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きゅうけいさんは打ち解ける

 リーダーの号令を受けて、パーティは討伐任務開始だ。


 まずはなんといっても私が掴んで頭上に持ち上げているでっかいイタチ君。すっごくかわいくない顔で、物凄いスピードで私の腕に刃物みたいな腕を振り回しまくっている。

 でも今の私は初期装備のごっつい鎧を装備しているのだ、文字通り傷一つつかないね!


 その間にも、エッダちゃんが敵に向かって弓矢を撃っていた。

 その正確性といったら、ほんとにこの子レベル140なのかなって思うぐらいの命中率で、戦っているときのエッダちゃんは惚れ惚れするぐらいかっこいい。

 普段の間延びした喋りの、癒し系ロリ巨乳みたいな印象は鳴りを潜める。


「光属性を矢につけると、スピードが上がるんです。なんでなのかはわからないんですけど、とても便利ですよ。威力が落ちるぐらいは目を瞑れます」


 ……ああ、そりゃ光の速度とか科学を知らないからそういう感想になってるわけか……うんうん、そうだよ、めっちゃ速いのよ光速。

 さすがに光と同等までにはならないにしても、光の速度がパラメーターとしてエンチャントするなら相当なスピードだ。

 本当に、『矢』にエンチャントって便利そうだなあ。


「……あの」


 困惑気味の声がシルヴィアちゃんからかかってきて顔を向ける。シルヴィアちゃんの視線は……私の顔より少し上。


「……なんで、そのカマイタチそのまんまにしてるんですか? ていうか滅茶苦茶なスピードで籠手斬りつけまくってやかましいんですけど、大丈夫なんですか」

「そういえばなんとなくがしっと掴んじゃって仕留め損なっていた……どうしよっかな。えーっと、じゃあ最上さん」


 名前を呼ぶと、急に話を振られて驚きつつも反応した。


「このかわいくないカマイタチ君、最上さんが討伐してくれません? 私このまま持ってるんで」

「……」


 何か、じっと疑いの目でこっちを見ている。

 ……そ、そんなに気に触ることを言ったかなあ……?


「……お主」

「っ! はいはい!」


 声をかけられた!

 お主! お主だって二人称!


 と、なんだかテンション上がって笑顔になってると、最上さんが困った顔をしていた。


「……はぁ……調子が狂うな、この者は……。我が先ほど理由なく先制攻撃したというのに、その獲物の止めを譲るというのか? 我がお主を攻撃しないとは限らんぞ?」

「んー、私はそこそこ強いので多分ノーダメージだし、仮にダメージあったとしても怒らないし、先制攻撃も私の見た目が怖いのは私自身が知ってるので怒らないよー」


 私が満面の笑顔で対応すると……かえって警戒された。

 ……あ、あるぇー……?


「……我に都合が良すぎるぞ、それは……。隣の者は、どうやら団体の一人のようだが……特にこの対応に言うことはないのか?」

「きゅうけいさん……ああ、この魔族のことよ。きゅうけいさんはずっとこういう人だしあたしから何か言うことはないわ。……まあ、さすがに助けに来ておいて本当に攻撃したら、あたしもあたしで顔面一発殴らせろっていうか問答無用で殴るけど」

「なるほどな」


 シルヴィアちゃんと、なにやら見えない電気が視線の合わさった辺りにバチバチっと幻視できるんですけど、えっと、これ大丈夫なんですかね……?


「……まあ、そういうことなら遠慮なく戴こう。多少手は熱いかもしれんが、良いな?」

「自分で怪我とか治せるのでオッケーだよ!」

「そうか。……では……」


 狐さん、手元で印を結ぶと……。


「———【狐火・火遁・集中業火】ッ!」


 か……火遁!?

 えっ、仙狐の最上さん妖術の類かと思ったら、忍術とミックスですかっ!?

 めっちゃテンションあがるんですけどっ!


 ……と、思っているのも今のうち。

 手元が大変あったかいことになっていると思ったら、私の頭の上が大火事だった。

 思った以上にすんごい青い火が、森の中でもちょうど木のない今の場所で、周りの木の高さを超える勢いで立ち上る。


「ええええっ!? きゅうけいさん大丈夫なんですかそれ!?」

「あったかいけど、まあ熱くはないよ」

「ちょっと亜人女! モガミとか言ったかしら!? これ本当に大丈夫なんでしょうね!? 大丈夫じゃないっつーならぶん殴るわよ」


 最上さんは……目を逸らした。

 シルヴィアちゃんはそりゃもう激昂しちゃった。


「殴らせろ!」

「わーっ! 待って待って大丈夫だから! っていうかやってって言ったの私だから!」

「きゅうけいさんはもうちょっと危機感持って下さい! いくらなんでも鼻の下を伸ばしすぎです!」

「ええっ! そ、そんなつもりは……」


 ……そんなつもりは……ありますね!

