きゅうけいさんはその子のことを思い出す
ルマーニャ。
それは私が一番最初に知った街の名前であり、未だに行ったことがない街である。
忘れもしない、私にとっての始まりの街。
我ながら、順応が早いというか飄々としたものだと思っていた。
でも、それは空元気というか、強がりだったのかもしれない。
何かしら自分のキャラクターみたいなものも影響してか、私の周りって常に誰かがいたんだよね。
だから、友達に困ったことはない。これは私が特に能動的に動かなかった部分で、一番恵まれている部分だったと思う。
結局職場でもいきなり男所帯の中に庵奈みたいな友人も出来てさ。ずーっとそんなんだった。
それが当たり前だと思っていた。
ミーナちゃん。
ルマーニャに住む、弟想いの13歳の女の子。もう今だと……14〜15ぐらい? に、なっているのかな。子供の一年の変化は大きいから、見違えちゃってるかもね。
……最初に、山賊からミーナちゃんを助けたとき、拒絶された。
善意の行為だと分かっていても、怖がられたのだ。
私は自分の姿のことを甘く見積もっていた。日本でこの見た目のコスプレ魔族が現れたんじゃない、魔物のいる世界でいきなり魔王が現れたのだ。そりゃあそんな反応になるのが当然だ。
だけど、私の心はその反応に想像以上に大ダメージを受けた。
普通の女の子に拒絶されるということが、どれほど傷つくか分かっていなかったのだ。
レベル90000000000000000の魔王に転生した私は、町娘一人の言葉に身動きが取れず泣き出すぐらい弱かったのだ。
——今思えば、私の運の良さを一番感じられたのは、この時だったかもしれない。
ミーナちゃんは……私に心を許してくれたのだ。
日本人の感覚からすると、面倒事は事なかれ主義でやり過ごすに限る。
黙って出て行けばいいのだ。
でも、ミーナちゃんは自分から声を掛けてくれた。
どれほどの勇気があれば、山賊に捕まってしまうようなただの13歳の女の子が、魔王に関係を持ちかけようと思えるだろうか。
私は魔王、種族名はベルフェゴール。
妖怪が暮らすヤマトアイランドを除いて、純粋な人間と自分から会話をしたことがない。
そんな私も、あの出会いがあったから……今も私は、こうして人間と関係を持とうという勇気を持てる。
今の勇気は全て、ミーナちゃんからもらったものだ。
レベルの高い私が、どんなに悪意で攻撃されても傷一つ付かない私が声を掛けるのだ。
ミーナちゃんの出した勇気に比べたら、ルマーニャの……ううん、ヴェアリーノを含めた全ての人と関係を持とうとすることなんて、大したことではないはずだ。
そこまでの勇気を出して……ようやく、あの子の友達だと胸を張れるようになる。
そんな気がするんだ。
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レジーナさんの背に乗り、ルマーニャの街に近づく。魔物を防ぐための、簡易的な壁や柵。
大きな城壁を持つような城塞都市ではないけど、この辺りの魔物なら十分に防げるのだろう。
それに、魔物だって人間の多い場所に喧嘩をふっかけてくるほど馬鹿ではない。人が多ければ、動物より多少の知能がある魔物なら避けるだろう。
それにしても、大きな街だ。
以前遠目にレーダーで見た時も思ったけど、結構重要な人間達の拠点って感じがするね。
「きゅうけいさん、後ろに」
私は降り立つ直前、エッダちゃんにそう言われた。
……この子もすぐに泣いちゃったりして可愛い子なんだけど、今は私のことを真っ先に考えて動いてくれている。
その気持ちだけで、本当に嬉しいし力強い。
『魔族狩り』という名を冠していながら、感謝を忘れず内面を見るのに長けたダークエルフの少女。
今の私の、力強い味方だ。
街の規模に比べて、そこそこ簡素な門に近づく。以前は遠くでミーナちゃんを確認しただけだったけど、今度はこの街に私も足を踏み入れるのだ。
ここまで近づくと、さすがに門番の人も私達の姿をはっきりと認識する。その表情は、もちろん驚愕一色に彩られていた。
二人の門番さん、私の姿とエッダちゃんと、更に後ろのみんなを確認して武器を構えようかどうしようかお互いに顔を見合わせてすっごく迷ってる。
そりゃそーだよね! 私がそっちの立場でもアポなし魔王は困る!
でも、急ぎですので!
「こ、こんにちは! ダークエルフの集落より来ました『モンティ家』のエッダ・モンティです! ギルドマスターにお取り次ぎいただきたくっ! そ、それまでは私が責任を持って、皆をここに待機させますので……!」
エッダちゃんの宣言に一瞬迷いを見せつつ、『皆を待機させる』という言葉を聞いて片方が頷き、「確認を取ってきます」と告げて街の中へと走って行った。
さあ、ようやくルマーニャの街だ。
ミーナちゃんが住んでいて、シルヴィアちゃんがかつて護った街。
そして……『魔族容認派』を選んだ街。
ここが、魔王転生からの最大のターニングポイントになるはず。
一人なら不安いっぱいだけど、今は頼りになる仲間……友達が沢山だ。
よーし、気合い入れてがんばるぞーっ!






