きゅうけいさんは友達が大好き
「私はこのまま山にひっそり戻るとして、シルヴィアちゃんは街に報告した方が良さそうだよね」
「そうですね、無事を伝えないと」
なんといっても街のヒーローなのだ。これでシルヴィアちゃんの強さと可愛さで街のヒロインの座も獲得し、シルヴィアちゃん銅像が造られて街の名物となるのであった……。
……いつもの妄想だけど、これは普通にありそう。
「それじゃのんびり待ってるよー」
「はい、すぐに戻ってきますね」
「きっとすぐには解放されないと思うなー」
私の軽口にくすりと笑い、「それでは」と小さく言ってシルヴィアちゃんは飛び上がり古竜の姿になると、そのまま街の方へ飛んでいった。
どれぐらい捕まってるかなー?
さて、私も見つからないうちに帰りますかね。
-
山の斜面に現れた洞窟、その中に入っていく。
(ここから……始まったんだよね)
仲間がいないかと思ってみたら、出てきたのは世紀末山賊伝説。そして捕まっていた女の子。
「ミーナちゃん……」
無意識に、その名前を呟いた。
最初に出会った、病気の弟の為に薬を持ってきた優しい女の子。
そして、見た目真っ青の角つき鎧魔族に声をかけてくれた優しい女の子。
会いに行きたい、けど……
「私から会いに行くわけにはいかないよね」
分かってる。
だって私は魔族なんだ。
恐らく人間の冒険者の中にも、私が戦ったヤツより大幅に弱い『レッサーデーモンLV30』みたいな魔族と死闘を繰り広げた人間もいるはずだ。
その人達が、魔族の恐ろしさや残忍さを語る。だから……人間と相容れるのは難しい。
本当に。
ミーナちゃんも、最高の出会いだった。
私はふと思い立ち、ミーナちゃんとその家族ぐらいにしか分からない感じで、洞窟の地面に書き置きをした。
「えーっとどうしよっかなー。じゃあ……『いろんな場所を見に行きます。(あなたの友達希望の)きゅうけいさん』……あと絵も。…………これでよし」
デフォルメされた私の簡単な絵つきである。ベルフェゴール印の真似。かわいい。かわいくない? 自画自賛。
……自分でいけてると思ってる時って大抵客観的には微妙に思われてて、自分が適当にやった時の方が反応よかったりするの、あるよね……。
私は籐のロッキングチェアを出して座り、シルヴィアちゃんが来るのを待つ。前世でも持っていなかったこれも、最高の出会いを表すに相応しいものだった。
ゆらり、ゆらり……
「きっと暫くかかるだろうからねー」
ゆらり……ゆらり……
「きょうはわたしよくはたらいたー、きゅうけいしまーす……」
ゆらり……ゆらり
「……きゅうけい、はいりまーす……」
…………
……。
…………んん……?
「ふふっ、ようやく起きましたね」
……この声……あ、これはシルヴィアちゃんだ。
少しずつ覚醒してくる。
「おは……よ……!?」
…………!?
し、シルヴィアちゃんが! すっごい至近距離にいるっ……!
ていうか乗ってる! 私に乗ってる!
「そんなに驚きますか?」
「驚くよ……! 私の人生今まで全部探しても見つからないレベルのスーパー美少女が、こんなに至近距離にいたらドキドキものだよ!」
「えっ……その、ありがとうございます……」
シルヴィアちゃんなんなの、そこで照れちゃうのずるくない!?
