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きゅうけいさんは人助けしたい

ちょっと年齢変更して容姿を足しました。

 目の前で、山賊が取り囲むように展開していく。


 ……ふと、思った。山賊とか海賊って敵としてよくいるけど、こういう奴らは……NPC? モンスター扱い?

 私は以前から、こういう何気ない配置キャラ一人一人のことを、一体どういう経緯でこうなったんだろうと気になっていたことがあった。

 事情があるなら、聞いてもいいかなって。


「質問していいかな」

「……あぁ、何だ?」

「あなたは、何で山賊になったの?」


 私の質問が意外だったのか、山賊達は顔を見合わせた。


「街で働いても生活が良くならねえ、金回りがいいから山賊になったまでだ!」


 なんと律儀に答えてくれたけど、そう……やや事情があるようだけど、今は特に疑いなく山賊をやってるってわけね。


「腕が立つならまた冒険者とか、するつもりはないの?」

「ねえな! つうか悪魔が説教してくるとかお笑いだぜ」

「ギャハハハ!」


 山賊連中は、私の説教に対して下品な笑い声を上げる。

 まあ、その通りだよね。こんな見るからに悪魔ですって感じのヤツから「真面目に働け」とか言われたくもないよね。

 しかも、まさかの怠惰の大罪から。相手はそこまでは分かってないけど。


「最後に。その女の子は何」

「そりゃあ人質だぜ。まあ返す前にみんなでいただくがな!」

「へへへさすがお頭だぜぇ!」

「俺にも回してくれよ〜」


 ……なるほど、やっぱりそういうことか。

 なら、躊躇うことはないね。


「一応警告した。じゃあ、覚悟して」


 私はそう言って、相手が動き出す前に一気に距離を詰めた。

 感覚が、再び研ぎ澄まされる……といっても、さっきみたいに時間停止ってレベルじゃない。今度はスローモーションに見える、程度のものだ。……それでも十分。


 私は山賊の……腕を慎重に手で打った。


「……あがアアァーーッ!」


 ベルフェゴールチョップ! よし、吹っ飛ばなかった。これでちぎれ飛んだら後々面倒だなーって思ってたけど、そういうことにはならなさそうだ。

 恐らくコレで……折れたはずだ。

 いかにも山賊タイプの右腕を封じると、すぐに近くの世紀末山賊にも同様の攻撃を行う。悲鳴が上がる前に動き出し、次の服装の足りてない山賊。

 次の奴。

 次。

 次……


 ……そして、大きな男の悲鳴が鳴り響く洞窟に、片腕を折って激痛に顔を歪める山賊が十数人ぐらい出来上がる。


「楽勝すぎ。私が強すぎたかな?」

「ぐっ……くそっ」

「足とか折られたくなかったら、リーダー出しなさい」


 私の宣言に、山賊たちの視線が自動的にリーダーに集まる。さっきの女の子を最初に掴んでいた男だ。


「片腕で許してあげる。コボルドから惨めに逃げて、街まで行って、山賊行為やってましたって自首しなさい」

「……な、なんで悪魔のお前がそんなこと」

「断った場合は私も面倒が嫌いだから、今の限界まで手加減して腕に行った攻撃、背中ど真ん中にやるけどいいよね」


 私の死刑宣告に、山賊たちがざわめき出す。


「どのみちあんたら、その片腕で魔物とやりあえないでしょ。街の兵士たちに檻の中に入って『庇護』してもらった方がいいと思うよ」

「……」

「特に、山の中でウロウロ逃げてると……こわ〜い魔族が後ろから襲い掛かってくるかもしれないからね? 私は面倒が嫌いなんだ」


