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きゅうけいさんは御城を堪能する

 私達は唖然としつつもお城の中についていった。

 城の門番の人も、最上さんを見ると礼をして、私達を通してくれた。ほ、本当に狐娘が城の中の人だ……城主なのかな?


 それにしても……日本の御城だ。

 知っている人は知っての通り、日本の御城というのは数千あって、そのうち様々な理由で燃えに燃えて天守まで残っているのは十二しかない。その名も『現存十二天守』! なんかかっこいいね!

 そりゃもー木造は燃えやすいからね。御城跡によっては石垣が見られるかどうかさえ怪しい、なんてものも平気であったりするのだ。

 なので……この立派な国営放送の時代劇に出てきそうな御城を歩くというのは、復元された史料館か、それこそ国営放送の俳優女優にでもならないと、なかなかできることではない。


 そして私は……もちろんこういうところに入るのは好きです!

 もうね、綺麗なのなんの! ただでさえ和洋折衷な世界なので、そこら中にいろいろと面白いものがあるのだ。

 ちょっとずつ調度品に輸入物がありつつも、基本的なところは日本家屋のそれそのものという感じで、とても綺麗に出来ている。


「そうだ、ヤマトでは土足禁止だからここで靴を脱いでくれ」


 そうだった、すっかり向こうでの生活に慣れているとずっと靴を履いているのが普通になっちゃった。

 なんといっても履きっぱなしはめんどくさくないのだ! なんだか本当に私ってこればっかりですね! 仕方ないよ、ベルフェゴールだからね!

 都合のいい時だけベルフェゴールですねきゅうけいさん! 当然っ!


 板の間をぺちょぺちょ素足で歩く感触、なかなか悪くない。悪くないっていうかめっちゃいい。

 何か魔法の類でも使っているのか、城の中はなかなか暖かかった。もっとヤバイぐらい寒いかなと思っていたのでびっくりだ。

 シルヴィアちゃんとエッダちゃんも、コートの装備を解除して、普段の服装になった。


 そして……そんな日本の御城に声を上げて喜んでくれていたのが、エッダちゃんだ。


「も、木造! この国では、城を木造で作るのですか!?」

「うむ、ヤマトの城はほぼ全て木で作っている。火事には弱いが、風通しがよくカビなども発生しにくい。基本的に扉も廊下も室内も、木と紙と草の組み合わせでできておる」

「私、ヤマトの城好きです!」


 私はエッダちゃんが好きです!

 自分の国のことこんなに好きって言ってもらえるとやっぱり嬉しくなるね。最上さんもエッダちゃんの様子にニッコリだ。

 思えば籐も畳も、自然のものを使ったものは、エッダちゃんお気に入りだった。やっぱりその辺りがエルフらしさなのかな?


 最上さんが一つの部屋の前で止まった。

 そこを開けると……とても広い畳のスペース。


「追加分の料理の用意をさせるので暫くここで待っておいてくれぬか?」

「わかったわ」


 シルヴィアちゃんが返事をして、みんなで入っていく。

 畳の大広間に入って……もちろん私は真っ先に仰向けに寝っ転びます!


「わぁ〜……ひろい〜……きもちいぃ〜」

「……きゅうけいさん、ホンットぶれませんね……」


 ベルフェゴールだからね!

 という定番の言い訳をして、畳の感触を楽しむ。

 そしてそして、エッダちゃんも畳に……あっ、うつ伏せになっている。


「すんすん……ああ、ここら辺りのは新しいのか、草の香りがします……」


 エッダちゃんが畳に興味津々だ。

 ……な、なんだかちょっと、その……エッダちゃんが匂いを嗅いでいる動作、ドキドキしますね!

 だってその、うつ伏せになっているということは、それはもう潰れているわけでして……!


