別視点:エッダ 前編
レビューをいただけました、ありがとうございます!
なるべく一話で面白く感じるようにと執筆してたものの、もしかしなくても他の方を見る限り、前話とか長いものは2〜3分割ぐらいして投稿した方がいいのでは……とも思って、今回も長くなりそうなので前後編にしました。
ごめんね、書いててめっちゃ楽しいの、文字数増えまくっちゃうの。
別視点が同じ話の焼き直しという指摘がありまして、なるべくクドくならないよう別視点感を面白く書いていきたいです。ただ自分で見てても焼き直し感あるなーって感じなので、かぶりの多い部分は自由に、読んだり飛ばしたり選んでいただければと思います! とりあえず読んでも読まなくても、ないよりあった方がお得かな? と思うので書いてます!(あと人物や次話の繋ぎ紹介も兼ねてたり)
一体何が起こったか分からない。
ただ、戻ったときには手遅れになっていた。
私エッダ・モンティは、ダークエルフの集落の中でも特別な位置、モンティ家の娘です。
長の片腕として活躍する、村では最も強い戦士の家族。
その村一番のモンティ家の父親に、村の掟で村一番の母親が嫁いで、村一番の戦士を育てます。その内の一人が、レベル250の兄、もう一人がレベル140の私です。
その日は哨戒に出ていました。
不穏な気配がする、というそれだけの理由で私が出て、家族は村の守りの方にいたのです。正直ロベルトさんは気にしすぎだろうと思っていました。
でも、すぐに私が甘かったと分かりました。
村は、とても静かでした。
誰も出ていない……そう、村の警護をしていた私の家族も出ていません。
嫌な予感がして、私は自分の家へと一目散に帰りました。
……皆、倒れていました。
「お父さん!?」
「エッダ……! 帰ったのか、体は……無事だな」
「うん。でも……一体何が……」
「わからん……が、どうやら集落全員が、何らかの病気にかかっているようだ」
病気。しかも……集落全員。
「そんなぁ……うう……薬は……」
「無理だった。……ユグドラシルの秘薬が効かなかった以上、自然調薬系は全滅だろう……。……プリーステスの、マルチェッリーナも病気で……最後の力で治療魔法を長に使ったが、全く効果が無くてな……原因が全く分からない……」
「じゃあ……外敵なの……」
「……おそらくは、そうなのだろう……」
どうして。……と言ったところで、わからないでしょう。
「ううぅ……どうしよぉ……」
「モンティ家の者が、弱音を吐くな……! お前しか、いないんだ……」
……そうです。私しか残ってないとはいえ、つまりそれは相手方にとってまさに完全なる想定外。
ここまで強力な呪いのような病気を放って確実に仕留めようと思ったのでしょう。
ですが……私が、まだいます。
「分かったよ。お母さんの様子も、見てくるね」
「ああ……すまない、私は休む……」
目を閉じた瞬間、体中から湧き出たような悪寒が背中に走ります。私はお父さんの耳元に顔を近づけ……呼吸をしていることに安堵します。
……でも、安堵していられない……。
部屋の近い、兄さんの所へ行きました。
「エッダ……無事、だったか……」
「兄さんまで……!」
「までっていうか……全員だよ、まったく……厄介だ……ぐっ、僕も手伝っ」
「手伝えるわけないよぉ! 寝ていてっ!」
……いつも頼りになる兄さん。私以上に綺麗で女性みたいだけど、兄さんの腕力に勝てる人は、この集落では父以外誰もいないぐらい、兄さんは強いです。
そんな私の、一番の目標である兄さんが……私の片腕を押し返せないほど、弱っています……。私が押さえ込むと、兄はベッドから全く動けませんでした。自分が力を入れられている感触すらありません。
「……確かに……こんなんじゃ、だめだな……」
「今の兄さんじゃ、かえって私の足が遅くなっちゃう……ドアを開けることも、階段を下りることすらできないんじゃ……」
「……。……くそっ……」
兄さんを押さえ込んでいた私は、かなり強い力で押さえていたことに気付きました。私の力に全く手も足も出なかったことがショックだったのか、私の腕を放すと、兄さんはその腕で両目を隠すように当てました。
……私は……今、ひどいことをした……ハッキリ分かりました……。
「あ……ごめん、なさい……」
「……いや、いいんだ。僕こそすまない……エッダは悪くないし、病気が悪いんだもんな……」
「うん……いつもの、私の両腕でもびくともしない、強い兄さんに戻すから……だから、待ってて……」
私は何度も振り返りながら、部屋を出ます。
……最後は、お母さんの部屋。
「……。……! エッ、ダ……!」
「お、お母さん!?」
お母さんの病状は、他の二人よりも明らかに重かったのです。
「……無事…………エッダ…………」
「喋らないで!」
「……この、集落は、もう……」
「……! やだ……やだよぉ……!」
「………………生き残……たら…………エッダだけ……も、生きて……」
なにを、いってるんでしょうか。
いっているいみが、わかりません。
わかりません。
「聞こえない! お母さんの言ってること、何もわからないよぉ!」
「……愛してる、わ……私の……かわいい……。…………」
……お母さんが、目を閉じています。さっきまでの比ではないぐらいの焦りが、体中を駆け巡ります。頭がおかしくなりそうです。
お母さんの、口や鼻に指を当てて集中します。……。……! 僅かですが……息が、出ているのがわかります……。
……もう、時間がない……!