 と、自分で言うのも悲しいけど見た目こっわい魔族からの「どこまでも追いかける」宣言に、山賊たちが悲鳴を上げる。

 ところでこのセリフ、このゲームじゃなかった気がするけど……まあいいや。怠け者は面倒が嫌いなのは本当なのです。


「……わかった……どのみちお前に勝てる気もしないし、むしろどうしてお前が殺さないのかさえわかんねえからな……」

「か、頭! 本気ですかい!?」

「今のやり取り見て分かんなかったのか! この悪魔、本気を出したらこんなもんじゃねえ、下手したらこの辺り一帯吹き飛ばせるぐらいの奴だ」

「……」

「……今日は今までやってきたことのツケを全部払うぐらい運が悪かったが、その魔族が俺たちを殺す気がないのは運がいいと思わなくちゃいけねえ」


 お頭さん、さすがにお頭やってるだけあって、周りの奴らよりもちゃんと頭が回るようだね。


「……おい、野郎ども! 生きてる腕の方に武器持って出るぞ!」


 頭と呼ばれた男の号令に従い、山賊たちは部屋を出ていった。これにて一件落着ってところ、かな?


「……」


 そういえば、捕まってる女の子がいたね。


「……! んーっ! んーっ!」

「暴れないで、じっとしてて」


 私はその子のロープを握ると、力任せに引きちぎって口の布を取った。

 女の子の口が自由になる。


「……あ、ああ……こ、殺さないで……!」


 ……あれ、思っていた反応と違った。


「待って」

「腰が、抜け……こんな強そうな悪魔が、なんでこんなところに……」

「……ねえ、話を」

「ひぃっ!」


 女の子は、私を見て恐怖に震えている……。




 ……ああ、私の見た目、やっぱり大悪魔なんだなって思って、悲しくなった。

 私は女の子から数歩離れた。


「……怖がる気持ちも、分かるよ……私、悪魔だもんね……?」

「……」

「こんな見た目だけど……い、一応さ……私、あなたを助けたんだよ?」

「……」

「そんな反応されると……さすがに、へこむよぉ……」


 私はあまりにがっくり来て、その場でぺたんと女の子座りになって顔を伏せた……。




「…………」

「…………」

「……あ、あの……」


 ――――っ!

 声がかかって、私は恐る恐る、女の子の方を見る。


「え、えっと、あなたは……その、私を助けた……のですか?」

「……そのつもり、だよ」

「そう、ですよね……えっと、ありがとう、ございました……」


 女の子は、お礼を言ってくれた……! それだけで、私の心の中に、温かいものが広がっていく。


「……えへへ、どういたしまして。面倒ごとは嫌いだけど、見て見ぬふりは出来ないって思ったから。助けに入れて良かったよ」

「はい、助かりました。……あの、どうして助けてくれたのですか?」


 私は女の子の質問を考えて……どうやって返そうか迷った。

 人間です。転生しました。異世界未来人です。あなたは我々に作られた世界のホムンクルスみたいなものです。

 絶対ナシ。っていうか、そんな感じは全くしない。こんなNPCいなかったし、会話している感じが完全に人間の女の子そのものだ。


 私は迷いに迷って……誤魔化すことにした。


「えーっと……特に理由はないけれど、人間の味方をしているんだ」

「人間の味方、ですか。えっと……それじゃあ、さっき山賊を倒したのは」

「人間といっても、あの人達は悪人だったから、更生させようと思った。体力はありそうだから、出来れば真面目に働くようになってくれるといいなーと思って、殺さないように気をつけたよ」