 私は畳になりたい……。


「なるほど、悪くないですね」


 あっ、反対側を向いたらシルヴィアちゃんも畳でうつ伏せになっている。


「仰向けになりたいんですけど、角が傷を付けてしまいそうなので無理ですね」

「いやあ、やっぱそうだよね。私も魔族の姿だと横向きで寝られないから不便だよー」

「魔族でそんな感想出ちゃうのきゅうけいさんぐらいですよ……ところで」


 シルヴィアちゃんはすぐに起き上がって、座りながら部屋を見渡した。


「この何もない部屋が、最上さんの部屋なのですかね?」

「来客用のスペースだと思うなー。でも他に来客がいないというのも変だし……」


 私達がそんなことを喋っていると……突然廊下側とは違う場所の扉、つまりふすまの先の隣の部屋の扉が開いた。


 そこには……お姫様がいた。


「……」

「……」


 無言で目が合う。

 もちろんお姫様、この中で一番目立つ私に視線が注がれている。


 私はその子を観察する。

 黒髪のサラサラストレート、黒い瞳。着ているものは白くて簡素な着物のような浴衣のようなもの。

 顔立ちは、それはもう超がつくほどの美人。


 一体誰なんだろう。


「あ、あ……」


 その子は怯えた目で私を見ている。

 すぐにリーダーが声を出した。


「こんにちは。あたし達は、モガミヤヤカさんに紹介されてこの部屋に待っているように言われたの」

「……えっ! あ、弥々華様のお客様ですか!」


 そ、そうか! そもそも私達が客人だってこと自体知らないんだ! そりゃーびっくりするよ! リーダーさすがですナイス!

 しかし『弥々華様』ときましたか。やっぱりあの狐っ娘、城主っぽいポジションで間違いなさそう。


「そうよ、古竜のあたしと、こちらの魔族のきゅうけいさんと、ダークエルフのエッダ。三人で一緒にモガミさんの討伐の手伝いをしたの」

「討伐のお手伝いを……古竜?」


 あっ、そういえば竜族は……。


「龍の方なのですか……!」

「え、ええ……遥か遠い地だけど、確かに竜族の村の者よ」

「すごいです、初めて見ました……!」


 お姫様、シルヴィアちゃんにとてとてと近寄って、隣に膝を突いて両手を掴んでキラキラした視線を向ける。

 こうやって見ると、エッダちゃんぐらいの小さめの身の丈だ。


「それに、なんとお美しい……」

「い、いやその……えっと、ありがとう……で、でもでも! 綺麗なのは私の姉上の方だから。私はほんと、その、ちんちくりんな方だし……」


 シルヴィアちゃんが姉のことを言うと、お姫様は反応した。


「姉上! 龍様にはお姉様がいらっしゃるのですか?」

「そうよ。あたしより身の丈も頭二つ分は大きいんだから。胸も頭と同じぐらい大きくて、村一番の美人だと思うわ」

「す、すごい……聞くだけで素敵です! 龍様のお姉様、一目でいいからお見かけしたいです……!」


 シルヴィアちゃん、姉のことを褒められてとても嬉しそう。むふーって感じでかわいいドヤ顔していて超かわいいっ!

 やっぱり良い子、お姉ちゃん大好きシルヴィアちゃんである。

 これ後でトゥーリアさんに伝えておこっと。


「ところであたしは龍様じゃなくて、そんなに偉くもない末っ子なの、気軽にシルヴィアって呼んでもらえると嬉しいわ」

「しるびあ、さん。シルヴィアさんですね! わかりました。今後はそう呼ばせていただきます」

「ええ……ところで、あなたのお名前は」

「あっ! 大変失礼しました」


 そう言って、お姫様は正座をし、こちらに微笑みながら言った。


「私は城主、最上義髙(よしたか)が娘、最上寧々(ねね)と言います、よろしくお願いします」


 ……なんと心の中でお姫様と呼んでいた娘、本当にお姫様でした……。




 スルスルとふすまが開き、最上さん……じゃあややこしいね。弥々華さんが出てくる。


「お帰りなさいませ、弥々華様」

「……寧々!? どうしてここに? あまり出歩くなと言っていたであろう」

「申し訳ありません、どうしてもじっとしていると退屈で……」

「……そう、か。城主の後に紹介しようと思っていたが、そういうことなら仕方あるまい」


 そういえば、いきなりお城の中に入ってごろんごろんしてたけど、当然ここの主に挨拶した方がいいよね。

 さっきの名前を聞くからに、よしたかさんが城主みたいだ。挨拶なしというわけにはさすがにいかないよね。


「お主ら、先に城主に挨拶してほしいが、来てくれるな?」

「ええ、もちろんです」

「うむ。それでは寧々、部屋で待っておれ。必ず後で向かおう」


 私達は、揃って廊下に出て、弥々華さんについていった。




 奥の部屋に、広いいかにもなスペースがあって……両隣には強そうなのやら賢そうなのやら、おじさま達が数人いらっしゃった。

 そして正面には……男の人。見た感じ思ったよりも若々しい男の人がいた。

 そう、ちょうど寧々ちゃんのお父さんぐらいの……


「弥々華様、そちらの方々が……」

「ああ、そうだ。こちらの三名が私を助けてくれたのだ。先ほども話したが、くれぐれも粗相のないようにな」

「わかりました」


 そう言って、弥々華さんは義髙さんの隣に座った。


 ……ん?


