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きゅうけいさんは決断する

 シルヴィアちゃんを、ずっと見ておきたいという気持ちがないわけではない。だけど、そもそもレベル4000の古竜に対して心配なんて、失礼というものだよね。

 私が知っている古竜の最大レベルが2000。産まれながらにしてあのレベルってのでなければ、それ相応に努力してきたはず。シルヴィアちゃんだって、そういう自負みたいなの、必ずあるだろうし。


 だから、


(信じてあげなくちゃ、失礼ってもんだよね)


 よし。私も、シルヴィアちゃんの友人としてプライドを持って自分の役目を全うしよう。


 まずは、戻ったレベルで走ってみる。感覚としては……普通に走るような感じでもあり、かなり高速に走っている感じでもある。

 これは、走行速度としての敏捷が極端に上がったことと同時に、回避能力などの敏捷に関連して、動体視力みたいな体感速度が大幅に上がっているんだろう。

 このおかげで、速度に振り回されるような感覚がない。本当に、静止世界を自転車やバイクぐらいの速度で高速移動してる感じだ。

 これなら、すぐに着く!


「海岸は、ダークエルフの森の向こう側だけど」


 ……こう、なんていうかさ? 「さようなら!」って叫んだり、「行ってきます!」って叫んだ10分後ぐらいに、忘れ物とか思い出したりすると、あ〜どうしよ〜なんとなく戻りづらい〜……って感じで、すっごい気まずい気持ちになったりしない? これ私だけかな?

 そんなわけで……ダークエルフの森はね、迂回しました。私は「どーもどーも、さっきぶりですー」なんて顔を合わせるの無理です! というのが、半分。

 もう半分は……ダークエルフさんたち全体的にスペック高いし、最後に治療したクールビューティ褐色おっぱいお姉様なんて、頭良さそうだしベテランオーラすごかったし、一瞬で何かあったと勘づいてしまいそうな雰囲気があった。


「大丈夫。エッダちゃんはがんばった、今度は私が頑張る番だ」


 本当に、あの薔薇園ハンモックは最高だった。「人間のままだったら絶対に味わえない睡眠」を体験出来た。コレに関しては本当にこっちの世界に来て良かったって思えるぐらい。

 私のベルフェゴール人生の目標、世界中の美しい景観を見ながら寝ることにしようかな? あっそれいいかも、とっても贅沢。

 食べ物紀行ならぬ、寝どころ紀行。B5で40ページ500円、製作したらオリジナル同人即売会で頒布します。問題は相互ともども移動手段がないことだけだよ! ……致命的だった……。


「と、そんなことを考えているうちに、そろそろだね」


 ダークエルフの森の、向こう側の山を抜けた更に先。山をなだらかに下るように平地が広がり、そしてその先に、突起のような陸地があり、その場所を囲むように海がある。


 その陸地部分に、相手が固まっていて、ちょうど進軍しようと山への道を歩き出したところだった。

 レーダーには、シルヴィアちゃんがまだ街へ到達していないぐらいだった。……本当に私の移動スピード、滅茶苦茶速かったんだ。割と中時間の高速マラソン状態だったので、実感が湧かないけど。


 ……相手をよく見る。白い髪に赤茶色の、初めての自分以外の魔族。自分の基準でテンプレとして魔族も標準体型かと思ったけど、こいつは太くて勝ち気な顔の男だった。こう、いじめっ子ポジションがそのまま大人になったみたいな。周りを見ると———


———うわっ! あれは間違いない……ハイオークだ!

 オークの、いかにもですって感じの緑の肌、豚の顔、坊主頭に筋肉の腕と脂肪の腹。ゲーム中でも見た、ハイオーク用の両刃グレートアクスを装備している。そいつらが……20体ぐらいいる?

 ハイオーク、レベル80ぐらいあった二周目の魔物なんだけど……この人数が同時に街に行ったらやばいよ、多分勇者とかいても一周目基準じゃ負ける。


 後は……レベル40ぐらいのブレードタイガーかな。こっちも強い魔物なんだけど、かなりの数いる。これだけでも相当な脅威だ。




「……おう、誰だお前。魔族だよな?」


 あっ、ジロジロ観察してたら気付かれた。いやまあ普通に障害物ゼロなんで気付きますよねって感じだ。油断してるわけじゃないよ? だけど、恐らくこいつは大丈夫。上位種ではない色だ。


 ここで倒してもいいけど……私は、油断なく徹底的に安全を確認するため、演技を行うことにした。さて……うまくいくかな。

 私はキリっと、舐められない程度に演劇モードに入ることにした。設定は……はぐれの魔族きゅうけいさん!