-
人間の街には、様々な情報があります。それは、膨大な人数から生まれてくる、一部が職業を選ぶだけでダークエルフを遥かに凌駕する人数となる、人間の研究家たち……更にその人数が莫大なデータを集めて、製薬するのです。
でも、王都は遠いし、帝国は……肌の黒い砂漠の民ですら、徹底的に差別して城塞都市に入れていないと聞きます。
行く場所は……やはり、一番近くて、広くて、様々な種類の人や亜人が集まる、ルマーニャの街!
馬にまたがり、森を抜け、山を越え、草原を駆け抜けて、更に森。馬に回復魔法を使いながら、更に森を抜け、次の山。
もう近い……。
私は、夜になったので、街に入る前に野宿をすることにします。ハンモックを引っかけられる場所を探そう。
山の中をうろうろしていると……見慣れないものがあります。
「瓶の、ポイ捨て?」
かと思ったのですが……中身が入っていました。どうしてこんな所に? それにしても綺麗な治療薬……治療薬?
よく見てみます。……見れば見るほど、中の液体の異様な輝きが気になります。少し蓋を開けると、とてつもない魔力を感じます。明らかに、おかしい。普通ではありません。
「……! この薬なら……!」
私は、帰ろうと思って馬の方へ行きます。そして馬に乗ろうとして……足下に、同じものがもう一本あることに気付きました。
「え?」
その明らかに尋常のものではない治療薬、それと同じものが、中身ありで置いてあるのです。
「これって……まさか。……【レーダー】」
私は、自分の周りを慎重に調べました。……近くに、魔族の反応がします。でも今は、気にかけている場合ではありません……近づかないようにしましょう。
謎の治療薬は、八本見つかりました。恐らくこれで全部だろうと確認すると、それが二種類あることに気がつきます。
「四本ずつ。……四本ずつということは、長と、家族が、救える……!」
私はそのことが分かると、脇目もふらずに馬に乗って集落に帰りました。
集落では、まずは父を起こして、薬の説明をしました。この薬の検証をしてほしいと。父はその二種類の薬を飲みました。
———飲んだ瞬間、一体今までの苦しそうな顔は何だったのかというほど、父は完全回復しました。
「エッダ、一体この薬は、いや、それはいい。もう一種類ずつあると言ったな!」
「そうなの、だからお父さん、これを今すぐ長に届けてきて!」
「わかった!」
お父さんが出て行き……初めて、お父さんを騙すことを、心苦しく思いました。
私は、まだあった薬をお母さんに飲ませました。弱々しくも喉を喉を通すと……お母さんの目が薄めに、やがて見開き……「え?」という戸惑いの声が漏れます。
もう一本の方を急いで飲ませると、すんなりと起き上がりました。
「お母さんっ!」
私は抱きつきました。
「……お母さんの言うことなんて、聞かないんだから……許さないから……私を置いていくなんて、絶対、許さないからぁ……!」
「ああ……エッダ、ごめんなさい……あなたの気も知らずに……」
「お母さんが死んだら……私、もう……」
「……うん、薬をくれて、ありがとうね……。……ん?」
お母さんが、ふと不思議そうな声を出します。
今度はベッドから起き上がり……なんと【パワーエンハンス】の魔法を使いました。お母さんが魔法を使うのは、初めて見ます。
魔法の使えない、戦士だったはずです。
「な、なにこれ、完全回復なんてものじゃない……病状どころか、最前線での引退前に使えなくなった魔法が、使える……!」
「えっ!? お、お母さん!?」
お母さんが、片腕を私に出します。私は、緊張しながらも、両手で押します。……全く、全く動きません……! 自分より小さいのに、って、これ……お父さんよりも強いんじゃ……!?