 思えばここまでガチで殺しに来られてあのもふもふ耳としっぽ見てるだけでニヤニヤしてるって十二分に鼻の下伸ばしすぎでしたね!


 仕方ない。狐娘は永遠のヒロインなので仕方ないのだ。

 私は悪くない。狐娘が可愛すぎるのが悪い。


「ま、まあまあ! 本当に大丈夫かなと思ったからね! そもそも大丈夫じゃなかったら、こんなカマイタチ程度に苦戦していないと思ってたし」

「お主……むう、確かにその通りなのだが、言ってくれるな……」


 あ、今自然に見下してしまうような発言だった?


「ご、ごめんなさい……」

「……」


 思わず謝罪の言葉が出る。


「……本当に……調子の狂うヤツだなあ……」


 最上さん、手を離した。すると私の手元の火が消えて、その後は絶命したであろう巨大カマイタチだけが残されていた。

 手の刃物は綺麗なままだった。


「……ふむ……」


 最上さんが自分の手元をぐっぱーぐっぱーにぎにぎして何かを確かめていると……ボスを殺された怒りか、一斉に周りのカマイタチが最上さんを襲う!


「来てる!」

「わかっておる。……よし」


 面倒そうに切れ長の目で後ろをねめつけるようにすると、腰の鞘に手を伸ばした。……か、刀! 刀持ってる!


「———シィッ! シャッ!」


 気合いの入った独特の叫びとともに、最上さんが刀を振り抜くと……速度を殺しきれないカマイタチの死体が木に二つ、べちゃべちゃとぶつかっていった。

 シルヴィアちゃんがその姿を見て、腕を組みながら声をかけた。


「……ちょっと、そんなにあっさり討伐できるなら最初っからその武器抜いてなさいよ」

「わかっておらんのか」


 刀を構えたままの最上さんがこちらに視線を向ける。シルヴィアちゃんがちょっとむっとした様子で、顎をしゃくって発言を催促する。

 ……ぴりぴりしてる? してないよね?


「さっきのカマイタチの大親分で……シッ! フゥ……レベルが大幅に上がったのと、強かったそいつの妨害がなくなったので――—シャッ! ハッ! 倒しやすくなったのだ。普通のカマイタチ程度なら最早苦労はせんよ。フッ!」


