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きゅうけいさんは次を考える

 ダークエルフの森を抜けると、シルヴィアちゃんの背中に乗った平野に出る。そしてここからは……もっちろん、走るしかないっすね! 正面に聳え立つ険しい山を見て、ちょっと溜息。スペック的にチョチョイと登れるとはいえ、ね。

 いやー、やっぱダークエルフの森が、こう、隠匿ポジションなのわかる。だって本当に、山に囲まれた暗い森の中なんだもん。知らなければわざわざ来たいって思わないよ。


 シルヴィアちゃんの背中に乗るのって、本当に贅沢中の贅沢だったなあと思いながら、私は山を駆け上がった。

 すぐに山頂へ、そして山脈を横切るように走って行く。方向は、レーダーが教えてくれる。シルヴィアちゃんの位置と、その手前側にある人間の街と、奥にある……魔物の大群を。


(そういえば、人間には姿を見せない方がいいんだよね)


 私はそのことを思い出して、山脈から平野に出た辺りで、少し周りを警戒することにした。

 意図的なスタンピードと、それに駆り出される冒険者達。

 ゲームでは一部で「素材イベ」「狩り放題」「草一本残らないやつ」という結構歓迎ムードのイベントだった。まあやられても現実世界で死ぬわけじゃないから当然だね。実際素材めっちゃおいしかったからね!


 しかし、どうやらゲームに比べて大幅にアップデートというか、この世界は『完全版』って感じになっている模様。だってベルゼブブとかいなかったもんね。恐らく大罪は、全員いると考えて間違いない。

 つまりはこの先、知識の範囲外の現象が起こる可能性があるってことだ。




 まずは街の近くの山の山賊アジト跡……まあつまりは自宅として使わせてもらっている穴に帰ってくる。


「ただいま!」


 なーんて言っても誰もいないし、出るときに大切に椅子は仕舞ったので、この中には何もな……い?


 ……と中には、なんだか見知らぬキャンプ跡があった。どうやらここで一夜を明かして、そして離れていった人がいるらしい。

 うーん……まいったなあ。もうここ使わない方がいいかな?


 特に思い入れがあるわけでもない……とは言い難いけど、私はその場所を離れることにしようと思った。次の行き先も、このアイテムボックスにあるロッキングチェアとかベッドがあれば、どこでも寝られるはずだね。




 さて、森を抜けるギリギリから、街を見てみる。人間は……うんうん、しっかり建物の中に入っているね。空にはシルヴィアちゃんが、少し横の方にいる。そして、山の森から魔物が一斉に、ズワワーっと出てきている。


 ……いや。いやいやいや。

 魔物、出てき過ぎじゃない!? あんなん表示処理能力が追いつかないですよ! ゲーミングPCでフルスペックじゃないとカクカクだから…………って、そうだったそんな仕様ないんだった。

