きゅうけいさんは暗号は解けなかった
というわけでミーナちゃんとの約束もあって食堂に来ました。
竜族の村の食堂は、私にとって特別な場所。
そもそも私思いっきりこんな見た目だし、最初は受け入れてもらうまで時間かかったんだよね。
それを解消するために頑張ったのが、料理。
なんだかこの食堂も、懐かし…………
…………あれえ?
私の目の前に広がるのは、巨大な食堂。
竜族の村にある、客席の数たっぷりの食堂です。外でも食べられるようになっている、席数とっても多い場所。
なんですが、星空の中で集まる竜族の人達の声が、もうそこらじゅうで溢れかえっている。
外の席、こんなに広かったっけ? 中とか入れる? 無理そう?
「あ、きゅうけいさん」
呆然と立ち尽くす中、人混みの中からミーナちゃんが現れた。
「どーもどーも。どったのこれ、人多くない?」
「いつも人気ですけど、今日は特別人が多いですね。やっぱり族長が音頭を取ったからなのかな?」
「……お父様が?」
まさかのエドモンドさんが理由っぽいです。何でしょーかね?
「いや何って、きゅうけいさんが倒したじゃないですか、ベルゼブブ」
「そだね、いちおー敵対魔王は倒したね」
「……あの、一緒に戦った私が言うのも何ですけど、かなり凄い成果ですよ? 昨日って人類の転換点なんですけど、もしかして……自覚、全くないんですか?」
……。
あっ。
「言われてみれば、それもそっか」
「頼りになるというか何というか……本当にきゅうけいさんは、凄いですね……」
DLCの七つの大罪、その中でこの世界にいた魔王。
レベル9999の、人間では容易に手が出せない最悪の敵。
そういえば三体、さくっと私が屠ってました。
残りは庵奈だったね。まあ私と同じレベルだし。
自分の中で、DLCの最短プレイをやった程度の感覚で終らせたことだったんだけど、そもそもエドモンドさんにとっては数十年か数百年か、もっと前からの因縁の相手だ。
その敵対魔王に怯える必要がなくなった。
そりゃまあそんなことがあったら、昨日が記念日になってしまうのは必然だわ。
シルヴィアちゃんも呆れ気味にこっちを覗き込んでいて、エッダちゃんも苦笑い。
いやー、自覚なさすぎましたね。
「ってことは、今日はその祝いの集まり?」
「ですね。エドモンド様はこのお店を夜まで開けて、皆で祝うことを提案なさいました」
「昼から呑んでたけど」
「そこは、まあ……」
シルヴィアちゃんの呆れきった顔が、私から客席の方へ向かった。
すんませんパパさん、ダメ度のスケープゴートになってください。
……しかし、そうなると……。
「ちょっと行ってくる。あ、二人とも先食べててね」
「ん? あれっ、きゅうけいさん!?」
私はみんなを一旦置いて、中へと飛んでいった。
案の定、厨房は凄かった。
大丈夫? レヴィアタンさんの体から一匹借りてこなくてもいい?
「次! とりあえずフォカッチャ五十出して! パスタは3キロ、かけるオリーブオイル残ってる!?」
「ダメです、倉庫いってきます!」
「チーズ残り少ない! ついでお願い!」
「ねえちょっとピッツァまだー!?」
はい、そりゃまあこうなってますね。
「どーもどーも」
「ちょっ今急がし……きゅうけいさん!」
「これはチーズリゾットだね」
「はい、色々積み重なって調理が遅れちゃって」
「おっけー」
私は鍋の中に意識を向け、魔法でぐわっと時間を早める。
発酵時間とか無視しちゃう反則生活魔法です。
「……ん? んんんんんんん!!?」
「調理時間ごとふっとばしました、これで大丈夫なはずですです」
「うわ、すっご……助かります!」
「次は——」
「おっ、楽しそうなことやってんじゃーん」
聞き慣れた声に顔を上げると、そこには庵奈が実に楽しそうな顔をしていた。
「お客さんめちゃ多いよ! そこの黒板に書いてるのが注文の溜まってるやつっぽくて」
「わ、これはすごいねー」
「目に付いたのだけでもやっていくね!」
私は鍋に入ったパスタに意識を集中させて、今度はさくっと時短でゆであげる。
秒でアルデンテ! この能力を日本に持って帰りたい。カップ麺とか水ざばざば入れるだけで一秒で食べられるようになりたい。
「これアラビアータ? カルボナーラ?」
「アラビアータがペンネで——」
「うんうん」
懐かしいね、シルヴィアちゃんと一緒に食べた思い出の料理。
名前もシルヴィアちゃんに教えてもらったんだっけ。
「——ニョッキがゴルゴンゾーラのチーズソース、タリアテッレは隣のエルネストヴァルカルボナーラ、ブカティーニはアートタルザクラーケンペスカトレです!」
……。
…………………………。
ぱーどぅん?
