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きゅうけいさんはヤマトに来た

 分かってはいた。

 分かってはいたのだ。


「……ごめん、まさかここまでだったとは……」


 私はシルヴィアちゃんの背中で何度目か分からない謝罪をした。

 隣からエッダちゃんの声がかかる。


「いえいえ、いいですよぉ。なんだか本当に、自分の知らない世界がこんなにあるんだなって思えましたし」

『グルル……』


 二人も、何度目か分からない返しをする。




 そう。

 イタリアから日本、めっちゃ遠かった。




 当たり前である、ジャンボジェットのあの速度で半日とか一日かけて移動するのだ。そりゃもうシルヴィアちゃんも今度ばかりは遠慮なしの超高速移動で飛んでいた。

 それでもあまりに時間がかかったので、途中でカレーの国に寄ってカレーを食べたり、中華の国に寄って中華を食べたりした。

 もちろん私はその間居残りをした。さすがに青肌のまんま堂々と街の中にお邪魔するわけにはいかない。

 仕方ないとはいえ、ちょっとひもじい……。


 ちなみに二人ともとっても良い子なので、私のためにたくさんおいしいものを買ってきて持ってきてくれた。

 ううっ……包容力たっぷりのちっちゃい美少女二人のヒモとなっているOL女子(しかも今は魔王)、さすがにちょっと体裁悪すぎる……。


 -


 そんな旅行も当然終わりは来るもので。

 中華の国から海を隔てて、その先に陸地が見えてきた。

 間違いない……ここだ。


「この付近からヤマトだけど、まだ向こうに行ってくれないかな? 恐らくいい場所があると思うので、降りる地域を指定するよ」

『グルル』


 もう降りてもよかったけど、シルヴィアちゃんにもうちょっと遠くの場所までお願いした。予想が正しければ、その付近の方がいいはずだ。


 それから、恐らくこの辺りかなと思われる場所へ降り立った。

 寒い場所で、東北の真ん中あたりだと思う。


「ふえぇ……きゅうけいさん、さむいですよぉ……」

「そ、そうね……まさかこんなに寒い地域だったなんて……」

「あっ、ごめんごめん」


 どうやら私はあまり寒さを感じない体なのか気にしなかったけど、そりゃあこっちに来たら当然寒いに決まっている。

 最初の山賊の持ち物の中に服はあっただろうかと思い、アイテムボックスを漁ると……あった。


「二人ともあげるよ」


 手持ちのものから大きめのコートを三つ出した。ちなみに一つは自分が着ます。気分的に一人寒い格好していたら、見てる方も寒いと思うよね。


「えっ、これ……いいんですか?」

「山賊の持ち物だったから、もってきちゃった。ちょっと悪い気はしたけど……世間的にはもうなくなったもの扱いになってるだろうからいいかなって」

「そ、そういうことでしたら……」


 それに、どっちにしろ持ってるだけで使わないってのは勿体ない。

 二人とも寒いのはさすがに我慢できないのか、受け取って着込んだ。


「はわわ……あったかいですぅ……」

「よかったよかった、やっぱり服は着てこそだよね」


 自分でも着てみたけどあったかかった。寒さに耐性があるというのと寒くないというのはまたちょっと違うみたい。

 だから温泉も気持ちいいんだね、いい体だ。……この体、本物のぐつぐつ沸騰地獄温泉に入っても余裕なのかも……。




 さて……ここから人間の里に入っていけるかどうかが問題だ。

 具体的に……どこまで日本で、どれぐらい日本じゃないかとか。恐らく和洋折衷アイテムが出るほど貿易している以上、それなりにヨーロッパのものや考えは入ってきてるはずだけど……。