 そう解説しながらも、次から次へと近づいてくるカマイタチを緩急つけながら仕留めていく最上さん。忍術サムライ狐娘、めっちゃかっこいい。

 ていうか初見のかわいい系という認識はもう完全に改まった。かっこいい系だこの狐っ娘。


「それにしても」

「なによ?」

「その腕を組んでいるお主は、何もしていないでないか」

「ぐっ……! 言ってくれるわね!」


 ど、どうどうリーダー……なかよくしてね……。


「じゃあ、あたしも相手してあげるわよ!」


 そう言うと……シルヴィアちゃん、剣を出した。

 ダンジョンでゴブリン討伐に使っていたものだ。


「見てなさい。———ハッ!」


 シルヴィアちゃん、自分から剣を持って相手の方に走っていった。

 さすが現在レベル六千台、その本気のスピードたるや半端なものではなかった。

 これには最上さんも驚き。


「……な、なんだ、強いではないか……」

「そりゃまリーダーですから」

「ですです、リーダーは頼りになりますぅ!」


 あ、エッダちゃんが戻ってきた。

 その姿はあまり消耗している様子もなく、余裕で倒し終えたって感じがする。

 エッダちゃんにとってはあのスピードで動くカマイタチも相手にならないようだね。


「おつかれエッダちゃん!」

「はいっ! ……え、えっと、そちらの方がモガミヤヤカさんでいらっしゃいますか……?」

「そだよ、ニンジャでサムライな仙狐さん!」


 ふと驚いた様子のモガミさんと目が合ったけれど、すぐにエッダちゃんが挨拶をしてそちらに視線が移った。


「初めまして、ダークエルフのエッダですぅ! こちらのきゅうけいさんに故郷を救ってもらって、それからずっと行動を共にしていますです!」

「故郷を、か」

「はい、家族が今にも死にそうな難病だったところを救ってもらいましたから!」

「……そうか」


 最上さん、一拍置いてちょっと物憂げに返事すると、すぐに視線を戻してエッダちゃんにも自己紹介をした。

 大丈夫……かな? エッダちゃんは人当たり良いからね。エッダちゃんで拒否されたらどうしようかと思ったけれど、問題無さそうで良かった。


「終わりましたよ、きゅうけいさん。周りに反応は?」

「全くないよー、さすがリーダー!」

「ありがとーございますっ! ふふ、今回はちゃんと剣で強い相手を倒す様子を見せられてよかったです。どうしても竜の姿はあまり可愛らしくはないですからね」


 私とシルヴィアちゃんがそんな会話をしていると、横でびくっと「龍?」と反応する最上さん。恐る恐るシルヴィアちゃんに首を向けて……そして角を凝視する。

 そこにはにょきにょきっと、後ろ向きに良い感じに小さくも強そうな感じの角が生えている。


「もしかして、あなたは」

「そうよ、といってもかなり遠い地のだけどね。【ステータス】」


 シルヴィアちゃんがその画面を出す。

 最上さんは……顔面蒼白になりながら、一歩引いて納刀した。


「し、失礼いたした……まさか龍族の方だったとは……」

「……え? ああ、いえいいわよ。竜族といっても長の娘でしかも次女だし、そんなに偉いってものじゃないわ。怒ったりとかないから」

「そ、そうか……ならよかった……」


 最上さん、シルヴィアちゃんの種族とステータスを見てさすがに萎縮したようだけれど、どうやら仲良くできそうな感じ。

 シルヴィアちゃんも、さっきまでのぴりぴりオーラはどこへやら、急に最上さんからの敵意が抜けてちょっと気が抜けたようでもう警戒していなかった。よかったよかったー。


 ……ふと、シルヴィアちゃんがこちらを見る。

 ひっじょーに、疑いの眼差しで見られていた。


「きゅうけいさん?」

「え? な、なんでしょうリーダー……」

「こっちのヤマトでは、竜ってもしかして……」

「あっとそうだった。竜はね、神様の類なんだよ。水の豊かさだったか、川があるのは竜のおかげとか、なんか忘れたけどとにかくすっごくありがたい存在です!」


 そのことを話すと、シルヴィアちゃんはようやく納得した様子だった。


「そっか、こっちだと単に強い種族ってだけじゃないんですね。だからあたしが種族名を見せればなんとかなるかもって言ってたわけですか」

「うんうん、そういうことだよ」

「できれば早めに説明して欲しかったですね……なんだか脅しているみたいで心苦しいです」

「言わない方が、反応が面白いかなーって思って」


 プチおこシルヴィアちゃん、「もーっ」って言いながらぽかぽか可愛らしく殴ってきたけど今はばりばりの鎧つきなので大丈夫なのだ。

 ぷんすかシルヴィアちゃんかわいい。


 ……ふと、置き去りの最上さんと目が合った。


「あ、えっとごめんなさい、お話いいですか?」

「……良いぞ、あなたがそちらの竜の方に全幅の信頼を置かれているのが分かったし、ダークエルフの方も悪い人には見えないからの」

「よかったー……。それじゃ、ステータスを見せてもらっても?」

「ああ。我の名は最上もがみ弥々華(ややか)。本来名字が前で名が後なのでこの魔法の画面は少し慣れないのだ。【ステータス】」


 ================


 YAYAKA MOGAMI

 Senko(Master:Mammon)


 LV:610


 ================


 ステータスを見る度に言ってるけど、今回もお付き合い下さい。


 つっよ! 改めて言いますけど、レベル100も到達すれば人類最強名乗れるのがこの世界なのです!

 最上さん610ですか! こっちの国の平均レベルは知らないけれど、これはなるほど皆から信頼を置かれているのが十二分に伝わる!

 並大抵の魔物や魔族じゃとても相手にならないよ!


 ……と思っていたら、最上さん自身が驚いていた。


「ど、どったの?」

「そうなったかなとは思ったが、さっきのカマイタチの大親分を倒した分で大幅にレベルが上がってしまってな……」

「あ」


 そ、そういえばそんなこともしてましたね!

