別視点:レジーナ
久々の別視点です。
占いって、みんなは信じる?
私? もちろん信じてるよ。
私の場合は、ちょっと違うものではあるのだけれど。
でも当時私は、占い師にならない方がよかったかなとも思っていた。
最初にその能力に気付いたのは、幼少の頃。
相手を見たり、触れたり感じたり知ったり、とにかくそういう手段によって相手の何か善し悪しや未来などが見え出した。
とんでもない超能力だったし、これがただの予感じゃないのはすぐに気付いた。
ただ、それを手放しで喜べるかといったらね。
私は竜族として生まれた。
竜族がどういう種族かというと、言うまでもなくそれはもうめっちゃ強いわけよ。そしてよりによってその竜族としても強い個体の『ダークドラゴン』とかいうやたらと強い個体に生まれてしまってね。
村きっての強者、その中でも400という高レベルに入っちゃったピンチにならないダークドラゴン。それが私レジーナだった。
私とまではいかなくとも強い人はたくさんいたし、もちろん私より強い人もいた。
つまりね。
占いなんだけどね。
みんな使わないのよーっ!
つっよいの! みんな問答無用でつっよいの!
当たり前だよね、占いで占って危機になるって状況、ほんっとーに全くないんだもん!
そんなものに頼るぐらいなら自分の力ではねのけてトラブル解決しちゃえるのがドラゴンなの!
その上で相談相手がピンチなら占いで危機を察知するとかじゃなくって私が直接出向いたら大体その能力で解決しちゃえるの!
挙げ句には「レジーナさんそんなに強いのになんでそこまで慎重なんですか?」なんて返される始末! 実際そのとおりなんだけど!
それでも持て余し気味な能力とはいえ投げ捨てるにはあまりに惜しい。
ってわけで、私は自分の力を持て余しながらも占い師というウケない職業を一応公言していた。
そんな私の友人になったのがトゥーリアだった。
トゥーリアは気っ風のいい女の子で、私の能力を「すげーすげー!」と喜んでくれて、すっかり打ち解けるようになった。
お酒も飲むようになると、私とトゥーリアはますます仲良くなった。
ただし、やっぱりお客さんは増えなかった。
変わり者扱いで、村では特殊な立ち位置になってしまった。
ホントに私は占い師になってよかったのかなー……。
変化が起こったのは、勇者と呼ばれる存在に長が敗れたときだ。
その話題は我らが村の話題の一番になった。当たり前だよね、絶対強者として居続けていたにもかかわらず、まさか守る対象だと思っていた人間に負けるなんて。
私はその人間さんに興味を持った。
人間の勇者さんは、意外とちょっと傲慢でグイグイ来る感じの男だった。厚着してたんだけど、こっちの体にちらちら視線を寄越してきて、なるほどこれが色を好む人間の英雄ってやつかな?