金髪でキリっとした、きっと本来もっとツンツンした要素のある子なんだろうなって美少女のマジ照れ顔というのは本当にずるい。
ツンデレがデレ以外使ってこない連続攻撃みたいな。防御無視攻撃。完全貫通ってやつ。
「と、ところでシルヴィアちゃんはどうして私の上に乗っているのかな?」
「そうでした、さすがに離れますね」
あっ……離れなくていいのに……。
「きゅうけいさんがあまりに気持ちよさそうに寝ているものだから、起きるまで待ってようかなって思ったんですけど」
「はい」
「……その……」
ん? どうしたんだろう? 何かとても言いにくそうにもじもじしている。
「何か言いづらいこと?」
「……私の分のロッキングチェアも、出しておいてくれてもよかったじゃないですかぁ……」
シルヴィアちゃん、恨めしそうに上目遣いをした。
私、ノックアウト。
「ご、ごめんごめん、全く気が利かなかったね」
「そうですよう」
「それより、今の時間とか、何があったかとか話してもらっていい?」
「あっ、と……そうですね。遅くなっちゃいましたし、お話しします」
やっぱり遅くなってた。それから私はシルヴィアちゃんのお話を聞いたのだった。
-
スタンピードが起こった際に、真っ先に寄ったのが冒険者ギルドだった。最初に伝えたのは「住民全員を街の中に避難させて、守りに徹するように」ということ。
シルヴィアちゃんのレベルと、種族。それを見せて説明すると、集まっていた冒険者たちはすぐに現状を把握し、武器を持って街の周りに待機していたらしい。レベルは決して高くなくても本当にみんな優秀だ、これなら討ち漏らしても安心して任せられると思ったらしい。
そして魔物の大群とケルベロスを、シルヴィアちゃんのドラゴンブレスが全てなぎ払った。
シルヴィアちゃんがギルドへ戻ると、それはもう歓迎ムードが凄まじかった。そりゃそうだよね、古竜自体が希少種で滅多に外にも出なければ街にも寄らないだろうに、それが自分たちの街が危険なときに出てきて助けてくれたんだから。
ちなみに銅像は断ったらしい、残念。
それから、冒険者の男の人達に、あれやこれやと言われて、結局酒盛りに付き合うことになったとか。ただこれに関しては、ケルベロスにやられた際に討ち漏らした僅かな魔物をその人達が倒してくれたらしく、さすがに断るのは気が引けたとのこと。
ってなわけで調子に乗って飲んで食べてしていると、結構いい時間になっていたのでみんなに断りを入れて急いでやってきたみたい。
-
「なるほど……」
やっぱり祝賀ムードで遅くなったみたいだね、これは予想通りだ。なんといってもシルヴィアちゃんは本当に、古竜の姿の時でかいしつよいしかっこいい。
つまり目立つ。みんなが集まるのは必然だった。
「でも困りましたよ……」
「ん?」
「だって、ケルベロスを討伐したのを見ている人がいたんです。街からは非常に遠くだったんできゅうけいさんを確認している人は恐らくいないと思いますけど」
それは、いいことなんじゃないかな? だってそんな魔物をシルヴィアちゃんのドラゴンブレスで跡形もなく消したと知られれば、それだけシルヴィアちゃんに信頼が寄せられる。
「私、きゅうけいさん抜きで倒せないですよ……」
「ああ、そんなこと気にしてたんだね」
「そんなことじゃないですよぉ!」
「何度でも手伝うし、そのうち一人で相手できるようになるだろうから、ね?」
私は本当に困っているといった様子のシルヴィアちゃんの頭を、ぽんぽんと軽く叩いた。
でもね、本当に助かったんだよ。
シルヴィアちゃんはそうは思ってないだろうけど、私一人でスタンピード全部相手にするとかめんどくさすぎて嫌だったからね。
あんなに気持ち良く一掃してくれるとは思わなかった。
私から見てもシルヴィアちゃんは街の英雄だよ。
「そうだ、先にエッダちゃんのところへ寄っていい?」
「ダークエルフの集落ですよね、構いませんけど」
ヴァレリオさんを見に行った後、その足ですぐにシルヴィアちゃんのところに来てしまった。そして今、ぐっすり眠ってしまったということは、また急に無言で集落の外に出て行っちゃったわけで。
「あと、エッダちゃんの反応が……ちょーっと気になってね……」
「エッダの反応、ですか……?」
そう、エッダちゃんの反応だ。
その信頼というより信仰っぷりを見て、果たして無言で離れてしまったのは大丈夫だったのかと……。
-
「きゅうけいさあああんっ!」
ダメでしたーっ!
