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きゅうけいさんは黒い霧を晴らしていた

 話もある程度済んだことで、そういえばしっかり自己紹介されていないことに気付いた。


「あの、お名前とか伺ってもよろしいでしょうか!」

「ん! ンンッ、ゴホン。……改めてよろしくお願いしよう。儂はエドモンド・ドラゴネッティだ。カガミ殿、とお呼びしても?」

「きゅうけいさんでもいいですよ! よろしくお願いします、エドモンドさん!」

「さすがに少し呼びづらいので、カガミ殿と呼ばせていただこうと思う。……ふーむ、なるほどこれがベルフェゴールか……」


 シルヴィアちゃんの方を向いていておろおろしていたお父様こと長さん、ちょっと恥ずかしそうにしつつも自己紹介してくれた。


 そして私のちょっと本命入ってる、二人のママさんことドラゴネッティ家のお母様!


「次は私ですね。エドモンドの家内のナタリアです。あの……きゅうけいさんって呼び方で私も呼んでもいいんです?」

「わあっ! はい! どうぞお呼び下さい! よろしくお願いしますナタリアさんっ!」

「はい、よろしくね、きゅうけいさん。うふふ、シルヴィアが魔族にべったりなんて聞いて、最初はどういうことなのかと思ったけれど、なるほど可愛らしい方ですね」

「えへへへへ〜……お母様もとっても可愛らしくて一目で気に入っちゃいました!」

「まあ!」


 両手を合わせて体の前でちょっと傾けるおねだりっぽいポーズで喜ぶ、色っぽくて可愛らしいお母様に和んでいると、横から「会って早々人妻を口説く魔王がどこにいるんですか……」と、シルヴィアちゃんの呆れ気味の声が聞こえてきた。

 はい! ここです!


「どちらかというと、『友達』になりたいかなって」

「と、友達ですか?」

「はい! みんな友達になれたらいいなーって思っていまっす! ど、どうでしょうか……?」


 勢いに任せて言っちゃったけど……ど、どうかな……?


「ええ! いいですよ、私でよろしければ、きゅうけいさんのお友達にさせてくださいね?」

「ほんとですかっ! やった! よろしくお願いしますっ!」

「ふふ、こちらこそ!」


 やったね! また素敵な友達をゲットしました!


「……いやあ、ここまで徹底して守ってくれると、言った側としてもちょっと嬉しい反面悪い気さえしちゃうね」

「あれ、レジーナさん? よそ行きみたいな喋りじゃなくていいんですか?」

「緊張するところは抜けたからねー。それに長老とは実は飲み友なのだ。今度きゅうけいさんも一緒に飲もうよ」

「いいんですか! じゃあ是非一緒に!」

「約束しちゃった。いいですよねー、ちょーっと失敗してきちゃったっぽい、長・老・さ・ま?」

「うっ…………わ、わかった、わかったわい、まったくお主と来たら……」


 レジーナさん、なかなかやり手のようだね。長老も、レジーナさんの前ではタジタジって感じだ。


「ねえ」


 途端に、横から声が来てびくっと震える長とレジーナさん。

 い、今のはお母様ですか……!?


「まさか、また、朝まで帰らないなんてこと、ないですよねえ?」

「ウッ……いや、その……た、宅飲み! 家で飲もうじゃないか! なあレジーナ、それなら上限があるだろう」

「え、ええそうねー長老さまー……」


 わあお……この家の力関係が見えた瞬間だ……。

 ていうかこれ、うちで見た関係図だ。

 お母様、パパの酔っ払い朝帰りを許さないのと、その話になるとお母様が一番強くなっちゃうの、どこの世界でも同じだったらしい。


「まあ酔っ払ったらお父様はあたしがのしてあげます」

「……シルヴィア?」

「【ステータス】ッ!」


 シルヴィアちゃん、何の前フリもなくステータスを表示した。

 そこに現れるは、もちろん……レベル6176という無慈悲なる数字。


 唖然とするエドモンドパパとナタリアママ。


「……な……」

「きゅうけいさんのおかげです」

「なに?」

「きゅうけいさんが、ケルベロスのトドメをあたしに譲ってくれたからです。だからあたし、きゅうけいさんとずっと一緒にいると、もっといいことが起こると信じているんです」


 シルヴィアちゃん、二人の前に行き、正座をしてまっすぐ見る。


「どうですか。あたしは、何か間違っていますか、お父様」


 ……この絶好のタイミングで、あのレベルを出してくる。

 やっぱりシルヴィアちゃん、相当なやり手としか言いようがない……!