 具体的にどれぐらい上がったか気になったけど、元のレベルは言ってくれなかった。ちぇーっ。


「お主の話はマモン様から聞いておる。……改めて初対面で喧嘩を売ってしまい申し訳ない。実はどれほどの強さかマモン様から見てみるように言われてな。絶対に傷一つ付けられないと聞いたものだから、少しヤケになってしまった。ゆる

「ゆるします!」


 言われる前に即答した。さすがに不意打ちだったのか目を見開いてぽかんとした顔をしていた。かわいい顔いただきましたっ!


「ていうかそれはマモンのやつが悪いね。帰ったらぶん殴る」

「ま、待ってくれ! マモン様は恐ろしく強い! お主ではとてもではないが太刀打ちできない、そういう危ないことはやめるのだ」

「いやいや、同格だからいいよ」

「は?」

「私はベルフェゴールっていう種族でね。マモンさんとは親戚みたいな種族なんだ、だからどついて大丈夫。まあ友達だし一発二発殴ったぐらいじゃ怒らないと思うよ多分」


 それを聞くと……最上さん、一歩引いた。あ、あれ?

 ここはちょっと驚きつつも、「ご主人様とご一緒なら大丈夫ですね」みたいな、そういうフレンドリーになる流れじゃなかった?

 ……あれ、私ひょっとしてめちゃめちゃ警戒されてる……?


「……そ、そうか……わかった。取り敢えず、お主らを案内するように言われている。ここまで住んでいる場所近くに来てもらえるとは思わなかったから丁度良い、山縣やまがた城下町で問題ないな?」

「うん! おいしいものとかお酒とか温泉とか、あと休憩できる場所とかお休みできる場所とか希望します!」


 よかった、予想通り山形みたいだ。ちょっとパラレル入ってて全く同じとは限らないけど、もしかしたらそうなのかなって思ってやってきたのだ。

 最上で狐といったら、こっちの方に縁があるかなとうっすら思っていたのだ。直接的に縁がなくても、そもそもここって本来ゲーム世界の延長線上だからね。

 羽州の狐、山形城主の最上義光。

 ヤヤカさんがそうであるかとかそうでないかというのは関係なく、そういう言葉遊びから予想していた甲斐があった。


 改めて思うと、本当に面白い世界だなーって思う。

 一人で物思いに耽っていると、シルヴィアちゃん声がかかった。


「それじゃ、任務終了ってことで帰りますか」

「うむ。……ところでなのだが」


 ん? 今度は最上さんが何か言いにくそうにしている。


「助けてもらった以上討伐報酬の分け方を相談しなければなるまい。竜族の方に救ってもらったというのなら、なおのこといい加減に出来ぬ」

「それなら……きゅうけいさん、いいんですよね?」

「うん。今回は事前相談なく助けに入ったから、そっちの裁量に任せるよ。全くなしでも怒らないので」

「欲のない者達なのだな、わかった。組合の世界共通貨幣がこの街からも出るのだ、遠慮なく倒した分は受け取っておけ」


 おお、思わぬ臨時収入。最上さん、丁寧な感じの方でよかった。

 私たちは、それぞれ討伐したカマイタチをそれぞれ振り分けて、城下町のギルドに戻った。


 ちなみに戻る際にシルヴィアちゃんが竜になって、最上さんはさすがに今度は「ぬおっ!?」と声を上げて驚いていた。

 なんだか驚いた声もかっこいい系というか、思った以上にキリっとした感じが徹底してる方で、どれぐらいの距離感か迷っちゃう!

 見た目の上では完全にシルヴィアちゃんと同じだし、今すぐ抱きしめてもふもふ、もふもふすりすりなでなでくんかくんかしたいんだけどっ!


 うう、距離を縮めたいよう……。


 -


 今度は城下町の外の門から降り立って、最上さんを先頭に歩き出した。

 さすが最上さんというか、私への奇異の視線はあるけどそれでも最上さんへの挨拶の声の方が圧倒的に多い。

 私に対しても、モガミヤヤカと一緒に歩いているのなら大丈夫という認識なのだろう。


 ……それにしても。

 今、そんなことよりも。

 私の目の前では、事件が起こっている。


 揺れている。

 揺れているのだ。

 もふもふで大きくて、ぴんと立ってる尻尾がゆらゆらしているのだ。


 誘惑。

 淫魔サキュバス魅了チャームにかかる男の事を、男ってほんとしょうがないねーなんて思っていたけど。

 分かる。魅了もふもふには抗えない。


 ———もふっ。


「ひゃんっ!?」


 ひゃんっ! だって! 今の! 今の聞いた!?

