きゅうけいさんは助けられた
シルヴィアちゃんの背中に乗って、ルマーニャの方を見る。
……予感は、あった。
今もこうしてクローエさんが目の前で飛んで、魔物を倒してくれている。
シルヴィアちゃんの背中で悠々としていられるのは、王子様系女子のクローエさんが道を作ってくれるから。
竜族の村から出た直後も、このダンジョンに移動した時も……そして、今も。
クローエさんは私達の代わりに魔物を討伐してくれている。
そのぐらいにしか、思っていなかった。
違和感を、私は感じ取り切れていなかった。
エッダちゃんと一緒に、竜族の村へ行った時。
ヤマトアイランドへ行った時。
ビーチェさんを背中に乗せた時。
ルフィナさんの白い背中に乗った時。
レジーナさんの黒い背中に乗った時。
——たった一度でも、私は大勢の敵に囲まれたことがあったか?
そんなことにすら気づけず、守られていた。
だが、今考えてみればその異常さが分かる。
今日は、空の魔物が異常なまでに多い。
理由は、間違いなく私。
行き場を邪魔している……のではなく、動向を監視しているのだ。
蝿の魔物が目であることは、とっくに分かっている。
そしてそれは、相手も同じなのだ。
私が『蝿が目だと知っている』ことを分かっている。
つまり、蝿じゃなければ監視じゃないと思われていた。
どこに移動しているかぐらい、魔物の生死だけで理解できるのだ。
ダンジョンの下の階に移動したと同時に、喚んだのだろう。
ルマーニャの内部に入り込めるほどの魔物を……!
「……きゅうけいさん」
私が考えているうちに、すぐにルマーニャの大地に降りられるぐらいに近づいた。
シルヴィアちゃんが私の行動を予測して、海面近くまで高度を落としてくれていた。
空を見ると、クローエさんが全ての魔物を処理し終えていた。
「大丈夫……かどうかは分からないけど、大丈夫。行ってくるね」
皆の理解が有り難い。私はもう、自分の仕事をすればいいだけだ。
シルヴィアちゃんの高度が下がり、海面が水しぶきを上げる。
そのまま浜辺の砂を巻き上げた瞬間——私は降りた。
砂浜に足を着けた瞬間、自分の意識を集中する。シルヴィアちゃんとエッダちゃんが、私を見下ろしたまま止まっている。
「……後は、任せて!」
聞こえていない二人に声をかけて、私は走り出した。
-
ここからルマーニャまでは遠いけど、走ればまあなんとかなる。
以前はダークエルフの集落からルマーニャまで走ったんだし、私の体は疲れることがない。
走り続けていると、ルマーニャの街にはすぐに到着した。
ちなみに道中の魔物もついでに全部倒しておきました。
私の能力の前ではロスタイムにすらならないからね。
そして私の近くに現れる、懐かしい山。
コボルドみたいな普段の魔物はおらず、そこには異様にごついハイオークの皆さん。
……こんなの、初心者の街に出てきちゃダメでしょ。
そして、こいつらがこの山にいるということは、街の中にいる魔物もこのレベルということになる。
まずい……ダークエルフの上位の、モンティ家やベアトリーチェお姉さんクラスじゃないと、とても対抗できないぞ……!
巨大カラスの出る最初の村に、殺人機械が現れるような初見殺しである。
宝箱守ってるヤツ以上の初見殺しだ。全然関係ないけどアレをモブ人間のように配置したスタッフに私も溜めてたゴールド半分むしり取られました。
そんなことを思いつつ、破られていない門と無事な門番さんを見て、敵が外壁を飛び越えたことを理解した。
私も足に力を入れて、外壁へと飛び載った。
さあ、ここからが反撃だ!
……と思ったんですが。
なんか、思ったより魔物が減っている。
いや、空を飛んでいる時にちょくちょく減ってるな、と思ってルマーニャの冒険者って強いんだなーとか、そんなふうに思ってはいたんですが。
街の中に、冒険者はいませんでした。
みんな室内か、窓から弓矢とか魔法の杖とかで攻撃してます。
剣士は全然いません。
街中に入り込んでいるのは、ブレードタイガーですね。しかも色違いの強そうなヤツ。
城壁ぐらい跳躍力ひとつで飛び越えたんだろなあっていうのが分かるほど、私が見ても強そうだ。
これ普通に一匹でギルドのメンバー全員惨殺できそうなほど強そうなんですが……。
……そのブレードタイガーさん、燃えてます。
なんか青い炎を纏ってます。
エンチャントファイア! とかドヤ顔してノってるわけじゃなく、思いっきり本能寺の信長ばりに火だるまで死にかけですね。
屋根伝いに他の魔物も確認してみるも、そんな魔物ばかり。
死体、死体、延焼中、死体、延焼中……うん?
延焼中の魔物の一部に、ちょうど火をつけているヤツがいる。
小さいけど、明らかに人型と分かるものだ。
青白いシルエットの人型であり、恐らく人間側の存在だとは思うけど……はて?
