きゅうけいさんはお仕事するつもりだった
朝起きて、二日目の床おふとん起床。
畳部屋での床でのおふとん起床だ! 旅館に連日泊まっているみたいでたのしい。
実際似たようなもんだよね待遇的には。
おふとんのなかで、ぐるっと周りを見渡す。
今日は早起きできたのか、両隣にまだぐっすり寝ているシルヴィアちゃんの天使の寝顔と、エッダちゃんの天使の寝顔がある。
ありがたやありがたや……。
……いやほんと、拝み倒したいよ。
こんな美少女連れてぶらり旅してるなんて、贅沢だね!
と思っていたら、エッダちゃんの方が身じろぎした。色っぽい! 拝み倒さなくちゃ!
「……ん……うん……?」
「ありがたやありがたや……」
「えへへ……ありがたやー……」
お、おお?
珍しくエッダちゃんの寝ぼけ顔が見られた。
「拝む相手はエッダちゃんだよー」
「ちがいます、きゅうけいさんですよぉ、ありがたやありがたやぁ……」
そんなふうに返されて、ちょっとびっくり。
「きゅうけいさんと出会ってから、楽しいことがたくさんなんですよぉ……すごいですぅ……、まるできゅうけいさんは神様ですねぇ……」
か……神様ときましたか……!
エッダちゃん、前々から私への好感度高すぎると思っていたけど、本当に信仰対象みたいになっております……神様というか完全に魔王ですけど……!
「そ、そこまでのものじゃないよう」
「いえ、そこまであると思いますよ」
えっ! この声は……シルヴィアちゃん!
「事態が好転することが本当に多いです。きゅうけいさんによって私の竜族の村は大幅に進みましたし、皆救われましたが、既に現段階でこの大和でも救っているものが多いですよね。私はずっと、そういうところがすごいなあと思っていましたよ。だから、拝みたいぐらいですね」
わ、わああ……! そんなに評価してくれるなんて、嬉しい……!
嬉しいけど、いざ自分がそう言われると恥ずかしい!
「あ、ありがとねっ! 私照れちゃうよ、二人のこと大好きだし、信頼してるし、もっと好かれる魔族になるようにがんばるよ!」
「今より好かれるとか、既に好感度振り切ってるから難しいですよ?」
「そうですよぉ、これ以上どこを好きになるかわかんないぐらい私もきゅうけいさんのこと大好きなんですからぁ」
あ〜っ、もう二人ともかわいすぎるよぉ〜……。
「うへへ……」
私はふとんの中からするする腕を伸ばして、シルヴィアちゃんの腰を……おふとんのこっちがわに抱き寄せる。
「わっ!」
そ、そしてエッダちゃんも……って!
エッダちゃん向こうからやってきちゃった!
「先制攻撃ですぅ!」
前後をぴったり挟まれた!
そして私が抱き寄せてるつもりが、前後から私が抱かれているような形になっている……!
これは……これは……。
「……しあわせぇ……」
「あたしが近づく程度でそんなに嬉しそうな顔されると、あたしも幸せな気分になっちゃいますよ」
シルヴィアちゃんは、自分が近づく程度という単純行動の攻撃力をもっと把握するべきだと思います。理性の壁への破壊力がすごい。こんなのベニヤ板VS鉄球クレーンってぐらい勝負になってない。
「えへへ、私も近づいちゃいますぅ……きゅうけいさんの近くにいるとしあわせですよぉ……」
そして、エッダちゃんの密着はですね……! 今お互いに就寝用の薄着でですね……! 当然、当たっていますね!
本当に理性の糸に対する攻撃力がやばい。絹糸VSギロチンってぐらい勝負になってない。
「ああ……もう、とけちゃうぅ〜……」
「……ふふ、あたしも気持ちいいですよ……」
「えへへぇ〜もっとぎゅ〜ってしちゃいますねぇ〜……」
「お主らほんとに仲いいな……」
うんうん、もちろん……。
……うん……?
「……弥々華さんっ!?」
私達は、当然慌てて飛び起きた。
み、見られた? 今の完全に油断しきった顔見られた?
「変に悪巧みしているよりは危険度が全く無さそうだからよいが……なんというか、我も見てるだけでちょっと近寄っていいのか困る空間になっておったぞ……」
「あ、あうう……すみませぇん……」
「いやなに、怒っておらんよ。朝食行くよな?」
もちろんです!