「———私ははぐれの魔族だ。見たところ、何か大規模な作戦でも行うのか?」

「ああ、ルマーニャを陥落させるぜ」

「ほう? そうなのか。途中ダークエルフの集落があるはずだが、随分弱っていたようだった。何があったか知らないか?」


 私がそう聞くと、魔族は自慢げに口元を歪めた。


「ああ! これぞ俺の作戦だ、この成功には多大な期待がかかっている!」

「何か使ったみたいだな。興味があるぞ」

「へへへ……聞きたいか、聞きたいかぁ〜?」


 ウッザ!


「ああ、聞きたいな」

「んん〜どうするかなぁ〜? それじゃあ条件として……」

「言いたくないなら別に構わん。条件というのも聞くつもりもないしな」

「おいおい、まあ待てって! 教えてやるからよぉ」


 はー……びっくりだよ、人間時代にも似たようなのがいたけど、こういうヤツって種族が変わろうがこんな性格なのね!?

 でもまあ、扱いやすそうだ。


「それはな、呪いを使ったのさ」

「呪い? 魔法ではないものなのか?」

「そうだぜ、しかもとびっきりだ。なんてったって使ったのは、大罪の『暴食の吐息』だからな」


———暴食の、吐息。


 暴食の大罪。

 それから連想されるものなど、一つしかない。


「まさか……ベルゼブブ……」

「———なッ!? おいおい呼び捨てはねえぜ!? どこで聞いてるかわからん御方だからな、ベルゼブブ様は……まるで監視されてるみたいに、どんなことでも知っておられる御方だ」

「それは恐ろしいな」


 そうか、暴食の眷属だから、食べ過ぎ体型なんだ。こりゃベルゼブブも食べ過ぎ体型かな?

 しかしベルゼブブ、まるでストーカーじゃない?


 ……。まるで……ストーカー……? ……あっ!

 今……何気なくストーカー気質って思ったことにより、連想してしまった。


 暴食の象徴で、豚とか蠅の大罪、ベルゼブブ。……そう、蠅だ。

 私は周囲を注意して見る。


(……【レーダー】……)


 もう一度、効果時間の切れたレーダーを張り直す。遠くも感知できる反面、正確には読み取れなかったのよね。感知能力と、相手の魔法防御が干渉でもするのか、少しぼやけていた。今はだいぶハッキリ見える。ちなみに魔法、頭の中で使えばいいことにようやく気付いた。


 そして、私は予想通り、ソレを見つけた。


(レーダーに反応するのは、人間、魔物、魔族、動物、昆虫……だけど、ある程度小さいものは除外(フィルタリング)される……)


 その例外が、いた。

 ……不自然すぎるぐらい、あの魔族の上に静止している、蠅。普通の蠅は、あんなトンボみたいなホバリングはしない。

 何よりも……表示がおかしい。目の前の蠅が『魔物』だと認識されるのだ。しかも、この感じだと蠅のくせにコボルドより上のレベル扱いじゃなかろうか。

 間違いない。暴食の大罪、本当にストーカーだ。あれを使ってストーキングしてやがる。

 蠅が、カメラで、集音マイクだ。


 私は、不自然でないように彼に近づく。


「今……何か…………向こうの方に」

「ん? 何だ?」


 振り向いた瞬間———私は超加速して、彼の頭の蠅を、一瞬でショートソードを出して斬った。真っ二つになった蠅は、そのまま正面の彼の頭の上に落ちて、跳ね返り、地面に落ちる。

