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きゅうけいさんは自分を知る

ら、ランキングに入ってました……! ありがとうございます!

 起きた。

 ……起きたけどやっぱり山の中。


 夢じゃなかった。こっちが現実になっちゃった。


「……諦めよう。諦めて私の異世界転生ライフを始めよう」


 さすがにあんだけ寝たら、もう眠くはない。

 頭を触る。……角が生えてる。気のせいじゃなくて、やっぱり私、魔族になってる。

 角、帽子で隠せば街の中にも入っていけるかなあ。


 とりあえず、森の中を歩きはじめて……。


「……歩くのめんどい。なんてったって私は怠惰の大罪だからね」


 なーんて自分で言ってみる。

 こういう時、歩く先を調べて……いや、このゲームはマップの魔法はなかったはず。


「……マップ! 地図! えーっと……」


 ステータスが出せたんだからと、てきとーに魔法を使ってみた。

 ……分かっていたけど、さすがにそこまで適当では何も出なかった。なので諦めて、私はその森の中を歩いて自分で確認しに行くことにした。


「どこを見渡しても、森って感じだね」


 あまり森を見ていても面白くないかなと、ふと自分の体に目を向けた。

 そういえば自分のことをじっくり見てなかったなあと、装備を確認。……まず、鎧っぽい? 何かこう、しっかりと装備がついてる。全く肌が見えない、黒い鎧。ごつごつしていて、どことなく怖い。こんな装備、ゲームにあったかな。


「に、似合わねーっすよはずかしい……防御力とかいらないんで、普通の服が欲しいです。ジャージとか、シャツとか、ジーパンとか……」


 いやいや、ジャージ姿の大悪魔とかどうなの。それはそれで面白いかもしれないけど。

 ……それに、そもそもこの世界にジャージがあるわけないよね。ファンタジーゲームだし。


「武器は……おっ」


 装備する姿を思い浮かべると、右手に剣が出てきた。この見た目は知っている。


「ショートソード! ザ・初期装備って感じよね!」


 とりあえず、リーチがあるとそれだけで安心するね。何もなしってわけじゃなくて助かった。それにしても、鎧は強そうなのに武器は初期装備なんだね……。


「左手は……盾もなんもなさそうね」


 初期装備、なんかごつい鎧+ショートソード。


「とりあえずこれで、歩きまわってみますか」


 私はゆっくり歩き出す。

 AGLが670兆あるからとんでもないハイスピード徒歩にでもなるかと思ったけど、特に変なことは起こらなかった。


 こんな状況だし、本気を出して探索したほうがいいんだろうけど……なんだか、そういうのが惜しい気がしてしまった。

 せっかくこうなってしまったんだし、大都会に居ると自然の中なんて休暇を取らなくちゃなかなか居られないもの。特に最近はコンクリートジャングルで徹夜する毎日だったから……これはこれで楽しみたい。




 そんなこんなで数分歩くと、私は、第一体目の敵を発見した。


「コボルド! 弱いやつの定番って感じでありがたい」

「ガァッ!」

「でも、リアルで見るとちょっと怖いね」


 人型の、犬の獣人みたいな……だけど凶悪な顔をした魔物。背丈はあまり高くなく、右手には折れた木の枝みたいな棍棒。

 初期に出会って、初期レベル帯から多少上がった頃には縁がなくなるヤツだ。早速そのコボルドの出方を見てみる。


「コボルド君は相手の力量差とかわかんないのかね。……って、解析系のスキルでも持ってなけりゃ、野生の勘なんてものが魔物に働くわけないか」


 そうこう考えているうちにヤツは構えている棍棒を振り上げて、私にかかってくる。それを私は……まず手で受け止めた。

 コツンと音が鳴った。……衝撃さえ伝わってこない。


「……うーん、分かってたけど、篭手がごつすぎて何が起こったかわからないんだよね」


 コボルドは私が攻撃を受け止めたことに驚いているようだったけど、次は私の顔に向かって棍棒を振ってきた。


「うわっ!」


 ノーダメと分かっていても、やっぱり怖い!

 いけない、ぶつかる――――




 ――――ぶつかる瞬間、世界が止まった。




(これ、もしかして……AGLが働いている!?)


 素早さによる回避の、究極形態。相手より遥かに速く動く。

 それを体現したのが、この時間の止まったように見える世界だとすると。


(こっちも分かっていたけど……想像以上にとんでもないスペックだね)


 ちょっと怖いけど……当たってみよう。

 当たると決めた瞬間、コボルドの棍棒が、私の頬を打った。


 パスン!