私とシルヴィアちゃんは、その後すぐにダークエルフの集落までやってきた。やってくると……なんとエッダちゃんはシルヴィアちゃんが昨日降り立った場所にずっと待機していた。
「わっ、私、きゅうけいさんがお父さんのところに行くって言ってたのを思い出して追いかけたら、もう出て行った後って聞いて、もしかしたらあんな中途半端な最後でまたしばらくお別れかもって思ってぇ!」
「ど、どうどう!」
「うぅぅ〜っ!」
ま、まいったなエッダちゃん、まあ確かに私もお父さんの行き先言っただけでそのまま集落を去ってしまったときのエッダちゃんの気持ちを考えると、せめて一言二言残せば良かったと思った。
「えっとね、落ち着いて聞いてね、エッダちゃん」
「ううっ、はい……」
「私が住んでた場所は山賊のアジトをそのまま使っているものだったんだけれど、そこにキャンプ跡があったから出ることにしたんだ」
そのことを伝えると、エッダちゃんはやはり悲しそうな顔をしてくれた。
「えっ……じゃあ、もう行っても会えないんですか」
「そうなる、かな」
「じゃあその……私も! 私も行きたいです!」
その要求はいきなりで、私もシルヴィアちゃんもびっくりした。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよエッダ。あなたはこの集落の守りの要なのよ?」
「そ、そうですけどぉ……でもきゅうけいさんと別れるのは……」
「うーん……」
私とシルヴィアちゃんが悩んでいると
「いいんじゃないでしょうか」
と、突然第三者の声が聞こえてきた。
「えっ? あ……カルメンさん……?」
「エッダも、少し外の世界を見てくるべきだと思います。わたしたちの集落は、他種族との交流はあっても、あまり外に出ない傾向にありますからね。一人ぐらい、外の世界を見て見識を広める役目の人がいてもいいですし、それが娘ならなおさら村を発展させる役目となると思います」
それはまさに渡りに船だった。お母様の申し出は大変ありがたい。ありがたいけど……やはりどうしても本当に大丈夫なのか気になってしまう。
「本当に、よろしいのですか?」
「ふふ、心配してくださるのですね。んーと、そうですね……本来は私たちってなかなか子供を授からないから、テオが産まれた時点で子供は終わりにしようと考えていたの」
それは、エッダちゃんを産まないままでも十分に集落が回る計算だった、という意味だった。
「だから、エッダがいない分の穴をテオ一人で埋めるのは大変……というよりも、エッダがテオ一人でやるべきだったことをたくさん手伝ってくれた、という表現の方が正しいのです」
「じゃあ、いなくなっても大丈夫なのですか?」
「大丈夫というのは語弊があるけど、でも最終的にプラスになるのなら出て行かせるべきだと私は思いますわ。お任せ願えるかしら」
そうか、それだけエッダちゃんのことを信頼して……そして、私やシルヴィアちゃんのことを信頼してくれているんだ。
こんな魔族である私に全幅の信頼を寄せて、愛娘の全てを任せてくれる。……本当に、嬉しい。
「ありがとうございます、私球恵・火神が責任を持って娘さんをお守りします」
「何よりも安心できます、ありがとうね、カガ、きゅうけいさん」
今言い直さなくてもよくなかったですか?
……ふと、私はあることが気になった。
「あの……」
「はい?」
「こういう時って普通いると思うんですけど……ヴァレリオさんは来ていないのですか?」
私が発したのは当然の疑問だった。なんといっても娘のことだもの、夫婦揃って決めるのが普通じゃないかな?
そう聞くと、カルメンさんは少し視線を外してもじもじと赤面しだした。
……んん?
「その……あの人、ヴァレリオは……あの、その、ずっと横になっていたとはいえ……私の、えーっと……お話し相手? を、さっきまでしてもらっていて……今疲れているの。だから多分、今日一日は起き上がれない、かな……」
……えええええっ!?
その言い回しと、あのこっそり見ていたチョー肉食系の恍惚顔を見てると……言ってる内容がどういうことか分かるけど……!
まさか、あのシャドウ系の魔物の襲来から、私がグースカ寝て日が傾いた今の今まで、ヴァレリオさんはベッドの上で組み伏せられていたの!? ヴァレリオさんがマグロでご期待くださいだったの!?
……ていうか、あの超強いモンティ家主のヴァレリオさんが下になってるだけで一日寝たきりで、カルメンさんがピンピン歩いてるって、もうそれカルメンさん肉食系ってレベルじゃないよ!? アスモデウスの配下だってカミングアウトしても信じるよ!?
「えっと、あの人には私から説明しますので……」
「わ、わかりましたぁ〜……」
「ん? きゅうけいさんもお母さんも、どうしてそんなに話しづらそうにしているのですか?」
「エッダは天然でかわいいわね……」
「はわっ……!?」
エッダちゃんが何も分かってない顔で首を傾げて、シルヴィアちゃんが今の話で赤面しつつも、エッダちゃんを後ろから抱きすくめていた。
尊い、ありがたやありがたや……あとヴァレリオさん、カルメンさんにエリクサー飲ませてほんとごめんなさい。三人目まで毎日ノンストップだと思うので、がんばってください。
クリエイトの魔法に精力剤はありませんので、自力で頑張ってください。
「それじゃ、話もまとまったかな?」
「あ……そっか、本当に私、きゅうけいさんに連れて行ってもらえるんですね」
「連れて行くのはどちらかというとシルヴィアちゃんだけどね」
そういえば行き先をまだ言ってなかったっけ。
「シルヴィアちゃんの村に行くんだよ」
「———えっ!? ま、まさか竜族の村ですかぁ!?」
「そだよね、シルヴィアちゃん」
「え、ええ……そういえばダークエルフも初めてかしら、間違いなく魔族でベルフェゴールのきゅうけいさんに比べたらエッダ一人入るぐらい何の問題もないと思うけれど……」
ん? エッダちゃんでさえ入るのに少し言葉尻を濁している?