竜族はわりと淡泊なので男日照りが続いてる身としては悪い気はしなかったけどね! もっと薄着にしてくればよかったって思っちゃったぐらい。
まあそれはいいとしてだよ、私はその人間の勇者という男を占ってみたわけだ。ところが……あんまりいい結果がなかったというか、うまくいかないし調子に乗りすぎだと出てきちゃったわけ。
これを正直に……伝えてしまった。
「怒らないで聞いてほしいんだけどー……あなた、調子に乗りすぎって出ちゃってて、それで自分より強い敵に負けるって」
「は? お前何いってんの? 俺より強いヤツとかいるわけねーだろ。大体お前ら全員俺より弱いじゃねえか。大体何をすればいいって?」
「えっとー……討伐する相手、諦めて二度と戦わないとか……」
「はぁ!? なんなんだお前なめてんのか!?」
……まあ、そうなるよね。
私は勇者に対して魔王には勝てないから諦めて余生を過ごしてくださいと伝えて、当然のように怒られた。
結局ね、占い師って占いをするのであってカウンセラーじゃないわけよ。だから大したアドバイスをできることもなく、上手い伝え方も思いつかず、お別れとなってしまった。
出会った頃には好色そうだった視線は、別れる頃には侮蔑と嫌悪の視線になっていた。
さすがに凹んだね。しばらく男はいいかなって思えるぐらい凹んだとも。
……あと、占いもやりたくないなあとか、ね。
その頃、トゥーリアのお父さんである竜族の長であるエドモンドさんとも飲むようになっていた。
長老さんもお酒大好きでねー、それはもうトゥーリアと飲んだり長老と飲んだり、したわけよ。お酒好きの友達がいるって最高だね。
特に愚痴とかもべらべらーっと吐き出しても、そんなに重くもなくさらさらーっと受け止めたり受け流したりしてくれるからさ。
「それで興味を持ったってことで折角占いしたのにさぁ〜! もーどー伝えていいかわかんなくてストレートに諦めろって言ったらすっごい嫌な顔されちゃったのよう!」
「あったり前だろ! 魔王討伐を目的にして生まれてきた勇者を、魔王に勝てないから討伐は諦めろなんて言ったって、これは困難だから乗り越えられるに違いないって思われるに決まってるって」
「そぉなのかなぁー」
「そうだっただろ、第一あの勇者は結局『嫉妬の魔王』も倒したんだぞ? まったく、レジーナは肝心なところでダメッダメだなぁ」
「むぅー、ぽんこつトゥーリアにダメダメと言われるの凹むなー」
「おいお前あたしのことそんなふうに思ってたのかよ!? いきなりダチからの衝撃の告白であたしの方が凹みそうだよ!?」
うー、トゥーリアにも言われてしまった。よっぽどダメだったんかなー。
でもねー、見えたんだよねー。
占いの精度落ちちゃったかなー?
そんなお喋りをしてると、かっこいいパパさんの長老が私に声をかけた。
「あの勇者の占いをやったものの、ダメだと出たのか?」
「そうですねぇ長老。なんだかよくないなあって思って、そのまんま伝えたんですけどダメでしたねえ……」
「ふむ……レジーナの占いか、儂も見てもらっても?」
「おお、長老様が……もちろんいいですよ!」
私は手を握るのを所望した。ちょっと自分の希望も入っています!
「……ふーむ」
「どうだ? 何かわかりそうか?」
「……お、おお……これは……! これは、いいですね! えっマジですか、これは長老がんばらなくちゃいけませんね!」
「おいおい話せよ、話さないと何のことなのか分からんぞ」
「ああっと失礼いたしました」
私はもうしばらく握りっぱなしでいいかなと思いつつ、手をそのままに喋り始めた。
「なんといってもさすがトゥーリアもお父様の長老も古竜ですね、滅茶苦茶光の力が強いです」
「ほお……そうなのか、それは嬉しいな」
「それで、ですね……トゥーリアの妹っていましたっけ」
「いないぞ? 知っているだろう」
「ですよね。……四人家族が見えます。次の子ができるとすれば女の子です。なので子作りをした方がいいのかなー?」
私の話を横で聞いていたトゥーリアが立ち上がった。
「お、女の子! ってことは、私の妹か!」
「そだよー、トゥーリアの光は近づいて……ああ、これトゥーリアは妹ちゃんのことめちゃめちゃ溺愛しちゃうパターンだね」
「……ち、父上!」
トゥーリアさん、立ち上がって長老さんを説得にかかる。長老さんはそれはもう困惑していた……こっちに向かって。
「やっぱりお前、言い方ってものをだな……」
「え?」
「子作りしてくださいとかストレートすぎるだろう……参ったな、どうしようもなく恥ずかしいぞ」
長老に言われて、私が一体何を行ったのか分かって手を離した。
……ほ、ほんとだよ! いきなり、その、私みたいな女に対してやることやってくださいと実の娘の前で言われるなんて恥ずかしいったらありゃしないだろうね!
