きゅうけいさんは魔王発生の謎を考える
起き上がる……前に、自分が既に起きていることに気付く。
量の足でしっかり大地を踏みしめている。
大地ではない。地の感触はない。
だったら何かと言われると、形容しがたい。
この感触は、言うなれば『無』そのものなのだから。
ここは……そう、ここは、異世界と現実世界の狭間。
どこまでも真っ白い世界が続く、あの女神達による空間である。
「あっ、どーもどーも。きゅうけいさんです、おひさ」
「久しぶりでも軽いですね」
「でも、その方が話しやすいです」
そんなお二人とも、これで三……あれ、四回目かな?
とにかくお元気そうで何より。
「この空間、やっぱり来たいと思った時に来られるんだね」
「基本的にはそうですね、来たいと事前に思っておけば、ここに一旦留まるようになっています。肉体的な負荷は一切ありませんから」
「なるほどー」
なかなか便利な機能です。
あれだね、リマインダー機能みたい。
忘れた頃にカレンダーと連動して私に連絡してくれたりするやつ。
私、ルクレツィアちゃんのこと聞くの、寝る瞬間まで忘れてたよ。
「——そうだ、ルクレツィアちゃんだ!」
「はい?」
元々ここに来たのは、彼女のことを二人に聞くためだ。
突然現れた魔王ベルゼブブ。ルマーニャ崩壊の危機。
ところが、中にいたのは超かわいい女の子でした。
更にかわいい女の子が三人ついてきました。
いやあ、眼福です。
ありがたやありがたや……。
「——ってそうじゃない!」
「今日はまた一段と元気がいいですね」
「表情がころころ変わって面白い。怠惰感ゼロ魔王」
二人から淡々とツッコミをもらったところで、そろそろ冷静になろう。
「突然あの魔王が現れたわけだけど……えっと、もちろん把握してるよね」
「ええ、把握してますよ」
「二代目ベルゼブブ、ルクレツィアのことですね」
やっぱ知ってた。
「ってことは、あの子は二人の仕込み?」
頷くことを前提に聞いてみた。
……んだけど、二人はアイコンタクトを取り合う。
「どうやら、違うみたいです。彼女は自然発生かと思いますね」
「……マジっすか、めっちゃ魔王の割には調整されてるなって感じの子だったんだけど、妙に強迫観念みたいなものが序盤強かったみたいで、気になってて」
こう説明していて思ったんだけど、ふとこの人達ってどれぐらい把握してるんだろう。
ちょっと気になってきた。
「私達のことって、どれぐらい見てます? 観測してるっていうか」
「皆さんのことは、もちろん……と言いたいところですが、正直全員を同時に把握はしていないですし、詳細には知りません」
「あ、そうなんだ」
「そうですよ、だって見られたくない場所も多いでしょうし、そこはプライバシーを守って概要しか分かっていないという感じです」
なるほどなるほど、思った以上にぼんやりとした把握なんだ。
そうか……そうなると、あのルクレツィアちゃんは本当に、突然生まれたということになる。
なるかな。分からない。
「何か考えられることとかある? あのルクレツィアちゃんに関して」
「現状だと何とも言えないですが、やはり何かしらの魔力が流れてきた影響というのはあると思います」
「そうでなければ、こんなペースで二代目が生まれることはありませんから」
二代目ってやっぱ、そんなぽんぽん生まれるものじゃないんだ。
「じゃあ、あのミミちゃんの時は?」
「二代目アスモデウスのマリーアですね」
そうだった、ミミちゃんはマリーアちゃんだった。マリーアマリーア。名前も綺麗、きっと見た目も超綺麗になりそう。
美人のミミちゃんが私になつきまくってくれるように、今のうちにたっぷり媚売って甘やかしていこう!(小物ムーブ)
「マリーアは、初代アスモデウスの願いによって生まれたものです。その願いですら、生まれてきたのはレベル1の魔王でした。その子を遺すだけで、全ての力を使ってしまったんですね」
その魔力を使い果たして、最後にアスモデウスはリリアーナさんになって戻って来た。
二人の関係を考えると、余剰魔力から魔王を作るというのがどれだけ難しいことか分かりそうなものだ。
「後は、私達以外の神が干渉してきている可能性もあるかもしれません」
「……えっ?」
なんか今、さらっととんでもないこと言われた気がするんだけど?
「他にも神様いるの?」
「わからないですが、その可能性はゼロではないです。何より力の上では私よりきゅうけいさんの方が高いわけですから、そっちの魔力が庵奈さんも来たことにより溢れ出した分でそうなった可能性もあります」
ああ、私の魔力でそうなってしまったという可能性もあるのか。
余剰魔力が漏れたことにより、なんか大地が魔力を吸った的な?
うーんわからん。そもそもこのゲームベースの異世界が考察班による思念の力で生まれている以上、実際どうなっているかはほぼ考察班の内容に依る部分が大きい。
「ま、どちらにせよ起こったことはただ一つ。あなたはレベル九京の魔王であり、ルクレツィアは、レベル201の魔王。そして、彼女は人と過ごすことを選びました。これが今の事実です」
うん、確かにそれ以上に重要なことってないよね。
彼女が敵にならなかったことは、最大の喜びであると思います。
「そういやあの三人が分かれたのも?」
「これもあくまで考察ですが……何らかの願いによって、そう変わったということではないのでしょうか」
「願い?」
「そうです。つまり」
女神様、腕を組んでうーんと唸る。
何でしょうか。
「言ってもいいですか?」
「どーぞどーぞ」
「じゃあ言います。つまり——。
——筆頭眷属が、みんな女の子だったらいいのになー。
「って思ったことありません?」
「……。思ったことない、と思う……けど、言われてみるとめっちゃ思う」
うん、思う。
みんなパオラさんみたいな素敵な眷属だったら、争わなくて済むってどっかで無意識でひしひし感じていた。
どうしてあんな巨大動物みたいな連中なのかって。
まあみんな元々の姿あるっぽい雰囲気だけど、それにしたって人間になれるのならなってほしい。
「他には?」
「ついでに素敵なレディーだと私が喜ぶ」
「ケルベロスはどうでした?」
「超かわいい、全身にしがみつかれて、子犬たくさん飼う人の気持ち分かった」
もう完全に語るに落ちています。
余計なことを言いまくっています。
「ま、そんなわけでですね」
「うん」
「そろそろ起きると思いますが、覚悟は決めておいてくださいね?」
覚悟……覚悟って何でしょ?
特にやるべきことは……。
「あなたは今から起きた時、事情が全く分からない上に、そもそも人間社会そのものに馴染んでいない女の子を四名引き取ったのです」
「みんな悪い子じゃないですけど、まあそれはそれとして結構大変だと思います」
……。
「何とかしてくれたりしません?」
「自分で転送しておいて、結構無茶言いますねこの人」
「うーん、そういうことなら、少し手配しましょうか」
手配? 何かしてくれるの?
「期待はしないでおいてくださいね」
「そう言われるとめっちゃ期待します」
「……そういう人だというのを忘れていました」
それが私だからね!
女神様のお助けは、一体どんなものでしょうか?
そろそろ意識が飛んできた——。
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