もしかして……。
「竜族の村って、基本的にあんまり他種族を入れない?」
「勇者と、王と、一部の公爵や伯爵以外は入った記憶はないですね……」
ま、まじっすか……シルヴィアちゃんが断れなさそうなタイミングだったからノリで言っちゃったんだけど、そんなおおごとだったんだ……。
「ま、まあ心配いらないですよ! なんといっても私シルヴィア・ドラゴネッティは長の娘ですから!」
「うう、シルヴィアちゃんだけが頼りだよぉ〜っ!」
「お任せください! きゅうけいさんのお役に立てる、あなたが全面的に私に頼ってくださるということが、私にとって何よりも嬉しいですから!」
ああもうシルヴィアちゃん天使を超えた女神! 女神っていうか竜だけど女神!
「もちろんエッダも、あたしが全力で守るからね!」
「お、おねがいします……!」
「まーダークエルフの長に仕えるモンティ家って伝えれば大丈夫よ」
確かに、竜族が魔族と敵対しているのなら、魔族殺しのモンティ家のエッダちゃんのファミリーネームは、何よりもエッダちゃんを守ってくれるはずだね。
さて、そうと決まればすぐにでも行きたい。楽しみだからね、竜族の村。
「それじゃあ立ち話も何だし、向かいながらお喋りしましょ!」
「ええ! それでは。……【ドラゴンフォーム】!」
何度見てもかっこいい、シルヴィアちゃんの古竜変身。その背中にエッダちゃんと乗り、カルメンさんの方を向く。
「ヴァレリオさんとテオ君によろしくお伝えください!」
「ええ!」
「お母さん! 私、がんばるから! もっともっと、兄さんや、お父さんや……今のお母さんを超えられるぐらい、頑張るから!」
「ふふ、昼も夜も私以上になるといいわね!」
お、お母様最後に爆弾投げ込まないでーっ!
「……どういう意味ですか? きゅうけいさんわかります?」
「あ……アハハ、ナンノコトカナー……」
純粋な娘をからかって遊ばないでください! 天使のエッダちゃんに悪い虫がひっつかないようにと思ってたらまさかの最大の天敵がお母様だよ!
「ふふ、期待してるわ!」
「?」
エッダちゃんが小首を傾げながら、私の腰にしがみついて背中側がAマイナーのアルペジオから始まる階段を登っております!
ああんもう! 結局私、最後の最後までしまらないなあ!
「シルヴィアちゃん、行こう!」
『グルルゥ……』
ああっシルヴィアちゃんもちょっぴり呆れ気味な声! 犬の表情は飼ってると分かりやすいというけど、シルヴィアちゃんのドラゴン姿も数日ですっかり感情が分かるようになったよ!
やったね! いいのかなこの流れで!?
まあいいや、みんなそれぐらい仲良くなった!
私にとってはこれ以上ないってぐらいの友達が出来た、ってことでひとつ!
「それじゃ、次の素敵な休憩場所を求めて、行くぞーっ!」
「ふふっ、きゅうけいさんは本当に、休憩がしたいんですね!」
「もっちろん!」
さあ、竜族の村に期待を寄せて、みんなで行こう!
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「ギルドの大人達から見ても異例って言われた成長速度で、山を一人で登れるまでの実力になったはいいけど……」
「昨日はなかった書き置きを見ると、もう、行っちゃったんだなあ……」
「……」
「……ふふ、かわいい絵……」
「大悪魔なのに、こんなかわいい絵も描いちゃうんだ……」
「……」
「……」
「……私」
「私、がんばりますから」
「絶対に、追いつきますから」
「そして、言いますから」
「ミーナも、きゅうけいさんと、友達になりたいって」
とりあえず、一章ということで区切りにしようと思います!
女主人公、しかも青肌魔族と好き放題書いたニッチな作品ですが、当初考えていたより遥かに沢山の人に見ていただけて、本当に嬉しいです!
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