『私の姿を見ても、そこまで驚かなかったんですォ。どうも妖怪といった類と交流があるようで、初めて見る魔族もこちらよりは見慣れてるんでしょうネ』


 ――マモンさんの、眷属と町に行ったときの話を思い出す。

 人間が魔王を受け入れるかという問題において、あっちのルマーニャとかはかなりハードルが高かった。

 もう一つ、理由があるけど……。


 山の中央付近に降り立ち、視界に広がるは御城と城下町。なかなかいい感じに発展している。


「シルヴィアちゃん、多分竜族は大丈夫だと思うから先頭に立ってくれない?」

「わかりました。きゅうけいさんは離れないで下さいね」

「もちろん!」


 そして私は、ゆっくりとその城下町に入っていった。


 城下街に入ると……当たり前だけど、ものすっごく注目されまくった。


 そりゃ珍しいよね! こっちで言ったら妖怪みたいなものかな!

 ちらほら歩いている人、お店で客引きやってる人、ハトに餌やってた男の子からお手玉やってる女の子まで、みんなが一斉に振り向いた。


「よ、妖怪……!?」


 ほら言われた! 妖怪とはちょっと違うよ! 鬼っぽいけど違うよー!

 そんな街の様子にも臆することなく……むしろその発言を受けて、堂々と胸を張って歩き出すシルヴィアちゃん。

 今私を見て呟いた男性に向かって歩いていった。ちなみに大和人の身長、時代のこともあってかとても小さい。具体的に言うと、シルヴィアちゃんとその成人男性が同じぐらいの身の丈だった。


「失礼、そこの御方」

「ひっ!」

「冒険者ギルドがここにもあるはずです。どちらかご存じですか?」

「組合のことでしょうか……はい、街の中央にあります、ここの道を真っ直ぐ進むと、看板があります……」

「そうですか、ありがとうございます」


 シルヴィアちゃんがその言葉を受けて、こちらを向いて「行きましょう、きゅうけいさん」と私の手を握って歩き出した。

 気がつくと、もう片方の手をエッダちゃんが控えめに握っていた。

 これは……きっと周りに私が自分たちの仲間だとアピールするためだろう。本当に二人とも、いい子たちだ。


 ……ただ傍目には、これだと完全に妹に引率された姉みたいだろなあ。




 多分これが組合だろうと分かる建物が見つかった。木造建築の場所に、冒険者ギルド共通の印が付いていて、遠目にもその中に鎧姿の侍っぽい人達が出入りしているのが見えた。

 うわー、本当に職業サムライとかニンジャとかの冒険者ギルドって感じだ!


「それではきゅうけいさん、入りますね」

「うん。ああでも……いざとなったら、シルヴィアちゃんがステータスを見せると、もしかしたらうまく交渉が進むかも」

「そうなのですか? わかりました、気に留めておきますね」


 そのことを確認して、のれんをくぐって中に入った。


 入ると目につく、木造建築らしい特徴の数々。そして着物と洋服を合わせたような人達。見た感じ、ちょんまげって時代ではないみたい。

 建物も雰囲気も、土足で踏み入ることの出来る日本家屋って感じで懐かしい。ああ、本当に故郷っぽいところに来たんだなあ……。


 私があっちこっちを見ていると、どたどたと音がした。視線を正面に向けると、黒髪で体格の良い男が腰の武器に手をかけて立ち塞がった。


「お前さん……堂々と入ってきたけど、妖怪か……?」


 急に敵対心むき出しで、すっごくギルドイベントの悪いパターンっぽい! でも客観的に見たら私が完全に悪役なわけで……!