「……なるほど……確かに、儂の見立て以上に、カガミ殿と一緒にいた方が、シルヴィアの為になるようだ……」

「お父様……」

「シルヴィアがそこまで信用する気持ち、分かった気がするよ」


 エドモンドさんも、シルヴィアちゃんの近くに寄る。


「……頭の良い子だとは思っていたが……。……たった二年ですっかり儂の手を離れて、上を行くようになってしまったなあ……」


 そう言ってエドモンドさんは、その喋りに似合わない若々しくて優しそうなお父様スマイルで、シルヴィアちゃんの頭を撫でた。

 ナタリアさんも近寄って、シルヴィアちゃんを抱いて頭を撫でた。


 ……うん、やっぱりいい親子だね……。


 -


 レジーナさんの言った黒い霧、というものの影響はすぐに出た。


「魔物がこの付近に現れてきている?」

「はい、そのようです」


 竜族の村は、当然のことながら竜族がいる村だ。

 その住人は本来全て竜族でできている。

 いやまあほんと言うまでもないぐらい当然ですね!


 ……どうしてそんなことを言うかというと、村に住んでいる者が竜族しかいないと分かっている場合、当然のことながら喧嘩を売ったり絶対出来ないわけよ。

 当たり前だよね、住人全部竜族でトップに古竜が数体いるって、そんなやつらに喧嘩を売って勝てるわけがない。

 にもかかわらず、出てきたのは驚く言葉だ。


「ゴブリン?」

「そうなんですよ」


 ゴブリン。

 すっかりお馴染みの、魔物だ。代名詞は「最弱」と言っていいほどの、基本的なモンスター。

 ステータスはレベル1でも倒せるぐらいの、性格最悪の小さい悪ガキの鬼みたいな感じ。そんなかわいげのあるものじゃないけど。

 とにかく、二足歩行で最弱の魔物だ。


 だから余計に不思議なのだ。

 ゴブリンが、竜に挑む?

 普通に考えてそれはありえない話だった。


「そういえば」

「ん?」

「あたし、一体だけゴブリンを倒しましたよね」


 ああ、そういえばシルヴィアちゃんはゴブリンを倒してた。


「あの頃からちょくちょく村にやってきてたってことなのかな?」

「まあそうだと思いますよ、ってことはダンジョンが目的だったのかな? なんでだろ……」

「うーん……ひょっとしてマナポーション?」

「ああ、もしかしたらあり得るかも知れませんね」


 なんといっても金目のものには目がないゴブリンだ。ああいうものにもゴブリンメイジたちが集まってきているのかもしれない。


 とりあえず今日はそんな感じでお喋りはおひらきとなった。




 ぶらぶらと外に出歩いていると、気付いたことがある。


「美少女パラダイスですなあ……」


 それはもう、村の竜族のみんなの美しいこと美しいこと!

 ちっちゃい子の多いこと!

 目の保養だね!


 ……じゃなかった。


「あんまり男の人いないよね」


 そう、子供が多い割にあんまり竜族がいないのだ。

 竜族の村は人口そのものが少ないとはいえ、ここまで男がいないのに女の人と子供だけ多いというのはちょっと不自然だった。

 だって、男がいないと、母親だけでは子供できないもんね。


「……はっ! もしやこの美人ママさんが全て両性ッ!」

「なわけないでしょ」


 呆れ気味のツッコミが入る。ですよねー。


「そもそも竜族の村って、女も子供も竜族でそれなりに強いし、魔物もなければ遠征することもないんですよ」

「そりゃそうだね」

「だから、男は外の街で仕事してるんです」

「……ああっ、なるほど!」


 確かに、この村で何かをするより、竜族が必要なところに竜族が行けばそれだけ世界の助けになる。

 単身赴任パパさんである。


 そして外ではその能力を使って行うのが、魔物討伐とか、護衛や運び屋みたいな任務ということらしい。

 なるほど、竜になったら出来ることはたくさんあるんだよね。その姿の大きさと力だけでいろんなことができるわけだ。


「お母様は、長のお父様と同じように非常に強いから出ているんだけれどね、お母様はかなり特異なのよ」


 なるほど、あのほんわかお母様もさすがのドラゴネッティの名をもらった者として、すごく強いってわけだ。納得納得。


 ……ん? あれ?