 私の返事に、女の子は驚いたって感じの表情をした。まあ、驚くよね。私だってDLCのサタンが「人間のために頑張ります」とか言って薬草集めだしたら笑う。


「私からも質問、いいかな。あなたはどうして誘拐されたの?」

「私、ですか……私はその、寝込んでいる弟のための薬の素材、それが無理なら薬を買うお金になるものを探していて……」

「薬ってことは薬草?」

「いえ、特殊なきのこなんです。でも、見つからなくて、山奥に入った所をあいつらに見つかって、逃げられず捕まってしまいました……」


 ……そうか、弟くんのために、そこまで頑張ったんだ。


「怪我? それとも病気?」

「病気です。段々と体調が悪化していって……」

「病気ね」


 そこまで聞くと、病気の種類にはもう興味ないので、万能のやつでさくっと解決することにしよう。

 ゲーム内でも人気だった魔法、こっちにもあるはずだ。問題は私が使えるかどうか。


「【マニュアル】」


 私が声を発して、表示されたマニュアルを読んでいると……女の子が不思議そうな顔をして私の方を見ている。


「あの、どうかなさったのですか?」

「ん? ……今、私の目の前に、えーっと、文字とか書いてあるスクロールみたいなのが出ているんだけど、見えない?」

「いえ……突然中空に視線を漂わせてじっと集中していて、何かな、と……」

「そっか、多分これは私にしか見えない魔法なんだね。……そうだ、じゃあ【ステータス】」


 私は、ステータス画面を表示した。


「これも見れないよね」

「いえ、見えま――――」


 見え、る? ステータスウィンドウって共有……そうか、普通は共有できないと不便だ。マニュアルはそういうのとは違うんだろう。

 私は、きっと見れないだろうと思って、完全に油断していた。女の子の顔が驚愕に引きつるのを見て、どこが見られているか分かった。


「べ、ベルフェゴール……大罪の大悪魔、ベルフェゴール……!?」

「……あちゃあ……見られちゃったかあ……そうです、私はベルフェゴールです。……だけど、そっちは種族名なの。エルフとかそういうのなの。どちらかというとそっちじゃなくて、球恵たまえって方が名前なので呼んでほしいかな」

「……タマエ、さん?」

「―――! うん!」


 怪我の功名。目の前の少女に、名前で呼んでもらえた。


「自分がベルフェゴールって種族にさせられたのも最近なの」

「させられた、ですか?」

「そうだよ」


 嘘は、言ってない。


「ちょっと人より寝る回数が多くて、ちょっとサボり癖が昔からあって、何かにつけて休んでたら、あだ名が「きゅうけいさん」なんて名前になっちゃってさあ……それで怠惰の大罪扱いって、も〜傷つくよぉ〜」