私達は、ちょっと恥ずかしくて弥々華さんの顔をまともに見られなくなりつつも、一緒に朝食を食べに行った。
昨日と同じメニューを食べ終え、再び部屋に戻ってくる。
「あ、そうだ。昨日の段階でちょっと気になったんですけど、寧々ちゃんのメイド……お手伝いさんいらっしゃいます?」
「おるぞ。呼んでこよう」
少しの時間待っていると、すぐにあのお手伝いさんが現れた。私は手元にハイポーションを十本出すと、そのお手伝いさんに手渡す。
「これ、簡単な体力回復薬なんで、適当な時間にがぶがぶ飲ませちゃってください」
「いただいてもよろしいのですか?」
「ぽんぽんつくれるからいいよー。それよりもいないうちに昨日みたいなことにならないか心配だから、そこだけ気がかりでね」
「ありがとうございます、必ず処方します」
「まあ普通のお水と思って適当に喉が渇いたら飲んでもらうぐらいでいいよー」
とりあえずこれで安心かな? まだ寧々ちゃんのレベルとサクションの効果を知らないけれど……まさか寧々ちゃんが弥々華さんより上のレベルで、ハイポーションで足らないなんてことはありえないと思うし。
懸念事項もなくなったということで、さっそく町中にやってくる。
町中の冷えた空気、やっぱりいいね! 結構きりっと寒いの好きなのかも。
「さて……昨日のことを考えると、やはり当面の問題は妖怪か」
「よくわからない話ですよね、妖怪が近寄ってきて体力を奪っていくなんて、よっぽど人間に姿が近いのかしら」
「それは……ないと思う……。皆のことは疑ってはおらんから安心していい」
うーん、弥々華さんがそう言うならそうなんだろう。
それより疑ってないって断言してくれたのが嬉しい。
「組合で何かなかったか話を聞こう」
「ええ、そうね」
私達は、早速朝の組合に顔を出した。
朝から人がちらほらいて、依頼の他にニュース記事みたいな感じで簡単な報告が貼り出されていた。
「……なになに? 小鬼討伐……これは別の若い者に担当してもらうとして……。……「天狗襲来か」「鬼の襲来か」「だいだらぼっちか」「牛頭の襲来か」……こういう派手な記事題をしておいて、最後の一文字に「か」と書いてあるのは大体憶測なのよな」
……あー、確かに分かる。
センセーショナルな見出しで「有名野球選手AとアナウンサーのB、まさかの電撃お忍びデート! か」ってタイトルなんだけど、文字メッチャデカイのに最後の「か」だけ右下の方に小さく書いてあるの。すっごくみたことありすぎる。
どこへ行ってもかわらないんだなあ。
「記事が多い。……話半分に聞くとしよう。何も参考にならないと思う」
「いえ、なんとなくわかるわね」
……え? 今のはシルヴィアちゃん?
シルヴィアちゃんはいくつかのものを見ていて、それで相手の実像をぼんやりと把握しようとしていた。
「何かわかるのか……? このような俗紙で」
「ええ。というか、なんとなく見えてきたというか」
お、おお……! そうなの!?
「天狗ってのは、どんな生き物?」
「そうだな……人型で、鴉の羽が生えたりしているやつだ。あまり敵対していない地域もある」
「大きさは?」
「人間と同じだ」
「そう。じゃあ天狗はナシね」
シルヴィアちゃん、あっさり天狗を候補から外す。
「鬼ってのは?」
「まあ、いろいろあるが……昨日きゅうけい殿が話題に出したが、巨人の類だな」
「ふむ……。だいだらぼっちは?」
「それも、山ほどもある巨人のことだ」
そこまで話を聞くと、シルヴィアちゃんは頷きながら一言、
「昨日の巨人の話の延長線上よね、これ。全部同じことなんじゃないの?」
「あ……!」
そうか、これって別に正確な情報じゃなくて、なんとなくの相手の特徴をいろんな人が見て感じたことを記事にしてるんだ!
ということは、正確じゃなくても当然のように参考になるわけで……!
