きゅうけいさんは兄妹愛の深さを知る
久々にこの森に入る前に、今から行く場所のことを復習しよう。
ダークエルフの集落は、エッダちゃんの故郷。村長のロベルト・サルヴォさん率いるダークエルフの人達が住む森だ。
ゲーム中は無言で攻撃してくる敵キャラって感じだったけど、この世界のダークエルフはみんなとっても素敵な人達。
料理の上手い人、ツンデレだけど心優しい子、とっても丁寧なメイドさんに、冒険者ギルドの先輩みたいな知識も経験もある人。
その誰もが、とっても魅力的だ。
何と言っても、ここにはエッダちゃんの家族がいる。
ヴァレリオさん、カルメンさん、そしてテオ君。
……そういえば、テオ君には私からエッダちゃんのことを説明しないとなあ……。
-
森のはずれにある場所、前回来た時と同じ位置の広場をレジーナさんに指示する。
見た目が大きく変わっていなさそうで良かった。
ずっとレーダーの魔法を使い続けているから、現段階で既にみんな無事であることが分かる。
正確な人数までは数えるのが難しいから分からないけど……。
レジーナさんの黒い背中から飛び降りて、エッダちゃんもそれに次いで降りてくる。
続いて黒い鱗の巨竜が光り、その場所に緑のロングヘア糸目のおっとりレジーナさんが戻ってきたところで、空からパオラさんが落ちてきた。
「そういえば、パオラさんはレジーナさんの背中に乗らなかったね。どうして?」
「そっちの方が楽そうではあったけど、迎撃するのなら私も本来の姿の方がいいかなと思っただけよ。襲ってくるのが人間だけとは限らないからね」
そ、そうか……! このタイミングで魔族が横槍を入れてくる可能性もある。
レジーナさんは強いけど、それでもダークドラゴンのレベル1000未満の身で魔王の攻撃に対応できるとは思えない。
その時に身体を張るために、同時にそうならないよう威圧するためにパオラさんはずっとフェニックスの姿になってくれていたんだ。
さすが、のんびりベルさんが育てたしっかり者の妹分。頼りになります!
「私のことはいいから、早く中に入るわよ。エッダも待ちきれないようだし」
「あっ、それはそうだよね! それじゃエッダちゃん、行こう!」
「はいっ!」
元気よく笑顔で返事をしたエッダちゃんが森の方を向くと、小さく「え?」と呟く。
一体何かなと思いきや、そのままエッダちゃんは大きく手を振り始めた。
え? 私にはほんの10メートル先も真っ黒の森しか見えないけど……。
なんてことを思っていると、十秒ぐらい経ってから突然森の奥からマントを靡かせたダークエルフが飛び出してきた!
走ってきたってことは、やっぱりエッダちゃんこの真っ黒の森の中を遙か先まで見えていたってことだよね……いやあ、ほんとすごいなあ……。
そして、目の前に現れた懐かしき家族の姿に、エッダちゃんは高揚する気持ちを抑えきれないと分かる大きな声で叫ぶ。
「わああ兄さん! 兄さんだ!」
「エッダ!」
エッダちゃんは兄の声を聞いたと同時に、その腕の中に飛び込む——!
——かと思いきや、なんとパオラさんが後ろから止めたっ!?
「ひゃうっ!? え、あれっ!?」
「はい待ってね」
空中で静止したエッダちゃんをゆっくり下ろすと、パオラさんは腰に手を当てて溜息を吐いた。
「まだまだ、自分というものをちゃんと認識して制御するには時間がかかるかしらね。ま、こういうこともあるかと思って私が付いてきたという部分もあるのだけれど」
「え? え? どういうことですか?」
家族の再会に突然出てきたパオラさんの存在に、テオ君もどう反応していいか困惑気味だ。
「はい。それじゃステータスを出そうね」
「あっ」
あ、ああーっ! そうだった!
エッダちゃん、全力でテオ君の身体にぶつかりに行ってたけど、かなり危ない状況だった!
「ステータス……? エッダ、一体何が」
「えっと、えっと……驚かずに見てね。『ステータス』」
エッダちゃんは、表示した。
パワーレベリングによって急激に上がった、自分のレベル5080を。
「……うう」
エッダちゃん、そのステータスに気まずそうにしている。
そりゃ、そうだよね……これだけ上がってしまったのだから、相手からどう思われるかなんて分からない。
「そうか、エッダは今レベル5080か」
「……う、うん」
「なるほどな、分かった」
テオ君は目を閉じて数度頷くと、パオラさんの方に向き直る。
「先ほどは愚妹を止めていただきありがとうございました。エッダの兄テオです、お見知りおきを」
「あら、丁寧なのね。私はパオラ、一応きゅうけいさんの手助けとして来たわ。後ろのもう一人がレジーナで、竜族の手助け要員」
「よろしくね〜」
後ろから手を振るレジーナさんに、テオ君は腰を曲げて礼をした。
……え? ちょっとまって、だって今、エッダちゃんが。
「あの」
「ん?」
「聞かないの? レベルのこと」
エッダちゃんが私も思っていた疑問を切り込んでいった。
恐る恐る聞いたエッダちゃんに対して、テオ君は溜息を吐いて……私の方を見た。
「いろいろ可能性は考えていたんだよ。僕がここに残っているあいだ、エッダはどれぐらいの世界を見てくるだろうって」
「……」
「恐らくその中には、魔王に近しい存在も、魔王そのものもいるかもしれない。そして、シルヴィアさんに比べたらエッダのレベルが全く追いついていないことは僕にも分かる」
はっきり言うなあ……。エッダちゃんは……嫌な顔はしていないね。これは兄妹ならではの信頼関係ってところかな。
「で、ここで出てくるのがきゅうけいさんだ」
「えっ」
突然話を振られてびっくりする。
わ、私ですか!?
「きゅうけいさんは、どこかでチャンスがあれば必ずエッダのレベルを上げるように意識するんじゃないかって思ってね。だから、まあ……可能性の一つとして心の準備をしていたつもり」
お兄ちゃん、そこまで……。
テオ君の答えに、エッダちゃんは涙ぐみながらゆっくり抱きついた。
優しく、自分の力が下手に発揮されないように。
「ううっ……兄さんに、受け入れられなかったらどうしようって……」
「受け入れても入れなくても泣きそうだなとは思ってたよ。何年一緒にいたと思ってるんだ。気にしなくていい、自分の思うままに進んでくれ」
力強くも、優しい言葉。
「兄さん……ふえぇぇん……ずっと、会いたかったよお……」
仲良く育ってきたエッダちゃんにとっての、一番の懸念事項。それが兄妹の仲だったのだと思う。
シルヴィアちゃんに指摘されて、確かにどう説明しようか私自身悩んでいた。
でも、私が心配する必要なんてなかった。エッダちゃんのお兄さんは、私なんかより、誰よりもエッダちゃんのことを分かっていた。
「あはは……お恥ずかしいところを」
そんなエッダちゃんも、さすがにみんなに見られているところでこうしているのは恥ずかしかったらしい。そりゃまあ、レジーナさんとパオラさんにはそこまで見せていなかったものね。
ちなみに私達三人はそんな兄妹をほっこり見ていました。完全保護者チームですね。
テオ君がこうしてこの場で落ち着いているということは、集落は大丈夫なのだと思う。
それじゃ、ロベルトさんに報告しに行こうか。