 当然だ、プレイヤーユーザーこと冒険者の都合なんておかまいなしに、全力投入してくる。これ人間の街に入ったら強いユーザーさんが複数範囲魔法使わないとまずいんじゃ……


 ……と思っていたら。

 シルヴィアちゃんが、地面に降り立った。

 何をするんだろう———


 ———その動きには、見覚えがあった。

 そろそろシルヴィアちゃんより町の方が近くなるぐらいに魔物が近寄ってきていた場所に、ドラゴンブレスが入った。


『……ォォォ……!』


 遠くでも聞こえる、最強生物の咆吼。

 後ろからも魔物がやってきて詰め込みだったスタンピードは、当然ながら止まれない渋滞高速道路状態、玉突き事故となった。


 ブレスに吸い込まれていく魔物の数々。直立不動のシルヴィアちゃん。

 力の差は歴然だった。


「……すごい……」


 思わず私は呟いた。

 そのドラゴンブレスの迫力は、ゲームで遊んでいた頃のLV2000の古竜のものと比べても、大きく上回るものだった。

 そりゃまあ、倍だものね。ゲームだって、LV20とLV40の魔法使いって、全然使っている魔法のレベルが違ったもの。


 それにしても……


「私……出番ないんじゃない?」


 シルヴィアちゃんは、やっぱりすごかった。凄いだろうなと思っていたけど、もうそんな生易しいものじゃなかった。

 きっと街では、あのブレスの光景をみんなが見ているだろう。

 これでシルヴィアちゃん、一躍街の伝説入りだね。


 しかし私はそこで、違和感を覚える。


「……あの魔物達、だんだん……傾いている?」


 街に真っ直ぐ向かっているはずだった。だって目的地は、街なのだ。

 それが、端っこの方から少しずつ、斜め移動になっているような……。


「……まさか……」


 違和感は確信へと変わった。何をやってるんだ私は。私自身が言ったじゃない。


「ドラゴンブレス中は、攻撃チャンス……!」


 私がそのことに気付くと、集団の魔物に動きがあった。魔物がシルヴィアちゃんの体に体当たりして、その古竜の巨体が少しふらつく。その崩れた体勢で視界が時間停止する。

 そして……レーダーに突如、大きい反応が現れた。それは、初めて見る瞬間移動の魔法だった。でも私はその魔法以上に、出てきた生物に目を取られた。


 予想していなかった。

 油断なくと思っていたのに……私は完全に、油断していた。


 エルダーエルフって、何歳からエルダーなのかとか。

 魔王の復活周期はどれぐらいなのかとか。

 そういうことを考えていなかった。


 つまり……ヴァレリオさんの両親の全盛期の栄光って、何年前の話なのかと。

 そういうことだ。


「———ケルベロス!」


 私の視界は、超高速化した動体視力によりスローモーションで動いていた。

 ゆっくりと……でも確実に、ケルベロスの口から出た地獄の業火が、シルヴィアちゃんの体を包み吹き飛ばしていた。




 魔物の攻撃力や体力のバランスというのは難しい。


 以前やったゲームのシリーズでは、宝箱直前にいる兵士と戦うと終盤のザコ敵というトラップがあった。

 そいつの初見殺しっぷり、一回の攻撃で戦線が崩壊する難易度はあまりにハードすぎて、通称「みんなのトラウマ」としてそのシーンの画像を上げると同じ経験者の反応がもらえるほど。

 つまり、「終盤の難易度相応の強さ」は、それだけ別次元の難しさになる。

 ボスとそれなりに戦えるのは、『HPが多くて攻撃力がやや高い』ためだ。だから、ボスは強いけど、戦えないことはない。


 DLCのサタンも、当然強かった。その側近ボスが弱くてはゲームとしては簡単すぎて成り立たない。故にサタンが8500なら、ユニコーンは7500あった。

 レヴィアタンなんて側近のマーメイドのレベルが8500もあった。美人で細身の3Dモデルなのに、近寄ったら腕に当たれば速攻ミンチにされるというミスマッチな強さで、ついた名前はマッチョ人魚だった。


 ベルゼブブは?

 レベルは……9999。文字通り終盤の難易度だ。

 じゃあもちろん、ケルベロスと戦うと……!


「シルヴィアちゃん!」


 私はゆっくり吹き飛ばされるシルヴィアちゃんに全速力で近づく。そのシルヴィアちゃんを、ケルベロスが追いかける。吹き飛ばした速度より速い!


 これは……助けられるの……?


 ……いや、何を弱気になっているんだ自分。

 自分で言ったじゃない。守りたい者を守れなかったら、それは私の負けだって。


 だから、ここで諦めない……!


「【クリエイト:エリクサー】ッ!」


 私は走りながら、手元にエリクサーをいくつも作る。

 火だるまのシルヴィアちゃんとの距離が近くなる。

 そして服を、久々に初期装備の鎧に着替える。そうしているうちに、シルヴィアちゃんともうすぐ衝突する寸前というところまで来た。


 そして私はシルヴィアちゃんに———すれ違い様に、口の中にエリクサーを投げ入れる!


 その開封済みの瓶が口の中に吸い込まれるのを確認すると、すぐそばまで来ていたケルベロスの眉間に皺を寄せまくった顔の一つに、狙いを定める!


「九京ベルフェゴォォォルアッパーーーーッ!!!」


 レベル制限なしの全力ベルフェゴール籠手による拳を、シルヴィアちゃんを攻撃された怒りを乗せてお見舞いする!


