きゅうけいさんは挨拶回りの付き添い気分
「お二方がシルヴィアさんのお父様とお母様ですね。球恵がお世話になったようで、ありがとうございます」
「とんでもない! むしろ我々が助けられてばかりでして」
……。
「トゥーリアさん、と仰いましたね。球恵が受け入れてもらう上で特にお世話になったと言っておりまして、私からもお礼を言わせてください」
「ああ、いえいえ、構わないですよ! 結局あたしらが助けられたことの方が圧倒的に多いですし、きゅうけいさんは大事な友人ですから」
…………。
「レジーナさんは、球恵の命の恩人に等しいと言っておりました。私からも最大限の感謝を」
「ふふっ、むしろ占えたことそのものが私としては嬉しいのですけど」
「ところでその占い、私もやっていただけたりします?」
「……やっぱ魔族って占い好きなの? アンナさんも要求してきたし。ちょっと羨ましいんですけど魔族の占い師」
………………。
「ルフィナさん、綺麗な方ですね。球恵が——」
………………………。
はい。
えーっとですね。
お母さんが挨拶回りをしています。
なんかもう、全員に挨拶する勢いです。
お世話になった人達への挨拶回りをしています。
行く先々でみんな褒めてくれるのはいいんですが、顔からちょっと火が出そうですね。
お陰様でお母さんの、異世界への印象は悪くない感じです。
みんなありがとう。
「青色、青色……まあ、自分の肌も青いし、ラッキーカラーということでいいわね。それじゃ球恵、他に会ってない人は?」
「……全員に会いに行くの?」
「当たり前でしょ」
ですよねー。
まあ、気持ちは分かる。
お母さんにとっては、生きてるのか死んでるのか分からない、いつ目覚めるか分からない昏睡状態の娘だったのだ。
それが数年の間、異世界で魔王に転生しながらも無事でいたのは、周りの人がお世話したおかげ。
そりゃ挨拶もしたくなるというものだと思う。
それはまあ分かるんだけど。
「全員かあ」
「どうしたの、そんなにお世話になった人は多いの?」
「ここから離れた人間の街にも、それにアメリカとか日本とかにもいるので、いざ挨拶するとなるとシルヴィアちゃんら辺りに頼んで空の旅をお願いするしかないね」
「……」
さすがに世界一周旅行はお母さんも想定外だったみたい。
「球恵が言ってるのは本当なの?」
「もちろん本当ですよぉ。えっと、アメリカ、というのはわからないんですけど、ニュー・ジャーニーとヤマトアイランドですよね」
「そういえば、朝に来ていた人達は」
「はい、ヤマトアイランド……すっごく遠い国からやってきた人達ですです」
エッダちゃんの回答を、更にシルヴィアちゃんが引き継いだ。
「ちなみにあたしは別に構いませんよ。個人的に会いたいと思っている人も沢山いますし、もし行きたいと思ったら言って下さい」
「本当に? 助かるわ。……ほんとできた子よね、シルヴィアちゃん」
「めっちゃいい子で頭も良くて気が利く、完璧な天才美少女です! えへん!」
「なんで球恵が自慢気なわけ?」
なんかシルヴィアちゃん褒められると自分のことのように嬉しいので!
シルヴィアちゃんが照れながら「もう……! 仕方の無い人ですね!」と言うのもポイント高い。九京点あげよう。
こうしてクイズバラエティ番組の優勝はシルヴィアちゃんとなり、優勝賞金としてメロンパン屋がプレゼントされるのでした。
「——で、結局誰のところに行くの?」
「誰のところに……あっ」
今ちょうど歩きながら喋ってて、次を誰にしようかなーと思っていたところ、目の前に人間の集団が現れた。
そうだ。
お母さんが挨拶に行くのなら、それこそちょうどいい相手がいらっしゃった。
「ミーナちゃん!」
私が声をかけると、キリっとイケメン女子となったミーナちゃんはすぐに明るい表情に変わり、私の所へ小走りで駆け寄ってきた。
かわいい。
子犬系もといゴールデンレトリバー系かな?
「きゅうけいさん! おはようございます!」
ミーナちゃんに次いで、三人のパーティーメンバーも集まってきた。
「昨日振りですね」
「おはようございます」
「っす、どもっす」
みんなが挨拶したところで……当然、私の隣にいる同じ身の丈の銀髪魔族にみんなの視線が向く。
「あ、紹介するね。こっち私のお母さん」
「皆様も、球恵が大変お世話になったようですね。抜けているところも多い娘ですが、助けていただきありがとうございます」
お母さんの唐突カミングアウトに一瞬ぴたっと止まりつつも、真っ先にミルコ君が前に出てきた。
「い、いえいえそんな! 自分はきゅうけいさんの薬がなければ、十歳ぐらいの頃には死んでいました。本当に命の恩人ですよ!」
更に、サンドラちゃんやキアラちゃんも続いていく。
「私達の街も、滅びかけるような事態に何度も陥って……その度にきゅうけいさんが助けてくれたと、後から知ったんです」
「世界一強くなって世界を守っても、助けられたはずの親だけ忘れてたなんてことになったらカスみてえな人生っすよ。だからあたいらみんな、きゅうけいさんには恩義あるっす。あ、この四人同じ街の出身なんすよ」
思い思いに言葉を出してくれる……のは嬉しいんだけど、めちゃ照れますね……。
頭を掻いていると、ミーナちゃんは三人の反応に物凄いドヤ顔で胸を張って頷いていた。
完全にさっきの自慢気に胸を張る私だった。
やっぱり私とミーナちゃんはおんなじかもしれない。
「本当に、こんな見た目でも良くしてくれてありがとう。球恵と仲良くしてくれると嬉しいわ」
「もちろん、こちらこそ」
挨拶も終わったところで、私はひとつ提案した。
「今日の行き先だけど、ミーナちゃんのおうちに行きたいな。折角の機会だし」
何と言っても、お母さんが挨拶するのなら、私も相手のご両親に挨拶しやすい。
家族同士のお付き合いという感じで自然な感じというか。
「そうですね。しばらくぶり……というほどではないですけど、私もそろそろ帰りたいなと思っていたので。ミルコもいいでしょ?」
「うん。ルフィナ様にも依頼が一通り終わったのを確認したし。サンドラとキアラは?」
「私ももういっかなー。珍しい本とかもなかったし、ルマーニャ新刊出てたら買いに行きたい」
「あたいも別にいいぜ。親父が会いたくないっつっても今のあたいの方がつえぇから無理矢理引き摺ればいいし、何だったら頭踏んででももう一回謝らせてぇなってぐらいだしよ」
みんなも乗り気みたい。いきなり魔王二人がお邪魔して大丈夫かな? とはいえ、さすがに説明ぐらいはしてるかな。
あと相も変わらずシアンカラーのロングヘアと絶世の美貌にしては、喋る内容のギャップすごいねキアラちゃん。
そんなわけで、次の行き先はご両親へのご挨拶となりました。