「エッダには見せたことがなかったけど、これが全盛期の私の力なのよ。これでお父さんをモノにしたの。でも一度、討伐でかなり無理をして、魔法の気脈が潰れてしまったのに。……一体、何の薬を使ったの……?」
……な、なんだか……私はとんでもない薬を、見つけてしまったようです……。
「驚かないでね。……山に落ちていたの」
「……驚いたわ……。まるで伝説の、何でも治る神の水ね……。描いてある絵は、どちらかというと魔族のようだけれど……」
お母さんが言っていたので、よく見ると……確かに、白い半透明の瓶に、イラストが描いてありました。
そして私はお母さんと話していて、まだしていなかったことに気付きます。
「そうだ、あと一本ずつあるから、今から兄さんにも使ってきます!」
「っ! テオも、治るのね……!」
「うんっ!」
私は急いで、兄さんの部屋に入って飲ませます。兄さんも……治りました。
「エッダ、この薬は」
私が返事を返そうと思ったら、家のドアが開きます。
一階に下りると……長のロベルトさんとお父さんが来ていました。私は、ばつが悪そうにお父さんに説明しました。
「ごめんなさい、家族だけでも先に治そうと、嘘をつきました」
「エッダ、お前……」
「だって……だってぇ! お母さん、誰よりも今すぐ死んじゃいそうでぇ、お母さんがいなかったら、もう私はぁ〜……!」
「よいよい、間違ったことはしてない」
私を許してくれたのは、長でした。
「長、ですが」
「彼女が、母親が生きていないと仕事が出来ないというのなら、それはもちろん必要なことだし、母親を優先して治すのは正当な報酬だ。それに……モンティ家が健在なら、村の警戒は全く問題ないだろう」
「……そうですね。エッダ、ありがとう。最善の行動だ」
よかった……! 長とお父さんに、お母さんと兄さんを治したことを認めてもらえました。
「私……今すぐ、薬のあった場所に行きたいっ!」
「いや、無理してお前がその場所に行く前に倒れたら本末転倒だ。少し寝てから行きなさい」
「あう……わ、わかったぁ」
私は、お父さんの言いつけを守って、眠ることにしました。見事にハンモックの中で、すぐに眠ってしまいました……確かにこれじゃ、行きずりで倒れてたかもしれません。
ある程度寝て、今は夜。睡眠時間もずれてしまいました。ロベルトさんの指示で三名は再び街の警護を担当、そして私は外に行くことになりました。
「ごめんな、行けなくて」
「んーん、また元の強い兄さんに戻ってくれて嬉しいよぉ!」
「……ああ、そうだね。エッダに押さえ込まれるとかもう二度とゴメンだよ」
「えへへ、すぐに追い抜いて守ってあげるからねぇ」
「おーこわ。あと数十年は追い抜かれないように、僕も上を目指すさ」
すっかり元気になった兄さんと明るく会話をし、私は集落を出ました。
さて、この辺りだったはず。
……私は、ふと気になったことを思い出しました。
「……【レーダー】」
それは、お母さんのセリフです。
『描いてある絵は、どちらかというと魔族のようだけれど』
そう、魔族。確かにお母さんは、あの絵を魔族と言いました。
レーダーに反応した魔族を、見つからないように避けた昨日は、余裕がなかったので想像できなかったことですが……つまり、人間狩りを行う魔族が、人間の大きな街の近くに、住居を構えているのです。
———討伐しなければ!
…………と、昨日なら思ったでしょう。ですが……もしかして。
(その魔族が、あのお薬を置いてくださったのでは?)