「【ステータス】!」


 騒ぎになりそうと思った瞬間、シルヴィアちゃんが大声で叫び、自分のレベルや種族を見せるようにステータスを出した。

 当然、周りの目はそちらに注目する。受付さんが叫ぶ。


「……! ドラゴン!? 西洋の龍なのですかあなたは!」

「そうよ……あたしは竜族の中でも最も身分の高い古竜。折角遠出してまでやってきたというのに、あたしのパーティメンバー……仲間に向かって随分な態度ですねあなたは」

「仲間? その者がですか?」

「ええ、正式に登録してあります。……もういい加減入らせてもらってもいいかしら?」

「わ、わかりました……」


 シルヴィアちゃんの種族と迫力と恐らくレベルに圧されて、ギルドのごついおじさまは横にのいた。

 そりゃまあレベルのこともあるけど、こちらの国では竜といったら人類の味方という甘いものではない。


 神。

 神道でも仏教でも、基本的に龍とは神だ。

 ちょっと格上とかそんなもんじゃない。


 それでも視線はじーっと私だけを見ていたけど……。でもそのうちのいくつかは、シルヴィアちゃんに対する尊敬とか信仰の目みたいなものを向けられていた。

 おそるべし、ドラゴンブランド……。


「受付の方ですね。『世界共通名簿』に『異種族友の会』で登録しているシルヴィア・ドラゴネッティです」

「は、はい。只今お調べいたします。…………確かに、登録されていますね。構成員はシルヴィア様、タマエ様、エッダ様、そしてバイス様で間違いないですか?」

「バイスじゃなくてビーチェ。ただこちらには来ていません」

「大変失礼いたしました。それでは……あの、お二人も提示を」


 私とエッダちゃんは、受付に行ってステータスを出す。途端に騒ぎ出す建物の中。そりゃまあレベル9999だからね。大分下げてコレだからね。

 エッダちゃんのレベルを見たときも「あの子でも?」「何だあの組」と声が上がっていた。


 そして、受付さんは私に反応する。


「し、失礼。あの……あなたはベルフェゴール、なのですよね」

「そういう種族だけど、あまり気にしなくていいですよー」

「いえ、そうではなく……」


 何か、聞きづらそうにしているけど何だろう。


「……あなたのお名前、タマエカガミとは、大和の名前だとしか思えません。『かがみたまえ』と読むのではないですか?」

「あっ! そっかそうでした。はい、一応遠くの国でベルフェゴールに生まれ変わりましたが、心は日本……じゃなかった、大和の者です」


 そう言った瞬間、周りからは明確に安堵したといった感じの反応がそこら中に溢れてきた。

 そ、そうか……私の名前が思いっきり日本仕様だから、これ出すだけでもかなり緊張が緩和されるのだ。

 いやーバカやっちゃいましたなー。


「で、用事があったのよね、きゅうけいさん」

「あっとそうでした! あの、受付さん、よろしいでしょうか」

「はっ! はいっ!」


 私に声をかけられて、めっちゃびくびくしている受付の可愛い千鳥格子のお洒落な着物みたいな服を着た美人の受付さん。

 こわくないよー、こわくないよー。私の名前はきゅうけいさん。とっても無害なきゅうけいさんだよー。

 あ、名前は火神球恵でした。竜族の村で年になりそうな勢いで過ごしている間ずっときゅうけいさんだったから、自分で素で忘れかけてた。


 っと、用事用事。


「ええっと、友人からのツテでして、モガミヤヤカって子と連絡を取りたいのです」

「えっ、弥々華様ですか!? はい、【メッセージ】の魔法を使いますので、少々お待ち下さいね。返事が来ましたらまたお知らせいたします」


 受付さん、最後はもう丁寧に落ち着いて担当してくれて、プロフェッショナル! って感じだった。ていうか遠い地方に連絡取る魔法とかあるんだね、便利だ。

 私はシルヴィアちゃん達と顔を合わせると、受付横にある椅子……ではなく、畳の休憩スペースみたいな場所に入っていった。


「あ、二人とも、この場所は土足禁止だからね」

「そうなのですね? わかりました」

「はいっ。……わあ、これ、なんだかきもちいですぅ! ラタン……えっと、トウでしたっけ、あれと一緒で植物なんですけど、粗い感じが全くせずに、とても柔らかくて優しくて、これは素敵ですぅ!」


 エッダちゃんは畳もアリですか! 大変いいセンスです! 畳を茶色い裸足で踏みしめながら、楽しそうにしている。

 私はあぐらをかいて座……らない! 即行服を脱いで、ねそべります!