「まあ……考えておこう」
一応勇者さんと違って、長老はしっかり聞いてくれた。
ありがとう長老、その一言で占い師は救われるんです。
でも、私占い師やっぱり向いてないんじゃないの? って思ってしまった。
ああもう、恥ずかしいなー……。
それから数年経過して、晴れてナタリアさんは妊娠した。トゥーリアはそりゃもー喜んじゃって、私にたくさんお酒を奢ってくれた。
今回ばかりは言った甲斐あったねー!
ナタリアさんのお腹が大きくなって、その膨らんだお腹をトゥーリアと一緒にニコニコ触らせてもらった。竜族といっても卵ではなく完全に人間の生態に近いので、この辺りは人間のやり方と共通ね。
「あ、うごいたぞっ! ……ふふ、あたしがねーちゃんだからなー。お前のこと、ちゃーんとねーちゃんが守ってやるからなー」
嬉しそうなトゥーリア。こんなに嬉しそうな顔、なかなか見ない。
人間の街で勉強したから、もうすぐ生まれるって事も分かる。
本当に、楽しみだ。
しかし、出産直前に、一つの重大なニュースが流れる。
———勇者、魔王サタン討伐失敗。
村には、高レベルのアサシンジョブの女が一人帰ってきた。
「パーティが全滅、して……う、ううっ……!」
パーティ全滅。
それは、あの滅茶苦茶強い長老を破ったデタラメなまでの特殊な人間が、死んだことを意味した。
「急にみんな言うことを聞かなくなって、魔術師も魔法が乱雑になり、最後は杖で力任せに殴るようになって、聖職者も回復魔法よりメイスでなぐるようになってしまって……あんなの……あんなのどう考えてもおかしい!」
「あれは『憤怒の呪い』だ……!」
私もトゥーリアも戦慄していたけど、やっぱり一番衝撃だったのは長老だろう。
だって長老は、戦ったのだ、戦って、勇者がどれだけ強いかを一番身をもって体験しているのだ。
その長老を負かせた人間が、負けた。
……私が、言い方を間違えたせいだろうか。
長老は、人が変わったように鍛錬に打ち込んだ。
そして、トゥーリアやアウグストを必死で鍛え上げた。
同時に、私のことをかなり特別視するようになったのは……素直に喜んで良いことなのか迷うところだった。ただ、勇者の死が長老にとっての私の立場を絶対のものとしたことは確かだと思う。
それから数日……シルヴィアちゃんが生まれた。
シルヴィアちゃんはそれはもう可愛くて、長老も奧さんもトゥーリアも、シルヴィアちゃんの前ではデレデレニコニコだった。
……でも、だからだろう。
「あたしが……守る……! あたしが魔王から、この子を守らねえと……!」
それは、ちょっと狂気的な打ち込み具合だったと思う。
トゥーリアは連日怪我をするまで長老に挑み、そして間もなく長老のレベルを抜いてしまい、更にその上を目指すようになった。
一方シルヴィアちゃんは……そりゃあもう優秀な子だった。
一目見て、ああこの子は完全に違うタイプだと思った。
「シルヴィアちゃんは勉強好きで優秀だよー」
私は長老に伝えると、それはもう喜んで書物や文献をどんどん人間の街から持ってきた。
シルヴィアちゃん、予想通りそれらを読むのに嵌った。勉強しているというより、もう覚えるのが楽しいというか、娯楽感覚だ。
だからだろうね、興味の湧き方が他の人より早かったのは。
「人間の街に行きたい!」
人間の街を希望した時があまりにも若かった。
それに対して長老の出した条件のレベル4000も無茶苦茶だと思う。
しかし、我々は全く予想していなかった。
シルヴィアちゃん、過酷かつ効率的という地の頭の良さを組み合わせたような鍛錬で、姉に迫った。
実はトゥーリア、妹に対してちょっと焦ってたのは内緒ね。
そしてシルヴィアちゃんはレベル4000になって出て行った。
トゥーリアも、いいおねえちゃんとして送り出したと思う。
トゥーリアはシルヴィアちゃんが巣立ったことで、少し気が抜けた感じになった。良くも悪くもこなれたというか。
でも、いいことだと思う。