私は、その瓶の絵を思い出します。そして、レーダーに昨日と同じ場所に魔族がいることに気がつき…………って、あれ?
レーダーにはもう一人の反応があります。これは……
「……竜人? まさか……」
私は迷いに迷いましたが……結局、その場所へ行くことにしました。山肌の途中に、洞窟……この中にいるようです。
その扉を警戒しながら開けると……いました。そして、二人とも寝ていることに気がつき、運がよかったと安堵します。
左で留めてある扉を少しずつ開けたため、まずは右側の、金髪の竜人に目が行きます。とても、美しい顔立ちです。角も確認出来ました、やはり竜人で間違いないです。
そして……魔族。青い肌と、赤い髪。あの薬に描かれてあった魔族です。
恐る恐る、近づいていくと……二人とも、ロッキングチェアに座っていることが分かります。
起こして話を聞きたいところですが……。
「……むにゃむにゃ……しゃーわせぇ〜……うぇへへ……」
……くす。
無防備で、可愛らしくて、幸せそうです。
今まで見てきた魔族と、あまりに違いすぎます。
この人が、絶滅寸前のダークエルフの長を……。
私のお父さん……お母さん……兄さんを救ってくれた人。
村の緊急事態ですが……起こすのはかわいそうですね。
起きるまで待ちましょうか?
……それにしても、気持ちよさそうです。
よく見てみると、ロッキングチェアは、三種類ありました。
椅子の、開いている座面が、誘惑してきます。
(……少しだけ)
そんなに気持ちいいのかな、と初めてのロッキングチェアを体験します。座った状態で、足を前に出して……膝を曲げて……
……ゆらり、ゆらり。
「あ、楽しいかも……」
ゆらり、ゆらり……
(……ゆっくり、待ってよう……)
ゆらり……ゆらり……
…………
…………。
………、………ん?
目の前に………顔が———。
……ッひぅっ! ……えっ……ええっ!?
目の前に、赤く光る魔族の目があります。少し目をずらすと……腕組みをして眉間に皺を寄せる、あの綺麗な顔立ちの竜人が警戒心を露わにし、射貫くように睨みつけてきていて、とても恐ろしいです。視線だけで殺されそうで、すぐに視線を外します……が、もちろん避けたところで、魔族の目と合うだけです。
や、やってしまった! 寝てました! 完全にロッキングチェアのトラップに負けてしまいましたあぁ!
二人がやり取りしていて、金髪の人が前に出ます。
「ちょっと任せて下さいね。……【ステータス】ッ!」
———!? そ、そんな……! レベル4000の古竜なんて、こんな場所にいるはずが……!?
兄さんのレベルを誇りに、私も一族を支える一人だからと。なんでもできるレベルだという自信が、ガラガラと崩れ去ります。
私も自分のステータスを出します。あまりに、情けない数字です……もしかしたら、この人達には何の意味もないのではというほどの———
「エッダちゃんは強いね。ダークエルフの中でも、こんなにレベルが高い子は見たことないよ、驚いちゃった」
———え?
こちらの魔族の方は、私がダークエルフで強い方だということを、知っているのですか?
少なくとも隣の古竜の方を基準としていたら、絶対に出てこない言葉だと思います。と、声をかけられたことに気付かず変な反応をしてしまいました。
「かーわーいーいーっ!」
はわぁ!? え、えっと私に言ってるんですかぁ!?
「もちろん世界一のきらきら天使ちゃんなのはシルヴィアちゃんだけどね!」
「……! あの、ありがとうございます……!」
な、なんだかお二人、不思議な組み合わせなのに、とっても仲がよろしいですね……? ちょっと友達以上な雰囲気に、見ていてドキドキしてしまいます。
姿を見て、怖くはないと伝えました。この魔族が人間を助けたという話、しかもそれをダークエルフが気にするかどうか心配まで……なんだか、本当に配慮が行き届いているというか……。
やっぱりこの魔族が薬を置いてくれたんだ。だから、救世主だと伝えました。
まずお話を聞く前に、相手のことを知りたくなりました。教えていただけないかと尋ねると、気さくに見せてくれるようです。
「【ステータス】」
「ちょっと、きゅうけいさん!?」
きゅうけいさん?