「なるほど、そういう見方をするのか。まったくわからなんだ」
「ええ、あくまで勘だけれどね」
リーダー、本当に冴えてらっしゃる。この天才美少女シルヴィアちゃんに対しては、身体は子供でも頭脳派オトナ顔負けだね!
事実はいつも一つ! 名探偵シルヴィア!
放映された暁にはファン層が広く、視聴率はうなぎ登り。映画化もされ、脇役キャラクターのエッダちゃんの人気に火が付き、興行収入は億を超えるのでした……。
「……きゅうけいさん?」
「はっ!?」
いけないいけない、完全に妄想の世界に旅立っていた。
「それで、我らは結局どうする?」
「そりゃもちろん、地道に妖怪退治するしかないわよ。連日やって思ったんだけど、どう考えてもその巨人の出現と妖怪の異常発生が連動しているのなら、放置しておくと厄介だわ」
「ふむ、分かった」
私達は壁に掛かってある依頼を一通り見た。
何か昨日の段階で分かっている、何かの異常発生みたいなものが……。
……ん?
「それこそさっきのゴブリンって、普段からあるの?」
「ああ、もちろんだ。我も最初はそれを討伐したしな」
「きゅうけいさん、ナイスです。あたしたちはそれを受けましょう」
「え?」
リーダーのシルヴィアちゃん、まさかのゴブリン討伐を選択。
「この依頼は簡単なものだ。もっと若い者に」
「任せたら死ぬわよそいつ」
まさかの新人ではゴブリンに勝てないと断言をされる。
さすがにそれはないと思うんだけど……でもシルヴィアちゃんがこういうこと言うからには何か考えがあるはずだ。
しかし一体どういう意味なんだろう。
「お主は大和の冒険者を侮っているのか!?」
「侮ってないわ。侮ってないけど……竜族の村の戦士達よりは弱いわよね」
「うっ……そ、そうだが、比較対象が極端ではないか!」
「極端ではないわ。ちゃんと竜族が強いから戦えたのよ、そうだったわよね? きゅうけいさん」
……あっ!
「ゴブリンの個体が強い可能性があるってことなんだね!」
「ええ、そうです」
私からの答えを聞いて、シルヴィアちゃんは満足そうに頷いた。
そうだ、異常発生というものが似合うならゴブリンだ。そしてそれは数が多いというだけではない。
果たしてあの村に現れたゴブリンキングみたいな者はさすがにいないにしても、ゴブリンメイジのファイアーボール、ゴブリンロードのオークみたいな力の乗った攻撃……果たしてここの人たちに対抗できるだろうか。
「……そうか、お主らはマモン様と仲良くなったと聞いたが……一騒動あってのことだったのだな」
「そうです。きゅうけいさんがいなければ一体村は今頃どうなっていたことか……それぐらいゴブリンの上位個体は強いですし、小さい相手であろうと油断はできません」
納得だ。早速これを受けよう。
と、弥々華さんが手を伸ばすと……同時に手が触れた。
「お?」
そこにいたのは、鈴さんだった。
「……鈴もこれを?」
「ああ、ちとヤバイ予感がしてな。そちらもか?」
「そうだ、我ではなく、こちらの組の長シルヴィア殿が分析してな」
「なるほどな……よし! 一緒に受けないか?」
おおっ!? 鈴さんと一緒に受けるんですか!
「お主がそれでいいなら我も助かるが……シルヴィア殿はどうだ?」
「全く問題ないです、話を聞くと強そうな方のようですし、頼りにさせていただきますね」
「古竜殿に言われるとさすがにこそばゆいな。まあ、人並みに頑張るさ」
よし、決定だね。
私達は五人でその依頼を受けることに決めた。ギルドの人が言うにはどうやら既に向かっているパーティもあるようで、事情を説明して急ぎ向かうことにした。
移動は昨日と同様、シルヴィアちゃんの背中に乗った。
「こりゃ気持ちいい! 古竜に乗せてもらって飛ぶって最高だなあ!」
「ですよねぇ! あ、きゅうけいさん。どの辺にあるか分かりますか?」
「うーんとね、もちょっと右斜めだよ!」
『グルル』
シルヴィアちゃんが少し方向を変える。よしよし、その辺りの遠くだよー。
あと、さっきまであまり会話がなかったからか、今はエッダちゃんが希望して鈴さんがおしゃべりしている。
なんというか……結構あるコンビです! 眼福です!