「きゅうけいさん、ですか?」

「そう。私の友人たちも、誰が誰に教えなくても、私の事みーんな勝手に「きゅうけいさん」って言うんだよ、ひどくない?」


 そのことを話すと、女の子は笑いだした。


「ふふ……あはは! きゅうけいさんは、沢山休んで、沢山寝て、気がついたらある日突然、ベルフェゴールになってたってことなんですか!」

「そうなの! 私が一番びっくりしてるんだから」

「なんだかきゅうけいさんって、面白い方ですね!」

「もぉ〜っ……」


 怪我の功名第二弾、話が私の大罪のことになってから、女の子は急速に距離を縮めてくれた。私も悪態をつきながら、内心とてもとても嬉しい。

 いやもう頬が緩んでいるのバレッバレだわ。


「えーっとそうだ、病気だったね。【クリエイト:クリアエリクサー】」


 錬成魔法、私も使えた。ベルフェゴールは魔法型でよかった。これが魔法の使えないタイプに転生していたら非常に困ったことになっていた。

 魔法ってすごい。かつては便利な道具を魔法みたいって表現してたけど、魔法マジ魔法みたい。自分で言っててわけわかんないけど、そんな感じ。


「これは……?」

「えーっとこれはね、病気と聞いたけどどんな病気か分からないから、いろんな病気を治せるクリアエリクサーって薬を錬成したの。これを使ってほしいんだけど、どうかな?」

「あの、貴重品なのでは……もらっていいんですか?」

「【クリエイト:ポーション】」


 私は、ポーションぐらいなら知ってるかなと、出してみた。


「わ、ポーションが……」

「私はほとんどMP無尽蔵だからね、こんな感じで材料なくいくらでも作れるよ」

「……す、すごい……こんなの、経済がひっくり返ってしまいます……」

「エッ!? そ、それは困る」


 いけない、完全に思いつかなかった……! そりゃそうだ、ポーション作る生業の人もいるし、誰も彼もがバンバン私みたいに作れるはずがない。


「人間の街を混乱させちゃうと思うから……このことは、私達だけの秘密ね?」

「えっと、はい、わかりました」

「よかったぁ……それじゃあその薬を弟さんに使ってあげましょ」

「はい……あの」


 女の子は姿勢を正して、私をしっかり見て頭を下げた。


「何から何まで、ありがとうございます。それと……最初に怯えちゃって、ごめんなさい」

「怯えるのは普通だと思うし、私も認識が甘かったから……でも、謝ってくれて嬉しいよ。あなたはいい子だね。……そういえば、名前は? 年齢も気になるかな」


 ふと、名前で呼ぼうと思って、まだ名前を聞いていないことに気づいた。


「あっ、そうですね! 私の名前はミーナといいます、年齢は13になりました、よろしくお願いします」

「ミーナちゃん! うんうん、よろしくね。外は魔物が多いから、街の近くまで送っていってあげる」


 体はしっかりしているけど、顔は幼い感じだと思っていたから納得した。

 さっきは冷静に見れなかったけど、茶髪にミディアムで可愛らしい容姿だ。身長は私よりちょっと低いぐらいで、体つきは成長……性徴途中の女の子って感じで、成人女性っぽさもある。


 私はその女の子と一緒に、洞窟を出た。

 山賊達は、見た感じ近くにはいなかった。……まあ、あれだけ脅したら大丈夫でしょ。

 そんなわけで、私は正面の踏み固められた道を歩いて行く。カモフラージュされているけど、ちゃんと人間の通る道があるのが分かる。多分この道が街につながっているはずだ。


 歩いていくと、当然のようにコボルドが出てきた。あと初心者にも弱いスライムと……初心者にはそこそこ強いレッドウルフ。

 ミーナちゃんは戦えないようなので、ついてきてよかった。……っていうか、弟のためにこんな危険な山の中に入ってくるなんて、よっぽど心配なんだね。いいお姉ちゃんだ。

 私は一人っ子だったから、兄弟姉妹が羨ましい。


 魔物が出なくなって暫く歩いていると、ミーナちゃんが周りを見渡す。


「あの、この辺りからわかります。もう魔物も出ないですし、ここのすぐ近くが街になっているはずです」

「そう? もうついていかなくても大丈夫?」

「はい」


 そういうことなら、この先に私は行かない方がいいだろう。ミーナちゃんが魔族と一緒にいるところを見られるのもまずい。

 ここでお別れだ……人生は一期一会、だからね。


「……あの、重ね重ねありがとうございました」

「律儀でえらいね、どういたしまして! 私はしばらくあの山賊の住んでいた場所に篭ってぐっすり休もうかと思ってるよ」

「……くすっ、休憩するんですね! それではきゅうけいさん、お世話になりました!」


 ミーナちゃんは、そう言って薬を大事そうに両腕で抱えると、曲がりくねった道をしっかりと歩いていった。

 やがてその背中が見えなくなって、道を引き返していき……ふと、思った。




「あ、あれ? ひょっとしてミーナちゃん、かんっぜんに私の呼び方きゅうけいさんで固まっちゃってる!?」


 なんてこった、自己申告しちゃったとはいえ、異世界でも私の名前は「きゅうけいさん」になってしまった!


「オーノー! やっちゃった! 漢字のない世界にやってきて、あんな幼い女の子にも怠惰女子扱いかあ……とほほ」


 まあ、嫌じゃないけど。

 嫌じゃないけど……


「……山賊ベッドでふて寝しよう、そうしよう」


 真っ先に取る行動がふて寝とか、そういうところがきゅうけいさんなんだよ、と自分で自分にツッコミを入れた。

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