という疑問を抱きながら……目の前のステータスに凍り付きます。
———プライドの高い竜の、その中でも最上位の古竜という種族が、どうして魔族などに付き従っているのか、ちょっと考えればわかることでした。
……そんなの、シルヴィア様自身が、その者を自分より圧倒的に上の存在だと認めているからに決まっているじゃないですか……。
ベルフェゴール。七体の、魔族最強の大悪魔。
レベルは、9999。
間違いなく、限界を極めた数字です。
でも、そんな重要な情報を適当に流してほしいと言った目の前の魔族に対して、気になったことを聞きます。
「きゅうけいさんって、何ですか?」
———あだ名。
ベルフェゴール、怠惰の大罪のカガミ様のあだ名だそうです。こんなに圧倒的な力を持っていて、そんなあだ名をつけられて怒らない……んでしょうね、だって、この方から見たら弱者のシルヴィア様に呼ばせていますから。
なんだか、さっきのロッキングチェアで眠っていたあの幸せそうな姿のことを思い出すと、分かる気がします。
気付けば……自然と私は、笑っていました。
シルヴィアさんという呼び方に変えて、きゅうけいさんという呼び方に変えさせてもらって。お二人との距離が縮まった感じがして嬉しいです。
……よかった。不法侵入だった私に対して、この優しい対応。この人達、とても、とっても、いい人だ。
薬のお礼をしました。村を救ってくれたのは、あの凄い薬を置いていってくれたからだと。
すると……なくなっていたこと自体知らなかったらしいのです。完全に、やらかしました。あんな神の薬、どうやって、弁償すれば……。
でも……そんなことはどうでもいいと、事情を聞かれました。
そこからは……きゅうけいさんは一瞬で行動に移しました。
「【クリエイト:クリアエリクサー】」
なんと……あの、薬です! 家族を救った、あの薬が出てきました…!
やっぱりきゅうけいさんが作っていたんだ!
これで集落が救える、と思った私に、重い事実がのしかかります。
「レベル9999で、せいぜい5本ぐらいかな」
……そ……そん、な……。村の人数は……55人……残り50人。あの瀕死のみんなを、クリアエリクサーだけでもあと10日は待たせて……いや、レベル9999のMPなんて、寝て回復するの……? しかもその間ずっときゅうけいさんを拘束して……。
もう、5回使いました。これで、おしまいです。……それでも、この絶望的な状況から助けられる人がいるなら、誰を優先して———
「【クリエイト:クリアエリクサー】【クリエイト:クリアエリクサー】【クリエイト:クリアエリクサー】」
———へっ?
あれ? だって今、9999で5回って、
「さっきのレベルリリースってね、下げたレベルを戻す魔法なんだよ」
下げたレベル? 下げて……だって、ステータス画面も、クリエイトの説明も…………え、待って、待って下さい。
下げて9999……って、言いましたか?
戻す……って、確かに……もう八回使ってます。明らかに、9999を超えてます。
私がその事実に頭がいっぱいになっていると、更に頭が真っ白になる事態がおきます。
『グガアアアァァァァァァァ!!』
ど、ドラゴン! あ、あわわ、これが、本来のシルヴィアさん……。
私が不安になるも、なんとかがんばろうと思っていると。
「大丈夫、私もシルヴィアちゃんも最強だからね……ダークエルフ、全員救いに行こう!」
きゅうけいさんの、あまりにも頼もしい言葉に、不安がなくなっていきます。
確かに……私なんて小さな存在からはとても途方もなく上に感じる、古竜と大罪の二人が仲間として協力してくれるんです。
きゅうけいさん……。
ああ……どうして、そこまでしてくれるのでしょう。
あそこまでの魔法を使うのに、どれほどの魔力が必要か、やっている本人が一番その大変さを感じているはずです。
そして、一体どれほど、あの薬に価値があるのか。きっとこの人は……分かっているはずです。
私は……助けを求めたことを、少しだけ後悔しました。
私は、まだこの人に言っていないことがあります。
でも、言えなかった。言えなかったんです。
集落のみんなと天秤に掛けて、言えなかったんです。
心に、仮面をつけて。
無理をしてでも。
私は、集落を救うことを選びます。
きゅうけいさん、ありがとうございます。
そして。
ごめんなさい。