「なるほど、素足だといい感触です……えっ、きゅうけいさん!?」

「ふわぁ〜、畳だぁ〜……」


 畳の感触、もう最高。まさか籐だけじゃなくて、い草の匂いと感触も再び体験できるとは。私はもう満面の笑みだった。

 頭に気をつけてごろんごろん寝転がった。ほんと角切り落とそうかな。


「もう、みっともないですよ、きゅうけいさ……エッダ?」


 気がつくと、エッダちゃんが私の横でコートを脱いでねそべっていた。

 そして私の横に来ると、ニコニコしながら「えへへ〜」と口から嬉しそうに声を漏らしながら手をにぎってきた。


 ……か、かわいいぃ……。


「これ、きもちいいですぅ……ああ、こういう感触の場所で眠るの、いいなあ……」

「わかるー……私も暑い日は畳でグースカ昼から眠るの好きだったなあ……」

「きゅうけいさんは、この畳というものが、きゅうけいさん思い出のきゅうけい場所だったんですねぇ」

「そだよー……うわーまじできもちいいー来てよかったー……」


 ああ、なんだかちょっとねむくなってき———っ!?

 急に頭が浮き上がり、沈みかけた意識が浮上する。


「受付の連絡待ちなんですよ? きゅうけい大好きなのは分かりますが、こんなところで寝てどうするんですか」


 正面に、逆さ向きのシルヴィアちゃんの困ったような微笑。

 後頭部に、柔らかい感触。

 ……これは……これはまさか!


 シルヴィアちゃんの膝枕……!


「……ふふっ、どうしたんですか? そんなに嬉しそうな顔をしちゃって」

「だってシルヴィアちゃんの膝枕なんだよ……幸せすぎ……」

「もう……これぐらいならいくらでもやってあげますよ?」


 優しい声が降ってくると、頭が細くて綺麗な指で撫でられた。


 ……こ、これが天国か……。

 シルヴィアちゃん、幼い見た目で包容力ありすぎる……。

 これが幼妻おさなづまの母性、話題のバブみとかいう底なし沼か……。


 幸せすぎて溶ける――


「カガミ様?」

「ほら、きゅうけいさん呼んでますよ」


 ――私の天国へのチケットはものの数十秒だった。しゅん。

 仕方ないので、私はちゃんと起き上がって、靴を履いて受付さんのところに行った。


「きゅうけいさんでいいよー、みんなそう呼んでるし」

「きゅうけい、さん、ですか……? そう希望されるのでしたら……。現在最上様は、遠くの地の妖怪討伐任務に赴いているところです」

「よ、妖怪討伐!」


 なんてこった、こっちのモンスターとして普通に討伐任務対象になっている妖怪と今戦ってる最中なんだ!


「それで、しばらく任務から戻れない可能性もあると」

「えっ!? な、なんで!?」

「討伐相手が、カマイタチという名前の」

「素早いヤツだ!」


 受付さんが言い終わる前に私が即答したら、受付さんはびっくりしていた。


「よ、よくご存じですね」

「そりゃもう私、ヤマト出身ですから!」


 半分本当、半分嘘!

 しかしカマイタチみたいなスピード系の妖怪となると、確かに時間がかかりそうというかいつになるか分からない。

 だったらもちろん……協力したい! っていうか早く会いたい!


「その依頼任務、私も受けることができるでしょうか!」

「えっ!? そ、それは可能ですが、向こうからの要請ではないので討伐が完了しても基本的にあちらの気持ち次第で報酬は出ませんよ?」

「そんなの関係ないよ! だって」


 私は二人を見た。

 シルヴィアちゃんも、エッダちゃんも、既に立ち上がっていて準備万端といった感じのキリッとした顔をしていた。

 うん、以心伝心だね!