「ねえ」

「何ですか?」

「じゃあ普段ギルドにたむろしている人達って、具体的にどういう役割なの?」


 私が至極当然であろう質問をすると、シルヴィアちゃんは「あー……」と言いにくそうに頭をぼりぼりと掻いていた。


「あの人達は……そうですね。緊急時の戦力です」

「緊急時?」

「はい。こういったゴブリンが出た時はもちろん、それ以外の時にも敵を倒して村の母子達を守るという役目があるんです」

「なんだ、立派な役目じゃん」

「……そう思います?」


 ……なんだろう、シルヴィアちゃんが何か、その後に続く言葉を言いにくそうな顔をしている。

 役目だけ聞くと、とても立派に聞こえるけど。


「……なにか、ダメなの?」

「その……ですね……。村がピンチになる……つまり、このドラゴネッティ家に喧嘩を売ってくるような頭が悪いタイプの弱い魔物しか相手にすることがない、結構ゆるいタイプの居候なんですよ……」

「ええ……?」

「だってお姉様がいるってことが分かる程度の知能の魔物は、そもそもこの村襲いませんから……」


 そりゃそうだった……古竜に守られた村に喧嘩を売る奴、いなかった。

 なるほど、あのギルドのみんなはなかなか優雅な暇人なんだ……。


「ちなみに、結構みんな強いですよ」

「えっ、そうなの?」

「エッダのレベルにはもちろんみんな驚いていましたけど、それでもエッダよりは強い人も少なくないです。その中でも群を抜いて一番強いのがアウグストで、その上側にドラゴネッティ家がいるというのが現在の竜族の村の関係図ですね」


 なるほど……あのアウグストさんが頂点っての、分かる気がする。


 ゲームでの古竜は、会話も出来ないレベル2000のボスとして現れた。

 つまり、ゲーム内では竜族はそいつが一番強いという設定だ。

 それ以降のボスに、竜にまつわるボスは確か出てこなかったはず。


 そう思うと、どれだけこのドラゴネッティ一家が特殊で、飛び抜けて強いかが分かる。

 やっぱりこの世界だけの、特別な一家って感じがするね。




「ビーチェさん」

「なにかな?」

「よんでみただけー」

「ふふっ、なにそれー」


 その日パーティ揃っての全員で、のんびりギルドにいた。

 特に出ている討伐任務があるわけじゃないけど、次のゴブリン来るのかなーなんて思いながらぼーっと椅子に座っていた。


 ギルドの男衆のみんな、いざというときは頼むよー。


「……そういえば、ビーチェさんってなんであそこにいたのかな」

「なんでだろね、待機状態みたいな?」

「だったら何の待機なのかなー。ダンジョンが突然出たっていうのは……あれ?」


「は!? えっ、ビーチェさん!?」


 ビーチェさんが光ったと思うと———その場から消えた。

 頭が真っ白に———


「きゅうけいさんッ!」

「———はっ!? な、なになに何でしょうかリーダー!」

「探してください! あたしやお姉様ならともかく、きゅうけいさんならできます!」

「……! 了解! 【レーダー】!」


 リーダー、本当に復帰が早い! さすが頼りになる、冷静で頭の良いリーダーだね!

