きゅうけいさんはその事実を知る
みんなの注目にぽりぽり頭を掻きつつ、赤ん坊を抱えるように持ち直す。
くりんとした大きなおめめが、私をじーーーっと見ている。
かわいい。
ミミちゃん以来のときめきである。
私の母性本能がフルマックス天元突破だよ。
私の喜びが有頂天になった。もう自分で何考えてるかわからない。
カルメンさんの娘で、エッダちゃんの妹。これはもうノエミちゃん、可愛らしくも出るとこ出ているスーパー美少女になる未来が確約されているね。
ノエミちゃんの手の平が伸びて私の頬を興味深そうにぺちぺち。ハイ幸せ。
私がにへら。ノエミちゃんが口元緩めてにへら。ハイ幸せ。
でも、いつまでも独占してはいけないね。
「エッダちゃん」
「え? え……あっ」
おずおずと両手を出したエッダちゃんに、ノエミちゃんを渡す。
今度は泣き出すことなく、落ち着いたノエミちゃんはエッダちゃんの方をじーっと見ている。
「はわわ……は、はじめまして……」
「……あー。うー?」
まだ言葉が分からないノエミちゃん、エッダちゃんの頬に触れてぺちぺち。
エッダちゃんはその感触に目を閉じてなされるがままに任せている。
その表情は満足げで、新たに出来た妹というものを感慨深く思っているようだった。カルメンさんも嬉しそうにエッダちゃんの隣に来る。
「私の妹、なんですねぇ……」
「ふふふ……きっとそっくりに育つわぁ」
「もしかしたらお父さん似になるかも」
「あら、どうしてそう思うの?」
「なんとなく、かな? 私より背が高くなっちゃったりして」
エッダちゃんは指を出して、ノエミちゃんに握らせたりしている。
そういった小さな反応がある度に口元を緩めて、一つ一つの反応に目を細めている。
美少女末っ子エッダちゃんから発する母性オーラが尊い。
「ありがたや、ありがたや……」
「それも久しぶりですねぇ」
私が拝んだところで、ノエミちゃんもこっちを向いた。
じー。
私が指を出す。ノエミちゃんの手が私の指をにぎにぎ。ハイ幸せ。
「……ふふ」
ここで声を出したのは、レジーナさん。
レジーナさんは一歩前へ出て、興味深そうにノエミちゃんと目を合わせた。
ノエミちゃんはノエミちゃんで、新たに出会う人達に興味津々といった様子。
そんなノエミちゃんを嬉しそうに軽く撫でると、レジーナさんは私の方を向いた。
「その相手のことを知るには、内面を知ることが大事。でも、第一印象である見た目に人は影響を受けやすいものよ。ところがその第一印象ですらも、何かしらの知識に付随したものなの」
そりゃあまあ、そうだね。
経験則か、それか好みか。
「きゅうけいさんが皆と友達になるって難しいかなと思ったのだけど……でも、ノエミちゃんは肌の青くて目の黒いあなたに最初に笑いかけたし、興味深そうに見ていた。それこそ、実の姉と全く同じようにね」
そこまで言われて、はっとした。
そっか、ダークエルフの集落のみんなが友達とはいっても、それは白金貨クラスのエリクサーを二本融通して、更にエッダちゃんが私のことを紹介してようやく受け入れてもらえるようになった。
だけど、ノエミちゃんは違う。
私のことを、急にお世話に来た保母さんと同じように……いや、その認識すらないだろう。まだまだ幼い赤ん坊だから、相手がどんな人間かなんてわからないもの。
そんなノエミちゃんは、私のことを実姉のエッダちゃんと全く同じように、さっきまでじーっと見てぺちぺち触れて確認していた。
その意味することは一つ。
魔族に対しての知識がない状態なら、それ以外の人達とも同じように接することが出来るということ。
「基本的にきゅうけいさん以外の魔族は敵対的だったし、私も自分のニュートラルな感覚が分からなかったけど……今回、生まれて間もない子の反応というのを見てハッキリ分かった。その見た目を受け入れてもらうことは、決して高い壁じゃないかもしれない。つまり——」
レジーナさんは、私の姿に対して一つの結論を述べた。
「——知識がなければ、魔族を本能で嫌うことはないのね」
それは、あまりに大きな事実だった。
前提知識のない赤ん坊に触れ合わなければ、得られなかった知見。
私とノエミちゃんの邂逅は、とても大きな価値があるものだった。
「きゅうけいさん」
エッダちゃんが、期待の籠もった私を見る。
「ルマーニャに——『魔族容認派』の街に、行きましょう」
私はその心強い言葉に、笑顔で頷いた。