「グァ!?」


 なるほど……全くのノーダメージだ。私の頬が、ゴムのように相手の棍棒を弾いてしまったんだろう。触れた感触はあるのに、痛みは全くない。


「女の子の顔に手を出すなんて失礼千万だね。今度はこっちからいくよ!」


 私はショートソードによる攻撃、相手に狙いを定めて右手を振った。その瞬間……ものすっごい風圧とともに、コボルドは胴体と首が離れた状態で空高く吹っ飛んだ。

 木々が揺れて、頭に木の葉が落ちてくる。


「……まさか、剣の威力だけじゃなくて、腕をふるった風圧で吹っ飛んじゃったわけ……?」


 ……私、すごい。すごいけど……


「これ、調整するの困るね……」


 ちょっと暴れるだけで森が消し飛んでしまいそうだ。




 そんなわけで、私は自分の能力を封印する方法を探した。


「レベル制限……ヘルプとかあるのかな。ヘルプ! 違うなあ……【マニュアル】!」


 何か、当たったという手応えとともに、目の前にはテキストファイルを空中に浮かべたようなマニュアルが出てきた。


「当たった! ヘルプじゃなかったね。どれどれ……」


 私はレベルに関する項目を見てみたけれど……当たり前だけど、自分のレベルを下げるとか、そういうものはなかった。あっても困るよね。

 次に見てみるのは、魔法だ。


「レベル制御……あった!」


 そんな魔法あったような気がしていたけど、項目を見て思い出した。自分の実力を隠すという設定で、PK……プレイヤーを殺すプレイヤーにマッチングしなくなるという魔法だ。

 自分のレベルが一時的に下がる代わりに、邪魔をされなくなるという、一見無駄そうでかなり重要な魔法だ。

 その状態でやられた時には、レベルが自動的に戻る。使い勝手が悪いなりに、実力者が実力を隠す的な使い方もあって人気の魔法だ。縛りプレイにも使われる。

 ちなみに私はガンガンPK連中を返り討ちにするのも趣味だったので使ったことは最初の一回しかなかった。そりゃ忘れてるわけだ。


「これでどうだ……【ハイドレベル・9999】!」


 実力を隠してカンストってあたりが、自分のレベルがいかに出鱈目であるかを思わせる。……仕方ないよ、これで一兆分の一なんだもん。


「さて……【ステータス】!」


 ================


 TAMAE KAGAMI

 Belphegor


 LV:9999


 ================


「……おおっ、9999になってる!」


 種族もベルフェゴールのまんま。

 レベル一万の私を頑張って殺すと、レベル九京の私が出てくるって寸法だ。こんなの相手に出てきたら、私だったら開発者に文句言ってクソゲーってSNSに投稿するね。相手に同情する。

 接触しちゃいけないタイプのマップボスだ。


「とりあえずこれで、もうちょっと様子を見てみよう」


 私はレベルそのままに、敵を探しに歩いた。


「そして私の前に出てきたのはまたもやコボルドだったのである」


 そこには、3体ほどのコボルドがいた。ちょうどいい、さっきと同じことをして比べると違いがわかりやすいはずだ。


「オッケー、かかってきなさい!」


 調子の出てきた私は、ショートソードを構えるとノリノリでコボルド達を迎え撃つ準備をする。

 ベルフェゴールVSコボルド! 格ゲーのキャラ選択だったらこれで負けたら恥ずかしいってもんじゃないね。


 まずは、正面の一体。棍棒を同じ動作で降り掛かってきたものを、再び左手で受ける。今度は、ぶつかったと同時にガシッと掴む。

 ……つかもうと思ったんだけど、どうやら棍棒を握りつぶしてしまった。


「……そりゃあ二周目の裏ステージ気分で初期ザコ相手にしてたらこうなっちゃうよね。でも、気分的にこれ以上は下げたくないかな」


 まずはこのレベルで、感触に慣れる。うまく調整できるようになってきたら、上げていってもいいかもしれない。


 ってわけで、明らかにビビってるコボルドに、横薙ぎで剣を一閃。今度は体は吹っ飛ばず、首だけ吹っ飛んだ。

 残りのコボルドが警戒していたけど、そいつらが動き出す前に、まずは右の相手の胸に、拳を勢いよく叩き込む! 堅い篭手の衝撃が相手の胴体を貫通して、コボルドの背中側から血が吹き出る。

