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きゅうけいさんは下がった頭の効果を実感する

「——なるほど、この私がそのような傲慢なことを……それが、ルシファーの呪いであると」

「はい。以前も、近い症状になった方がいらっしゃいました。その時と同じように、私が治したのです」

「それは……苦労をかけましたね」


 目を閉じて溜息ひとつ。

 自分のやらかしてしまったことを悔いているのだろう。誰かに身体を操られるというのは、本当につらい。

 自分がなったことないだけに、想像したくもない世界だ。


「……対話がなければ、相手のことが分からない。ずっとその姿勢は変わりませんでしたが」


 教皇さんは立ち上がり、じっと私の目を見る。


「今日ほどそれを実感したことはありませんよ」

「あはは、ですよねー……」


 私は笑いながら頭を掻く。

 自分の姿って鏡を見ない限り分からないからぴんとこないけど、この集まりの中に青い肌の角生やした目玉真っ黒の魔王がいるのだ。そりゃあ驚きもするだろう。


「えーっとそれでですね。一番最近、どこまで記憶があるか覚えてますか?」

「最近は、そうですね…………日付を見た限りは、三週間ほど記憶がありません」


 三週間!

 思ったよりは最近だ、よかった。


「まさか三週間も、私は『傲慢』という呪いを受けていたのですか。あまり想像したくはありませんね」

「三週間で済んだのなら、いい方よ」


 教皇さんの言葉を、かなり強い声色でパオラさんが遮った。

 ……あ、そっか……パオラさんは……。


「私の主人は幼少期に一度会って以来、ずっと呪いを受け続けていた。きゅうけいさんが治すまで、何百年という単位でね」

「……それは、お辛いですな……」

「いいのよ、もう戻ってきたんだから」


 パオラさんは、最初に会ったときからずっとカッコイイ人って印象だった。

 だけど、その長い間ずっと一人の感情に耐えてきた人だ。

 だからこそ、そのことを知った今余計にパオラさんがカッコイイ人だと思う。


「あなたも、人間ではないのですね」

「ええ、見ての通り人間そのものだし、コイツが人間の味方になりたがってタメ語すら強要するもんだから、こんなふうになっちゃったわ」


 パオラさんが、再び私の頬をぷにぷにつつく。ふへへ、どーもコイツです。

 ここに来て以来、加速度的にパオラさんからの扱いが気安くなっていくけど、それがますます嬉しいお年頃。

 パオラさんへの絶対の信頼があるからだね。この人、私の嫌なことだけはしないって分かるもの。


「ところで……」

「はい」

「『きゅうけいさん』というのが、魔王ベルフェゴール殿の呼び名なのですか?」


 あっ。


 -


 それから、私の名前の由来に和みつつも、ベネデットさんは頭を下げて私にヴェアリーノのことを頼み込んだ。

 教皇様はめちゃめちゃのめっちゃんこ偉い立場であるにも拘わらず、見た目丸々おもいっきり魔王! って感じの私に頭を下げるということをしてくれて、むしろ私が膝をついて顔を上げさせたよ。

 偉い人、立場が上の時ほど頭を下げると効力があるというの、めちゃ実感しました。しまくりました。


 これほどまでに信じてくれるのだ、ここでがんばらなくてどうするのって感じ。

 なんとしてでも、この人の期待に応えたいね。


 とりあえず、呪いを受けた人は治すとして……薬は、なるべく見せない方針にしようと思う。

 目立ちたくないとか言っておいてエリクサー出して『やっちゃいました?』なんてことは今回ばかりはできない。

 私の実力が弱すぎってことですよねドヤ顔、って感じの流れならまだしも……エリクサーは取引される物なのだ。

 私の薬で人間同士の争いが勃発しかねない事態になったら目も当てられない。止めるのとか面倒です。

 私は面倒が嫌いなんだ。


 さて、それではエッダちゃんに聞いてみますか。


「教会は、他にあと七人ほど気になる方がいらっしゃいます。ベネデットさんに呼んでもらいましょう。それが終われば——」


 手元の綺麗な指を折り曲げて、最後に窓の外へと視線を向けた。

 その先にあるのは、教会に負けず劣らず豪華絢爛で堅牢そうな建物。

 エッダちゃんは


「——領主の、ヴェアリーノ様ですね」

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― 新着の感想 ―
[一言] あれ?前話で正気に戻った教皇さんに本名で名乗ってるような・・・
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