きゅうけいさんは心強い言葉をもらう
私は、元々人間の日本人だ。
それが魔王に転生したことで、どうしたもんかなーと思いつつもなんとか人間を大切に考えてきたつもり。
内面が人間だから、魔王に転生したからって魔王らしい活動ができるわけではない。
どこかで人間を滅ぼすような選択が生まれてくるだろう。その時に、果たしてゲームの世界のように、力を追い求めた戦士だけ倒すようなことになるだろうか。
ならない。きっとミーナちゃんみたいな、普通の子に手を下す日が来る。
その瞬間に、心まで魔王になっているだろうか——なんてこと、考えるまでもない。
だからずっと人間の味方でい続けてきた。
そのことに何の疑問も持たなかったから、人間は庇護対象であり、こちらから攻撃することなんて発想になかった。
でも、私はミーナちゃんと山賊を見て、山賊を攻撃した。
それを疑問に思うことはなかったし、今でも正しい判断だったと思う。
そして今日、ルマーニャを襲いに来た集団に攻撃をした。
この判断も、間違ったものではなかったと思う。
その理由はもちろん、未遂とはいえ誘拐をするような判断をあいつらが行ったからだ。
じゃあ、ヴェアリーノは?
上部の人間は、ルマーニャを襲う気満々だ。
ならば私が攻撃しても、それは正当防衛といえるのではないだろうか。
それでも……。
「……私が攻めても、いいのかな」
私の呟きに、呆れたように溜息を吐くベアトリーチェさん。
「そもそも、きゅうけいさんと敵対することをはじめ、竜族とすら敵対しかねないような判断を下すってことは、それだけ連中があぐらをかいてるの」
「あぐらを?」
「そう。つまり『彼らは絶対に攻撃してこない。強者が攻撃してきたら弱者として糾弾すればいい』って考えをしてるの。自分から攻撃を仕掛けるようなことをしておいて、ね。教会はそういう手、使ってくるわよ」
……ああ……なるほどなあ。
人間からの信頼が厚いのはいいことではあるんだけど、そうか私ってもう活動して名が知れて長いから、既に『何をやっても攻撃してこない存在』みたいに思われているってことか。
それで、自分たちが弱者だから強者に守ってもらって当然という感覚が染みついて、今のような状況に陥っていると。
「軍隊を持ったヴェアリーノが、その考え方を持ちながらルマーニャと敵対するというのがひっじょーに二枚舌だね……これは領主軍と教会が分かれているヴェアリーノならではのやり方かもなあ」
「よく分かっているじゃない。でも私から言わせてもらえば、屁理屈もいいところよ。私はルマーニャを守るから、きゅうけいさん達はヴェアリーノに行ってもいいわよ。領主軍の10や100に負けるような柔な鍛え方はしていないわ」
ほんと頼りになりますベアトリーチェさん、ちょーかっこいい。
「でも、とりあえず今日はお休みしましょうか」
「はーい。あっでもベッドがちょっと少ないんだよね。ベアトリーチェさんはどこで寝ます?」
「じゃあ……久々に!」
「ふわっ!?」
ベアトリーチェさんが、エッダちゃんを背中側から抱き上げた!
そのまま一緒に、ベアトリーチェさんが背中から落ちるようにベッドイン!
「昔はこうやって寝たわよね〜」
「はわわ、もぅ……びっくりしますよぉ」
エッダちゃんとベアトリーチェさんの、まるで姉妹丼のような仲良しプレイ!
ありがたやありがたや……。
「あっ、きゅうけいさんがまたへんなことやってますぅ」
「あれはきっと、私達の仲の良さを見てやってるのよ」
ベアトリーチェさん、さすがよくわかっていますね!
もしかしたら、旅の途中で私みたいな人が他にもいたのかもしれないね。
百合の花を愛でるご婦人は、どこの世界にもいるのです。
「もーっといちゃいちゃしましょ、うりうり〜」
「ひゃあ!? もう、お返しです!」
「おっいいわね! って待って力つよっ……あっアッハハハ脇腹! 脇腹やめて!」
ふおお! いちゃいちゃのおかわりが入りましたっ!
いつまでも妹分だと思っていたところ申し訳ないけど、エッダちゃんの今のレベルは間違いなく世界でも十本の指に入るぐらいめちゃんこ強いよ。と思ったけど仲良し魔王眷属組がいるので十本の指には下手したらギリギリ入らないかもしれない。
強さのインフレーションが激しいです。
ベッドがちょうど人数分になったところで、おふとんイン。
今日は珍しいメンバーなので、一緒に寝るだけだけどとっても心が躍っちゃう。
「……みんな寝た?」
「さすがにベッドに入って10秒で眠ったりしないわよ」
ですよねー。
「今日は楽しかったねー」
「楽しんでいる場合じゃないと分かっているけど、こんなときぐらいは十二分に楽しんでいないといけないわね。ずっと緊張していると、気の緩みが肝心なときで起きやすいから」
パオラさんの意見に同意する。
油断大敵とはいうけど、気を張りっぱなしってできない。
締めるときに締めていこう。なので今はゆるゆるです。
「きゅうけいさんは、ヴェアリーノの街でどんな活躍をするのかしらね〜」
「レジーナさん?」
「なんだかきゅうけいさんなら、戦って勝った、以上の結果をもたらしてくれそうな気がするのよね〜」
そ、それは持ち上げすぎじゃないですかね……。
……。
ふと。
今の言葉を言ったのがレジーナさんであることを意識する。
みんなと友達になるという約束をしたレジーナさんの前で、人間の街と敵対した私が攻め入ることを決めた。
それは、かつて占いをしたレジーナさんの占いの結果を裏切るような形になる。
でも、レジーナさんは私に期待している。
一体どんな結果を期待しているのかは分からないけど、それでもレジーナさんがそう言う以上は、何か考えつかないような結果を期待しているのだ。
それを確信を持って言ってもらえるのは、日本人占い大好き女子としてはとても嬉しいし、何よりも……心強い。
未来の見えない不安や、足元が定まらないような状況の時、占いは女の子の心強い味方だ。
「レジーナさんに来てもらってよかったです」
「あ、あらら? 何かそんなに喜ばせるようなこと言ったかしら?」
「占ってくれたんですよね。占いでいい結果を期待してもらえることって、私にとっては特別ってぐらい心強いですから。だから、今回来てくれたのがレジーナさんでよかったなーって」
私が答えると……レジーナさんは布団の中にもぞもぞともぐっていってしまった。
えっ、レジーナさん?
「……もう、私のことを喜ばせてどうするのよぉ〜……。ああもう、照れちゃって顔出せないわ、このまま寝ちゃうわね。もう」
照れるレジーナさんも観察したい。でも見られたくない気持ちもわかるので潜り込んだりしませんとも。
なんとも和やかな空気になったところで私も睡魔が襲ってきたので、おやすみすることにしよう。
「うふふ、おやすみなさい〜……」
ちょっと修学旅行でいい旅館に泊まったときのような、普段と違うメンバーとのおやすみ時間。
目を閉じると、睡魔がベッドの柔らかさを感じさせてきた。
その身体に感じる気持ちよさと意識と共に沈めながら、ずぶずぶと夢の世界へと落ちていく……。
……こういう日も……いいなあ……。
……。