 最後、左の相手に飛びかかって蹴りを入れる。思いの外大きく飛び上がって、相手の顔に足の裏がぶつかり……コボルドの首が折れ曲がりながら吹っ飛ぶ。

 グロ耐性? このゲームがそもそもエフェクトがグロいので! 最近のリアルなゲーム、映像美の一長一短ってところだけど、見事に無心のレベリングで慣れました。


 ってわけで剣がなくても倒せるかどうかやってみたけど、余裕だった。


「カンフーアクションしてるみたいで楽しい! 体育ずーっと休憩してたけど、ひょっとしたら私って才能あったかも?」


 いや、絶対ないね。この肉体の能力のおかげ。ずーっときゅうけいさんと言われてきた私、さすがにそこまで自惚れていない。

 それでも本当に強い。さすがレベル9999、最強無敵だ。この上で強い相手が出たらレベル九京で相手してみよう。

 縛りプレイもしたことはあるけど、どちらかというとそれよりは、ステータスを上げて余裕勝利する方が好きです。


「まずは、このレベルでいろいろ見に行ってみよう」


 私はそこから、再び山を歩いた。山の先には……湖もあった。


「綺麗。風もなくて、澄んでて。風景が逆さまに映ってる」


 その湖の近くに歩いていって、魚とかいないかなーなんて、澄んだ水の中を覗き込んで……見えたものに悲鳴を上げて飛び退いた。




 湖を覗き込むと何が見える?

 そりゃあもちろん、水の中が見える。

 じゃあさっきまで、湖の何を見てた?

 反射した風景を見ていた。


 私は……そこで、初めて自分の顔を見た。




 今度はじっくりと、覚悟を決めて見る。

 ……青い肌、赤のロングヘア。角。そして、黒い眼球に赤く光る瞳。


「うおおお私こっわ!」


 思った以上に、ベルフェゴールって感じの悪魔だった。ちょっと前に、角さえ隠せばなんとかなると思っていた。なんとかなるわけないぞこれ。


「いや、そうだよ、サタンとレヴィアタン、ゲーム内でおんなじような見た目だったじゃん」


 赤肌に赤い髪のサタン、青肌に青い髪のレヴィアタン。DLCの追加ボスは以上で今のところ終了、ベルフェゴールはまだ実装してなかったはずだけど、それに準じた見た目になっているのは当然のことだと少し考えれば分かるはずった。


「しかし……これは困ったなあ……」


 私はこのゲームに変身魔法がなかったことを悩みながら、もう魚を探すような気力もなくなり、湖を離れた。


 -


 更に少し歩いていくと、山肌が見えてきて……広い砂地が出てきた。


「これって……人が通るための道よね」


 明らかに自然では起こらないような、草木の少ない伐採面。そして、山肌の土壁と道の隣接部分には、人が余裕で入れるような、大きい穴。

 その中には、蛍光魔石が嵌まっており、奥を薄暗くも照らしていた。


「……もしかして、ここに誰か住んでいる!?」


 私が入っても大丈夫なんだろうか。いや……大丈夫じゃあないだろうなあ。だって私がゲームプレイヤーだったとしても、私の見た目のヤツが現れたら逃げる。いや、逃げないな、まず挑んじゃうな。

 ……もちろん、友好に話しかけるなんて論外だ。話が通じるとは思えない。


 少し悩んだけど……相手がやってきたら、逃げてしまえばいい。

 それなら、と覚悟を決めて、私は洞窟の中に入っていった。




 洞窟の中は、奥まで長い道が伸びており、等間隔で蛍光魔石が道を照らしていた。

 そして、その道の果に、一枚の木の扉があるのが見える。


「ここが、終点……というか、入り口だよね」


 今日もいろいろ歩いたし、そろそろ休憩の時間が欲しい。最後にここを見終わったらのんびり休憩しよう。

 私は扉に手をかけると……隙間が見えないぐらい大きい扉は、内側に開いた。


「誰だッ! 侵入者……な、なんだ!」

「おい、何が……ヒィッ、あ、悪魔だ! 悪魔が来たぞ!」

「集合! 全員集合! こいつをぶっ殺すぞ!」


 そこには、ロープで巻いて口に布を被せた少女……これを、乱暴に掴んでいるトゲトゲ兜の男がいた。周りの皆も、肩パッド人間と、腰布マッチョと……そんな人間たちが、私の姿を見て腰の曲刀を構えた。


 どう見ても……


「山賊?」

「おい、言葉を喋るぞ!」

「こいつ魔族じゃねえか、何でこんなところに!?」

「いやだから、山賊なの?」

「だったら何だ!」


 山賊、らしい。

 じゃあこの女の子は……誘拐されたってところ、かな。


 いやいや、結構まずい状況なんじゃないの、これって。完全に犯罪じゃない。


「面倒は嫌いなんだけど……」


 でも、見て見ぬふりはできない。


「手加減するよ、かかっておいで」

「魔族め、なめやがって……!」


 私は山賊が襲ってくるのを確認すると、武器を出さずに拳に力を込めた。

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