 か〜わ〜い〜い〜〜〜〜っ!

 ね、ね、今のかわいくない!?


 ……っていう感じで後ろにいたシルヴィアちゃんとエッダちゃんに笑顔で視線を向けると……なんだかエッダちゃんは気まずそうに苦笑いしていて、シルヴィアちゃんは……かなり気まずそうな目をしていた。

 あ、あれ?


「……お主な……!」


 あ。


「なんなのだお主は……!」


 あっ、どうしよう……ちょっと冗談のつもりで済ませようと思ったら、かなり本気で怒っている。

 まさか、こんなに怒るなんて思っていなかった。


「そのような児戯をするために我と一緒にいるというのなら、もう案内などしない! 勝手に一人で歩いていろ!」

「ごごごめんなさいっ! は、反省します! 今最上さんにいなくなられたら本気で、な、ないちゃうぅ〜っ…………うっ……あ、ごめんなさい、見ない、で……」


 これが魔が差したってやつなのかな。

 目の前がまるでぐにゃ〜っと曲がったような錯覚を覚えて……本当に視界がにじんできた。

 な、情けない……一人で歩いてろって言われた瞬間、自分でも驚くぐらい本気でグサっときて……自分の悪戯で怒られて泣いている。何歳だよ自分、子供か……。


「……本当に……なんなのだお主……」


 びりっと派手な音がして、顔に布が触れる。

 前を見ると……なんと、最上さんがカマイタチに斬られた服を破って、私の涙をハンカチのように拭ってくれていた……。

 涙が布に吸われると……そこには困ったように苦笑している、最上さんの大人びた顔があった。


「全く……大きい娘が出来たみたいだな……」


 ……あ、あうう……。

 最上さん、母性ありすぎる。


 ……いや、違う。

 ()性じゃない。


 この暖かさ。

 この、雰囲気。

 ……そうか。

 最上さんが纏うこの人しか持っていないオーラ。


 私のとは似てないけど……おばあちゃんなんだ。


 おばあちゃんっ子の私には、最上さんはあまりにも魅力的すぎた。

 心に暖かいものが広がると同時に、さっきの行為に対する、自分の無配慮な行いが猛烈に恥ずかしくなった。

 成人しておいて、子供のような悪戯をして母親に叱られたような居たたまれなさを感じた。


「……ご、ごめんなさい……亜人獣人は初めてで……あまりに、魅力的だったもので……もうしませんから、怒らないで……」

「はぁ……元々怒るほどのものでもない。そんな顔をされてはいつまでも怒っている我の方が子供のようではないか。もうしないのなら、構わぬよ」

「は、はい! ありがとうございます!」

「ふ、そんな馬鹿丁寧な言葉もいらん。……マモン様と同格にしては随分と子供っぽいが、傲慢不遜なよりは余程安心するよ」


 最上さんは優しく微笑むと、自分の高そうな服を破って作ったハンカチを手渡してくれて、再び歩き出した。

 私はそのハンカチを大切に仕舞って、最上さんの背中を追いかける。

 邪念が晴れたのか、今度は魔が差すような予兆さえなかった。


「———もう、娘は作りたくないのだがな……」


 何か呟く声が聞こえたけど、あまりに小さくて聞き取れなかった。


 -


 ギルドに入ると、周りのみんなが騒いでやってきた。


「討伐任務、終了したぞ!」

「さすが仙狐の最上様です!」

「よいよい、今日はこちらの者達も協力してくれたのだ。連絡があった時点で既に皆とは顔を合わせているのだな?」

「はい!」


 最上さんが机の上にカマイタチの鎌を置くと、辺りは騒然とした。


「な、何ですかこの大きさは……!」

「まさに『大親分』ってやつだったな。あれは恐ろしく強い個体だった。そちらの魔族が捕まえて、我の火遁で燃やした。事前に分け前は相談してあるので、この個体と数体は我の取り分。残りをあの者達に分けておいてくれ」

「わかりました! 依頼額と素材報酬を計算いたしますね」


 受付さんが中に入っていき、数分後戻ってくると、そこにはヨーロッパ風地域で見たのと全く同じ貨幣があった。


「わー、ほんとに共通なんだ」

「買い物をする際に圧倒的に便利ですから、山縣やまがた州ではこの貨幣を使うことにしたのです。海の外からの客もよくお金を落としてくれますし、作り方が難しくて預け金庫の数字も管理されているので不正に作ることが難しいですから。ギルド硬貨の複雑さと特徴的な魔力付与もあって、偽造硬貨などは減りましたね」