以前のトゥーリアのコンの詰め方はやはり異常だったし、ちょっと友人として見ていられなかった。結果的に強くはなったんだけどね。
だけどシルヴィアちゃん自身が守ってあげる必要もないぐらい強くなったから、もうそこまで頑張る必要もないのだ。
……ただ、緩みすぎて愚痴酒が私以外にも被害者が出るようになったけどね。
シルヴィアちゃんは、なかなか挨拶にも帰ってこなかった。
便りがないのが良い便りっていい表現だと思うけど、それって連絡先が分かっているのに不幸の報告がないって意味なんだけどね。
ここ一応秘匿された村だから、危機とかあっても報告が来ないわけよ。
つまり、私も私で結構シルヴィアちゃんのことは心配だった。
だって……占いでは、あまりにも大きい規模の『絶望』と『希望』が混ざっていたのだ。
これが全く分からない。分からないけど……。
「これは、シルヴィアちゃん次第なのか、相手の出方次第なのか……アドバイスはできないけど……」
心配だ、私も酔いつぶれそう。
圧倒的な運命の前に、占いは無力だ。
「遠方の調査?」
「ああ」
どうやら長老は、奥方と一緒に遠くの地へ行ってしまうようだった。
留守はトゥーリアが預かるらしい。
「まあ、大丈夫だと思うけど……」
……不幸に見舞われるということはない。ないけど……何だろう、この漠然とした不安は。
「長老は大丈夫だと思います。なので行ってください」
「分かった。儂はレジーナの占いを信じるよ」
占い師はその一言で救われる。
後日長老は出向いていった。
一人となったトゥーリアは、まさにお酒に溺れる人になっちゃったけど、それからすぐシルヴィアちゃんが帰ってきてテンションも戻ってきたね。
シルヴィアちゃんが帰ってきて一番良かったのは、トゥーリアの表情が良くなったこと。
ある日、久々に二人っきりで酒場に行った時。
「レベル、多分追い抜かれる。だけど……避けないでほしいって。ああ、シルヴィア……本当にいい子に育ったよ……」
……今日のお酒はおいしいね。
最近は文句に相づち打つだけのひたすら退屈な酒だったから、シルヴィアちゃんの話題がここまでプラスに働いてくれるのはとても嬉しかった。
いい成長を遂げてくれた。ただのトゥーリアの強くなって守りたいほどかわいい妹、ってだけじゃないレベルで、トゥーリアにとって大切な妹になっていた。
同時に、大事件が起こっていた。
「魔族を引き連れてきた」
それはもう、予想外中の予想外だったね。
だって、魔族は我々竜族にとって唯一の敵といっても仕方がない存在だったから。
私は、それはもう驚きに驚いた。
同時に……ものすごく興味を引かれた。
だってあのシルヴィアちゃんなのだ。
私が感じた、突然変異クラスの頭脳派古竜。超優等生ドラゴネッティ。
わがままも少なく、優しい子で、とにかく天使としか言いようがない子。
そんな子が選んできたのが魔族だというのだ。
そして、トゥーリアから何故か、トゥーリアが霞むほどの光が見えた。
ちょっと不吉なものも見えたので伝えた。
直接、見たいとお願いした。
後日直接会う機会があったけど、正直緊張した。
だって……真っ青なのだ。しかも目は真っ黒の中に赤い光。
髪は燃えるような赤、その横から生えるいかつい角。
そしてトゥーリアから間接的にも感じてたけど、直接会って分かった。
———なんかこの人、この大陸全土の生命体より生命力ない?
……いや、さすがにそんなことはありえない。
ありえないんだけど、とにかくそれぐらいすごいと思えた。
とんでもない子入れちゃったねシルヴィアちゃん……。
でも、そんな魔族の容姿がおまけになるぐらい、衝撃的なことがあった。
「占い師さんですかっ! 私占い好きなんです!」
なんとっ。
この村でも爪弾きまではいかないものの、どー考えてもイロモノで役目不足の占い師という職に対して、ものすっごい満面スマイル。
そして『占い好き』ですか。いや待って、魔族って占いとかやってんの? ていうか人気なの!? すっごく羨ましいんだけど魔族の占い師!
