きゅうけいさんはクリア報酬を実感する
ケーキは、それはもうめっちゃ好評だった。
ほめてほめて! と最初はノリノリでせがんでいたけど、段々と真に迫る褒め方になって、しかも止まる気配がなくて、最後には机の下に潜っておてあげしました。
さて、私にとって『今一番会いたい人!』とのお話が終わったわけだけど。
「次はどこ行こっかな」
「ん? 私の他にまだ会っていない人がいるんですか?」
「そだねー、ミーナちゃんとはずっと話してみたかったし、やってきちゃった。後会っていない人といえば、リリアーナさんイデアさんのグループかな?」
その名前を出した瞬間。
女子組三人の目が黄昏れた。
「……ん? あれ? ひょっとして苦手?」
「苦手というか、その……」
ミーナちゃんは二人の方を見て、三人を代表して一番ちっちゃいサンドラちゃんが答えた。
「なんか、もう、サキュバスに囲まれながら堂々としているあの人見てると、女性として逆立ちしても勝てないなとまざまざと思い知らされるというか……」
ああ、うん……。
……うん?
「リリアーナさん、ひょっとして自分の素性とか喋ってない?」
「素性、ですか?」
「そうそう。多分伏せてるのは人類と魔王の交友関係のためだと思う。敵対魔王がいなくなった今となっては隠す必要もないはずだから喋っちゃうけど、あの人元魔王ね」
今度はミルコ君含めて、みんな驚いた。
そりゃそっか、この世界での魔王って本当に特別な存在だもんね。
「魔王アスモデウスの転生体、それがリリアーナさん。マモンさんともベルさんとも気易いのはそれが理由だね」
「うわー、あー、ああーそっかそうなんですね。なんだかいろんな疑問が氷解しました。そりゃ無理だ、勝てないわー」
心なしか、女子組は一安心といった様子。
そりゃもうあの人の存在感を同じ尺度で測るべきじゃないですね。
ついでに未だに私が唯一勝てなさそうな人です。
「そういやリリアーナさんとも時間ができた時にゆっくりお話しするって約束してたんだった」
「じゃあ行ってきた方がいいんじゃないですか?」
「うん。あ、そうだ」
お喋りしていて思いついたこと。
それはもちろん、ミーナちゃん達への興味だ。
感謝を伝えたい人、たくさんいる。
「まだ滞在してる? ミーナちゃんミルコ君のおうちとか、行っていい? あとキアラちゃんのお母様にもお会いしたいです」
「……? 別にいいですけど、普通の家具職人ですよ?」
「あっそれは是非に。ベッドとか作っているのならめちゃ見たい。キアラちゃんはどう?」
「あたいも別にいいけど、あんまオカンとは会ってねえんだよなあ。まあ最近は客も少なめだろうし、空いてりゃ別にいいっしょ」
「やった! そして喋っていてサンドラちゃんのご両親もご挨拶したくなった」
「私の両親ですか? それこそただの多少魔術の心得がある書店員でしかないんですけど多分いいですよ」
よかった。
……ほんとによかった。
こうやって誰かに会う約束を取り付けるってこと、以前までなら絶対考えられなかったんだよね。
今、三つのご家族に挨拶を取り付けたわけだけど、以前の私なら遠目に見るだけでも遠慮していたと思う。
この世界は大きく変わった。
私にとって、とてもいい方向に。
それが、この世界の人達にとってもいい方向だといいな。
ゲームのクエストみたいなのが進んでいくわけじゃなくて、いきなり原っぱに放り出されて自分で何ができるかを探す旅。
そのオープンワールドでの選択がどういう結果をもたらすのか分からなかったけど。
——自分の手を見る。
一度人間に戻ると、やっぱ青い姿ってちょっと見慣れない。
この姿になってメイクなんてしないから、目なんて鏡を見る度に未だに驚く。
そんな私が、会いたいと思った人に、魔王の姿のままで会ってもらえる。
何一つ、自分を隠したり偽ったりすることなく、素のままで受け入れてもらえる。
最初、ミーナちゃんを助けた上で拒絶された時のことを思い出すと、いきなりアポなし押しかけ状態になりそうな約束を取り付けて皆がOK出すのって、返事をもらっておいてちょっと自分自身驚いてる。
ゲームクリアの報酬としては、こんなにいいことってないよなーって思うのであった。
「それじゃ、晩は食堂に行くからミーナちゃんもその辺りでまた」
「ええ、分かりました」
そして私達は一旦おわかれとなった。
またあとでね!