私はそのまま街中に入っていき……ルマーニャ中心のシルヴィアちゃん像のところまで来た。
そのシルヴィアちゃん像の肩に立つ形で、その中心人物であろう大きめの青白いシルエットが目の前に現れた。
……。
シルヴィアちゃん像の足元に、女性が三人。
人型の小さな青白い何かは、全部で九体。
私は頭の中で、結論が出た。
止めていた時間を、動かす。
目の前の存在は、突然私が瞬間移動してきたように思うだろう。
だけど……きっとこの人は、この程度では驚かない。
「——遅いわ、この寝ぼすけがッ!」
その心地良い叱咤に、私は頭を下げて応えた。
「ごめんなさい、遅れました!」
青白く光る女性が私の声を受けて「ふ」と小さく笑うと、像から降り立った。
白い人型がその体に吸収されるように集まり、その背に九本の尻尾が現れる。
ずっと会いたかった。
まさか、向こうから来てくれていたなんて!
「お久しぶりです、弥々華さん! すっかり見違えて……!」
「ふっ、お主は全く変わらんな」
目の前には、なんか私よりちょっと背が高く——ちょうどパオラさんぐらい——になって、尻尾が九本になった最上弥々華さんがいた。
仙狐であり、山形県の最上家の初代城主の奥様!
和服侍忍者の弥々華さん! 今は傾国のグラマー九尾美女!
「えっ、きゅうけいさんがもういるんですか?」
「もうというか、やっと、といったところだ」
そして像の台座後ろから現れたのは、紛うことなきお姫様!
背が伸びた最上家の寧々ちゃん!
「ああ、もう大丈夫なのですね……怖かったぁ」
「——エッ!?」
その隣にいたのは、忍び装束の……千世さん!
えっ待って、千世さんってあの寧々ちゃんお世話係だった普通の和服メイドさんですよね!?
えええ忍者!? 忍者なの何で!?
「元々忍者ですよ。本来は姫をお守りする惡狩番衆だったのですが……もう何というか、あの鳩の巨人相手には何もできなかったもので……」
「ああ……鳩巨人はね……」
忍者は暗殺が業務であり、パワープレイをするためのジョブではない。
お役に立てなくても、千世さんはさすがに悪くないです。
むしろ私が来るまでお世話してくれてありがとう。
……そして、もう一つ気になる人がいる。
なんか、簡略化した鎧に身を包んだ、お姉さん侍がいらっしゃるのだ。
「そういえば挨拶する機会がなかったわね。氏家光っていうのよ。よろしくね、お箸使いの上手い魔王さん」
お箸、遣い……? この人、どこかで——。
——あ、ああっ! 思い出した!
最初に料理を食べた時に手を振ってくれたお姉さんだ!
そりゃーあの城主の宴の席にいたんだもん、めっちゃ偉い武将の一人ですよね!
「わーっはじめまして! えっと氏家さん!」
「みんな下の名前で呼んでいるのに、私はダメなの?」
「光さん!」
「よろしい!」
やだこの人思った以上に話しやすい! 好き!
「はぁ〜……久々に会ってもお主は変わりないのお……」
弥々華さんは、溜息を吐くとスーッと光って……なんか、元の小さめサイズに戻った。
「……えっ? あれ!? 弥々華さんおっきいままじゃないんですか!?」
「ああ、あれはな……」
弥々華さんは溜息を吐いて、小さくなった理由を答えた。
「……無駄に横に大きすぎて、露店の品々に引っかかりまくったのだ」
「あーーーー…………」
実に切実な問題だった。
おっきい一尾ならともかく、九尾は日常生活にはさすがに邪魔すぎたみたい。
普段から自分の角に不便してる私にはその気持ちが分かる。
ひざまくら耳かきとか、絶対してもらえないからね、この頭だと。
「さて、大和の兎話島出身であろうお主には、申し訳ないがもう一働きしてもらわねばならぬ」
「えっ……な、何ですか?」
「うむ、お主が来る前に魔族の者を一体仕留めたのだが、その時に妙なことを言っておってな」
さらっとデーモン討伐もしてのけたとかいう弥々華さん、なんか滅茶苦茶強くなってないですかね……?
いやほんと、こっちに来ていただいててマジ助かりました。
そして私は、何故私を指名したのか、その理由を知ることになる。
「魔族が『俺はどういう意味か分からねえが、津波だ』と言っておった。我に分かるなら、お主にも通じるであろう。標的は西だ」
「——ッ! 行ってきます!」
「うむ、任せた!」
その単語を聞いた瞬間、ぐっと怒りが湧いた。このルマーニャ襲撃といい、そうか……そういう手で来るか。
私は弥々華さんに頭を下げて、寧々ちゃん達にも手短に挨拶をしてルマーニャを離れた。
22日に漫画最新話配信です、見てね!
(ヤマトアイランドこと日本の地名の漢字はちょっとずつ違います)