「初めまして、客人の方々。私が城主の最上義髙です。この度は弥々華様を助けていただきありがとうございました」

「いえ、こちらも会いに行くところでしたので丁度良かったのです。初めまして城主義髙様。あたしはシルヴィア・ドラゴネッティ。遙か遠き地より弥々華様の話を聞き来訪した竜族の長の娘です」


 竜族の長の娘、と聞いてざわざわとし出す。


「静粛に! ……我々の部下が失礼しました」

「いえ、気にしていませんよ。丁寧に対応いただき感謝します」

「そちらも竜族の方と聞いていましたが、大変に腰の低い方でこちらとしても助かります。住む期間もいつまででも大丈夫ですので、どうか不自由なことありましたら、遠慮なく申しつけて下さればと思います」


 ……えっ!?

 いつまでもいていいし、なんでも言っていいの?

 お礼にしてはすごすぎない? 私はエッダちゃんと顔を見合わせた。あっちも驚いた顔してこっちを見ていた。

 シルヴィアちゃんの方を向くと向こうも振り向いていて、私とエッダちゃんと顔を合わせて、すぐに正面を向いた。


「……あの、よろしいのですか?」

「ええ、弥々華様の恩人とあらば、余程のことがない限り追い出しませんし、とてもそんなことをする人達には見えませんからね」

「そういうことでしたら……ご厚意に与からせていただきます」

「良かった。……客人に食事を!」


 義髙さんが手をパンパンと叩くと、その和室にいた左側の人達が少し手前側にずれる。奥のスペースがちょっと空いた。

 そこに弥々華さんが降り立つと、手のひらを振ってきた。


「ほら、シルヴィア殿。こちらだ」


 どうやら客人としてあのへんのスペースに座らせてくれるみたい。結構な上座というか……いいのかな? と思ったけど、どうも話を聞いている限り……。


「ヤヤカさん」

「ん? 何だ」

「あなた、もしかして城主より偉い?」

「そういえば言っておらなんだな。まあ妖怪だから、これでもそれなりに年齢が高いので立場は上なのだ」


 それなり……それなりってどれぐらいなんですかね……?

 それ以上年齢のことに踏み込むのは失礼と思ったのか、シルヴィアちゃんが割って入って話を止めた。


「ま、そういうことなら遠慮なくこちらの席で食べさせてもらうわ」


 そして私は、そのスペースで横に三人並んで食事を待った。

 ……正面に、サムライって感じの男の人と、女の人と、おじさまとがいる。き、きんちょうする……だってみんな、思いっきり私ばかり見てるんだもん。

 いや、気持ちは分かるよ。だって私、めっちゃ青いし目とか黒いし、見るからに「こいつは悪役です!」みたいな見た目だもんね! みたいっていうか完全にゲームじゃ敵役だけどね私!


 どうどう、こわくないよー。私の名前はきゅうけいさん。笑顔で正面の人達に手を振って答える。

 サムライさんはびくっとして首だけ会釈、おじさまは顎に手を這わせて考える人のポーズ。女の人は……緊張しつつも手を振ってくれた!

 えへへ〜にやにや。あっ向こうもちょっと笑ってくれた。


「食事をお持ちしました」


 あっ、食事が来ましたね! あのちっちゃいテーブルだ! 時代劇で見たミニテーブルにテンションが上がる。

 メニューは……白米! 玄米かなと思ってたけどまっしろだすごい! そして肉があるよ、びっくり。味噌汁は里芋メイン。

 でもね……なんといっても、山菜の天ぷら! これすごくない!? まさか天ぷらが出てくるとは思わなかったよ!


 そして盆の上には……なんとスプーンとフォークが完備されていた。でももちろん私は、正座をしてお箸を使って食べます!

 シルヴィアちゃんとエッダちゃんは、二人ともフォークを選んでいた。まあそうだよね。


 まずは……味噌汁を……。

 ……。

 ……! ああ、本当に……味噌汁だ! そりゃそうなんだけど、味とか違うかなって思ってたんだ。

 間違いなく味噌汁です。すごいもうやばいこれだけで来て良かった。


 っと、二人はどうだろう。


「これは……こちらの味なんですね。少し独特なスープですが、悪くないと思います」


 シルヴィアちゃんはオッケーだった、よかった。


「この芋、なんだか向こうのものと全然違います。滑らかで、素朴で、でもどこかオリエンタルで……私これ好きです。落ち着く味ですね、小さいのに腹持ちもいい。家でも食べたいぐらいだなあ……」


 わっ、エッダちゃんは思った以上の高評価だ!