 彼が再び、振り向く。


「何があった?」

「いや、お前が振り向いた瞬間、向こうにいた蠅がちょうどこっちに来たようでな。潰しておいた」


 そうして、彼の足下の蠅を指差す。「おう、そりゃどうも」と、彼も軽く流す。

 ……よし、これでベルゼブブは、こちらの会話を聞いていない。ふん、今頃慌てているだろーね。監視カメラとか隠しマイクとかサイテー。

 ストーカーは女の敵よ! そんなわけで、ストーカー気質でストーカーと同じことやってたベルゼブブ、私の討伐対象決定。

 罪状は、私をムカつかせた罪。そして、もちろん……ダークエルフの集落を壊滅させようとした罪だ。


「そんなことより、その暴食の吐息のことを知りたい。まるで道具のようだが、信用できるほどのものか気になるな。どれほど凄いものなのだ?」

「ふふん、そうか気になるか〜、じゃあ特別サービスで教えてやろう。暴食の吐息は、使い切りのベルゼブブ様の強大な呪いの魔力を込めた魔石爆弾だな。そして……暴食の吐息は、相手の体力を恒常的に奪っていく割合ダメージのようなものらしい」

「体力を、恒常的に奪う?」


 なかなか効果がピンと来ないね。


「具体的に言うと、最大HPを喰らうのがベルゼブブ様だ」

「———なっ!?」

「だから、薬が効かないし、回復魔法も効かないっつー話だぜ。何せどんなにHPが急激に下がっても、『元々そのHP』なんだからな。なのに体調は元のHPを覚えていて、ずっと瀕死の状態なんだぜ? こういう情報を部下に言うのは、自信の表れなのさ。ベルゼブブ様は、七つの大罪最強だ!」


 最大HP喰らい……それは、恐ろしい。なるほど、これが暴食の大罪の力……そりゃあ生半可な薬じゃ解除できないし、回復魔法が何も効かないわけだ。

 最終的に呪いの感染者の最大HPが1になり、わけもわからず瀕死の状態のまま治らない。確かに、そんな状態で集落を襲われたら、どんなザコモンスター相手だろうと確実に壊滅だ。


「それで、調子が悪そうだったわけだ」

「そうだぜ、これで憎きモンティどもを含めて、ダークエルフを蹂躙しながら森を抜けることが出来る。後はもう、ルマーニャまで障害なし、そのまま合流して西の王都を目指すってわけだ」

「……『憎きモンティ』ども?」

「しらねーのか、はぐれ。『魔族殺し』のモンティつったらデーモンじゃ知らないヤツはいねーヤバイ連中だ。一族全員が恐ろしく強え好戦的なダークエルフだぜ」


 そうか……エッダちゃん、少し私に言いにくそうに、どうして助けたかを気にしていたけど……自分がそういうものだってこと、気にしていたんだ。

 相当な勇気を出して近づいてくれたはずだ。私のクリエイト能力を最後の希望に、協力を打診するのは……きっと人生観を全否定するぐらいの勇気が必要だったはずだ。

 それぐらいの自己認識改革をしてでも、集落を救いたかった。

 そして、私を、信じた。

 ……エッダ、ちゃん……。


———だから、次の一言が、私の逆鱗に触れるのは当然だった。


「かなり昔に、老いたエルダーダークエルフの2匹のモンティが独立巡回しているところ、魔族の集団で犠牲を払ってぶっ殺したっつーのによぉ、もうその下のガキどもが大人になって次のガキ作ってやがる。しかも二人ときたもんだ。だから今度は、モンティ家の親子共々、次が産まれないよう徹底的にぶっ殺して死体を確認したい」


 それが意味するもの。


 こいつらが、エッダちゃんの祖父母を殺した。

 そして当然、エッダちゃんを今から殺す予定。


———ツブす。討伐決定。

 こいつらの命の価値は、私の中で蠅未満まで落ちた。


「他には何か、秘密はないのか?」

「相当強い魔物を三箇所分に借り受けることができた」

「……三箇所?」

「ステルスってタイプの魔物を借り入れたぜ」


 ……ステ、ルス……? 隠密型(ステルスタイプ)の魔物? その言葉の意味することは当然……


「……どういう、魔物だ……」

「文字通り、レーダーで見つかりにくい魔物だ。もうダークエルフの森に進軍している、そろそろ森の中に入———」


 話を最後まで聞く前に。

 私は、超加速して、全ての豚と、全ての虎を、ショートソードで切り伏せた。

 そして、元の場所へ戻ってくる。


「話しすぎたわ」

「———る頃、だ……あ?」


 正面の魔族は、周りを見る。

 ベルゼブブに借りたであろう高レベルの魔物。

 そいつらが全部、同時にで血の噴水を吹き出して倒れるという異様すぎる光景。どんな気分だろーね?