 シルヴィアちゃんに生意気にも噛みつこうとしていたケルベロスの右側頭部は、一つが千切れ上空へ吹き飛んだ。


『ヴァアオオオオオオオ!』

『ヴァウウウウウウウウ!』

「うわああスローでも二倍で声やかましい! でもね、シルヴィアちゃんに攻撃したお礼、こんなものじゃ済まないんだから!」


 私は、再び右手に力を込めると、今度は左側の頭をアッパーで吹き飛ばした。首から先が消滅したように消し飛び、血が溢れ出す。


『ヴァアアアアア!』

「これでただの、でかい犬だね!」


 私がその、一本になったケルベロスに向かって拳を握りしめる。

 さあ、最後だ———


『———グルゥゥゥ……!』


 ッ! この声は……!

 後ろを振り向く。そこには……怪我の治った古竜が、しっかりと四本の足で立っていた。


「シルヴィアちゃん……無事だったんだ」


 きっと大丈夫だとは信じていたけど、それでも無事だと分かった瞬間、安心して心の余裕が生まれた。


『ヴァウッ!』

「って、懲りないね君も!」


 私は素早くケルベロスの方を振り向いて、四本の足を折る。そして……力任せにその巨体を鞭のように持ち上げて、逆方向を向くように地面に打ち付ける。

 これで、しばらくまともに動けないはずだ。


「シルヴィアちゃん!」

『……!』

「今ならいける!」


 私の一言で、シルヴィアちゃんがその独特の、鳩胸ならぬ竜胸を張りながら首を下に曲げるような動作をする。

 その姿で意図が伝わったことを確認し、シルヴィアちゃんの背中に乗る。

 ケルベロスが折れた足で立とうとしているけど……遅い!


『———グガアアアアアァァァァ!』


 シルヴィアちゃんのドラゴンブレスが、瀕死のケルベロスに直撃した。

 レベル、恐らく9000程度であろうと思われるケルベロスは、間違いなく格上の相手だろう。だけど古竜のドラゴンブレスというのは、そんなステータスの差を吹き飛ばしてしまう。


 ドラゴンブレスは、目で見て避けやすい。そしてそういう攻撃は……当たらないことを前提とした攻撃なんだよね。

 だから、当たったら同レベル帯でも大体即死。これは攻撃チャンスであって、一発も当たらないのが普通。故に……威力に全振りしたドラゴンブレスに直撃するというのは、プレイとしては下の下。


 じゃあ、古竜が味方ならどうすればいいか。

 当たるようにサポートしてあげたらいい。

 とてもシンプルな答えだった。


 そしてシルヴィアちゃんのブレスが止んだ頃、その場所には遠くまで続く抉られた地面だけが残っていた。

 残りの魔物も、全て倒したっぽいね。




 シルヴィアちゃんが変身を解く。

 少し、俯いている。……どうしたんだろう。


「街を守ってくれてありがとう! ……あれ……? ここは、やったね! って言い合うところなんじゃない?」

「……」

「シルヴィアちゃん……?」

「……守れ、ませんでした……」


 え……?


「守れませんでした、あたし一人では……」

「そ、そんなことは」

「あります! きゅうけいさんが来てくれなかったら、あたしは今頃、あいつの……ケルベロスの追撃でやられていました! ……私では……やっぱり、きゅうけいさんのお役に立てなかった……」