さすがにトゥーリア&レジーナの酒飲み大人コンビには及ばないけど! というかあの二人は規格外すぎたけど!
「きゅうけい殿、ちょっと真剣に見過ぎだと思うぞ」
「えっ、あっごめんなさい! 私が尊敬していて大好きなのは弥々華さんですよっ!」
「へ? いや、そういう弁解が欲しいわけでは……まあ言葉は受け取っておくよ、ありがとう」
そ、そうでしたね別にそういう意味じゃなかったですよね!
はずかしーっ!
レーダーで把握した少し先の荒野は……明らかにゴブリン多すぎ問題だった。
うそ……ここのゴブリン、多すぎ? と両手を口に当てるポーズ。
しかし本当にわらわらいる。上位種もいる。
「くそっ、何だこいつら!」
男冒険者っぽい軽装鎧サムライさんが、ゴブリンをばっさばっさ薙ぎ倒しながらも相手から下がりつつ悪態をつく。
そういえば日本の特徴なんだけど、そもそも盾って文化が戦国時代とかろくにないよね。あることにはあると聞いたけど、ゲームで盾持ちサムライは見たことない。
これだけ刀とか武器に名工がいるんだから、身を守る盾に職人がいらっしゃったりバリエーション多くあってもよさそうなもんだけど、そもそもお侍さんがバックラー持って戦ったりってイメージ全くない。攻撃力全振りみたいな。
だからゲームのサムライジョブも、大体盾装備できなくて防御力低め。
つまり何が言いたいかというと、ここでもお侍さんは受けと撤退戦に回ると非常に不利なジョブだった。
ゴブリンメイジの魔法とか来たらサムライってやばいんちゃうかと。
「ゴブリンならまず任せてくれないか? 【ウィンドアローレイン】!」
鈴さん、開幕いきなり雨の矢を降らせる!
ウィンドカッターの超上位版? 威力は半端なく、しかも範囲は広大で軒並み穴を開けて絶命していくゴブリンたち。……って待って、全部? これ全部倒す勢いじゃないですか!?
と思ったら、まだまだ敵がいたのか奥からゴブリンが溢れてきた。ゴブリン側も火の魔法を使ってこようとしていたけど。
「随分しょぼいじゃないか、【フレアソード】! ほらほら本気で撃ち合おうよ」
鈴さんが放った火の魔法が、ゴブリンメイジを一刀両断するってレベルじゃなく、もう炎の剣の塊みたいなものを叩きつけられて、地面が沸騰して抉れるぐらいの攻撃を叩き出す。
……いやいや、いやいやいや!
弥々華さんが頼りにしてると言ってたけど、ほんとめちゃくちゃ強いですねあの人!? ちょっとぶっとんでないですか!?
「えっと、シルヴィアちゃん……」
「あたし達、出番ないですよねこれ……」
「はわわぁ、鈴さんかっこいいですぅ……!」
私達三人はすっかり見てるだけになった。
「あれが鈴だ、いざとなると助けてくれる」
「すごい人ですね……」
「我もよくは知らんが、非常に強い能力を持っていてな……遠くから来た妖怪なのかなと思うほどに人間離れした強さだ」
そうなんだ。
しかしそれにしても、ゴブリンに対する圧倒的な攻撃力……ちょっとびびってるよ今。自分の方が強いだろうけどそれはそれ、これはこれ。
「もっと、もっとだ。ゴブリンは何体倒しても足りない。【フレアソード】!」
再び炎の剣を出し、横凪ぎに吹き飛ばし溶かす。もうゴブリンでは抵抗できる手段があるように思えない。
やばい。マジで強い。どれぐらい強いかまるで把握できない。
本当に出番ないですこれ、いやいやマジで出番なしなの!? ゴブリンは昨日より数が多かったはずなのに!
どの辺が「人並みに頑張る」なんですか、鈴さん強すぎかっこよすぎっ!
……やがてレーダーから全てのゴブリンの討伐が終わったことが分かると、鈴さんにそれを伝えた。
鈴さんは大して疲れてないといった様子で笑った。
「よし、じゃあ戻ろうか」
そうして本日は、我々四名は何もせずに戻ったのでした……。