ああ、ほんとに嬉しそうだなあ。にっこり目を閉じると、あんまり威圧感とかないっていうか。背丈はちょっと小さいし、どちらかというと……かわいい系かも?
っていうか、そこなの。
テンション高くて驚いたの。
見た目の予想と中身違いすぎ!
とにかく私の占いにここまで喜んでくれると思っていなかったので、初対面で私の好感度はいきなり上がりまくった。
同時にこの魔族に見た『善100%』の光を、「ほんとかー?」って自分の占い内容でさえ疑ってたけど、会って喋って分かった。
問答無用で善100%。そんなこと、占わなくても分かる。こりゃ頭脳明晰なシルヴィアちゃんが全幅の信頼を置くわけだ。
もうね、なんだろ、超かわいいのこの魔族。
こんなん一度喋ったら誰だって好きになる。
で、占いの結果。
『友達を作る』
我ながら呆れるような結果だった。だけど、友達を作れば、何か漠然としてるけど、ものすごいものが繋がる。
この魔族の大きな光を覆いかねないほどの薄くて広い闇の幕を、うまいこと払ってくれるような友達がいるはずだ。
誰かは分からないけど、きっとその人を引き当てることがこの人の運命だね。
「はい、レジーナさんの言ったこと、ちゃんと意識しますね、見ていただいてありがとうございます!」
うんうん、いい子だねー。
「ってなわけで、私もあなたの友達になりたいな!」
「わあっ、はい! こちらこそ! えっと、レジーナさん!」
笑顔で握手。
うーん、本当にただひたすら単純にいい子だった。
これが魔族かあ。
……そして私は思った。
頭ごなしに不確定要素の強い『占い師』を不審がる先入観。
そういう竜族の皆に、昔から落胆していた部分があった。
私も『魔族』というモノを直接知らずに頭ごなしに怖そうとか思ってた。
全然だね。
私は私で『占い師』という私に対して向けられていた疑いの目を、私自身が『魔族』というものに対して向けていたわけだ。
落胆していた相手と、私は同じだった。
はは、こりゃ一本取られた。
魔族に教えられちゃったね。
それからしばらくして。
すっかりこの頃はもうトゥーリアもきゅうけいさんを信頼してたから、ダンジョンに行って帰ってきた。
それでよかったねーとか思いながら家にいると、急にトゥーリアがやってきた。
「屋外テルマエで冷えた白ワインを飲む……ってどう思う」
「まって。なにそれ詳しく」
「きゅうけいさんの飲み方らしい」
あの時のトゥーリアと私は、それはもう同じ笑顔をしていたと思う。
私は無言で家の奥からワインの瓶を四本持ってきた。
トゥーリアも既に用意していて、きゅうけいさんが入浴好きでテルマエを新品同様にしたと聞いて、喜び勇んで足を運んだ。
でも移動中の会話でぶっとんだね。
———シルヴィアのパーティにマーメイドが増えた。
……いやいや! マーメイド!?
なんかレベルとかめちゃめちゃ高いらしいし! しかも経緯が「きゅうけいさんが友達になりたがったから」って!
確かに友達を増やせばいいって言ったけど! まさかあの村最強のトゥーリアより強い存在が「友達になりたい」でシルヴィアちゃんの仲間になっちゃうとは思わなかった!
そう、仲間だ友達だこっちの味方だ。
漠然と感じていた黒い霧の不安が晴れていく。
……間違いない、これだ! これで全てがうまくいく!
あと、マーメイドのビーチェさんが笑い上戸だったのは傑作だったね!