「……な、何が起こって……」

「何が起こったのかしらねー?」

「……お前、その喋り……? ……お、おい、その剣……!」


 私のショートソードには、血が付いてドロドロだ。見せびらかすように、ぶんぶん振って血を飛ばす。ちなみに普段は生活魔法で洗います。錆びても武器は魔法でリペアできるんだよね、便利便利。


「お前、敵なのか!? な、何故だ、魔族だろう!?」

「あらら、魔族が人間の味方じゃおかしいわけ?」

「おかしいだろう!」


 やっぱり、そういう認識なんだね。


「友好的にすればいいじゃない。理由を聞いても?」

「理由だとーっ!? 魔王様は何度も人間の勇者に滅ぼされてきただろう!」


 さっきまでとは大きく印象の異なる、怒りに叫ぶ目の前の魔族。

 勇者が魔王を滅ぼす。そりゃまあ、そういう話だけど……その経緯ってなんだったかな、魔王が人間の街を殺して食料も領地も奪いに来たんじゃないの?


「魔族の王だという理由で、勇者とかいうわけのわからんヤツが、領地から出られない魔王様を殺して、その殺人鬼を善人のように祝いやがった。だからそれ以来、人類を全員殺して、犯して、喰らい尽くすのが我らの生きる目的だろうが!」

「そのために魔王の使いっ走りなんてやってるのね」

「誇り高き眷属の俺を、使いっ走りだとォ!? 魔王ベルゼブブ様をマスターとする者として許せんッ!」


 おかしい。完全にどこかで情報がねじ曲がっている。

 だって勇者は、そもそも魔王に故郷の父親を殺された怒りから、勇者としての目的を完遂させるようになったのだ。

 ……とまあ、そういう過去編ストーリーをゲームでちゃんとやってたから、事実がどっちか分かるわけだけどさ。こりゃあ魔族、プロパガンダ、かな……?

 第一、魔王ベルフェゴール様の私が元気よく外に出てるんだ。魔王が領地から出られないわけがない。


「君には悪いけど、私は勇者の親が先に魔王に殺されたって知ってるから、そっちに肩入れするつもりはないよ。だいいち勇者が魔王一人を殺して、どうしてあんたら人類全員殺しに来るのさ。そりゃおかしいでしょ」

「おかしいのはお前だろう!? 人間を視界に納めるだけで怒りの感情が湧くのが魔族だろうが!」


 ……もしかしなくても、さっきのベルゼブブの暴食の呪いみたいに、サタンの憤怒の呪いがかかっているんじゃないの?


「大体、何なんだよお前はさっきから! 一体何者だ!?」

「名乗るのなら、自分から名乗りなよ」

「いいぜ、やってやる! これが俺の【ステータス】だ!」


 ================


 GULGYZER

 Demon(Master:Beelzebub)


 LV:137


 ================


「なかなか悪くないステータスじゃない」

「当たり前だ! 自分より弱い魔物など従えられるわけないだろう!」


 聞いてもいないのにべらべらよく喋ってくれる。喋りたがりな年頃かな? 真剣魔族しゃべり場。この番組の視聴率は……どの魔族も主張に大差がなくて、右肩下がりで打ち切り決定。

 そして、こいつのレベルがエッダちゃん以下と知って、魔物がこいつより弱いと確定したので安心している。でも許さないけどね!


「余裕ぶってられるのも今のうちだ! 死ねい!」

「わ、『死ねい』って言い方するヤツ本当にいるんだね」


 私がちょっと謎の感動している中で、グルギゼルっていうのかな、剣を出して襲ってきた。私はそれを……指で受け止める。

 当然驚くよね。


「な……ばかな……。何者だお前……」

「そういえば、見せてもらったのに私は見せてなかったね」


(もう一つ、聞き出したい情報がある……【ハイドレベル:9999】)


「覚悟してね。【ステータス】」


 そして、私の目の前に出てくるステータス。正面のヤツは……当然、目を見開き驚いた後、恐怖と絶望、そして納得できないといった顔をした。


「ベルフェゴール、様……!? ベルフェゴール様なのですか!?」

「そだねー」

「なぜ、何故あなたが……! 最も人間を憎み、最も人間の堕落を望んで、人類絶滅計画を他の大罪の魔王様に話したベルフェゴール様が、どうして人間の味方なのですか!?」


 えっ!? そういう設定なの私って!?