 なるほど、共通硬貨はそういう役目も担っているんだ。

 これならシルヴィアちゃんやエッダちゃんの手持ちの貯金もこちらで使えるわけだね。


「ってわけで、きゅうけいさんがそのお金を持ってて下さい」

「え?」


 なんで? いきなり全額もらっちゃうとかさすがに申し訳ないですよ。

 だって私でかいのつかまえただけだし。しかもでかいの燃やしたの最上さんだし。残りは全部二人のだし。


「いやいやきゅうけいさん。あたしとエッダはいいですけど、きゅうけいさんって個人的に使えるお金持っているんですか?」

「あ……もってない……」

「でしょう? だからその分はきゅうけいさんが取っておいて下さい。そもそもあたしの貯金だってきゅうけいさんがクリエイトしたものを売ったものが入ってるんですからお互い様です!」


 あ、そういえばそうだった。

 そういうことならと遠慮なく鞄の中に……。


 ……仕舞おうと思ったけど、やっぱりエッダちゃんには分け与えている記憶がないので、相談して分けることにした。

 エッダちゃんは何か言いたそうにしていたけど、「おそろいだね」って言うとちょっとはにかみながら受け取ってくれたのでやっぱりエッダちゃんは天使だと思います。




 最上さんがギルドのメンバーの皆さん達とわいわい会話をしていて、それも落ち着くとギルドの外に出てきた。


 日が大きく傾いており、群青の暗幕が降りる曇天に対抗するように、周りは暖かい色のちょうちんが灯った綺麗な街並みになる。

 寒い地方ならではの冷気が、耐性のある私にも感じられる。それでも山の地方ならではの冷えた空気は気持ち良さすら感じられた。きりっとした寒さの青と赤の強いコントラストは、中途半端な昼の色より鮮やかで良く感じるとうたった人の気持ちも分かる。


「ふわぁ〜、幻想的ですぅ〜」

「もしかするとこのちょうちん珍しいか?」

「ちょうちんと言うのですね! はい、気になります! これは一体どうなっているのですか?」


 興味津々なエッダちゃんの前で、和紙で出来た蛇腹を引き上げると……なんと中身は光る魔石だった。ちょっとびっくりした。


「どうだ?」

「わあ、これこんなふうになるんだ。便利……色に暖かみもあって、素材も優しい紙の雰囲気があって……素敵ですね……」

「……文化の再発見だな。確かに見慣れているが、改めて見て見ると提灯なるもの、なるほど趣深い」


 うんうん、確かにちょうちんって見慣れていると何とも思わないけど、たまに見ると素敵だなーって思ったりするよね。

 お祭りのちょうちんが並ぶ道は、本当に幻想の入り口だ。


「ところでお主ら、寝床は決まっているか?」

「いえ、来たばかりなので全く決まってないわ」


 シルヴィアちゃんが答える。そうだ、まだ何も決まってないというか、基本的に来たばっかりなのでそれこそ門からギルドまでぐらいしかヤマトを知らない。

 ギルドで話を聞いてから、直行で最上さんのところに向かった。


 という話を振ってみた。


「なるほど……いや実際のところ非常に助かったのだ。改めてお礼を言おう。あの大きい個体はお主達なしでは倒せなんだかもしれん……いや、倒せなんだだろう。一人で何でもできると驕っていたせいであろうな……」


 やはり一人で何でも出来るほど強いとはいっても、この人自身が眷属であるように勝てない相手というのはいる。

 この最上さんがそこまでの失敗をするとは思えないので、やはり今日のカマイタチ異常発生とデカイやつは想定外の事態だったんだろうなと思う。


「やはり何ぞお礼をしたい。お主らさえよければ我の住所で一緒に食事でも摂って、そして我の部屋で一緒に寝てはくれぬか?」

「いいの?」

「ああ。無駄にだだっ広い個室というのは、豪華なようで寂しいものだ。どうだろうか」

「いいですよね? きゅうけいさん」


 私はもちろん頷いた。エッダちゃんもOKみたいだ。

 だって、最上さんの自宅! 興味あるもん!

 どんななのかなー。


「それでは、我々皆でお邪魔いたします」

「そうか、よかった。料理も追加で作らせよう。あの場所だ」


 え?

 あの場所って……随分と、指差す方が……上……?


「あそこに見える山縣城。あれが我の住処だ」


 ……えええええ〜〜〜〜っ!?

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