「……。あの……?」
突然動きが止まった私に、今度は料理人さんの方が困惑する。
とりあえず、ペンネの方に赤いソースをかけていくけど……ど、どうするどうする、マジで暗号文すぎてわからないぞ……!
「わはははは」
と、そこで後ろから実に聞き慣れた声が聞こえてきた。
そうそうこの笑い声、イタリアン一緒に行った時も聞いたなあ。
チーズピザに蜂蜜かけてるのを見てムンクの叫びしてたら笑われたんだっけ。
「クアトロフォルマッジョの時だねー。まあそれはいいとして……」
庵奈が隣に立つと、器に盛った平たい麺の上に白いソースを載せていく。あれは多分、カルボナーラだ。
「一緒に行った時、食べたじゃーん」
「……食べなかったと思うよ?」
「あ、じゃあ別の人と行った時かなー?」
そんなことを言いながらも、淡々と庵奈は太麺に「多分これだよねー」と黒い貝を載せた。
そうだ、庵奈は結構なグルメだった!
ていうかおいしいお店に誘ってきたの、大体庵奈だった!
ついでにお酒もね!
「おお、ジェノベーゼも注文あるんだ。パスタどれにするの?」
「そ、そちらはフェットチーネでして」
「きゅうけいさん、こっちの麺ね」
庵奈が勝手知ったる顔で、平たい麺を指差す。
麺の名前は初めて聞くけど、形はさっき茹でたもののはず。別商品?
「さっきのきしめんパスタと何が違うの?」
「きしめんって! わはは、まあぶっちゃけ私もわかんない!」
あっけらかんと気の抜けることを言いながらも、麺を手に取って確認すると料理人さんは正解であるように頷く。
マジかー、ほんとにコレで正解なのかー、頼りになるなー。
奇しくも、魔王の私と魔王の庵奈による食堂フル回転が始まりました。
怠惰と嫉妬の大罪食堂です!
……いや、やっぱその店名はナシで……。
サラダやチーズの配置などは基本的にお任せして、庵奈に生活魔法を教えながらも私がメインで時間が必要な調理をどんどんやっていった。
時間を操る生活魔法、料理にあまりに強すぎる。
どんどん完成するので、待ち状態になる料理がない。
お陰様で注文を超スピードで捌いてるうちに、店側の竜族の皆さんも大分落ち着いてきましたとさ。
「本当に、何とお礼を言ったらいいのか……」
「いいっていいって、ある意味私の影響でもあるんでお礼とかもいいからね」
「合間に食べることもできましたし、かなり余裕が出てきました。後はもうこちらで大丈夫です」
落ち着いた店員さんに手を振って、庵奈と一緒に店の表側へと戻っていく。
「あっ! ようやく来ましたよ」
ちょうど外の席が一望できる位置まで来ると、大人数用の巨大テーブルにシルヴィアちゃんエッダちゃんと、ミーナちゃんご一行と……。
「……めちゃ沢山いらっしゃる?」
「おう! 盛り上がろうぜ!」
元気よく手を挙げてトゥーリアさんが応えてくれて、その隣でレジーナさんが呑んでいた。
「ん、あれ……エドモンドさんは?」
「もう、聞いて下さいよ! お父様ったら、酔い潰れて寝てるんですよ!」
「自分で言い出したのに!?」
「自分で言い出したのにです!」
はっはっは、あーあしーらなーい。
ナタリアさんからのライトニングボルトがメテオしますね。
……あれ、レジーナさん、呑みっぱなしでは?
「きゅうけいさん、やっぱり手伝いに行ってたんですね」
「あっ、うん。といっても庵奈と一緒にだけど。困ってそうだったから」
二人に答えながら、私はシルヴィアちゃんの正面でミーナちゃんの隣に座る。
「食べ終わってるよね、何してたの?」
「何って、そりゃあ」
シルヴィアちゃんがミーナちゃんを見て、ミーナちゃんが私のことを不思議そうに見る。
「きゅうけいさんの話に決まってますよ」
えっ。
あっ。
これはもしや、墓穴を掘ったパターンですね。
「というわけで、きゅうけいさんを交えて旅の話を始めましょうか」
「どんな話が聞けるのか楽しみですぅ!」
「さっきは沢山質問されたんですから、今度は私達の質問に答えてもらいますよ!」
やっぱりこうなっちゃいましたねー!
し、仕方ない!
確かにさっきは一方的にミーナちゃんの旅を聞いて聞いて聞きまくったからね!
ま、楽しい時間だし、のんびり食後の二次会といきますか!
ちなみに庵奈はレジーナさんの隣で呑んでました。
ぶれないなー。