ちょっと悪い気はしたけど、あれを肴に再びトゥーリアとワイン二次会としゃれこんだよ。
もちろん話題はビーチェさんだけじゃなくて、我らがシルヴィアちゃんの成長と、きゅうけいさんの面白さにも向いた。
あの時トゥーリアも一緒にいたから、やっぱり『友達』の範囲が予想外の広さで驚きだったね。
まさかマーメイドも仲間にしてしまうとは、本当にすごい。
あまり日の目を見なかった私の占いに、自信も出てくるよ。
後日、長老夫婦が帰ってきた。
長老は、きっと魔族も筆頭眷属も受け入れるのは難しいかなと思っていた。
ここは、せっかくだから少し恩返しといきたかった。
だって、きゅうけいさんはあんなに私の占いを喜んでくれたんだ。
まさかあそこまで占いの内容を守って……なんてレベルじゃない。
占いの内容を完遂しようと積極的に頑張ってくれるとは思わなくて嬉しかった。
嬉しい。
そうだ。
嬉しいんだ、私。
占い師として、今までで一番、嬉しいんだ。
だから私は、絶対にきゅうけいさんを認めさせようと心に決めていた。
占い師としての正装に着込んで、長の前に出た。
「……わ、わかった! シルヴィアの気が済むまでいさせよう!」
最後の一発はシルヴィアちゃんが決めちゃった感じだけど、ま、シルヴィアちゃんの気持ちを考えたら当然だよね。
今回の、正直私は『もらってばかり』ってぐらいの感覚でいるんだけどね。
これで恩を返したことになれたらと思うよ。
-
そして、予想していたピンチがやってきた。
敵の魔王の襲来。
恐らく……長老は何かつけられてきたんだと思う。
ピンチとしか思えないこの状況。
最初の一手。
ビーチェさんがビンタした。
一番強い敵が即死した。
以上。
っていやいや! 事態好転しすぎ!
なんか敵の魔王めっちゃ焦ってるし! 焦ってると思ったらめちゃめちゃ怒り出すし!
ビーチェさんはマイペースに汚れた手を洗っていて、自分がどれほどとんでもない一手を行ったのか全く気付いてない辺りが頼もしくも恐ろしい! っていうか筆頭眷属を素手で一撃!? マーメイドって何なの、オーガかサイクロプスの親戚なの!?
そんなこんなで、ギルドの飲んだくれどもがゴブリンとニードルピューマというザコ討伐のめっちゃ楽勝なお仕事をやってるのを見ながら、私は本当に霧が晴れたことを感じた。
この村で友達を増やす任務、終了だね。
きゅうけいさん、私の占いをここまで信じてくれてありがとう。
レジーナはあなたの占いが出来て幸せ者だよ。
ビーチェさんと友達になってくれて、私は世界一幸せな占い師だよ。
って思ってたんだけどね。
「マモンさんは竜族の村に手を出すなって言ったら出しませんか?」
「元々出すつもりないですよ、そもそもリターンが期待出来なさすぎます」
待って。
なんか、私の描いていた勝利の予想図とちょっと違う。
「あなたも、私と一緒に人間の味方になってくれませんか?」
「……先代に比べると、まるで何もかも別人ですね。実のところ先代は私も苦手でね……だから、いいですよ」
え? 今の聞き間違いかな?
横を見るとトゥーリアもいて、あっちも私を見ていた。
間抜けな顔して口を開けてた。今ね、鏡見てる気分。
「ほ、ほんとに!? あと、友達とかなりたいんだけど!」
友達!?
ここにきて、友達まだ徹底するの!?
「もう私、立場とか魔王とかどうでもいいんで! そんなことよりたくさん友達ほしいの!」
「ははははは! いいですよ! 今までベルフェゴールとは付き合いもありましたが、友達という形式が希望なら友達になりましょう!」
え?
えっ。
は?
ええええええっ!?