「肉もおいしいですね。もっと臭いかと思いましたが、調理が上手いのでしょう。このソースも変わってますが、悪くない……」

「そうそう、この黒いソース、おいしいですよねぇ」


 おおっと、それは……醤油を使った照り焼きのタレ!


「うむ、それはヤマトの調味料を組み合わせたものだ」

「やっぱりこれもってこっちのだけなんですね、持って帰りたいなぁ」

「そうね、エッダ。これはいいおみやげになるわ」


 醤油は私もおみやげに持って帰りたいです!


「あと……この、これは……」

「天ぷらか。そちらに塩があるだろう、付けすぎないよう気をつけて、食べてみてくれ。中身は野菜だが、柔らかくなっているはずだ」

「そうなのですね。では……。……っ!」


 天ぷら初挑戦。どうかな?


「これが、ヤマトの野菜の食べ方? 今まで、体験したことのない食感……! これはおいしい。どれも大変おいしいですね」

「私も、こんなに不思議な食べ物初めてですぅ!」


 やったね! 天ぷらもおいしく食べてくれた!


「ただ……どれもというわけではなく……」


 ん?


「……この、野菜のピクルスっぽいのは……苦手ですぅ……」


 ……ああ……ぬか漬け……。

 ぬか漬けはねー……日本人でも好みを選ぶというか、まあほんと発酵した味って独特だからねー……。

 しかもこれ、めっちゃ漬かってるタイプ。


「それは、ヤマトの人でも若い者でさえ好みが分かれるから、食べられなくともよいぞ。むしろ外の客人にぬか漬けを出すなど、後で怒らねばなるまい」

「い、いえ、ヤヤカさん。あたし達食べさせてもらっておいて文句なんて、むしろ残してしまうことが申し訳なくて……だから、怒らないでもらえないかしら。さすがに心苦しいわ」

「……ふむ、そう言ってもらえるとこちらとしても助かる。優しき客人でよかった」


 弥々華さん、隣で穏やかに微笑んでいた。よかったー……。


「他には、魚や貝が苦手なものが多いと聞いていたが、ここは見ての通り山の城でな。海からは遠いのでそういった食べ物は基本的になく、山の猪や鹿などを中心に使うようにしようと思う」


 その時、ちょっと寂しそうな目をみている気がした。……実は食べたかったり? そのうち振ってみよう。私もお魚食べたいし。


「そこまで私達のことを……何から何まで配慮してくれてありがとう」

「よいよい、命の恩にしてはいくらやっても安いぐらいのものだ。……あのカマイタチの群れが城下町を襲えば、こんなものでは済まなかった。それを住人に気付かせないというのも、我々のようなものの役割なのだ」


 それは、冒険者の中でも一番気高い精神だった。

 日常を日常として送れているのは、それを支えている人がいるから。普段は感謝さえしないような人達だけど、いなくなった途端に不都合が起こる。

 気付かれないほどの、力を持つ者の圧倒的な活躍。

 貴族の精神、ノブレス・オブリージュだ。


 最上弥々華さん。

 想像以上に地位と実力だけでなく、誇りも高い人だった。

 かっこいいだけじゃない、もうチョー素敵な人。


 そのことをシルヴィアちゃんもエッダちゃんも感じたんだろう。弥々華さんに対する雰囲気はかなり好意的なものになっていた。


「なかなかに誇り高い人なのね、気に入ったわ」

「そうか、そう直接的に言ってもらえると少し面映ゆいな」

「ヤヤカさん、すてきですぅ……! かっこいいし、憧れちゃいます!」

「こっちはまた一段と直接的な……ふふ、可愛らしい娘だ」


 三人とも、すっかり仲良くなったという感じだ。よかったよかった。


 食べ終わって挨拶を終え、大広間から廊下に出た。弥々華さんとともに、後はあの客間でおふとんするだけ。

 おふとんたのしみ。


「ここに泊まっていくだろう?」

「ええ、そうさせていただけるかしら?」

「もちろんだとも。それでは三人とも、先ほどの客間に……」


 廊下で喋っていると……和風メイドって感じの女性が走って来た。


「弥々華様ッ!」

「お前っ、客人がいるのにはしたな———」

「寧々様が、再び大きく体調を崩されました!」

「———なッ!?」


 寧々ちゃんが、体調を崩したという話。

 弥々華さんはそのことを聞くと、血相を変えて走り出した。


 体調を崩したにしては、あまりに会話がおかしい。

 今、メイドさんは気になることも言った。


 ()()って、どういうことだろう。


 私とシルヴィアちゃんとエッダちゃんも、顔を合わせて弥々華さんの後を追った。

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