 衝撃の新事実! でも———


「———それ別のベルフェゴールだよ。だって人間の惰眠貪る家具とか気持ちいいし、ごはんとかおいしいし、正直魔族に何の魅力も感じないっすわ」

「そ……そんな……」


 気の抜けた感じの私の返答に対して、彼は茫然自失といった様子だ。

 私は、剣を構えた。


「今の私と今のベルゼブブって、どっちの方が強いと思う?」

「……同じレベルだし、わかんねえ……」


 あーあ、予想してたけど二周目レベリングしやすくなるとはいえ、DLCがインフレしちゃったから大罪ボスのレベルは残り全員カンストかー。


「それじゃ、私はダークエルフの集落にステルスの魔物を狩りに行くから」

「くっ……くそォ! もうお前など、お前など魔族の風上にも置けない!」

「あっマジで!? そりゃ嬉しいよ!」


 私は襲ってきたグルグル……えーっとガイ、なんだっけ、軟水のペットボトルみたいなこいつの腕を裏拳で叩いて折る!

 なんか弾力あるのが! ちょっと生理的に無理!


「っブアァァ!」


 叫び声を上げながらも、左手を前に構えて両足で立っている。


「……ここを、ここの攻略をベルゼブブ様に信頼されて任された者として、負けるわけには……!」

「信頼、ね。……かっこよく忠誠誓ってるところ悪いんだけどさ、さっき蠅を潰したって言ったじゃん。あれの視覚と聴覚を介して情報収集してたよベルゼブブのヤツ」

「……え……」

「あんたはベルゼブブを信頼してたみたいだけど、ベルゼブブはあんたのこと、カケラも信用してなかったみたいだね。所詮はマスターとスレーブ、お前らの表面上の信頼関係ってその程度なのよ」


 私は、シルヴィアちゃんも、エッダちゃんも、全面的に信頼している。

 彼女たちも、きっと、私のことを信頼してくれているし、頼ってくれる。

 ベルゼブブは、捨て駒魔族に爆弾渡して、成果を信じずヘマしないよう監視。

 この絆の違いが与える影響は、大きい。


 魔族が絶望に膝を突く。

———最後は、エッダちゃんが味わった恐怖と絶望をお返しして、仕上げだ!


「【レベルリリース】」

「……は? レベルリリース?」

「私はもう、レーダーの魔法で街の向こうのスタンピードを察して、街の守りに古竜の友達を向かわせている」

「な……」

「あと、ダークエルフの集落も全員友達なので、全員クリアエリクサーでとっくに治し終わっている」

「……ば、かな……」

「最後に———」




「———私の本当のレベルは、九京(きゅうけい)

 私はベルゼブブの九兆倍強い。

 お前達は、何をやっても私には勝てない」




「……」


 呆然とした様子の魔族。


 私は、今この場で選択する。それはシルヴィアちゃんとの約束……魔族と、人間との間で、人間を選ぶ決断をする。

 会話はできる。だけど、エッダちゃんとその家族を死ぬ寸前まで追いやり、集落は今襲撃を受けている。

 何度でも同じ事をやるだろう。私も、覚悟を決めなくてはいけない。


 それでも、最後に聞いておきたい。


「質問」

「……何だ」

「私が、今回のことを反省して二度と襲うなって言ったら、言うこと聞く?」

「聞くわけねえだろ。俺も俺以外のヤツも、何度でも集落を壊滅しに行くぞ」


 ……そう。


 私は目の前の魔族の首を、本気の一撃で斬り飛ばす。私の振るった腕の風圧で、首だけではなく肥満の体も海岸から吹き飛ばされ、海の中に沈んだ。

 ……これで、終わり。




 原因は倒した。だけど、どうやらまだ問題は解決していないらしい。


「友達を信じる、とは言ったけど……」


 私は、レーダーに魔物の反応のないダークエルフの森の方を見た。


「敵の数とかわかんないし、やっぱ心配なもんは心配っしょ! というか私もうエッダちゃん欠乏症にかかりかけてる! 待ってて、助けに行くから! あとまた髪とか触らせて下さい! 抱きついてくれると最高ですっ!」


 こういう緊張した空気ってやっぱり向いてないーっ! エッダちゃん、私、今から会いに行くからね!

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― 新着の感想 ―
[一言] 割と話のできる豚でしたね これだけで一本小説が書けそうでしたよ
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