 シルヴィアちゃんが、下を向いて悔しそうに唇を噛んでいる。


「……シルヴィアちゃんはさ、本当にそう思っているの?」

「当たり前じゃないですか……だってあたしはやられて……」


 それは、違う。

 シルヴィアちゃんは気付いてないけど、本当にこのパターンの場合、シルヴィアちゃんがやってくれなかったら大変だったんだ。

 だからちゃんと、そのことを知ってもらわないといけない。


「こっちに来る前に、ヴァレリオさん……あー、エッダちゃんのお父様とお話をしたんだよ」

「……エッダのお父さん、ヴァレリオさんに、ですか?」


 意外な名前が出たのか、シルヴィアちゃんが私の方を向いて、発言を促すように真剣な眼差しになる。


「言われたことは「人間には極力見つからないように」だったんだよね」

「あ……」


 シルヴィアちゃんは、すぐにそのことに思い当たったようだった。


「そう。私がどんなに強くてもね、結局私がそんな魔物のスタンピード討伐で目立ってしまったら、もっと強い敵が現れたと思われちゃうんだ」

「そ、それこそそんなことは」

「あるんだよ。正にそれこそだよ、こっちは確実にそうなるんだ。魔族ってね、人間との敵対意思が半端なくて。さっき会ったけど……ちょっとあれはすぐに和解できないかなって思っちゃった」


 私はその魔族のことを思い出す。

 あの急激な変化は……やはり普通ではなかったと思う。先天的なものか後天的なものかは分からないけど、少なくとも分かってもらえるとはとても思えなかった。


「最初は気さくそうだったから仲間の振りして情報引き出したんだけど、人間の味方をすると伝えると、それまでとは全く違う様子で怒り出してね。人間を見たら無条件に怒りが湧くって言ってた」

「それで、その魔族は」

「殺したよ」


 シルヴィアちゃんに曖昧に伝わらないよう、はっきり言った。


「抵抗は、なかったんですか?」

「あったよっていうか、今もちょっと重いよ」

「えっ……」

「あっ、でもむしろ今はね、背中を押してくれて嬉しい気持ちの方が強いから! それは勘違いしないでね!」


 抵抗があったことを伝えると、シルヴィアちゃんがものすごく後悔しているような、そんな感じの顔をされて焦った。

 やっぱりシルヴィアちゃんも優しいね。だから、ちゃんと何があったか伝えないといけない。


「シルヴィアちゃんがハッキリ言ってくれなかったら、今頃躊躇って、ダークエルフの集落の第三部隊の襲撃に気づけなかった」

「……! そんなものが……!」

「レーダーに映らないシャドウ系の魔物だった。初めて知ったよ、私でも知らないことがあったんだ。……ね? 言ったでしょ。私がどんなに強くても、どんなに知識があっても、油断すると負けるんだ」


 シルヴィアちゃんが息を呑む。……そう、ここまでの知識と能力のチートを徹底していたとしても、油断したら負ける。

 自分が最強のチート主人公で、小説映画のバトルインペリアルみたいに、自分一人が勝者になればいいって考えなら楽だけど……。

 だけどもう私は、こっちで出来た友達のこと、大好きになっちゃったから。一人だけの最強主人公勝者になっても、きっと後悔する。


「私、今後も自分にできることを、出来る限り頑張るよ。だから、シルヴィアちゃんにケルベロスの最後を任せたのも、それが最終的に私のためになるって信じてたから」

「あっ……そういえば、最後、譲っていただいてありがとうございました! あんな伝説の格上の魔物を仕留められるなんて思っていなくて、力が一気に流れ込んで恐ろしいぐらいで……!」

「ね、ね、見せてよ」

「はい! ……緊張しますね……では……【ステータス】!」


 ================


 SILVIA DRAGONETTI

 Ancient Dragon


 LV:6176


 ================


「……わー……」

「……あ、あの、えっ、これあたしですか……?」

「うん、私じゃないよー……」


 分かってはいたけど、レベル1の新キャラをラスダンに連れて行って全体魔法で敵を倒したときのような、とってもとっても気持ちいいレベリングっぷりを感じる上がり方だった。


「あ、あたし、こんなに……!?」

「さっきのケルベロス、多分ベルゼブブの右腕だから、レベル9000ぐらいだったはずだよ」

「……え……」


 シルヴィアちゃん、絶句していた。まあさすがに、そんなレベルだとは想像してなかったと思う。


「……こ、このお礼、どうやって返せば……?」

「んーとね、じゃあ悪魔的な要求しちゃうよ。いいかな?」

「ッ! も、もちろん、です! どんな要求でも、何でも……いや、何でもは……っいやいや! お応えいたします!」


 シルヴィアちゃんの、ちょっと本音が垣間見える葛藤に微笑ましい気持ちになる。


「私の要求!」

「はい!」

「シルヴィアちゃんのお姉ちゃんに会いに行きたいです!」


 その要求は唐突かつ予想外だったようで、シルヴィアちゃんは目を左右に泳がせた。いかにもあわててますって感じになっててそんなシルヴィアちゃんもかわいいっ!