すっかり置いてけぼりを喰らってる私たちの下へ、マモンがきゅうけいさんと一緒にやってくる。
「こちらの村の代表に会いたいんですが、いらっしゃいますかネ?」
「あっはい」
トゥーリアもすっかり場に飲まれて返事している。
ほんと、アッハイとしか言いようがないよこれ。
トゥーリアさんに連れられて、やっぱり呆気にとられた長老がやってくる。
「どうもどうも、ワタクシはマモンというんですが、お名前は?」
「あ、ああ……エドモンド・ドラゴネッティだ」
「エドモンドですね。ワタクシこっちのベルフェゴールにお願いされてあなた達の村を守ることになりました。つきましては多少食事や、死後の骨とまでは言いませんが、角や牙などを融通していただけると、ワタクシも全力で守りますよ」
「……そ、そうか……死後、というなら……しかし信用していいものか……」
長老の言い分は尤もだ。
いきなり魔王に全力で守るとか言われても信用できるかわかんないよね。
「ああ、それでしたら老衰で死んでいただかないと、まだまだ長老といってもエドモンドさんはお若いですからね。成長しきるまで角や牙の価値はまだ高くありません。それまでは待ちますよ、なにせ私は『強欲』で『貪欲』ですから。一番いいものしか欲しくありません」
「なるほど……分かった。ならば老衰したならこのエドモンドの骨以外の全ての半分を融通するということでどうだ?」
「素晴らしい! これで死体を盗んだ挙げ句に追いかけ回されることなく堂々といただけるのですネ! いやあ今日は本当に素晴らしい!」
わ、わあ……長老と魔王が握手しちゃってるよ。
あの、魔王を警戒して村全体をレベルアップ頑張ってた長老が。
レベル9999の味方作っちゃったよ。
えっと……まだ状況が飲み込めないんだけど。
「ところで」
「うむ?」
「呑める方、いらっしゃいます? お酒の好きな方です」
長老は……真っ先にきゅうけいさんを見た。
「ベルフェゴール! あなたも飲めるのですか!」
「めっちゃ飲むよ! お酒大好き!」
「それは是非に!」
そしてきゅうけいさんはというと……私とトゥーリアを見た。
「綺麗な方ですね、あなたたちは?」
「え? あたしは長老の娘です。隣は友人で、まあ……酒は飲めますね」
「決まりですね!」
笑顔で頷いたマモンは……一本のワインを出した。
光を通さない濃い液体に、簡素なラベルが貼ってある。
……ん? んんん!?
あれって、まさか……!?
「いいことがあった時には開けるんですよォ。ワタクシはチマチマ貯金するのも嫌いではありませんが、大口をいただくためには時に思い切りも必要だと思っております。今日は末永くお付き合いいただける友好の証としてこれでお祝いしましょう」
私は、その事実に震えた。
マモンが持っていたんだ。
私の様子がおかしいのに気付いて、トゥーリアが声をかけてきた。
「……なあ、あれが何か知ってるのか?」
「ボルッツェ102年。人間の大魔道士が余生で作った30本中、29本しか所在が確認されてない王城の宝物庫にある赤ワインの残りの一本」
「え?」
「ちなみに一本で金貨50枚ね」
トゥーリアの顔が、これ以上なく目を見開いて大口になる。
気持ちは分かる。
私はね、驚きすぎてどうやって驚いたらいいかわからないの。
そんな会話の横で、あっさりとその染みすぎて色も形も変わったコルクの抜ける気持ちいい音が響く。
あ、開けちゃった……。
ほんとに私も飲んでいいの?
「さ、みんなで飲みましょうか」
まるで酒場で安酒でも奢るがごとく言ってのける世界一の金持ち魔王様。
どうしよ、なんかすっごい飲み友が増えちゃった。
あのね、きゅうけいさん。この恩返すのはちょっと待ってね?
多分どうやっても返せないだろうし、きゅうけいさん自身は全くそんなこと気にしてないだろうけど。
でも本当に、占った一回分の報酬にしては、凄すぎてね。
私、ここまで報われるなんて思わなかった。
手元のグラスを見ながら今までの苦労を思い出して、涙も出てきそうだよ。
ありがとう、きゅうけいさん。
今日は、胸を張ってこう言いたい。
———占い師になってよかった。