「マモンさんから紹介された、せっかくの友達候補だもん。友達だったら助けに行きたいし、困ったときはお互い様! でしょ?」


 受付さんは、しばらく口をぽかんと開けていたけど、すぐにハッとなって手元の紙をこちらに出して来た。

 そこに書いてある内容は、カマイタチの発生場所。私たちが来た南東の万世山の北側、水呑山という場所だった。なるほど書いてある情報によるとかなりの数がいるようだった。

 AAA〜Sランク任務。文句なしの高難易度任務だった。

 そりゃそうだ。スピードタイプが複数ってのは、本当に厄介な任務だ。実際に戦闘する場合のパラメーターに置いて、素早さほど重要なものはない。


「最上様はギルドの中でも高位ランクで皆が頼りにしている方です。いきなりやってきたばかりの方々にお任せするのは心苦しいのですが、残念ながら手助けできるほどのランクのものがこの組合には……」

「安心して! 私たちは見ての通りめっちゃんこ強いからね! 必ず最上さんのこと助けてきます!」

「どうか、よろしくお願いします……!」


 私はシルヴィアちゃんエッダちゃんと目を合わせると、頷き合ってギルドの外へ出ようとした。玄関口から人が離れる。

 外へ出ると……野次馬が集まっていたのか、かなりの人数がわらわらとギルドの周りに集まってこっちを見ていた。

 その視線は、やはり不信感を露わにしたものだった。




 ……竜族の村以上にアウェーって感じだ。


 分かっている。分かっているのだ。

 私は今やただの青肌魔族。それどころか魔王そのものの見た目。いくら内面でこの三人の中で一番この人達に近いと行っても、人は見た目が九割なのだ。


 分かっている。

 それでもここまで奇異の目を向けられるのは、ちょっとキツイ……。

 分かっていても、どうしても感情は連動しない。


 ……せっかく、故郷みたいな場所に来られたのにな……。




「物珍しいのはわかりますけど……さすがに、きゅうけいさんに対してここまで奇異の目を向けられるとちょっとカチンと来ますね」

「……え? いやいやシルヴィアちゃん、普通こんなもんだよ、むしろ受け入れられている方だと思うよ……」

「きゅうけいさんが良くても、あたしが良くないんですよ。だから、見せつけていきます。……【ドラゴンフォーム】!」


 え? と返事をする暇もなく、なんとシルヴィアちゃんが街の大通りで古竜の姿になった……!

 それはもう、びっくりだ。狭くていろいろとはみ出ている! 私とエッダちゃんは顔を見合わせると、急いでシルヴィアちゃんの背中に乗った。


『グガアアァァァァァァァァl』


 そして叫び声を上げて、大地を踏みしめて跳び上がり、北東の水呑山へと移動を開始した。遠目に見ると、風圧で瓦が飛ばされ……たりはしていないようだった。

 でも……だ、だいじょうぶかな……?


 それにしても……さっきの行為は驚いた。

 シルヴィアちゃん、まさかあそこまで私に奇異の目が向けられたことを気にして、勢いでフォームチェンジしてくれるとは。

 ……私、かなり愛されてる、よね。

 なんだかシルヴィアちゃんの、その頭を後ろから見ながら照れてしまう。


「シルヴィアちゃん。ありがとね。シルヴィアちゃんが味方でいてくれて私は嬉しいよ」

『……』


 シルヴィアちゃんは、無言で竜の首を曲げて、少しこちらと目を合わせてくれた。表情は読めない厳つい竜の姿のはずなのに、それは慈愛を感じさせる表情をしているように感じられた。


 ふと、私の体がむぎゅっと締め付けられる。


「……わ、わたしも何があってもきゅうけいさんの味方ですぅ!」

「エッダちゃん! もちろん、エッダちゃんがいてくれるだけで私はいつでも癒されているよ! 疲れた時はいつでも心の拠り所だよぉ〜!」

「はわっ……! きゅうけいさんの体も、あったかくてきもちよくて、なんだかとっても安心しますぅ……!」


 私はエッダちゃんにしがみつかれて、お返しに頭からすっぽり体全体を包み込みように抱きしめ返した。

 今大胆な行動してます!