「どどど、どうして姉上のことを」

「ドラゴネッティで一番美人なのはおねえちゃんだって寝言で言いました」

「……あ……ああぁ〜……」


 シルヴィアちゃん、顔を真っ赤にして頭を抱えてしゃがみ込んだ。もちろんこのシルヴィアちゃんもかわいいっ!

 っと、いけない暴走していた。ちょっと真面目に伝えよう。


「というのは、理由の半分」

「……え?」

「私の住んでた洞窟、あれ山賊のアジトの跡を使ってたんだけど、今朝見たらキャンプ跡があったんだ」

「あ……」


 その意図することはシルヴィアちゃんならわかるはず。つまり私は、あそこに住んでいたら人間に見つかってしまうし、そうでなくても人間が来られる場所だってことなんだ。


「だから、次の住処へ行きたいんだ」

「なるほど……確かに、きゅうけいさんを受け入れてくれる場所は、後はもうダークエルフの森ぐらいしかないでしょうし……」

「そゆこと」


 ダークエルフの森は、もちろん候補の一つだった。だけど、その……あの森で住むというのは、できればたまにでありたい。

 たまに、あの青薔薇園に行きたい。毎日あの日光の当たらない森での目覚めというのは、ちょっと日本人睡眠女子のきゅうけいさん的には、避けたかった。


「どうかな」

「そう……ですね。ええ、それがレベル2176分のお礼になるというのなら、絶対に両親と姉上を説得して、きゅうけいさんを村で受け入れてもらえるようにします」

「ほんとに!? ありがとぉーっ! 正直かなり本気でどーしよーって困ってたんだよぉ〜っ!」

「いえいえ、お世話になってますからね!」


 私は、シルヴィアちゃんに抱きついた。もちろん手加減して、レベルも下げて……だけど、結構しっかりぎゅーって抱きしめた。

 レベル9999と、6176。もう強めに力を入れても大丈夫な感じになったね。




 ———ふと、私はあることを思い出した。


「今の今まで、シルヴィアちゃんがやられているところを見た衝撃ですっかり忘れていたよ」

「え、何をですか?」

「……ここまで来たら隠さなくてもいいかな? まずは宣言。私、今代のベルフェゴールは人間の味方でーっす! イェイッ!」

「はあ……改めて言われると驚きですけど、そんなこと知っていますよ?」


 突然私がそんなことを言うものだから、シルヴィアちゃんは不思議がっていた。


「さて……【レーダー】。シルヴィアちゃんも使ってみて」

「いいですけど……【レーダー】」


 シルヴィアちゃんが使う。……そして、目を見開いて、右上を向く。

 私もシルヴィアちゃんがそいつを見たのを確認して、同じ方向を向く。


「魔物……?」

「魔物だよ」

「いえ、あれは蠅です」

「蠅って一匹だけで、何もない場所でこっちを見て空中静止するの?」

「……あっ!?」


 シルヴィアちゃんが、急接近して蠅を叩き潰す。


「何なんですかこれは」

「覗き魔だよ」

「え?」

「他人の行動を覗くのが大好きな、変態だよ」


 シルヴィアちゃんは、詳しくは聞いてこなかったけれど、頭がいいから敵だと分かったと思う。そして……多分、もうベルゼブブのことだとも察していると思う。




———私はあなたのこと知らないけど。

 あなたは私のこと知っているんだよね。


 でも、かつて人類絶滅の音頭を取ったとか、別人ですんで。

 あなたが私の友達に手を出そうというのなら、相手になるよ。




 私は潰れた蠅から視線を外し、シルヴィアちゃんの横に並んだ。

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[一言] 余計な喧嘩を... それとも、抑止力を狙っているのか? 自分の周囲に手がどんどん出されるとはいえ、人類全体への攻勢は収まるか まあそもそもレベル9999あるような悪魔たちがなぜ自分で攻めてこ…
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