 私はシルヴィアちゃんに感謝しつつ、全力で魔法を使う。


 現れる私の頭の中の地図。みんなの見知った配置が浮かび上がる。そうそう道場のみんなだね、そしてギルドにいるみんな。今の時間は食堂にはおばちゃん一人だけ。あまり意識しないけどおばちゃんもおばちゃんでドラゴンなんだよね……。


 村全体をレーダーで見回すと、街の中心に道場、食堂、その他施設らしいものがいくつかある。以前話を聞いた住居は、端っこの方にある。何かをする施設が中心にあった方が便利だから、住宅街はぐるっと外側という感じだ。

 そこからが、レーダーに映る村の端っこの生物反応。


 ……その、はずだった。

 明らかに、その住居よりも外側に反応がある。


 魔物。

 表記はどれも……魔物、魔物、魔物。

 おびただしい数の、魔物の反応。


「囲まれている」

「えっ!?」

「この村、既に魔物に囲まれている……!」

「そんな!? 少し前には反応なんてなかったはずです!」


 私たちはギルドを急いで出た。

 外に出ると、山の上側に山ほど並ぶように、転移してきたであろうゴブリンの軍隊。

 そして、洞窟で出会ったニードルピューマもいる。

 ……大体、この状況がどういうことなのか見えてきた。




「威力偵察した甲斐がありましたねェ?」


 そこには、黄色の魔族がいた。

 肌が黄色、髪は銀色、白目はやっぱり黒い。中は金色。

 なんていうか、見るからにギラギラしていてナリキンマンです! って感じの見た目をしている。


「ここ竜族の村は、攻略対象としてずっとあったんですがねェ……はっきりとした相手の調査、ようやく終わったわけですよォ。手応えのないザコもザコ、こんなのが世界最強を名乗るだなんて、安そうな家に住んでいる貧乏人らしいですねェ」


 そいつは嫌らしい目をしながら、竜人を一人一人、まるで物でも数えるかのように指差しながらにやついている。


「竜族の村は安物だらけでもォ……竜族の体は金になるんですよォッホッホ! これ全部奪えばいくらになりますかネ! いやァ楽しみだァ!」


 ……な、なんだ、この相手は……。

 魔族に出会うこと自体が稀だけど、こいつはなんつうか……すっげえ嫌な感じがする。

 とにかく、悪意が半端ではない。


 そしてうっすら感じるけど、この強さは群を抜いている。あいつは強い。


「先日使った強欲の呪い、いい感じで効いているはずですからネ? いやあいやあ、これはもう仲間内で金目のものを取り合って争ってもらいましょう。最後に集まったものの残りは全て私のものになるのですよォ!」


 仰々しく、じゃらじゃらと金目のものを見せびらかすようにポーズを取る魔族。自慢してる、さりげなくのつもりで露骨に自慢してる。うわーやなやつ。


「それにしても、僥倖でしたねェ……まさかレヴィアタンの残していた眷属が、こうしてワタクシの華麗なる『貪欲の吐息』で手に入るとはねェ……やはり運はこのワタクシ……【ステータス】!」


 ================


 MAMMON

 Mammon


 LV:9999


 ================


「魔王マモン様に味方しているというわけですよォ! もうルシファーなんぞに付き従う気はない! この最強のワタクシ自らが皆殺しにして、全ての竜族をコレクションに入れてさしあげましょうねェ! ハーッハッハッハ!」


 ザワザワと騒ぎ出す竜族の村。慌ただしくなる竜族の住人たち。幾人かのギルドの男が、竜になり空に浮かぶ。

 そして……そんな状況で近くにいる人らから集まる私への視線。


 ……。


 …………うーん…………。


 うーん、アレ、絶対、こう「キメるぜェ!」ってつもりでステータス出したんだろうなーって思うと、ちょっと滑稽になっちゃった感じで同情してしまう。

 周りを見ると、私の友人一同あんまり警戒心というものは高まってない様子だった。


 ま、あいつの言ったセリフを聞くと、そりゃそうだよねと思う。


 貪欲の吐息で手に入れたって言った。

 そして、以前私がみんなに語った暴食の吐息。


 貪欲。

 その、金目のものに目がなくなるという会話パターン、よく知ってる。

 その『呪い』がどうなったか知っている。

 その結果、レジーナさんの占いが今どうなっているかも知っているのだ。




 母子家庭の住宅街間近の崖の上で、ゴブリンキングがニタニタと好色そうな笑みを浮かべて、ビーチェさんの腰を抱くように身を寄せる。


 舌なめずりしながら、ヨダレをベチャベチャ出して顔を寄せて……


「うわキモ!」


 ビーチェさんは、ゴブリンキングを思いっきりビンタをした。

 当然、ゴブリンキングの首から上は吹き飛んだ。


「……は?」


 間抜けの声が聞こえた。

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