、まさに檻だな」

「……そう、ですね……」


 私達がその札だらけの部屋の先の、また札付きのふすまを開けると、そこには寧々ちゃんと千世ちゃんがいた。


「えっ! きゅうけいさん、シルヴィアさんにエッダちゃんまで!? ど、どうしてここに!?」

「えへへ〜、朝から寧々ちゃんに遊びに来たいから来ちゃいました〜っ!」

「わわっ! あ……ふふ、ありがとうございます。朝からきゅうけいさんに会えるだなんて嬉しいです」


 私はぎゅーっとその身体を抱きしめた。

 顔を交差させるように腕いっぱいに抱きしめながら……正面にある部屋の壁の、多すぎる御札をにらみつけた。

 ハッキリ言って肝試しのお化け屋敷でももっとマシだというような、あまりにも暗くて不気味な部屋だった。

 光が全く差さない、光る魔石が多めにある程度の、お姫様が住むにはあまりにも薄暗い窓のない部屋。


 こんな……こんな部屋に、この子はこの年齢までずっと一人でいたというの……!?


 ……どんな気持ちで、私達に会いに来たんだろう。

 どんな気持ちで、私達の帰りを待っていてくれたんだろう。


「寧々ちゃん」

「えっと、はい?」

「私、寧々ちゃんが外に出られるようにがんばるからね。それに、お薬も沢山出せるから、すぐにでも外に連れ出すぐらい私ならできるからね!」

「……本当ですか」

「もちろん、絶対だよ」


 寧々ちゃんの身体が離れ、私の顔を見る。


「……きゅうけいさん、なんだか見た目は怖いのに、誰よりも優しくてあったかくて、不思議です……」

「見た目はね」

「ふふ……はい。でも見た目が怖いから余計に、優しくてびっくりしちゃいます。……あの、きゅうけいさん」


 寧々ちゃんが、正座をして私の前に改めて座る。


「どうか、私の身体のこと、よろしくお願いします」


 そう、両手を地面につけ、丁寧に礼をした。


「あのね、寧々ちゃん」

「……? はい」

「友達はね、もっと気軽に頼んでいいよ。もちろん親しき仲にも礼儀ありって言うけどね。でも、私は寧々ちゃんのわがままを聞きたいんだ。そうして誰かの役に立つこと自体が、嬉しくてたまらなかったりするんだよ」


 これはもちろん本心だ。

 誰だって、お姫様は王子様に憧れるものだけど。

 王子様だって王子様っぽいピンチの時に現れることに憧れる。

 私が男か女かとかそういうんじゃなくて、今のこの能力からできること、やるべきこと、やりたいこと。

 その全てが『寧々ちゃんの役に立ちたい』なんだ。


「じゃあ、じゃあ! えっと、私が元気になったら……一緒に外で遊びに行きたいです!」

「私も! よーっし、やる気出てきちゃった!」

「ええ、あたしも寧々ちゃんと一緒に他の子たちと混ざって遊びたいわ」

「えへへ、今度はほんとに、みんな一緒ですぅ!」


 寧々ちゃんが、目の前で涙目になっている。

 千世ちゃんが、近くでぼろぼろ泣いている。

 弥々華さんが、袖で少し顔を覆っている。


 ……きっと、長い間、袋小路だったんだろう。

 姿の見えない敵へ対抗できない不安。


 もう、中途半端には考えない。

 ……必ず、必ず私が、解決してみせる……!

面白かった、続きが気になる、更新頑張って! と思っていただけましたら、

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