 してますが……ッ!

 もっと……!

 もっと薄着の時にしたかったーっ!


 気がついた時には私の心は、いつもの余裕を取り戻していた。


 -


 山の中に入ると、早速私は最上さんを探すことにした。


「手加減なしで行くよ。【レベルリリース】【レーダー】」


 レベルを戻したレーダーで、山の中を調べる。

 そして……想像以上の事態になっていることに気がついた。


「リーダー。魔物がね、沢山いるの。これが妖怪だと思うんだけど」

「……何か、問題があったんですか?」


 私は二人を見た。


「三桁いるかもしれない」

「……まさか。単体A以上って書かれていた魔物でしょう?」

「そう。それが三桁。なるほどこれは終わらないわけだよ」


 私は二人に目を合わせると、森の中を走っていった。

 目的地はもちろん……その中にいる亜人の反応。


 山の木々をくぐり抜けると……いた! 


 そこには、銀色の長い髪がキラッキラ輝く、もふもふしっぽの狐耳!

 間違いない、これが最上さん! どちらかというと最上ちゃんかも! 服はいくつか切れてしまっている。

 カマイタチにやられたんだろう。


 同時にあちらも私を見つけたようだった。切れ長の細い目がこちらを向き、僅かに目を見開く。

 よし、接触を……


「――シャッ!」


 最上さんは、思いっきりこちらに向かって白い光を放つ攻撃魔法を撃ってきた!


「うわっ! 敵じゃない敵じゃない!」

「今のを防ぐか! ならば次は……」

「待って待って」

「シェィアァッ!」


 気合の入った叫び声とともに……空からつららがおちてくる! 私はそのごっつい氷の鈍器を拳で弾きながら、同時に最上さんの手から現れる折り鶴のようなホーミング弾を籠手で払いのける。

 しまった、シルヴィアちゃん達が来るまで待てばよかった……!


「強い!」

「ど、どうどう! 落ち着いて……ッ!」


 私は最上さんの後ろで、何か動くのを感じた。

 気合いを入れて視界を懲らすと、一気に時間の感覚が遅くなり……相手の姿が見えた。


 エグイ刃物を持った、イタチだ。なるほどこいつがカマイタチ。

 でも、最上さんを真後ろから狙っているヤツ、妙に他のカマイタチより色も違ってサイズも大きい。標的は……最上さんの、首か!


「やらせないッ!」


 私は止まった時間の中で、それでもゆっくり移動してきている大きいイタチの所まで……つまり最上さんの真後ろまで行き、イタチを捕まえた。

 その瞬間、感覚が戻る。


「……え?」


 後ろから、唖然とした様子の最上さんが振り返る。


「ふー、危なかった」


 私が両手で巨大カマイタチを掴んでいると、その瞬間に二つの破裂音が左右から交互に聞こえてきた。

 これは……!


「間に合いました!」


 エッダちゃんの矢……! なんという高威力かつ正確な支援攻撃! そうか、私さっき狙われてたんだ……頼もしい!

 シルヴィアちゃんの方も現れて、私のすぐ隣まで来た。

 私の鷲づかみポーズにちょっと呆れた感じの顔をして、無事な最上さんの様子を見て満足そうに頷くと、声を上げる。


「よし、それじゃ……『異種友』のヤマト初討伐任務、開始!」

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― 新着の感想 ―
[一言] 思ったんだけど。カレーの国(インド)では青い肌の神々がいらっしゃったかと思います。 軽く調べたところ、シヴァ神とヴィシュヌ神、カーリー神が該当するようです。 とすれば、青い肌=悪とはならな…
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